ザ・グレート・展開予測ショー

ある一つの結末(その3)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

信じられなかった。
目の前で横島クンが死にかけている。
先程まで笑っていたその身体は実は触れただけで壊れそうな程酷い状態だったのだ。
あんなに無茶をやらせても、仕事を押し付けても不満そうな顔して結局言うこと聞いてくれた。
最後まで笑って、いつも通りふるまって、誰にも教えないまま一人で抱え込んで体の事を隠していた。
コイツは黙って死んでゆくつもりだったのだ。
そう気付いた時、私の心はどうしようもない程の悲鳴を上げてゆく。

「この馬鹿!!」

横島の頬を張った美神はそのまま胸元を掴んで持ち上げた。

「堪忍や〜!!」

以前の調子で許しを請う横島だったが美神の様子がおかしい事に気が付く。
罵倒が続くかと思って身を固くしても怒鳴り声が聞こえない。
そっと美神に目を合わせると美神は何か言おうとしていながら言葉が出ないのか口をぱくぱくさせている。
そして彼女の瞳からは涙が尽きることなく湧き出ていた。
周りを見渡してもおキヌ、小鳩、愛子、シロなどが皆驚き、そして泣いていた。

「何で拙者にも教えてくれなかったでござるか!」

横島に駆け寄ったシロが悲痛な声で問い詰める。
だがそんなシロを無視して美神は横島に霊力を送り込み始めた。
それを見たおキヌらも全力でヒーリングを開始する。

「とにかくこのままじゃアンタ死ぬわ!勝手に死ぬなんて許可した覚えは無いわよ!」

だがどう見ても手遅れな事は横島本人のみならず美神自身も気付いていた。
これだけ霊力を送っているにも関わらず、体の崩壊が遅くなった程度で直る気配は全く無い。

「もう無駄っスよ、止めて下さい」

横島が止めても彼女達は決して止めようとしない。
必死の表情で霊力を送り込み続けるその姿に押され、横島は止めるのをやめた。

「何でみんな気付いたんスか?」

皆の涙に戸惑いつつも聞いてみると、今度はおキヌちゃんから叩かれた。

「何言っているんですか!横島さんが死にそうなのに気付かないと思うんですか!」

う〜ん、やっぱり文珠の効果が切れたからか?
皆、勘が鋭いところがあるからな。

「むしろこっちが聞きたいです!何でこんな真似をしたんですか!命が惜しくないんですか!」

おキヌちゃんは凄い剣幕だ。
泣きながら両手で俺の体を揺さぶっている。

「俺って体だけは頑丈じゃないスか、そのうち直ると思ってたんスよ」

本当の理由は誤魔化した。
さすがにこればかりは言う訳にいかない。

「嘘ね、ルシオラ絡みでしょう」

美神さんの言葉に思わず体が反応してしまう。
首を振って否定しようとしても完全に後の祭りだった。

「違う、違うっスよ。俺自身死ぬとは全然思わなかったんス」

だが全員から凄い視線で睨まれて黙るしかなかった。

「アンタ、大馬鹿者よ。アンタ一人黙って死ねばルシオラも誰も傷つかないとでも思ったの?」

何も言えないでいると美神さんはさらに続ける。

「解ってないようね、もし私達が後でこの事を知ったら皆ルシオラを恨むわ!」

俺はその言葉に驚いて目を見開くが皆の視線が美神さんの言葉が正しい事を語っていた。
負の感情とは縁遠そうなシロでさえ憎悪の色が目に含まれているのを見て息を呑む。

「結局アンタには何もわかっちゃいなかったのよ!」

そう言われて俺は美神さんに手を離され、どさりと布団に倒れこんだ。
俺はもう考える事もできずただ呆然とする。

(じゃあ、俺はどうすれば良かったんだよ)

でももう遅い、残された時間は殆ど無く、ただ死を待つだけだ。

「ごめんな、ルシオラ。また会えそう無い…」

それだけが言葉に出た。

私は横島さんの口から出た言葉にまた心を傷つけられた。
今横島さんが心配しているのは目の前に居る私達じゃなく、もう居ない彼女だと知らされたから。
彼女が横島さんと一緒に居たのは、ほんの僅かの日数。
なのにどうして私や美神さんよりも横島さんに近いんですか!
私は幽霊だった時からずっと側で見ていたのに!

おキヌには横島を自分達から奪っていこうとするルシオラの幻影が見えた。
横島を慈母の様に抱きしめて勝ち誇ったような笑みを浮かべてこちらを見る。
横島さんを返して、とその手を払いのける為に腕を伸ばすと何も無い。
彼女の心が生み出した幻だったがおキヌはそのまま虚空を睨んでいた。

「横島!アンタ給料の値上げをしつこく頼んでたわね、アンタの給料は明日から月給100万円に歩合よ!喜びなさい!」

「本当っスか?嬉しいっス、でももうお金は使えそうないスから…」

横島のヤツが弱弱しく笑う。
違う、私が見たかったのはそんな顔じゃない。
最初に驚いて、アホみたいな顔曝して、最後に喜んで走り回る姿が見たかったんだ。

「美神さんのそんな顔初めて見たっス」

よほど私は酷い顔をしていたのだろう、横島のヤツが怪訝な顔で聞いてきた。

「美神さん、俺って美神さんにとって何だったんスか?やっぱりただの荷物持ちっスか?」

こんな時に何て質問するのよ、コイツは!
誤魔化す事なんて出来ないじゃない!

「一度しか言わないから良く聞きなさい、アンタは私にとって…」

私はそこで一度言葉を区切り、息を吸い込んで勇気を出す。

「千年前からの腐れ縁があるどうでもよくない男よ!」

言ってから後悔した。
素直な気持ちを伝えるつもりが変に意地を張った言い方をしてしまった。
これじゃコイツには伝わらない。
案の定、横島は変な顔で考えている。

「う〜ん、良くわからんけど美神さんの本心が聞けて嬉しいっス」

やっぱりあんな言い方じゃ伝わってない、けど言い直す勇気も私には無かった。
結局コイツにとって私はどんな存在なのだろう、知りたいけど聞くのは怖い。

「じゃあおキヌちゃんは?」

人に恥ずかしい思いをさせて何言ってんだコイツは!
思わず拳を振り上げたが堪えて思いとどまる。
私の告白劇に場の空気が変化してたのかおキヌちゃんは表情が硬かった。
話を振られて一瞬戸惑ったようだが、これ以上無い程の真剣な顔で横島と向き合った。
真っ直ぐに横島クンの目を見詰め、躊躇いの無い口調ではっきりと口にする。

「私は横島さんが好きです!ずっとあなたを見てました!」

私も勇気が有ったのならああ言えただろうか?
素直になれない意地っ張りの自分が心底恨めしかった。

「おキヌちゃん、ありがと。やっぱりおキヌちゃんは優しいね」

横島は優しいなどというどこかズレた返事をした。
ひょっとしたらコイツ、こんなにストレートに言われてまだ分かってないのだろうか?
でもそれは間違いだったとすぐに知る。

「でもゴメン、俺やっぱりルシオラの事忘れられない…」

それを聞いた瞬間、私は心を剣で貫かれたように錯覚した。
おキヌちゃんは一瞬表情を強張らせたと思うと顔を伏せて嗚咽する。

「先生、拙者は!」

シロの奴が何か言いかけるがタマモがそれを遮る。
この場の女達が何を言っても横島の心を捕らえる存在には敵わないと思い知らされたのだ。
何か自分が惨めに思えて再び涙が流れてきた。
畜生、美神令子とあろう者が何てザマよ、このまま終わってたまるもんですか!

「だからどうだって言うのよ!アンタは生きてあの娘と再開するんでしょう!」

霊力を送り込んだまま私は怒鳴りつける。
私は神にも悪魔にも歯向かう美神令子、コイツの心だって必ず手に入れてみせるんだから!

「すみません、どうやら難しいみたいっス…」

涙を拭おうとでもいうのだろうか、横島は手を伸ばして私の頬をそっと撫でる。
こんな時にキザな真似なんかで格好付けられて思わずドキリとしてしまう。
だが横島の崩壊は止まらず、撫でられたその手がサラッと崩れて消えた。

「また私を置いてゆくつもりなの!?そんな事は絶対許さないわ!」

美神さん、スイマセン。俺の為に泣いてくれるなんて思わなかったっス…

「嫌!横島さん死なないでください!」

おキヌちゃん、それは無理ってもんだよ。好きでいてくれてありがと…

「せんせぇ!先生に死なれたら拙者はどうなるでござる!」

シロ、お前程の腕なら俺なんかよりもっといい師匠が見つかるさ…

「今までこんな隠し事してて良く平気な顔でいられたわね」

タマモ、お前の悪口は相変わらずだよな。でも何で泣いてんだ…

「何で死んじゃうんですか!今度は本当の結婚式をしたかったのに!」

小鳩ちゃん、短い間だったけど俺なんかの奥さんになってくれてありがと…

「横島さん、何も借りを返してないのに死ぬなんて許しません!直ったらその根性を叩き直してあげます!」

小竜姫様、あなたが鍛えてくれたから俺はルシオラに出会えました。ありがとうございます…

「横島、見損なったぞ!戦友にも相談しなかったとは戦士にあるまじき行為だ!」

ワルキューレ、俺は戦士じゃない。アルバイターだ…

「先生になった私を見てくれるって言ったじゃないの!」

愛子、お前ならいい先生になれるさ。けど晴れ姿が見れないのは本当に残念だな…

「見ろ!お前に死んでほしくない連中がこんなにいるんだぞ!解ったら返事しろ!」

ペスパ、俺は間違っていたのか?でももう手遅れだよな…

「ポチ、ううんヨコシマ。お前には本当に酷い事をしたでちゅ、許してほしいでちゅ」

パピリオ、やっと俺の名前を呼んでくれたな。恨んでいるはず無いだろう?お前が俺とルシオラを結びつけてくれたんだ。

俺の意識はそこまで考えると急速に遠くなり始める。
もう皆の声も聞こえない。
視界を含めて感覚の全てが闇に落ち、俺は光の無い宇宙空間を漂っているように錯覚した。
そんな漂流する俺の体が何かに抱きしめられる。

(ヨコシマ、ヨコシマ!)

(やっと会えたんだな、ルシオラ)

全てが無に戻るその瞬間、俺は確かにルシオラと抱き合っていた。

「この馬鹿!死ぬなーーーーっ!!」

美神が絶叫した。
横島の身体の崩壊は必死のヒーリングに関わらず急速に進んでゆく。
何も出来ない小鳩は後ろで必死で祈り続けるしかない。

(神様、私はどうなっても構いません。どうか横島さんを助けてください!)

隣では愛子も、信心とは縁の無いパピリオも祈っていた。

祈りが通じて奇跡が起こったのか最初からそうなる予定だったのかわからない。
だが横島の体が崩れた瞬間に光が部屋を満たし、収まった後には男女2人の幼子が眠っていた。
美神達はあまりにも予想外の事態に泣くのも忘れて呆然としていたが、やがて我に返って動き出した。
ぶかぶかの学生服の中、両手を広げて眠る男児にそっとおキヌが手を伸ばす。
胸に抱くと本能的に体が動いたのか、気持ちよさそうな表情でおキヌの方に擦り寄ってきた。

「横島さん…、こんなに小さくなっちゃったんですね」

その男児には確かに横島の面影があった。
おキヌはその命を抱きしめたまま再び顔を伏せて涙した。

「…ルシオラちゃん?」

そしてパピリオもそっと片方の子供を抱き上げる。
ワイシャツに包まれて眠るその子の顔はまぎれもなく姉の姿を写していた。
すやすやと今までの喧騒と妹達の思いも知らずに安らかな表情を浮かべている。

「不思議でちゅ、長女のくせに私よりちっちゃいでちゅ」
「間違い無く姉さんだよ、また3人一緒になれたんだ」

パピリオとベスパは今度は悲しさではなく、嬉しさで涙しながら小さなルシオラを抱きしめた。

「横島さん…、今度は負けないです」

そんなルシオラと、今はシロ達に抱かれている横島を見ながらおキヌはそっと呟いた。
傍らでは美神も涙を拭ってその決意に同調する。

「これからどうなるかわかんないけど、とにかく横島クンは生きている!必ずまた一緒に仕事できるわよ」

そして母に連絡を取る為携帯を取り出した。

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