ザ・グレート・展開予測ショー

ある一つの結末(その2)


投稿者名:金物屋
投稿日時:(05/ 1/ 3)

「横島クンも明日からいよいよ正社員ね」

シロとタマモを送り届けるため、事務所に向かう車中にて美神は思い出に浸っていた。
出会いからして最低だった荷物持ちの少年が今やトップクラスGSに迫ろうとしている。
まだまだ不足の部分が多いとは言え、ここまで伸びてくれたのは美神も本当に信じられない。

「給料を上げてやるって言った時のアイツの反応が見ものだわ」

荷物持ちの時代と大差ない時給も今日で終わり。
明日、美神自身の口から新たな給与を伝えるのだ。
その時どんな顔をするのだろう。
今から考えても口元が自然と緩む。

「美神さんは本当に意地悪なんですから…。今まで値上げしなかったのは明日驚かせる為だなんて酷いですよ」

助手席のおキヌが悪戯っぽく笑う。
横島はおキヌも味方に付けて昇給のお願いをしようと試みた事が何度かあったがいずれも断られた。
2人共明日の為にと出来レースを行っていたのだから当然の結果である。
彼女自身美神の考えを知らなければ梃子でも動かなかったかもしれない。
結局横島は道化として美神の掌の上にあったという事だ。

「えへへ、先生に新しい自転車を買ってもらってもっとサンポに連れてってもらうでござる」

「私は今まで以上に奢ってもらうわ、最近いいお店を見つけたのよ」

後部座席で早くも2人が横島にたかろうとしていた。
実はシロタマも話に一枚噛んでいる。

「先生の時給を上げてほしいでござる!」
「アイツの能力と仕事振りに比べたらもっとお金をあげていいんじゃない?」

以前2人掛かりで美神に食って掛かった事がある。
その表情はとても真剣で一歩も引かない構えだった。
頼まれた訳ではなく、自分から彼の待遇に見かねて言い出したのだが計画を打ち明けられて驚いた。

「そういう事だったでござるか、でも先生は今すぐお金が必要でござるよ」

シロには敬愛する師匠がこれ以上赤貧の生活を送っているのを見過ごせなかった。
最初の内は世間知らずだったためお金の必要性がわからなかったが、タマモ達と過ごすうちに一般常識は身につけている。
美神もさすがに衣食住の供給だけで済ます訳にはいかなくなり、今ではシロ自身が横島よりも高給取りだ。

「それはわかりますけど、横島さんに食事を作りに行く口実になりますから」

ばつが悪そうな表情でおキヌが言う。
最近小鳩やシロが積極的なので悪いと思いつつ、優しい自分をアピールしたいということらしい。

「おキヌって最近、美神に似てきてない?」

タマモが呆れたような顔で肩をすくめた。
最初に出会った頃よりも女の狡さが増しているように思える。
よく読んでいる女性週刊誌や昼ドラの影響かもしれないわね、と考えた。
それだけ横島を手に入れたいのだろう。

「それでは拙者も先生を助けて恩を売るでござる!」

感化された馬鹿犬を見ながら私は横島を気の毒に思った。
アイツがいくら赤貧でもおキヌや馬鹿犬から借金する程プライドは低くない。
頭を壁に打ち付けながら「男の意地があるんやーっ!」と叫ぶ姿が見えるようだ。

「アイツの苦労はまだ続くか…」

私は独り言を口にして、たまには私から奢ってやろうかなんて考えてた。

その謀議が行われてから一年近く、ようやく横島も人並み以上の生活ができそうだ。
やがて車は私達が住み込んでいる事務所前に到着する。

「ではお休みでござる〜」
「今日は油揚げも一杯食べられたし、いい日だったわ」

美神とおキヌは億ション住まいなのでここでお別れだ。
前世はどうだったか知らないけど、今の私は贅沢には関心が無いので気にしてない。
中に入ろうとしたその時に、私は突然の衝撃を感じた。
脳裏を何かが駆け巡り、周囲の景色が色を失う。
先程の騒ぎで浮き立った心は急激に突き落とされて訳がわからないまま軋み始めた。
ふらつくが身体は何とも無い、いや心臓は破裂しそうな程騒いでいる。

「な、何よ。何が起こったのよ」

扉に手を付いて身体を支える。
吹き出た汗がぽとりと落ちた。

「何やらひどく胸騒ぎがするでござる」

馬鹿犬も状態は同じだった。
自分の体を抱きしめるように腕を組み、キョロキョロと不安そうに周囲を見渡している。

「周囲に妖気の類は感じられないわ、敵じゃなさそうだし」

仕事で何度か危ない目にあった時もあるものの、こんな感覚は初めてだ。
身体が総毛立つような殺気とも違う、この警告は内側から来る本能的なものに間違いない。
何かを警告しようとしているがそれが何かはわからない。

「何なのよっ!もうっ!」

振り返ると美神も何かを感じたのか、事務所から遠くない場所で停車していた。
おキヌも何かに戸惑っている様子が見て取れる。
原因がわからず固まる私達だったが、隣の馬鹿犬が大声を出し我に返った。

「大変でござる!先生から頂いたバンダナが切れたでござる!」

馬鹿犬が以前横島から譲り受けたという使い古したバンダナを握り締めている。
貰って以来、いつも腕に巻いていて見せつけるように自慢するこいつの宝物だ。
それが腕から落ちたらしい。

「まさか、横島クンに何か?」

美神が真剣な表情で車から身を乗り出す。
私は美神と、そして馬鹿犬と目を合わせると急いで車に駆け戻った。
霊感のある全員に感じられる程の不吉な予感、殺しても死なないアイツがどうしたというのか。
もはや完全にパーティーの楽しさなど払拭されてしまっていた。
前方の美神は必死の表情でハンドルを握りながら次々に前車を抜き去っていく。


「いらっしゃいませ」

スマイルを売りとするファーストフード店。
持ち前の明るさを活かす小鳩はバイト先からも評価がいい。
いつも通り注文を取り、ハキハキと動く彼女が足に違和感を感じてふと停まる。
良く見ると靴紐が切れていた。
使い古した靴なので別におかしい事でないが何故か小鳩は不吉な予感がする。

「この靴ももう駄目やな、今までご苦労さんって、小鳩?」

貧乏神改め福の神はどことなく小鳩の様子がおかしいのに気付く。
切れた靴紐を見詰めたまま動こうとしないのだ。

私はどうしたのだろう?
何でもない事のはずなのに何故か気になってたまらない。
悪い事でも起こるのかしら、でも悪い事なんて…
そう思っていたらあの人の顔が浮かんできた。

「横島さん…」

それは小鳩自身に対する不幸ではなく、想い人が去っていくような喪失感。
虫の知らせというものだろうか、小鳩の急激に不安が湧きあがってきた。

「すいません、今日は休ませてください!」

どうしてか解らないけど横島さんが心配でたまらない。
今行かなければきっと後悔すると思い、私はいてもたってもいられずにお店を飛び出し走り出した。

「どないしたんや?小鳩!」

貧ちゃんが慌てて追いかけてくる。
着替える時間も惜しくて私は制服のままだ。
後で怒られるなんて事は全然気にならなかった。
自転車なんて持ってないのでひたすら走る。

「あっ!」

しまった、靴紐が切れたままだったんだ。
私は足を取られて前に転びかけた。
そこへ貧ちゃんが飛び込んできてクッション代わりになってくれる。
ありがとう、でも早く横島さんのところへ行かないと。

「何か知らんけど急いでんなら車が一番やで!」

貧ちゃんは私を助けてすぐ道路に飛び出すと車の前に立ち塞がった。
思わず目を瞑るが急ブレーキの音とともに見覚えのある車が停まっていた。

「美神さん!」

先程のパーティーで別れたばかりの美神さん達の車だった。
乗せてもらおうと言いかけたら美神さんの方から乗るように言われた。
改造して作ったという後部座席にシロちゃん、タマモちゃんと詰めながら乗り込むとすぐ走り出す。

「小鳩ちゃんも感じたのね!でなかったら貧乏神なんかそのまま跳ね飛ばしていたわ!」

私は驚いた。
どうやら美神さん達もあの不吉な予感を感じていたらしい。
すると横島さんに本当に何かあったと考えて間違いない。
見ればおキヌさん達も目に不安の色を浮かべている。
車は信じられない速度で信号も無視して走っていくが、そんな事より私は一秒でも早く横島さんの所に行きたかった。


私は走っていた。
もう横島君が来る事無い学校での最後の夜を過ごそうとしたら彼のものだった机が倒れていた。
昼間に一緒に笑って式を終えたはずなのに急に彼が心配になる。
まさか彼の身に何かあったというのだろうか?
私は大学頑張れって励ましてくれたあなたの言葉に涙した。
進む道が違ってもこの先ずっと忘れない。
なのにあなたは去り逝くのか。
道の向こうに彼の住まいが見えた時、彼の上司が乗る車が傍らを通り過ぎる。

「愛子ちゃん!」

車が停まるがもう人が乗れる場所は無い。
息を切らした私はそのまま行ってと口にするが無理矢理座席に入れられた。

「美神さん、ありがとうございます」

一秒でも惜しいだろうに乗せてくれた事に感謝する。
今は後部座席のシロタマちゃんが動物に戻って場所を作ってくれていた。

「水臭いこと言わないの!どうせ目的地は一緒でしょ?」

前を見ながら美神さんは私の事情などお見通しだというように言ってくれた。
やはり全員横島君が心配なのだ、一体何があったのだろう。
美神さんが飛ばす車はアパートの傍らなどではなく、敷地内にまで飛び込んでから停車した。
私達は一斉に階段を駆け上って彼の部屋を目指す。

「横島さん!」

突然空中から人影が飛び込んで来た。
パーティーに参加していた小竜姫とワルキューレという神様と魔族の女性だった。
彼女達も何か感じたのか表情はとても厳しかった。

私とワルキューレは妙神山に帰る途中でベスパとパピリオが突然取って返した姿に不安を感じました。
彼女達が何か問題を起こすはずはありませんが、どんどん胸騒ぎが強くなり待っている事ができなくなってしまったのです。
するとヒャクメも騒ぎだし、私達は急いで引き返しました。
異変の起こっている彼の部屋には既に美神さん達も駆けつけていたのです。
美神さんと一瞬だけ顔を合わせるとすぐドアを開けて中に飛び込みました。
私がそこで見たものは、ベスパとパピリオ、それに体が消えかけた状態という変わり果てた姿の横島さんでした。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa