ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 41〜横島先生教育日誌〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(05/ 1/ 2)

横島は格技場から逃げるようにして職員室へ戻ってきた。そのまま荷物を纏めて帰ろうとする。
グズグズしてるとまた誰かに捕まりそうな気がしたのだ。急いで席を立つと、

「横島先生、鬼道主任にきちんと報告してから帰って下さい。」

栗本主任からいきなり注意されてしまった。どうやら霊能科の一日の授業が終わったら報告の義務が
あるらしい。新たな覚醒や変化の兆しを見逃さず指導する為だろうか。

「鬼道主任、今日の授業終わりました。特に目立つ変化等はありません。」
「おう、横島君お疲れさん。どやった教壇に立った初日の感想は?」

感想も何も考える余裕もなかったのが実情だ。総スカンを食った挙句いきなり戦いを挑まれ個別に教える
相手ができた。どう説明すれば良いのだろう?

「いや感想って言われても特には無いっすね。」
「ははは、最初はそんなもんやろ。なんか困った事があったら僕に言うてや。」

鬼道が懐の深いところを見せて鷹揚に話し掛けてくる。横島としては困った事がある訳ではないが
頼んでおきたい事はある。主任の了解が取れれば問題も起こらないだろう。

「頼みたい事ならあるんすけど、放課後に格技場かどっか修行に使えそうな場所を使わして欲しいんすよ。」
「そらエエけど何するんや?」
「ちょっと面白そうな逸材?を見つけたかも知れないんで。」
「は?誰や?僕そんな話聞いてへんで?」

意外にも不動明音の事を鬼道が知らないらしい。あの格闘スタイルが受け入れられないのだろうか。
確かにセオリーに無い、トリッキーな動きだった。まさかその為にノーチェックなのだろうか?

「1-Aの不動明音ですけど?」
「不動?聞いた事無いな?どんなコなんや?」

横島は不動の事を詳しく説明した。その型にはまらない天衣無縫な動きや戦い方を含めて。
鬼道の顔に何やら渋いものが浮かぶ。伝統ある家に生まれ正規の修行を受けてきた鬼道としては
無理もないのかもしれないが、仮にも霊能科の主任がこれでは横島としてはやりにくくなる。

「正統が常に邪道を駆逐するわけじゃない。そんな事を言ったら美神さんはどうなるんだ?あの人は
ある意味邪道を極めて正統にしてしまったようなものだ。不動はあのまま順調に霊力値が高まれば
第二の美神さんになれる可能性だってある。」


鬼道としては驚きを禁じえない。誰よりも近くで美神を見ていた横島の言葉だ、説得力は桁違いにある。
だが前任者の評価ファイルでは極めて低い。鬼道は普段高等部でしか教えていない、中等部では鬼道の指導
についてこれないからだ。だが稀に突出した者も出てくるので、その時は直接指導する事もある。
当然ながら、俄然不動明音という生徒への興味が湧いてくる。

「許可は出すけど僕にも見学させてくれへんか?第二の美神とまで言われたら放っとけんわ。」
「そりゃかまわんが、その話は本人にはしないで欲しい。妙なプレッシャーを掛けたくないから。」

そんな感じで話がまとまり、ようやく帰れるようになった。
だが職員室を出たところで、

「横島さん!」

そう声を掛けられ呼び止められた。
何故か高等部のおキヌが来ており、その後には親友の弓かおり・一文字魔理が控えている。

「お・おキヌちゃん?なんで中等部に?」
「なんでじゃないですよ。今朝シロちゃんに聞いてビックリしたんですよ?何故教えてくれなかったんです?」

ちょっとだけ責めるような目でおキヌがそう言ってくる。
横島としては照れ臭かったのもあるが、以前に美神隊長の助けを借りて断った話をあっさり覆されたので
言い難かったというのが大きい。だがなかなか正直に話すのも気が引ける。

「ご・ごめん、先生とかガラじゃなくて恥ずかしかったんだよ。」

横島の話を聞いておキヌは心外そうな顔をしているが後の二人はその通り、と言いたそうな顔をしている。
おキヌとその親友二人の間には、横島への評価について深くて大きな溝がある。
今日とて横島の顔など別に見たくもなかったがおキヌに引き摺られるようにしてついて来たのだ。
おキヌが騙されているのではないか、勘違いしているのではないかと心配しているのだ。
この心配は全くの的外れで、逆に美神令子を間近に見てきたおキヌの基準はとてつもなく高い。だからこそ
自分に劣等感があるのだが、その基準で見ても横島への評価は文句なしに高い。だが二人にはその事が理解
できない。何かの間違いだろうとしか思えないのだ。学院の中の狭い世界での価値基準しかないのだろう。

「私は横島さんは先生に向いてると思いますけど?生徒達も授業を喜んだんじゃないですか?」

あれを喜んだと言うのだろうか?だが本当の事を話してこの優しい少女に心配を掛けるなど本意ではない。

「あ〜、喜ぶっちゅうかまあ、ボチボチとやってる感じかな。」

結局こんな中途半端な返事しかできない。おキヌの表情も妙なものにならざるをえない。
その時横島の後ろに何かを見つけたような表情になった。横島がその表情を見て訝しんでいると、

「ちょっとおキヌちゃん聞いてよ!」
「おキヌ殿聞いて欲しいでござる!」

横島の両脇から飛び出すようにして、タマモとシロがおキヌに纏わりついていく。
横島からは別に口止めされていなかったのでおキヌに授業中の横島の態度を聞いてもらうつもりだった。
自分が口止めを忘れていた事に気付いても、今更話しに割り込む事もできない。
二人から話を聞いたおキヌは呆れたような顔で驚いている。

「はあ?セクハラでクビ?なんでそんなウソを?」

横島としてはバツが悪い事この上なく、コッソリと逃げ出そうとしていたのだが、

「どこ行くんだい?」
「何をコソコソしているのです?」

あっさりと弓と魔理に止められてしまい、逃げる事もできなくなってしまった。
振り向いて見ると先程格技場にいた生徒達が鞄を持って下校しようとしている。

「横島さん?何故セクハラがクビの原因なんてウソを言ったんです?」

おキヌがそう詰め寄って来るが、生徒達が近づいてきている現状では事情を説明する事もできない。
だいたいおキヌならタマモの事情を知っている。言わなくても察してくれても良いじゃないか、と横島は
思うがこれは甘えにすぎない。言葉とは思いを伝える為にあるのだ。いきなり横島の自己卑下のような
行為を聞いて、冷静にそこまで考えを巡らせる事など簡単にはできない。

「あ・あの、俺その事で所長とも話さなきゃいけないから、もう行くね?」

実際に冥子を悲しませた事もあり、一刻も早く説明してその表情に似合わない憂いを晴らしたかったのは
事実だが、どちらかと言えば逃避の要素の方が濃かったろう。だがこの言い方は致命的にマズかった。

おキヌにとって六道冥子という女性は、姉のように慕う美神の親友であり、その人柄に対しては好意を
抱いている。だがこんな言い方をされたのでは、自分が蔑ろにされているような気がしてしまう。
目の前にいる自分より、この場にいない冥子の方を優先するかのように言われては無理もない。

一方一文字・弓両名にとっても面白くない。冥子は最近著しく評判を上げており、六女のOGとして
誇らしく思っている。別に横島からどう思われようが関係ないのだが軽く扱われているように感じるのは
決して愉快な事ではない。結局皆で横島について六道除霊事務所まで行く事になった。


事務所に着いて、一部の事情を隠してあの場で弁解できなかった理由を説明した。その理由が美神に対して
気を使ったものであり、タマモ以外には納得できるものだったので、それに関しては収まった。
だが一文字と弓を除く一同にとっては地に落ちた横島の評判をそのままにはできない。
その場で「横島イメージアップ大作戦」なる怪しげなネーミングのプロジェクトが発足した。
横島としては余計な手出しはしてほしくなかったのだが、そう言った途端に事務所から追い出された。
結局このプロジェクトには六道理事長も一枚噛む事になるのだが、その内容は横島に知らされなかった。


横島はその後金曜日までに、一通り全クラスに授業をしたのだがクラスの雰囲気は妙なものだった。
中等部での横島の評価はいまだ定まっていなかった。本人が肯定した噂は事実ではないという評判に
なっているし、実力はとんでもなく高い。女生徒の胸を触って赤面していたという噂もある。
だが彼のお陰で憧れの美神令子の貴重な話を聞く事ができる。その点は大きかった。結局今の段階では、
理解不能、評価不能、判断不能、分類不能の不可解な人物として保留されている。

横島はそんな事には関り無く、約束通り空いた時間に不動明音を指導していた。
当然のようにシロと何故かタマモもその場にいた。

「よっ、約束通り僕も見学させてもらうで。」

統括主任の鬼道が来たのを見て不動は驚いていたが、横島からは気にするなと言われてしまう。
だがそう言われても気になるものは気になる。

「何故ここに高等部の鬼道先生が?」
「いや横島君から逸材がおるって聞いたから見にきたんや。」
「い・逸材?僕が?」


不動としては驚くしかない。横島が自分の事を高く評価してくれたのは嬉しく思っていたが、まさか
逸材とまで言われているとは想像もしていなかった。
だが横島が食いついたのは違う処だった。

「あれ?その喋り方、ひょっとしてこの前は猫かぶってたの?」

しまった、とは思ったが今となっては後の祭り。

「そうです、僕は喋り方が男っぽいんで初対面の先生相手じゃまずいと思って。」
「別に気にする事ないよ?喋り方もひとつの個性だし、男っぽかろうが乱暴だろうが時代がかってようが
のんびりしてようが、俺は気にしないから。」


そう言うと目に見えて不動の様子がリラックスしたものになる。気にしていたのだろう。
修行の前に理想的だった。鬼道が見に来た以上は体術ではなく、霊能に関する修行をした方が良いのだが
自分の霊力を具現化できない不動をどう指導すれば良いのか。
要は具体的にイメージができるかどうかなのだが、横島の時は小竜姫に授かった心眼が霊気の流れを
制御してくれたが、同じ事を横島がやるのは無理だ。何か近い方法を考えるしかない。

今まで出来なかったものをイメージするのは難しい。かといってそれを言葉で伝えるのも難しい。
感覚的な物を言葉で表現して相手に過不足無く伝えるのは誰にとっても非常に困難だ。
シロの時は最初から霊波刀らしきものを出せていた。それを強化する方向での指導だったので何とかなったが
ゼロからの最初の一歩は思った以上に難しい。仕方なく不動に色々と確認してみる。

「自分の中での霊力の流れは自覚できる?」
「それはなんとか。」
「それを呼吸に合わせて流れをイメージする事は?」
「なんとなく、うっすらとなら。」
「その流れを一箇所に集める事は?」
「・・・・・・・・・無理です。」

最後の段階でのイメージ化ができてないだけらしい。何かのきっかけさえあれば。
矛盾した言い方になるが、一度具現化させてその時の感覚を記憶させれば次からは一人で大丈夫だろう。
その一度目が問題なのだが、横島は結果を出す為に手段や順番に拘る気は無かった。
不動の目の前で、自分の右手に霊波の盾を顕現させる。横島にとっても想い出深い、最初に発現させる事の
できた能力だった。不動にも自分と同じステップを踏んでもらう事にする。

「これが俺の技、サイキックソーサーだ。霊波の流れを操る事に慣れるには、これを覚えるのが
一番早道だからやってみてくれる?初歩中の初歩だから。」

いきなりそんな事を言われても、それが出来ないから悩んでいるのだ。言っている事が矛盾している。
そこに横島が近づいていくが、寸前で止まり躊躇いがちに話し掛ける。

「えーと、あの、不動さんの右手に触っても良いですか?」

横島としては不動の手に自分の手を添えて、霊力の集中を後押しするつもりだったのだが先日の痴漢行為の
事を思い出し、相手の体に触れる事が躊躇われたのだ。

「何言ってんだよ先生?そんな事気にしてたら修行にならないよ?」
「そうでござる、先生変でござるよ?」
「だいたい私達にはそんな事一度も言ったことないでしょ?」

次々と女性陣から言葉の集中砲火が浴びせかけられる。不動など敬語を使う事さえ忘れている。
横島としても気にし過ぎている自覚はある。だがさほど親しくない女性との距離感が掴めない。
以前も同様に距離感が掴めていなかったのだが、煩悩を原動力に問答無用で接近のしっぱなしだった。
大切な女性を喪って以来、そのテの煩悩がゴッソリと抜け落ちたようになり女性に対して何の情動も
起きなくなっていた。だがナルニア以来凍りついていた情緒が少しづつ溶け出してきており、まるで
最初から思春期をやり直しているようなものでどうにも困惑してしまう。

一方女性陣にとっては、不動にしてみれば自分だけが余所余所しく振舞われているように感じるし、
シロにしてみれば見た事のないような横島が不審だし、タマモは自分が女として全く見られていないのかと
腹立たしくなってくる。
鬼道としても呆れるしかない。そんな事を気にしていては女子高の教師など勤まらない。以前と違い過ぎる
横島に不審を感じつつ、能力以前の段階で適性に問題があるのではないかと思ってしまう。

横島はなんとか気を取り直して不動の手を取る。そのまま霊気の流れを操り手の平の部分にぼんやりと
霊波の盾が出現する。不動は初めて知る感覚に目を丸くしているが現実に自分の手に霊波の盾が出来ている。
今まで自分の意志で出来なかっただけで、確かに自分の中にある霊気の流れが手の平に集中している。
横島が手を離すと盾が消滅する。きっかけは与えた、後は反復するだけだろう。

「今のでイメージは掴めたと思う。次は一人でやってみて。」


不動は言われた通りに自分一人でイメージしてみた。先程体験した感覚を再現しようと試みる。
時間は掛かったが一人だけの力で霊波の盾を形成できた。喜んで横島にそれを見せると、

「じゃあ、次はそれを引っ込めて逆の手に出してみて。」

あっさりと次の課題が出された。言われた通りにしてみると、自分の中を霊気の流れが巡るのがはっきりと
自覚できる。そのまま集中を強めるとよりハッキリとした形に生成できた。続けて交互に左右の手に盾を
作り出してみせる。更に何かを思いついた顔になり質問してくる。

「先生、この盾を敵に投げつけて攻撃する事はできますか?」

横島は不動の飲み込みの速さと察しの良さに楽しくなってきた。最初にコツを掴んで以来、長足の進歩を
遂げている。本気で鍛えてみたくなった、シロにも良い刺激になるだろう。だがシロが意外にヤキモチ焼き
なので言い出せないでいた。それより今の教えを優先する事にする。

「じゃあ試しに俺に向けて投げつけてみて。」

不動は言われるままに横島に霊波の盾を投げつける。横島はそれを受ける胸の部分に霊気を集中させた。
当った瞬間に大き目の花火のような爆発が起きる。それを見て不動が血相を変えて駆け寄って来る。

「す・すみません!先生大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、当る瞬間に霊気を集中させて防いだから。慣れればこういう事も出来るようになるよ。」


それを見て鬼道は色々な事に驚いていた。まず横島が不動の霊気を操った事だ。他人の霊気を外部から操る
など普通できない。鬼道の教え子の中には霊的な触手を通じて相手を思い通りに動かせる者がいるが
あくまで肉体に対する干渉だ。他人の霊気を操るような非常識な真似は出来ない。
次に不動の飲み込みの早さだ。大筋を掴んで自分の物にするのが驚く程早く、その上応用まで考えつく。
これほど優秀な生徒の事が何故今まで自分の耳に入らなかったのかが不思議だった。

そしてトドメが横島の防御だ。服にすら傷一つ無いという事はそこまで霊波で覆っていたという事だ。
噂に聞く魔装術じゃあるまいし、そんな事を一瞬で出来るなど並の霊能力者には絶対にできない。
さすがにあの六道冥子をサポート出来ているだけの事はある、と少々おかしな基準で感心していた。


横島は更なる可能性を示す為に今度は自分の霊気を上乗せして、霊波の盾のみならず霊波刀までを不動の
手に顕現させた。この感覚を覚えておけばそのうち自分でできるようになるだろう。

「これが霊波刀だよ、これを自分一人で作れるようになればシロと1対1で模擬戦が出来るね。」
「そしたら拙者の妹弟子としていよいよ二番弟子でござるな。」
「えっ?それじゃ正式に弟子にしてもらえるんだ?」

横島はそんなつもりで言ったのでは無かったが、シロがヤキモチも焼かずにそう言うのであれば障害は無い。
それに期待に輝いている不動の顔を曇らせるような事もしたくない。

「解ったよ、じゃあ霊波刀を一人で作れるようになったら正式に弟子にしよう。」

結局そう言うしかなかった。正直自分に二人もの弟子を持つ資格があるのかどうか疑問だったがたまには
自分から積極的になってみるのも良いだろう。そう思う事にした。
不動は大喜びでシロと肩を叩きあっている。それを見てタマモも動いた。

「じゃあ、私も修行してみようかな。よろしくねヨコシマ。」

いきなりそんな事を言われても、今まではタマモに危ない事をして欲しくなくて敢えて避けていたのだ。
だが実際身を守る力は身につけていた方が良く、素質に関しては申し分無い。

「じゃあ、タマモが三番弟子でござるな。」
「何いってるのアンタは?私はヨコシマにとって一番なんだからゼロ番弟子ってとこかしら?」

横島の思惑と関係無い処で諍いが起きている。収拾する為には口車を使うしかないだろう。

「じゃあ、タマモは俺の妹弟子という事で。それじゃ今日はここまで。」
「ありがとうございました!」

横島の口車に被せるように不動の元気の良い声が響く。
霊力の具現化が出来たのが余程嬉しいのか喜色満面だ。
その顔を見ながら横島は少しだけ教える楽しさが解ったような気がした。



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(あとがき)
新年最初の話はこんな感じのものになりました。
皆様のご感想をお待ちしております。

あれ?もしかして新年一発目って俺?
ああ、連稿のように見えてしまう・・・

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