ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 39〜初授業、第一印象〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/31)

その日、横島はかなり早めに目が覚めた。前夜かなり早い時刻から眠りについたせいだろうか。
だがちょうど良くもあった。弟子の散歩への付き合いの準備も万端だ。
朝のフルマラソンを終えると、まずは自分の学校へと登校しなければならない。午後の5限と6限に授業が
ある為、午前中だけでも出席しておく為である。
だが高校での授業中も当然ながら落ち着かない。あまりにもその様子が目に余ったので、

「ちょっと横島君どうしたのよ?今日はいつにも増して変よ?」

何気に失礼な内容を交えながら隣の席の愛子がそう声を掛けてくる。
横島は仕方なく午後から六女の教壇に立つ事になっている為、落ち着かない事を話した。
愛子は高校生が中学校の教壇に立つという事実に呆れており、いつもの青春発言も出なかった。

「まあ、それはそれとして、ピート君とタイガー君はいったいどうしたのよ?もう3週間よ?」

横島の悩みをあっさりと流し、愛子が他の気になっている事に言及する。
新学期が始まって以来ピートとタイガーが一度も登校していないのだ。
二人共真面目に出席するタイプなだけに例の無い長期欠席に愛子は心配していた。
横島も心配してない訳ではないのだが、エミと唐巣にそれぞれ連絡した時に、遠出しているだけであり
心配いらない、と言われそれ以上追及できなかった。二人示し合わせての事では無いらしく、別々の行動
らしいので何処へいったのか見当もつかなかった。

「二人の師匠が心配無いって言ってんだから俺達がどうこう言っても始まらないだろう?」

愛子もそれは解っているのだが、だからといって横島ほど割り切れない。
結局薄情者だのなんだのとブツブツ言いながら矛を納めざるをえない。
気もそぞろだった午前中の授業が終わり学校から飛び出した。
移動の時間を考えると、ゆっくり昼食を食べている時間は無い。購買で買ったパンを齧りながら急いで家へ
帰り、スーツに着替えて六女へと急ぐ。かろうじて余裕を持って到着し職員室へと向かった。

学年主任の教師と中・高全体の霊能科の主任に挨拶を済ませる。学年主任は壮年の女性で一言で言うと
おっかないオバさん、だった。横島の苦手なタイプである。霊能科の統括主任の方を見ると、

「あれ?確か鬼道・・・だっけ?」
「うん?ああ君か、なるほど横島っちゅうのは君の事やったんか。」

統括主任の男の名は鬼道政樹。優秀な式神使いであり、以前冥子と式神勝負をした際、惜しくも破れたが
横島はあれが実力負けだとは思わなかった。相手の式神を奪う事に拘らず直接使役者を狙っていれば
勝てたはずだ。まあ、今の冥子には通用しないだろうが。結局式神の暴走に巻き込まれて二人一緒に入院
するはめになった。言ってみれば病院仲間というやつだ。
この若さで統括主任とは大した出世だが、鬼道の実力であれば納得できる。

「久しぶりだな、白井総合病院以来だっけ?」
「その後クラス対抗戦に来とったやろ、屋上でトランペット吹いとったん覚えとるで。」

それは横島が煩悩を全開で滾らせていた頃の話で、大切な女性を亡くして以来全くそのテのものを喪った
今となっては、遠い昔の出来事のようだ。だが無論事実を無かった事にはできない。そしてこういう事に
過敏に反応する人間はどこにでもいる。学年主任、栗本梓もその一人である。

「横島先生、言葉遣いには注意して下さい。それと講師として不適切な行動はくれぐれも謹んで下さい。」

横島はここでは一介の非常勤講師で、対する鬼道は霊能科の統括主任だ。タメ口などとんでもない、という
事なのだろう。以前の醜態を知られた以上は、二度としないよう注意されるのも当然だろう。
相手の言う事は尤もなのだが、タイプ的なものもあり一層苦手意識が募る。

「すいません、以後気をつけます。」

横島としてはそう言うしかない。鬼道も逆に気まずそうにしているが、口出しするのも憚られるのだろう。
そのまま視線で一瞥すると、教室へと連れていかれる。教室の中に入ると一斉に視線が集まる。

「今日から皆さんの霊能初等教育を受け持つ横島先生です。では後はよろしくお願いします。」

それだけ言うとそのまま退出してしまった。一人残された横島は覚悟を決めて自己紹介する。
カッ カッ カッ カッ カッ
黒板に自分の名前を大書きしていく。以前ドラマで見て真似しようと思っていた行為だ。

「本日より六道除霊事務所から派遣されてきた、横島忠夫です。学年末までの短い期間ですが
よろしくお願いします。」

教室内がかすかにザワめく、事前に何らかの評判が伝わっているのか、横島の若さに驚いているのか。

「六道理事長からは皆さんのGSという職業への興味を様々な角度から掘り起こして欲しいと
依頼されています。今疑問に思っている事、気になっている事があればどんどん質問して下さい。」

そう言われて、最初はそれぞれ顔を見合わせていたが、一人が手をあげると堰を切ったように一斉に
質問が沸き起こった。

「李麗蘭との噂は本当なんですか?」
「映画監督やってたって本当ですか?」
「近畿クンと仲良いって本当ですか?」
「タマモちゃんのお兄さんって本当ですか?」
「シロちゃんの師匠って本当ですか?」

怒涛の勢いで数々の質問が奔流となって押し寄せて来る。だが質問の主旨がどうもズレている。

「え〜っと、できれば質問はGSに関するものに限定して欲しいんだけど・・・」
「「「「「え〜〜〜〜っ!!??」」」」」

どうやら質問に答えない限り先に進めないらしい。それに横島は実際に教壇に立って初めて解った事がある。
同じ制服、同じ年齢の少女達の集団から受ける迫力ある圧力だ。威圧感と言っても良い。
背中に汗が滲んで来るようで、とてもじゃないが逆らえるようなものではない。

「え〜、麗蘭とは良い友人です。映画監督ではなく監修というか、アドバイザー的な役割でスタッフとして
参加しました。近畿君とは幼馴染でほとんど家に居着いてます。横島タマモさんは俺の妹で犬塚シロさんは
俺の一番弟子です。これで良いですか?」

クラス中が更にザワめくが、やがて波がひくように静まっていく。
すると次は今までの騒ぎに全く加担していなかった面々が質問してくる。

「ランクSって本当なんですか?」
「六道除霊事務所の弱者救済運動には先生も参加してるんですか?」
「文珠を使えるって本当ですか?」

「相応しいのかどうか自分では解りませんが、一応ランクSに認定されています。それと六道事務所の
弱者救済に関しては、所長の方針に感銘を受けましたのでその指導の下で日々努力しています。
文珠については”使える”ではなく”作れる”です。使うだけなら誰でもできます。」

ようやくGSに関する質問になったので少しホッとしながら応答する。ランクSに関しては今更惚けようも
ない。事務所の方針に関しては横島は一切表に名前が出ないようにしていた。なんにつけ所長である
冥子の名前を全面的に出すようにしていたので、ここでも影にまわるように返事をしておく。
どちらかと言えば、横島の名前は表の人々よりアンダーグラウンドの住人達に知られている。
娘を六女に通わせるような家庭とは縁遠いので、バレる心配は無いだろう。
文珠については言わずもがなだ。人界唯一の文珠使いとして名を知られた以上正確に伝えた方が良い。


生徒達は日本に三名しかいないランクSのGSが、自分達と大して年齢の変わらない目の前の男だという
事を改めて認識して注目する。
そのランクSのGSが自分で事務所を構えるでもなく、単なるサポートとして一事務所に勤めている。
六道除霊事務所の最近の評判は聞いている。だが以前の評判も知っている。奇跡とも言える最近の大躍進の
原動力は成長著しい所長である冥子だと言われている。ランクSの横島がその指導の下で動いている。
だが冥子自身は現在ランクBにすぎない。なんとも不可解な人間関係だ。

文珠に至っては古文書にしか載っていない。その存在すら知らなかった者が殆どだった。
人界唯一の文珠使いが現れて初めて、文珠そのものが知れ渡ったのだ。詳しい事など誰も知らない。
ようするに文珠を作れるのは横島のみだが、一旦出来れば他人でも使えるらしい。自分でも使えるだろうか?
当然興味はその方向に向かう。頼んでみたい気もするが、いくら怖い物知らずの年齢でも初対面では・・・
そんな空気が流れる中、最後まで静かだった一団が口を開く。

「高等部で以前痴漢行為を働いたという噂は本当なんですか?」
「美神令子さんの事務所にいた頃、セクハラの限りを尽くしてクビになったという噂は本当ですか?」

教室内の空気が一変する。気温まで下がったような気がする。
横島としては答えに詰まるような質問だ。微妙に歪められて噂が伝わっているような気がする。
クラス対抗戦を見学したときの振る舞いは褒められた物ではないが、あれを痴漢行為とは言わないだろう。
美神事務所をクビになった経緯は、四捨五入するとそういう事になるのだろうか?

「え〜高等部で以前奇行に走った事はありますが痴漢行為には当らないと思います。真偽を確かめたい方は
霊能科の鬼道主任に確認して下さい。その時の様子は彼が見ていましたから。美神事務所を経緯については
まあ、だいたい言われた通りです。」
「違うでしょ!?」

横島が言い終わると同時にタマモが叫んだが、総ての事情を正直に話す訳にもいかない。
金毛玉面九尾の妖狐の正体をこんな場所で明かす訳にはいかない。
タマモもそれは解っているが、つい口をついて出てしまったのだろう。

「そうでござる!横島先生はセクハラなど、セクハラなど・・・な・何かの間違いでござる!」

タマモの発言に触発されたのか、シロが続こうとするが途中で何かを思い出したのか勢いが鈍くなる。

「別に間違いはありません。四捨五入すればそういう事情になります。質問は以上ですか?」


以上というか異常だろう。女子中学生にとってはシャレにならないような事をアッサリと認めて全く
悪びれた様子も無い。恥を知らないのか、罪の意識を持たないのか、人格が破綻しているのか。
いずれにしろ横島への評価は急降下して地の底を這いずっていた。
ランクSも文珠使いという事実も地平線の遥か彼方だ。

「質問が以上なら授業に入りましょう。除霊作業の実例を何件か話したいと思います。皆さんもよく知る
美神令子さんの現場での話を聞かせましょう。」


横島とて馬鹿ではない。自分に向けられる視線の冷たさぐらいは気付いている。だが別にここには尊敬
される為に、来た訳では無い。教えに来ただけだ。自分を軽蔑するのであれば、逆に反面教師にしてくれる
だろう。自分の事を人格者だと思った事など一度もない。それでも信頼してくれる仲間、心配してくれる
人達に恵まれている。これ以上望むものなどない。シロやタマモにとばっちりが行くかも知れないが
自分を庇うような言動さえしなければ逆に同情が集まるだろう。女性のそういう一面に関しては横島の
過去の煩悩人生で痛感している。あとで二人に心から謝ってから、言い聞かせれば多分理解してくれるだろう。

横島はそう考えて美神のエピソードを話し始める。どの道クラスで顔をあわせるのは週に一度の一時間だけ
しかも学年末までの短い期間だ。多大な埋め合わせを覚悟して、我慢してもらうしかなかった。
自分の価値観や判断基準がおかしいのは自覚している。そしてそれを変える気は毛頭ない。


一方生徒達は戸惑いを禁じえない。クビになった事務所での話を何の拘りもなく話し、しかもその時の
身分は荷物持ちだ。いったいどういう人間なのかさっぱり解らない。だがそれでも話の中の美神の姿は、
生徒達が想像する通りの理想のGS像で感心するしかない。その姿を最も間近で見たのがこの男だと
いうのが余計に腹が立つくらいに。

そんな針のムシロのような空気の中でも横島は淀みなく話しつづける。やがて終業のチャイムが鳴り授業が
終わった時に二人を呼びつけて小声で話し掛ける。

(良いか二人共、今日から学年末までの間、俺を庇うような言動は一切慎む事。それを約束してくれ。)
「「だって!!」」
二人にしてみれば絶対に承服できないような話だ。

(いいから!頼む!埋め合わせになんでもするから、頼むから約束してくれ。)


そこまで強く言われて仕方なく、渋々ながら承諾した。無論ただ黙っているつもりなどない。
あそこまで強く言うから仕方なく引き下がっただけであり、なんでもすると言った以上は何か汚名返上の
為にやってもらうつもりだった。
庇う事も無かったが同調する事も無く、無言で通した。


授業が終わったので扉から教室を出ると、目の前に六道冥子が佇んでいた。

「うわっ!しょ・所長?」
「ずっと見てたわ〜、どうして〜あんな事を言ったの〜?」

横島としては予想もしていなかった事態に上手く頭が働かない。あんな事、とはどの事だろう?
今の事務所での話はなく、美神事務所での話をしたのが気に障ったのだろうかと思ったが、冥子はそんな
心の狭い女性ではない。親友の評判が上がるのを喜ぶはずだ。そう思い問い質すと意外な答えが帰ってきた。
美神事務所をクビになった経緯を省略して話し、自分から評判を落とした事を怒っているらしい。


冥子はこの学院が好きだった。そこに通う生徒達は皆可愛い後輩であり、身内のように思っていた。
その少女達に最高の教師に師事する機会を与えてやりたかった。冥子の知る横島は他人の長所を伸ばし
短所を矯正する天才だった。誰もがサジを投げた自分を一人で依頼を遂行できるようになるまで
成長させてくれたのだ。一度も師匠ぶった事などない。教わるのではなく自分の力に気付くだけだと、
既にある力を使いこなすだけだと言っていた。自分が教えた訳ではないと。

だが冥子にとっての横島は紛れも無く最高の指導者だった。他の誰にも出来なかった事をやり遂げたのだ。
母からは年少の相手に教える事は必ず横島にとって良い方に働くと言われた。情緒面に良い影響を必ず
与えるだろうと。それに横島は常に最も危険な役目、最も困難な事を引き受ける。営業・商談・契約等
面倒な事総てを率先してやってくれている。だからひとつくらい、安全な仕事を担当させたかったのだ。
命の危険の無い仕事を、激烈な駆け引き等の神経を擦り減らす事の無い仕事を。

それなのに初日からわざわざ自分の事を貶めて、クラス中の冷たい視線に身を晒している。
これでは良い影響どころか、逆効果にしかならないだろう。
人から好かれ好意の視線を受ければ心が暖かくなる。逆に嫌われて侮蔑の視線を受ければ心が冷たくなる。
その事を冥子は身に染みて良く知っている。だから余計に横島の態度が悲しかった。


一方横島としてはいきなりそんな事を言われても、この場で対応できようはずも無い。
タマモの事を話せない以上は、ああ言うしかなかった。それ以外の方法としては自分の事を庇おうとすれば
自然と相手を貶めるしか無くなる。一度は世話になった相手を公衆の面前で貶す事ができない以上は自分が
泥をかぶるしかない。だがその事を説明しようにも周りの耳目がある。

「すいません、ごめんなさい。詳しい事情はまた今度説明しますから、今日の処は勘弁して下さい。」

結局、平身低頭して謝るしかない。自分の行動が相手を傷付けた事には違い無いのだ。
その米搗きバッタのような様子を見られて更に視線の温度が下がる。
横島は次に隣のクラスの授業に移り、同様の質問を受け同様の空気の中で終了した。
その後職員室に戻ると、そのまま理事長室に呼び出された。

「初日の授業は〜どうだったかしら〜?」
「別に大した事も無く、無事に終了しましたけど?」

別にクラス中から冷たい視線で見られるくらい、大した事では無いだろう。昔の自分なら日常茶飯事だ。
それにどうせ後二ヶ月も無い。それぐらいは針のムシロに座り続けても仕方無いだろう。

「あら〜来年もお願いするつもりなのに〜。」
「え?あの、理事長?あんまり俺を学院に近づけない方が良いと思いますよ?」

横島としては自分がオカルトGメンに目を付けられた自覚がある。短い期間ならともかく、
復讐後のなりゆきもあるしその辺りの事に関しては周りを巻き込みたくなかった。

「横島君が何を心配してるのか〜知らないけど〜余計な心配は〜しなくて良いのよ〜?そんな必要は〜
もうすぐ無くなるから〜。安心して〜教えてちょうだい〜。」

心配する必要が無くなる、とはどういう意味があるのか。本命が動いたという事か?
つまり自分が六女内部にいた方が、先方に都合が良いという事か。だがそれを今伝える必然性があるのか?

「何故、俺にそんな事を?それに所長はその事を知ってるんですか?」
「冥子はこういう事に〜向いてないから〜知らないわ〜。いずれは〜六道を継ぐ身だけど〜向き不向きが〜
あるから〜向いてない事は〜誰かが側で〜助けてあげれば良いのよね〜。」

まさかその役割を自分に期待しているのだろうか。だったら見込み違いというしかない。
確かに一番身近で冥子のサポートに従事しているが、あくまでGS業務に付随する事だけだ。
とてもではないが理事長のようにはできない。だがこの人が見込み違いなどを軽々しくするだろうか?
自分の中には見込まれるだけの後ろ暗い素養があるのかもしれない。
とりあえず一旦考えをまとめる為、退出させてもらう。理事長は別に引き止めようともしなかった。

職員室に戻ろうとした時に入り口で女生徒に声を掛けられた。

「横島先生、色々と確かめたい事もありますので、少し私達に付き合って下さい。」

そう話し掛けてきたのは、タマモと同じクラスで最後の方に質問してきた生徒だった。




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(あとがき)
六女編、最低の評価から始まります。もっと評判が良い筈とは思いましたが、あれぐらいの年頃の女性が
セクハラ云々の噂を聞けばこういう反応になるのでは?と思いこういう運びになりました。
この後で少しづつ評価を上げていくことになります。





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