ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 38〜横島先生誕生?〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/29)

{オカルトGメン取調室}

横島は学校帰りに西条に待ち伏せされ、その場で任意同行を求められた。断ると尾を引きそうだったので
冥子に電話で連絡をした後、素直に従った。その結果現在安っぽいパイプ椅子に座っている訳なのだが
以前にも似たような体験をした記憶が甦る。あの時も自分を尋問したのは目の前のこの男だった。

「数日前、都内近郊の複数の場所で不可思議な事が起きている。室内がいきなり凍りついたり、自動車が
サイの目切りにされたり、延焼無しで室内のみ燃え尽きたりだ。果てにはビル内の一室がまるごと消滅
までしている。どれもありえない話だ、物理的にはな。」


そこで一旦言葉を切って、目の前に座る学生服姿の少年を凝視する。以前は気にくわないだけの生意気な
ガキだった。いがみ合う事しかしてなかったように思う。だが彼が美神事務所をやめて以来いがみ合う
主な理由がなくなった為、冷静に客観的な目で見れるようになっている。妖狐の少女を保護した件では
正直感心したものだ。その後も上司であり師でもある、美智恵の要請もあって時折様子を見るよう
気をつけていた。本気で大切に守り育てているのが解り、不本意ながら見直しもしたのだ。

「物理的にありえない以上はオカルト的な手法が用いられたとしか考えられない。そこで被害にあった者達
の共通点を探り、動機・能力の面で最も疑わしいのが君という訳だ。何か言う事はあるかい?横島君。」

「別に?アンタの演説を邪魔する気は無いぜ西条さん。どうぞ続けてくれ。」

軽く探りを入れて見るが全く動じる気配もない。任意同行である以上強制力は強くないが、こちらに証拠が
全く無いのを見切っているのだろうか?そんなものがあればとっくに逮捕状が降りている。
だが彼はそういうタイプだったろうか?相手の手の内を見透かして態度を変えるような?
それは目の前の少年の様子から受ける印象とどうにも合致しない。

「オカルト能力が用いられたのは間違い無いが、一切痕跡が残っていない。霊波の残滓さえ全く無い。
こんな事は通常ではありえない。霊力の流れを100%コントロールしない限りは無理だが、そんな事は人間
には不可能だ。ただし我々の知る限り唯一の例外がある。それが文殊だ。呼ばれた理由は理解できたかね?」

「それで?俺が文殊使いだから犯人にして逮捕しとこうって事か?」

そんな事をすればたちまちオカルトGメンは物笑いの種だ。証拠が無いのが証拠だなど子供のへ理屈にも
劣る詭弁だ。西条の勘では間違い無く横島はクロだ。協力者がいるとしたら伊達雪之丞だろう。
小笠原エミも関与の可能性はあるがあまり高くないと踏んでいる。手口が直接的すぎるし、第一超一流の
プロである彼女がこんな行為に加担する理由が無い。

「そこまで強引な理由では逮捕できないがね。」


西条が横島を強い視線で見つめながらそう言っている。全身から強いプレッシャーを放ってくる。
横島としては引け目がある分受身にならざるをえない。ここで素直に自分がやりました、と言えれば楽に
なれるが既に雪之丞とエミを巻き込んでいる。横島一人で泥をかぶろうとしてもあの人の好い仲間達が
黙ってみているとも思えない。横島としては思案のしどころである。

「僕はイエロージャーナリズムというヤツが大嫌いでね。虫酸が走ると言っても良いぐらいだ。」

目の前の男の正義感に照らし合わせれば到底容認できないだろう。美意識的にもだ。

「もし僕にとっての妹のような存在、令子ちゃんがあんな下劣な誌面で晒し者にされたら絶対に黙ってなど
いないだろう。だが報復措置を取るにしてもやり方がある。今回の犯人、仮に”シスコン”と呼称するが。」
「ちょっと待て。」
「このシスコンなる者のとった対応はお粗末すぎる。特に最悪なのは編集部をまるごと消滅させた事だ。
あの部署には他の人員もいる。急に仕事もできなくなり、また出版社としてもいきなり何人もの人間を
遊ばせるはめになって人事担当者も頭が痛いだろう。」

横島のツッこみを合いの手のようにして西条が流暢に喋り続ける。

「このシスコンは強大な力を無駄に使っているとしか思えない。大切な者の為に戦う、大いに結構だ。
だがやり方をひとつ間違えると単なる暴力にすぎなくなる。肝に銘じて欲しいものだね。」
「じゃあ、アンタならどんな手段を取るんだい?」

横島は西条の言葉を正しく肝に銘じながら、どうしても聞いてみたくなった。

「そうだね、表と裏で二通りあるが、要はマスコミといえど、企業である以上は利益を追求するものだ。
そこを突くのは基本だろうね。詳しく言うと・・・君が知る必要は無いだろう?犯人じゃあるまいし。」

誘導尋問だろうか?いや違う、これは誘導尋問では無い、説教だ。
西条は確か今28歳のはずだ、実質自分とは1歳しか違わない。だが精神面の成熟の差は一年どころではない。


西条としては、今回横島を逮捕する事はできないと思っている。何せ証拠が全く無い。逆にそれが有力な
状況証拠になっているのだが、そんな理由で無理に逮捕しても検察を通らない。つまりは立件できない。
ならばせめて再犯の可能性を少しでも潰しておきたい。力を持つ者の責任とそれを振るう意味を自覚して
もらわなければならない。軽はずみな事をされては野放しにできなくなる。

「力とは大きくなればそれ自体が意味を持つ。本人に何の目的も無くてもだ。それだけに行使する際には
熟慮しなければならない。存在自体が脅威になる場合もあり、余計な敵を作る事になるかもしれない。
強者には強者という事自体に義務が生じる。傲慢に聞こえるかもしれないが、一面の真理でもある。
これこそストレングス・オブリージ、持てる力を完全に支配下におくのは強者の義務だよ。」


西条の言い分は一部理解できない言葉もあるが、大半は師匠から聞かされた覚えのあるような言葉だ。
自分の記憶力は威張れたものではないが、どうやら右から左へと抜けていたらしい。
存在自体が脅威になるとはタマモの事か、それとも自分の事か。

「そうだなもし俺が、万が一にもアンタの言うシスコンとやらに会う事があれば、今のアンタの言葉を
キッチリと伝える事にするよ。ソイツの為にもなりそうだしな。」


横島の顔を見る限り、自分の主張は通じているようだ。発言内容からも明らかだ。とりあえずは一旦放免
するしかないが、完全に信用するにはまだ早い。横島がやろうと思えば完全犯罪も可能なのだ。
そしてその力を制御するのは横島の人格のみ、到底安心できる状況では無い。そんな思考に沈んでいた時に

「事情聴取は終わったかしら?西条君。」

責任者であるGメンの隊長、美神美智恵がはいってきた。別の部屋で会話の内容を聞いていたのかもしれない。

「横島君、今回の件は手掛りが全くと言って良いほど無くてね、最後の頼みの綱として知り合いの人狼族の
少女の超感覚で追跡調査をやろうと思っていたのよ。」

知り合いの人狼族とはシロの事だろう。だが何故自分に捜査の内幕を話そうとするのかが解らない。
美智恵なら横島が犯人である事は確信しているはずだ。それとも証拠が無い為の揺さぶりだろうか。

「ところがその人狼の少女の東京での保護者に協力を申し入れたら、けんもほろろに断られたのよ。
そんな下らない調査にウチの居候を貸し出す気は無い、って言ってね。ヒドいと思わない?
母親の仕事を下らないだなんて、本当に親不孝な娘だわ。」

言ってる内容は娘への不満だが、娘を自慢しているようにしか聞こえない。いや正確に言うと売り込んで
いるという感じだろうか。まるで昭和初期までは日本にもあった、置き屋のやり手婆あのようだ。
そもそも美神が断った理由は何だろうか?金か?だが些少ではあるがGメンに協力すれば謝礼が支払われる
はずだ。ただ働きでない以上はいくら美神でも母親の頼みは断らないはずだ。まさか横島の事を気遣って?
ありえない事ではないがその可能性は限りなく低い。だがそれ以外でとなると何も思いつかない。


一方美智恵としては今回の件で横島を逮捕するつもりなど無い。というより出来ない。証拠が全く無いのだ。
不可能な事にいつまでも関わっているほど暇な身ではない。やるべき事はいくらでもある。
一旦逮捕してから自分の力で助ける事も最初は考えたが、あそこまで完璧に証拠が無ければどうにもならない。
まさかデッチ上げる訳にもいかない以上は諦めるしかない。

シロへの協力要請を娘が断ったのも意外だった。小額とはいえ収入になり、そのうえ自分が働く訳でもない
となれば二つ返事で引き受けると思っていたのだ。正直シロの超感覚でも成果は期待できなかったろうとは
思うが、娘の反応が新鮮だった。ひょっとして遅ればせながらでも逆転の目が出てきたのだろうか。
娘の真意は解らないが、一応横島にその事実だけは伝えておく、彼が曲解する分には一向に構わない。

「また話を聞かせてもらう事もあるかもしれないけど、とりあえず今日は帰って良いわよ。」
「あ〜〜〜、わかりました。お世話かけました、失礼します。」


なんとなく無罪放免らしい。スッキリしないものはあるが別に捕まりたい訳でもない。
さっさと帰る事にする。マスコミ方面の動向が気にはなるがその内に本命が動き出す。
以後は自分の出る幕はないだろう。それより銀一のテレビでの発言の反響の方が気に掛かる。
窮地に陥ったりしなければ良いが。

結局横島の心配は総て杞憂に終わった。
銀一の発言は概ね好意的に世間から迎えられた。一部の人間からは反感を持たれたようだがあくまで少数だ。
余計な事を言いやがって、というのは世の兄貴族のセリフらしい。しばらくは兄妹連れらしい男女の客が
デジャヴーランドで多く見られたとか見られないとか。

例の雑誌の出版社はそれほど時を待たずに、表面的には小さな変化があった。
きっかけは銀一の発言だった。あれで世間を敵に回し、過去にあった訴訟を他社が次々に暴露した。
評判は地に落ち、株価にまで影響がでて下げ止りとなった。投資機関や在野の民間の投資家などが暗躍して
仕手戦を仕掛けたりもした。その時に、六道グループが全面的にバックアップするという、出所不明の
噂が財界筋に流れた。これを受けて株価が今度は高騰し連日の上げ止まりとなった。

株価が最高値を記録した時に六道グループから、バックアップの話は事実無根である、という正式な声明が
出された。今度は一気に暴落して、額面割れ目前まで一気に落ち込んだ。売り時を逃した投資家の中には
大損害を出して破算した者もいた、稀に最高値で売り抜けた者もいたらしいが極少数派である。
その時に株式市場に溢れ出した暴落株を水面下で静かに買い集めた複数の企業があった。一社当たりの
保有数は全体の5%以下だったが、いつのまにやらそれが一箇所に集まり気付いた時には乗っ取りが
完了していた。会社側も株の流れを掴みきれておらず、買い支えに走る間も無く陥落した。
筆頭株主になった企業は全くの無名で、六道傘下にある事も全く知られていなかった。

その後いくつかの人事異動があった。経営陣のトップは全員入れ替わりになり、社内の幾つかの部署で
人員の入れ替わりがあった。組織の硬直を防ぐ為の人材交流という名目だった。
事の発端となった雑誌は休刊になった。
一連の動きを調査したマスコミ各社の上層部では共通の認識が改めて囁かれだした。すなわち、
六道家周辺には一切の手を出すな。




そんな流れの途中にある小康状態のような日々。
横島達が六道除霊事務所にいる時に理事長が訪ねて来た。
この女性が来た時は何かを企んでいる事が多いので、自然と身構えてしまう。
理事長は娘と二人で話がある、と奥の部屋に引っ込んだ。
残された横島と雪之丞はなんとなく手持ち無沙汰な時間をすごすはめになったが、大して待つ事もなく
二人が戻って来た。爆弾が投下されたのはその直後だ。

「それじゃそういう訳で〜来週からの講師の件〜横島君にお願いするわね〜。」

何がどうしてそういう訳なのかがさっぱりと解らない。それ以前に講師の話はキッパリと断ったはずだ。
親娘の会話でいったい何を話したのかと娘の方に視線を向ける。

「ウチの事務所への〜学院からの依頼で〜講師の件を〜引き受けたの〜。」
「そういう事だから〜よろしくね〜。」

事務所への依頼という形を取ったらしい。確かに美神やエミが講師を引き受ける時も事務所宛に
依頼がいっていたのだろう。それは解るが何故自分なのだ?以前断った時は納得してくれたではないか?

「ちょ・ちょっと待って下さいよ。俺の仕事は所長のサポートって言ったじゃないですか?」
「私は事務所に依頼しただけよ〜誰を派遣するかは〜冥子が決めるの〜。」

「それに高校生同士は無理だって・・・」
「教えるのは〜中等部なの〜。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「快く〜引き受けてくれて〜嬉しいわ〜。」

確かに以前断った時に念押しされたような気がする。所長のサポートがメインで、高校生同士で教えるのは
無理があるから、と確認された。理事長の出した条件はそれらを総てクリアしている。
こうなると自分の言った言葉が総て自分を縛る鎖になる。ここからの形勢逆転は例え美神隊長でも無理だろう。
だが事務所から派遣するというだけでまだ自分に決まった訳ではない。
最後の望みをかけて雪之丞を見ると・・・・・・・既に事務所内にいなかった。

六道親娘はにこやかに横島の方を見ている。
この期に及んで横島にとれる手立てはひとつだけ、白旗あげての全面降伏しかなかった。

「わかりました、俺に務まるかどうか自信は無いですけどがんばります。」

そう返事すると理事長は会心の笑みを浮かべ、してやったりという表情をしていた。
冥子の方はよくわけもわからず笑顔を浮かべている。ただ横島が学院に関わるのが嬉しいのだ。

「ところで俺は何を教えれば良いんですか?」

横島としては引き受ける以上中途半端な事はできない。相手は未来ある中学生なのだ。
理事長の話によれば、横島が受け持つのは霊能科の一年生とそれ以外にイレギュラーで特別講義を
して欲しいとの事。特別講義に関しては今のところ未定なのでとりあえずは、一年生にGSという職業に
ついて具体的なイメージを持たせて欲しいという。自分がどんなタイプを目指すのかなど指針を自分達で
考えるようにして欲しく、それには体験談などを話して興味を掘り起こしてくれれば良いそうだ。

横島は年の割に現場経験は豊富なので話の種には事欠かない。それなら少しは気楽にやれそうだ。
一応念の為にと理事長が用意していた、実際に使用している教材を受け取り帰る事にする。

自宅に帰るとそこには雪之丞・タマモ・銀一が既に帰っていた。

「よお、お帰り横島先生。」

雪之丞がからかい混じりにそう声をかけてくる。

「この薄情者が!自分だけさっさと逃げやがって!」

一応そう言い返すが、あの理事長の様子ではどの道逃げられなかっただろう。

「ヨコシマが教えに来るの?」

雪之丞から事前に話を聞いていたらしいタマモが表情を輝かせながら聞いてくる。
そういえばこれはタマモの学生生活を直に見るチャンスなのだ。そう考えると面倒なだけでもない。

「うん、教室では厳しくいくぞ横島君。俺の事は教室では先生と呼びなさい。」
「何が先生やアホ、何を気取っとんねや横っち。」

精々気取ってみたセリフを間髪を入れずに銀一が混ぜ返す。
銀一はあのテレビでの発言以来、好感度がうなぎ昇りで、仕事もコメンテーターのようなものが
増えているらしい。他にもCM出演の依頼も殺到しており、嬉しい悲鳴といったところだろうか。

「ああ、そういやデジャヴーランドからCMの話が来たで。先方はタマモちゃんと共演して欲しかった
らしいけど、さすがにそれは自粛する言うてたわ。でも今度無期限パスポートようけくれる言うてたから
もろうたら又一緒に行こうな。」

CMの件よりパスポートの方が嬉しいような口ぶりだ。タマモの出演に関してはさすがに六女の校則では
無理がある。自粛してくれて大助かりだ。
その後はタマモが用意してくれた夕食を皆で平らげて、話題は中学の授業の話になる。
一年生が学んでいるのは霊能の基礎の基礎だが、横島はその基礎を学問として系統立てて学んだ事は無い。
総て直接体に叩き込むようにして最高の師匠からマンツーマンで教わったのだ。

横島にとってはシロ以外の誰かに教えるというのは初めての経験だ。シロにしたところでとてもではないが
教えた、などと胸を張れるような内容ではない。そう考えると不安にもなるが既に引き受けた後では
どうしようもない。それからの横島は暇さえあれば教材に目を通すようにしていたが、感覚的に
理解しているものを活字として読んで再確認する作業は意外にも楽しかった。

総ての教材に一通り目を通し終えた翌日、いよいよ六女での初講義である。高校の授業を途中で抜け出す
事になるが、出席日数は最近かなり稼いでいる。丸一日休むのではなく二時間程度抜けるだけなら
進級に支障は無い。理事長の計らいか最初に講義をするのはタマモのクラスで授業中のタマモとシロの
姿を見れるのは密かに楽しみだった。

緊張と期待が入り混じったような心境だ。今夜は明日に備えて早めに寝よう。







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(あとがき)
前話で大失敗をやらかしたので、悪い余韻をさっさと断ち切って強引に新しい展開にもっていきました。
矛盾点等ございましたらご指摘の方お願い致します。

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