ザ・グレート・展開予測ショー

ゆうれい


投稿者名:マサ
投稿日時:(04/12/27)

湯気の立つ鍋。
中身は豆腐とわかめのありふれた味噌汁。
ふんふんふふ〜ん、と鼻歌交じりにそれを御椀によそる。
それを滑る様に、一定の速度の空中移動で運ぶ。
「はい」
「サンキュ」
にっこりと微笑んでちゃぶ台に置く。
一言礼を言って、彼は手を合わせて、頂きます、と一言。
味噌汁を一口、ずず、とすする。
おキヌちゃんはやっぱ料理がうまいな、といつもと変わらぬ横島の言葉。
ありがとうございます、と返すおキヌの言葉もいつも通り。
けれど、飽きはしなかった。
そんな日常に居心地の良さを感じているから。
満たされていると実感するから。










ただ、一つ、気にかかることがある。
二人とも気付かないわけではない。
背けたい現実。
受け止めなければいけない事実―――そんな、もの。









おキヌの料理はおいしい。
それ自体に問題は無い。
だが、ある時感じてしまった。
“なぜ料理を作れるのか。”
端的に言えばそうだ。
おキヌは幽霊である。
それも300年も昔に肉体を失った。
何も口に入れることの無い、味覚の無い幽霊が、そんな長い時間、いわゆるブランクをおいて、そんなものを記憶しているだろうか。
否。
普通の“人間の”記憶なら不可能だろう。
どんなに鍛えようが、人の感覚は、何時しか衰える。
飽く迄も、その前提なら。



時間が停止している。



つまりは、そういうことなのである。
幽霊とは死という因果によって開放された霊(もの)の中でもフォーマットから隔絶を起こしたイレギュラーであり、時の流れを切り離すことによって存在する生物より派生した自然より生じた記憶装置。
永遠である代わりに全てを無くした形と心だけの、それだけの存在。
覚えることはできるのに、決して忘れることを許されなくなった悲しきモノ。



忘れることは幸せだ。



なら、それのために不幸だろうか?
違う。
本当に悲しいのは、それが、生ある者に介入してはいけない、生ある者と時間を共有することは叶わない、どんなに慕おうと生ある者への思いは無常に否定されるべき要素である、という決定的な証拠である事だ。
相容れぬ存在ゆえに生まれる疎外感は、触れるごとに歪みとなり、心を蝕む。
そして、多くの霊は人との交流を閉ざし、闇に住まう。
それは、とても、怖いことであり、悲しかった。





それはおキヌも決して例外ではない。





幾度と無く、恐れの表情にゆがみ、怖い目をした人ばかりが―拒絶の心が―見えた。
そして、鮮明な記憶はぼやけることもさせない。

ずっと、ずっと、長い、長い間――淋しさの涙にぬれた心は、淋しさを忘れてはくれなかった。

自分はここにいてはいけないのだと、ここにいる意味は何なのだろう、と。
そんなことばかり――考え続ける日々だった。
苦しくて、苦しくて。









けれど―――

「ねー、横島さん」
「ん?」

きっと―――

「ちょっとそのままにしていてもらえますか?」
「あー、うん。いいけど」

この感覚は―――

「えいっ」
「えっ、いや、なんでくっつくの?」
「あはっ、気持ち良いですね♪」
「そ、そうなんか?///」

この暖かさは―――

「……なんで頭撫でるんですか?」
「んー、何となく。嫌ならいいけど」
「嫌じゃないです///」

彼女の居場所がそこに在る、何より確かな証―――
そして―――

「私、1つ横島さんに聞かなきゃと思っていたことがあるんです」
「何?」
「落石でぺしゃんこにしようとしたり、石で頭を殴りつけたりしたこと何で怒らなかったんですか?」
「そんな事気にしてたのか。そーだな、簡単に言えば、可愛いから良し!」
「もー、横島さんたら」
「ま、それは置いといて、あの時のおキヌちゃんは〈困ってます〉って見て分っちゃったから何も言えなかったんだよなー」
「…………」
「何よりも、貧乏仲間は俺の親友だ」
「……ありがとう…ございます、横島さん」

彼のいたずらっぽい中に照れくささを含んだ笑顔と、
      目の端の涙をぬぐう彼女のはにかんだ笑顔は、とても強い、絆―――

「さて、と。仕事に行くか」
「はいっ!今日もいっしょーけんめーがんばります!」



それは、神様が最後にくれた安息の場所―――



                     【 FIN : 孤独にありし魂に幸あれ 】

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