ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 35〜忘れかけた悪意〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/26)

{魔法料理 魔鈴}

予約してあった席に着くと、この店のオーナーシェフである魔鈴めぐみが挨拶にくる。

「いらっしゃいませ、本日はご予約ありがとうございます。皆さんお久しぶりですね。
                            こちらのお嬢さんは、初めましてですね?」

「ご無沙汰してます、魔鈴さん。このコは俺の妹でタマモっていいます。 タマモ、こちらの女性は
この店のオーナーシェフの魔鈴めぐみさん。こんな美人で天才的な料理人でもある。」

横島が互いを紹介すると二人の視線が絡み合う。片方はフワリと包み込むように、もう片方は探るように。

魔鈴は、横島から妹として紹介された少女を見つめていた。横島に妹がいたかどうかは知らないが、
それ以前に人間ですらない。妖獣の類、犬神族だろうか?だがワーウルフの猛々しさは感じない、
狐族だろうか?まあ、それはどうでも良い、横島が妹として紹介した以上は、そのように接すれば良い。

タマモは目の前で穏やかな笑みを浮かべている女性をジッと見つめていた。こちらを探るような気配は
微塵も無い。ただ接客用の表情をしている。横島は天才料理人としか紹介しなかったが、それだけとは
思えない。何か得体の知れない力があるような気もするがどうしても掴みきれない。なんとも底の知れない
相手ではあるが敵意は全く感じない。用心を怠らないようにしておけば問題無いだろう。

「初めましてタマモさん、今日は料理を楽しんでいって下さいね。」
「初めまして魔鈴さん、今日はよろしく。」

料理はシェフのお任せコースを四人前頼んだ。相変わらず素晴らしい味わいで、快感が舌から脳に
突き抜けるようだった。美味しい料理は何より会話を弾ませる。雪之丞もようやく復活して会話に
加わっている。話題は二人がいなかった時のことだ。

契約等の面倒な部分は事前にすべて横島が済ませていたので、現場仕事だけだったとはいえ、それらを
総て一人でこなしたのだ。しかも今日の歓迎会の為に一日分前倒しになるようなペースでだ。
誰にでも出来るような事ではない。

雪之丞は見直したような目で冥子の事を見ていた。元々冥子の能力を高く評価していた横島でさえ
驚いたのだ、雪之丞がどれほど驚いても不思議は無い。案外自分の就職先は大当たりかもしれない
と思っていた。あの呼称は正直、勘弁してほしいが何もかもが理想の職場などありえない以上は
妥協すべきだろう。なるほど横島があの呼称を甘受していた理由はこれか、と納得する。
実際には逆らうだけ無駄なので流していただけなのだが、それを雪之丞に教える人間はこの場にはいない。

一方横島には話の途中で、他に気になる事ができた。
タマモが料理からあからさまに野菜のようなものを選り分けているのだ。あまりに露骨過ぎるやり方で
こんな事をするタマモは見たことがなかった。何か魔鈴に対して含むところがあるのか、と不審に思って
いると、ちょうど魔鈴がやってきた。さすがにこれは作った人に対して失礼になる、と思い注意する事にした。

「タマモ、極端な好き嫌いは、良くないぞ?」
「だって・・・・・」

一応横島が注意するがタマモの返事は歯切れが悪い、何か他に理由があるのだろうか、と思っていると、

「嫌いな物は〜体が嫌がってるんだから〜無理に食べる必要は〜ないのよぉ〜。」
「横島さん、無理を言うものではありませんよ?妹さんにはどうしても食べれない物もあるんです。」

冥子の自己正当化丸出しのコメントはさておき、魔鈴の台詞が引っ掛かった。

「どういう意味ですか魔鈴さん?」
「妹さんがよけてるのはどれも香りの強いハーブばかりです。超感覚が鋭敏すぎて辛かったんでしょう。
私の不注意でしたね。申し訳ありません。」

理由に関しては納得できたが、それ以外の部分で驚かされた。タマモも同様だ。正体に気付かれる可能性は
もちろん考えてはいたが、まるで前提条件のように当たり前の事として受け止めて、そのうえで客に対する
心配りをしようとしている。プロ意識を超えるような感性だ。さすがに魔界の妖鳥スカベリンジャーを
小鳥さんと呼ぶだけの事はある。横島が妙な感心の仕方をしていると、

「食べれない物の栄養は他で補えば良いだけですよ。」

魔鈴がそんな事を言ってくる。だが魔鈴の料理には体に良い物しか入っていないはずで、何で代替すれば
良いのか見当もつかない。解らない事は知ってる人に聞くのが一番手っ取り早い。

「あの、魔鈴さん、俺にその補える料理を教えてもらえませんか?」

横島は母に料理を教わって以来、自分の作った料理をタマモが喜んで食べるのに密かな喜びを感じていた。
栄養のバランスの取れた美味しい食事を食べて、タマモの健康が保てるなら労を厭うつもりはなかった。

魔鈴にしてみれば、意外な申し出ではあったが、断る理由も無い。知識を求めている相手にそれを与える
のは善き魔女の務めでもある。ましてやそれが妹を想う気持ちから出た願いであれば。

「私が暇な時でしたら構いませんよ。魔鈴めぐみの料理教室でも開きましょうか?」
「だったら月謝の用意をしないといけませんね。なんでも言って下さい。」

自分の提案に横島が返してくる。魔鈴の知る横島は常に貧乏だった。今はどうやら違うようだが、
魔鈴にはそれほど金銭欲は無い。日々の糧に必要なだけあれば良いと思っている。そのかわりに魔鈴が
人一倍備えているのが探究心だ。知識欲と言い換えても良い。魔鈴には以前から研究対象として興味の
ある物があった。入手が困難、というか不可能だと思って諦めていたのだが、ダメで元々で冗談半分にでも
言ってみようかと思った。

「そうですね〜だったら研究対象として文殊なんてどうですか?」
「わかりました、一個で良いんですか?」

横島はそう言うとあっさりと文殊を生成して魔鈴に渡す。何せ元手はタダなのだ。
安上がりですんだな、と思っていたのだが、魔鈴の反応は全く予想外の物だった。

「よ・横島さん?貴方文殊の市場価値をご存知無いんですか?」

市場価値などと言われても、一度も売った事など無いので解らない。魔鈴によれば文殊は今や世界中の
霊能力者や魔術関係者の注目の的で、誰もがその効能の限界や生成方法などを知りたがっている。
横島の処に申し入れが来ないのは、品質期限がはっきりしない為、GS協会の方から制止が掛かって
いるらしい。六道本家からの裏の圧力もあるのかもしれない。
それでも良質の精霊石が3〜5億で取引されている事実を考慮すると、それと比較にならない程、効果も強く
汎用性の高い文殊なら間違い無く10〜15億で取引されるだろうという事だった。

いきなりそんな事を知らされても、GS協会から売買が禁止されている以上、売れば違反する事になる。
ならば魔鈴に有効に活用してもらった方がよほど有意義だ。その旨、魔鈴に伝える事にする。

「そんないきなり何億って言われてもピンときませんよ。大体売るの禁止されてるなら同じでしょう?
だったら魔鈴さんに差し上げますよ。その代わり料理教室の方よろしくお願いしますね。」

事も無げにそんな事を言ってくる。文殊の金銭価値を聞いても動じる事も無く、あっさりと差し出して
くる。しかも理由が妹の為の料理を習う月謝だというのだ。以前から規格外の感性はしていた。
よく他人からは悪趣味と言われる魔鈴と趣味が合うというのはそういう事だろう。自分の愛鳥
スカベリンジャーを見て可愛いと言い、あっさりと懐かれていた。その後のアシュタロス戦役の時などは
常識外の成長を見せ、やはり人外の者に好かれ、最終的な勝利に人類を導いた。

彼は尋常ではない運命を与えられていたのだろう。だがどれほど運命が尋常でなかろうが、彼自身は普通の
少年にすぎない。過酷な経験を強いられ、深遠なる哀しみを知り、そのまま消滅してしまうかのようだった。
苦しみ惑う者に救いの手を差し延べるのは魔女の務めではあるが、あの時の横島は運命そのものに深く
関り過ぎていた。いわば時代の特異点と言っても良い。魔法に携わる者の常として、運命そのものに干渉
するような行為は許されない。それは禁忌の領域に属する行いだからだ。

その為、心配ではあったが魔鈴は魔女として、横島に対しては過度の干渉を控え、距離を取らざるを
えなかった。周囲には彼の事を案じている人々が大勢いたが、彼を癒せる者がいるかどうかは解らない。
最悪、自らの意思でこの世から消え去る事を選ぶのではないか。運命に翻弄されくじけてしまうのでは
ないか。だが巨大過ぎる運命に押し潰されるかに見えた少年はしなやかに甦った。

時を司る、ノルンの三人の女神。過去を司る女神に呪縛されていたかに見えたが、どうやら未来を司る
女神の恩恵を受ける事ができたようだ。傍らに控えている少女が御使いを務めたのだろうか。
今は現在を司る女神の加護のもとにある事を祈りたい。魔女である自分が横島に対して出来る事には
制限がある。せめて彼にとってかけがえのない存在であろう少女の為にでも、出来るだけの事を
してあげたかった。

「私の魔法料理の基本から、きっちりと教えてさしあげますね。」

そうウインクしながら笑いかけてくる。それはとても魅力的な笑顔で、大人の女性の可愛らしさとでも
言うのだろうか。思わず見惚れてしまう。雪之丞までが仄かに赤面している。
そんな男二人の様子を見ると、タマモとしては面白く無い。隣に座る雪之丞の脇腹をつねり、向かいに
座っている横島のスネを蹴飛ばす。

(何しやがんだよ、タマモ?)
(弓さんに言いつけるわよ?)
(・・・・・・・・・・・・)

何やら小声での攻防は雪之丞の完敗のようだった。つねられたぐらいでガタガタ言うからだ。
横島などは向こう脛を蹴られているのだ。シャレにならんくらい痛かった。
おまけに何故だかわからないが、もう片方の足が踏みつけられている。甲の部分をヒールで踏まれて
いるので真剣に痛い。どう考えてもこれは冥子の足だろう。冥子からこんな扱いを受ける心当たりは
全く無いのだが、女性と同席している時に他の女性に見惚れたのがエチケットに反していたのだろう。

銀一に指摘された鈍感さを改善するべく、事あるごとに考えを巡らすようにしてはいるが、
事が起きる前に回避できるようにしなければいけないのだろう。
結局、男二人が小さくなったまま、食事を終え会計を済ませて店をでた。費用は総て冥子が出した。
主賓の雪之丞はともかく、横島兄妹には奢ってもらう理由は無い。自分達の分を払おうとしたのだが、
ウチのコ達の分は冥子が出すの〜、という良く解らない理屈で押し切られてしまった。

最後に改めて魔鈴に料理の事をお願いしてから、冥子と別れ三人は家路についた。
間にタマモを挟んでそれぞれ手を繋いでのんびりと歩いていく。マンションに着いて、ドアをくぐると、

「おう、お帰り。三人ともお疲れさん。」

銀一がカップラーメンをすすりながら迎えてくれた。完全に寛いでいる。
この姿を見たらさぞかしファンも減るだろう、というくらいのだらけっぷりだ。
大阪から、仕事を終えて、直接ここに来たらしい。それは良いのだが、

「なあ銀ちゃん・・・あれなんや?」

横島が指差したのは銀一が占拠している部屋のドアで、そこには《銀一の部屋》というプレートが
掛かっている。完全にここに住み着くつもりのようだ。

「ん?ああ、表札がわりや、気にせんといてくれ。」

ここまであっけらかんと言われては、これ以上追求する気も失せてしまう。
大阪での事を尋ねると小学校時代の同窓会をひらいたらしい。急な話ではあったのだが、発起人が銀一と
いう事もあってかなりの人数が集まったそうだ。横島の不在を残念がる声も多く、中でも一番煩かったのが

「夏子からはむっちゃ怒られたで、なんで横っち連れてけえへんかったんや、っちゅうてな。」

なんでも夏子は冬休みに上京して遊びに来る予定だったのを、年末の横島と麗蘭のスキャンダル報道が
あった為、周囲がゴタついているのではないか、と気を使って来なかったそうなのだ。その分あの報道の
真偽を根掘り葉掘り聞かれたそうだが、事実を話すのが誤解を解く一番の方法なので銀一もこれに関しては
おチャラけは無しで、本当の事をきちんと説明したそうだ。そこまで話した時に、

「夏子って誰?」

タマモから疑問の声があがった。横島達としては以前に説明したつもりになっていたのだが、勘違い
だったらしい。だったら普通に話すのも面白く無い。結局僅かな時間考えた末に、

「「コイツの初恋の相手。」」

お互いに相手を指差しながら、見事に声も揃っている。考えた事は同じだったらしい。
タマモはそれを聞いて大体わかった。多分二人に共通の幼馴染なのだろう。
ならばここで追求するような話題でもない。皆にお茶でも煎れようと席を立つ。
すると横島が後を追ってきて何やら耳打ちしてきた。二人の前で自分の事をお兄ちゃん、と呼んでくれと言う。

別に無理に断る理由も無いので、リクエストに応える事にした。お盆に茶をのせて運んで行ってから、

「はい、銀ちゃん、雪之丞お茶よ。お兄ちゃんもどうぞ。」

落とした爆弾はたった一言。だがその効果は焼夷手榴弾のようにその場に炎が噴き上がる。

「お・お・お兄ちゃん?なんだいきなり?」
「な・なんでや?なんで横っちだけお兄ちゃんなんや?」

口々に兄バカ二人がそう言ってくる。なんでもなにも、元々タマモは横島の義妹なので何の不思議も無い。
どちらかと言うと、今までの方がおかしかったのだ。だが頭に血が昇った二人には理屈など関係無い。

「な・なら、俺の事もお兄ちゃんで良いじゃねえか。」
「せやせや、俺の事もお兄ちゃんて呼んでや。」

横島は会心の笑みを浮かべて二人の慌てふためいた様子を眺めている。この様子を見れただけでも満足だった。
タマモとしては、二人がここまで激烈な反応を示すとは思ってもみなかった。たかだか呼称ひとつで
ここまで大騒ぎする必要があるのだろうか?別に呼び方を変えるぐらいなんという事もないのだが、三人共
お兄ちゃん、では紛らわしくて仕方が無い。結局三人の間で短くも激しい話し合いが持たれた結果、
雪之丞の事は雪兄ぃ、銀一の事は銀兄ぃと呼ぶ事で落ち着いた。ちなみに横島はヨコシマで据え置きだ。

勝ち誇って二人の狼狽ぶりを見ていたはずの横島は、何時の間にやら自分だけが取り残されているのに
気付いて愕然とした。策士策に溺れるという言葉の生きた見本になってしまった。それとも自業自得だろうか。

結局銀一が揃って以前と同じ生活が始まった。雪之丞の加入で仕事に関しての横島の負担は格段に軽くなった。
タマモは学校で親しく話す相手が増えたようで、時折クラスメートの話などするようになった。
例の教師は生徒達からは相当に嫌われていたようで、それを追い出すきっかけになった、シロとタマモの
二人はすっかりクラスの人気者になっているそうだ。その為二人セットのような扱いを受けており、
良い迷惑だと、照れ隠しのように話すタマモはどことなく嬉しそうだった。

無論賛成派がいれば反対派もいるのが集団というものだ。中には追放された教師は生活指導であった以上は
厳しいのは当たり前で、それを保護者の権勢(美神の名声)を利用して、追放するのは生徒としての分を
超えているという、所謂お堅い一派がいるそうだ。この連中から二人への風当たりはキツく、特に美神の
被保護者であるシロへの当たりが強いらしい。もっとも一度高等部の、おキヌ、弓、魔理の三人が教室まで
来て、二人と親しくしている様子をみせて以来、表立った振る舞いは影をひそめている。
その分陰にこもっているかもしれないが。件の教師は冥子の口利きで六道グループ内の人材教育センターに
再就職したのだが、その事は何故か伏せられているらしい。

とにかく比較的平穏な日々が続いていた。退屈な日々という言い方もあるが皆でその退屈を満喫していた。
刺激も波乱も欲しくは無い。このまま平和な時間が過ぎていって欲しいと心から願った。時折ケイが
遊びに来たりして、タマモと横島に纏わりついていた。何度でも繰り返したい穏やかな時間。
だがささやかな願いというのは、往々にして叶わないものらしい。

その日、割と仕事が早く終わったので早々に帰途についた。今日はタマモの新メニューのご披露の日だ。
細く切った油揚げと一緒に出し汁で米を炊き上げる、命名、子狐ごはんだ。
それを最初に試食する(実験台とも言う)栄誉に賜る訳だ。自然と足も速まろうというものだ。
その時、書店の店頭に山積みされている雑誌が目に入った。以前散々横島と李麗蘭の根も葉もないゴシップ
報道をしてくれたスキャンダル誌だ。表紙に目をやると”近畿剛一”の文字が見えた。気になったので
一部購入して家路を急ぐ。雪之丞と並んで歩きながら開いたページには、

《近畿剛一の意外な趣味?お相手は都内の名門に通う女子中学生?》

そう下品なキャプションが踊っており、掲載されている写真は東京デジャヴーランドでの物だった。




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(あとがき)
う〜ん、横島がキレる直前で容量がオーバーしました。
次回、キレるたークン&ゆっきー、とめる○○という感じで・・・





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