ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 34〜新生六道除霊チーム〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/26)

横島とタマモは連れ立って六道除霊事務所への道を歩いていた。あんな騒ぎのあった後だけに
横島がタマモを一人にしておけなかったのだ。内心が不安定になっていないか、心配なのだろう。
タマモとしてはそうして気に掛けてもらえるのは嬉しいので行動を共にしていた。
できれば手を繋いで歩きたい、と思い、そっと横島の手を握ってみる。だが横島は気付かない。
その時の横島の頭の中では、生徒指導室を出た後の美神とのやり取りが再生されていた。
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廊下を歩いていると美神が側に来て耳元に口を寄せてくる。くすぐったく思いながら耳を傾けると、

(ちょっと横島君、タマモの指輪、あれ精霊獣石でしょ?どこで手に入れたのよ?)
(え〜っと、話せば長くなりまして・・・)
(短く済ませて!)
(内緒です。)

横島としては正直な事も言いにくい。指輪をくれたセアラに迷惑がかかるかもしれないのだ。

(横島君?さっきは私の加勢で随分助かったでしょ?感謝の気持ちは言葉以外で表すものよ。)
(え〜〜〜、つまり?)
(私も欲しい!)

なるほど実にシンプルで解り易い。別に事情が知りたい訳ではなく、自分も同様に精霊獣石を入手したい
という事だろう。経過よりも結果、なんとも美神らしい。横島にとっても好都合だが問題は他の精霊獣石が
無いという事だ。考えあぐねた末に折衷案を出すことにした。

(美神さんの持ってる精霊石を加工する事ならできますけど?)
(アンタが?本当に?どうやって?)

美神にしてみれば半信半疑になるのも無理は無い。何せザンスの国家機密なのだ。だが目の前の男は
ここまで見え透いた嘘はつかない。やる、と言った事は実行してきた。
結局信じる事にして、手持ちの中でも最も大ぶりな石を手渡した。

「タマモ、指輪をちょっと貸してくれ。」

美神から精霊石を受け取った横島はタマモから一旦指輪を受け取った。そのまま文殊を生成して、まとめて
掌の中に握り込み発動させる。刻んだ文字は《模》、やがて文殊の光が収まり手を開くと新しく精霊獣石が
生成されていた。それはカッティングというよりは変成だった。一切削れたり減ったりしていない。
これが美神の気に入った、削った分も精霊石には変わりないのだ。

出来上がった精霊獣石を手に乗せて念じると、ちゃんと精霊獣が出現した。元々一番最初に精霊騎士として
任命されたのも美神だ、問題ない。というより彼女こそが正当の騎士なのだ。
タマモに指輪を返すと、美神に精霊獣石を作ったのが不服そうな顔をしている。相変わらず美神に対して
隔意があるようだ。良い機会なので、二人の間の壁を少しでも取り払おうと美神に話し掛ける。

「美神さん、さっきはタマモの為に加勢してくれてありがとうございました。おかげでなんとか
穏便にすんで助かりました。」

本気でそう思っている訳ではない。もちろん加勢してくれたのは事実だが、他にも思惑があったはずだ。
美神令子はそこまで単純な人間ではない。プロらしく、綿密な思考の果てに行動する。時折例外もあるが。
タマモにしてみれば、美神が自分の為に行動したというのが信じられない。だが横島が言っている内容を
聞き、わざわざ精霊獣石まで加工して礼に替えているのを見ると、本当らしく思えてくる。

横島としては、いきなりタマモと美神が歩み寄れるなど期待していない。今日のところはシロとの距離が
縮まっただけでも上出来だろう。ただこれがひとつのきっかけになれば、後々関係改善に繋がるだろう。

美神にしてみれば、思わぬ収穫でホクホク顔だ。これを量産できれば莫大な儲けになるだろうが、
下手すると、オカルト経済の中心、ザンスに睨まれる事になる。自分のが手に入っただけで取り敢えずは
満足しておくべきだろう。

「横島君、この精霊獣石で今朝の香水の分もチャラにしといてあげるわ。」

そう上機嫌に言い放つとシロを従えて去っていく。香水の名前の件は忘れようとしたのだが、どこか
頭の片隅に残っていたらしい。貰った挙句にチャラにするとは随分な言い草だが、美神にとっては正当な
言い分だ。横島から”エゴイスト”と思われているのだろうか、という考えは意外な程、美神の心に
引っ掛かっていた。別に美神は自分が特別エゴイストだとは思っていない。
人間である以上は他人よりも、自分が一番可愛いのは当たり前の事だ。
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横島としては、不思議でしょうが無い。香水を贈った事に関しては、おかしな意味も下心もない。
何故精霊獣石を作った挙句にチャラにされるのだろう?何か自分には窺い知れない事情があるのだろう。
そこまで考えた時に横島は自分の手がタマモに握られている事に気付いた。どうしようかと思ったが、
あんな事があった後なので、どこか心細いのかと思い、そのままにしておく。

六道事務所についたので、タマモを伴い中に入っていく。一応部外者にはなるのだが、冥子は不意の来客を
イヤがらない。それどころか喜ぶぐらいだ。元来人恋しい性分な為、周囲に人が増えるのを喜ぶ。

「あら〜タマモちゃんいらっしゃい〜、今日は〜どうしたの〜?」

そう尋ねられたので学校であった事を一部始終話して聞かせた。話を聞いている間、冥子は一言も喋らずに
いた。総ての話が終わった後で、おもむろに冥子が口をひらく。

「確かに〜暴力はいけないわ〜、でもね〜その人は〜自分のお仕事を〜がんばろうとしたのよね〜。」

確かに冥子の言う通りではあるが、横島としてはタマモに怪我をさせたというだけで万死に値する。
例えば、罰として居残りで課題をやらせる、とか罰当番で掃除をさせるとかなら横島も別に文句を言う
つもりも無かった。だが結果的にとはいえ体罰を与え傷を負わせた時点で情状酌量の余地無しだ。
独善的なのは承知していたが、ことタマモに関しては引くつもりは無かった。

「たークンの気持ちも〜解るけど〜その先生にも同じように〜守るべき家族が〜いると思うの〜。
だから〜学校から〜いなくなるにしても〜別の仕事は〜お世話してあげたいわね〜。」

横島は胸をつかれたような驚きを感じていた。自分はタマモを害するものを排除する事しか考えていなかった。
その相手の後の事など考えた事もなかった。知った事ではないとも思っていた。だが、確かにその相手にも
家族があり、守るべき生活もある。自分と何も変わらない。そこまでは思い至らなかった事に気付くと
同時に改めて冥子を見直す思いだった。

確かに冥子は経済的には恵まれた環境にいる。だから他人の事を気を使う余裕があるのだとも言える。
だが冥子ならば例え貧しくとも、他人への思いやりを忘れないのではないか、そう思わせるものがある。
どうやらこの女性の内面に関しては、かなり見誤っていたようだ。能力的なものの成長を重視するあまり
人間的な部分に目がいってなかったとは間抜けな話ではある。実質年齢は横島の方が冥子より上なのだが、
横島の十年は妙神山の異空間に篭りきりだった。人生経験は冥子の方が経てきている。

目の前にいる女性は紛れも無い大人の女性であり、エミや小竜姫とはまた違う意味での包容力に溢れた
女性だった。これからの相手を見る目が随分と変わりそうだ、と思いながらも用意していた土産を渡す。

「あら〜フルール・ド・フルールじゃな〜い、嬉しい〜たークンから見た〜私のイメージかしら〜。」

横島が冥子の為に買ったのは、ニ○リッチの香水フルール・ド・フルール、”花の中の花”である。
無論横島が意味を知っていて買った訳ではないが、実際今の冥子にはそんな風情があった。
以前であれば、清楚ながらも儚い白百合といった感じだったが、このまま成長すれば花の中でも
百花の王といわれる牡丹、その中でも最も富貴であると言われる、連鶴こそが相応しくなるだろう。

「いや、イメージっていうか、香りを試してみて似合いそうかな、と思ったのを選びました。」

「ありがとう〜とっても嬉しい〜、大切に使うわね〜。」

無邪気な子供のような笑顔で、ほんのりと頬のあたりが桜色に染まっている。大人と子供が同居するような
表情を見て、更に戸惑わされる。どうにも一言では表現しづらい女性だ。
そんな時に今日から事務所の新メンバーになる雪之丞がはいってきた。

早速準備してあった書類を冥子が取り出して契約を交わしている。その顔は曲がりなりにも所長らしく、
キリリとしてはいないが、ゆっくりと条件の細部を詰めている。明らかな成長の跡だ。
もっとも細部といっても雪之丞には別にこだわる必要もない。住処はこのまま横島宅に居続けるつもりだし
危険な現場には事欠かない。あっさりとサインをすると契約が終わる。

「それじゃ〜今日から雪之丞君も〜ウチのコね〜。私の事は〜冥子ちゃんって呼んでね〜。」

冥子が満面の笑みでそう言ってくるが、雪之丞にとっては無理難題もいいところである。
今まで女性の事を”ちゃん”付けで呼んだ事などない。相手は本気で言っている、契約を交わした以上は
相手は上司だ。真っ向から断る訳にもいかないが、さりとて自分が”冥子ちゃん”などと呼びかける姿も
想像できない。何か代案は無いかと考えている時に横島の顔が目に入る。

「あ・いや・その〜、上司をちゃん付けはまずいだろう、横島と同じで所長って呼ばしてもらうわ。」

横島が所長と呼んでいる以上は、自分がそう呼んでも問題無いはずだ。だが雪之丞は大事な事を忘れていた。
横島が”ちゃん付け”を回避する代わりに大切な何かを失ったことを。

「え〜ん、イジワル〜。だったら〜雪之丞君のこと〜ゆっきーって〜呼んじゃうんだから〜。」

そう、雪之丞は知っていたはずだった。横島が”たークン”と呼ばれている事を。
だが今更取り返しはつかない。どれほど嘆いてもこぼれたワインは樽には戻らないのだ。
こうして後に”六道除霊事務所最強のツートップ”と呼ばれる事になるコンビが正式に誕生したのだが、
所長からの呼称は”たークン”と”ゆっきー”だった。そのうち名刺にも刷られるかもしれない。

横島は真の仲間が増えたような気がして心強かった。”自分だけじゃない”というのは何よりの慰めだ。
何やら大切なものを失ったような顔をして、ソファーに座り込んだ雪之丞をタマモが隣で励ましている。
それを横目で見ながら今日の仕事を聞くと、依頼を前倒しで片付けた為、今日はないという。
その代わり雪之丞の歓迎会を予定しているとの事だ。その為に頑張ったのだろうか。

まだ立ち直っていない雪之丞とタマモを連れて冥子が予約した店に向かう。
虚ろな瞳でブツブツと独り言を呟いている雪之丞をタマモが腕を組んで引き摺るように歩いている。
横島は何故か冥子から腕を組まれている。よくわからないがエスコートするのが役目だそうだ。
そういえば以前、美神の恋人のフリをして金成木財閥のパーティーに出席した時にも同じように
腕を組んでいたような記憶がある。きっとそういうものなのだろう。

タマモとしてはそんな二人の様子が気にはなるのだが、今の雪之丞を一人にもしておけない。
相手が冥子というのも複雑だった。冥子という女性は実に掴み所が無く、ヤキモチや嫉妬といった
負の情念を向けても綿にくるむように包まれてしまう。悪意というものの持ち合わせが全く無い。
なんとも分類し難い、解り難い女性だった。

冥子は目的地までの道のりをゆっくりと歩いていた。早く着いてしまうのが勿体無いような気がする。
今で男性と腕を組んで外を歩いた事などなかった。生まれて初めての勇気を出して横島の腕に自分の腕を
絡めてみたが、心配していたような、嫌がる気配は無い。それどころか平然としているのを見ると
案外こういうエスコートに慣れているのかもしれない。横島は自分の事務所に来る前は親友である令子の
事務所にいたし、その時に最愛の女性と想いを通じ合わせてもいる。女性に関しては随分と場慣れしている
のかもしれない。

今までの冥子の人生で彼女に向けられる視線というのは、媚、羨望、嫉妬、嫌悪、恐怖、失望等だった。
一人の人間としてでは無く、総ては”六道家の跡取り娘”に向けられる視線だった。生まれた時から
生き方を決められ、その期待に応えられなければ失望され、叱責される。取り巻きはいても友達はおらず
式神十二神将だけが友達だった。やがて美神令子、小笠原エミという親友に出会えたが彼女らはそれぞれ
一国一城の主だ。いつも側にいてくれる訳にはいかない。自分も事務所を開いてはいるが、誰一人として
続いたためしがない。事務所は開店休業状態で、回復する事も自分が成長する事も無いだろうと諦めていた。
親友達でさえ冥子の成長に関してはサジを投げたのだ。このまま式神達だけを友として一人で生きていく
しかないのかと半ば諦めかけていた時、横島が冥子の元にやって来たのだ。

初対面の時の第一声は、ずっと前から愛してました、だった。いくら冥子が世間知らずとはいえさすがに
これを真に受ける事はなかったが、自分の事を六道家の枠から外れて見てくれた相手は初めてだった。
それは新鮮な衝撃だったが、その時はそれだけだ。

その後色々な経験をしたのであろう彼はアシュタロス戦役では信じられない程の活躍を見せた。
だがその時に彼が味わった悲しすぎる想いは、想像する事すらできなかった。
彼の顔を直視できなかったので、近づくことすら避けていた。
母の指示でGSの世界から離脱した横島を連れ戻すべく迎えに行かされたりもした。
その時の席上で、失敗をして十二神将を暴走させた時にあっさりと横島に押さえ込まれてしまった。
誰にもできなかった事をあっけなく目の前でやられた時は本気で衝撃を受けた。

その横島が自分の下に来てくれたのだ。明らかに自分より力が上の少年が、おそらくは母の差し金で
自分を鍛える為だけに来てくれたのだ。それから彼は自分の身を削るようにして、文字通りに血を
流しながら、生傷を増やしながら、自分を強くしてくれた。母から最後通告を受けたというのも
あるにはあったが、それよりも横島の自己犠牲の姿を見ると、弱音など吐けなかった。

少しづつではあったが、自分が成長しているのが実感できた。
困っている人達を助けて感謝されるのは、初めて知る嬉しさだった。
今まで向けられた視線の中には一切なかったもの、賞賛と感謝の視線と心からの礼の言葉。
初めて生きる喜びを知ったような気がした。周囲に迷惑しかけなかった自分が他人の役に立てたのだ。

失敗を分け合うのではなく、成功と喜びを分かち合う仲間ができた。
雪之丞という新しい正式な仲間も増えた。総ては横島が来てから始まった日々だ。
先日横島に対して、ちょっと背伸びして甘やかすような事を言ってみた。自分の事を心配してすぐに
帰って来ると言うかと思ったが、意外にも自分の言葉に素直に甘えてくれた。
嬉しかった。自分の事を信頼してくれたのだ。初めての経験と言っても良い。

俄然張り切って、片っ端から依頼をこなしていった。今日のスケジュールを空ける為にオーバーペースで
仕事をこなした。今や式神達は寂しさを慰めてくれる友達ではなく、自分を助けてくれる力強い味方だった。
依頼主から掛けられる感謝の言葉は疲労を忘れさせてくれた。
自分の足で人生を歩いている実感を初めて持てた。もちろん総てが自分の力では無い事は解っている。
今回は横島が離れていた事が逆に自分に力を与えてくれたのだ。これからは側で力になり続けてくれるだろう。

更にもう一名、一緒に戦う仲間が増えた。その歓迎会の会場がようやく見えてきた。
《魔法料理 魔鈴》魔女の料理とその味で評判のレストランだった。



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(あとがき)
文章が暴走しました。最初に書いた話が20000バイトを超えたのでキリの良いとこで切ろうとしたら
半分になり、内容を増やそうと冥子の心象風景を書いたら止まらなくなりました。
いかがでしたでしょうか?

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