ザ・グレート・展開予測ショー

俺たちはサンタじゃない!!


投稿者名:veld
投稿日時:(04/12/25)


 えぴろーぐ

 部屋の壁にに寄りかかり、溜め息混じりの呼吸。白色の熱が、浮かび、散る。まばたきよりも幾分長く、彼は目を閉じた。そして、開き―――顔を横に向ける。小柄な少女の姿がそこにある。前髪を赤く染め、銀色の長い髪が黒色の薄闇に受けて光っている。可愛らしい―――と、素直に思った。

 「寒いか?」

 尋ねる言葉に多分に含んだ、自分の余裕の無さに彼は少し躊躇った。不安げな眼差しを向ける少女に、やや、固いながらの笑顔を向ける。彼女は首を横に振った。彼は「そうか」と、返した。彼女は何度も頷いた。
 唇がほのかに刻む振動のリズムを、彼が見逃す事はなく。差し出された上着を彼女は拒みながらも、押し付けられる。

 「・・・先生も、寒いのでござろう?」

 「・・・いや」

 わが身を抱きながら、彼は応える。
 その顔にはやせ我慢の色が浮かび、彼女の顔は少し、緩み、そして、強張る。

 「先生、拙者、大丈夫でござるよ」

 「やせ我慢すんなよ」

 「先生・・・」

 「・・・いや、こうなったのも、俺のせい、って言えば俺のせいだからな」

 そう言われ、彼女は少し考える。―――そして、差し出された上着をそっと彼の肩に掛けた。

 「・・・シロ」

 困ったような顔を浮かべ、彼が彼女の名を呼ぶ―――と、同時、体勢が崩れた。
 彼女は顔を赤くして―――それが寒さの所為なのか、それ以外の所為なのかは彼にはわからなかった―――彼との距離をゼロにする。
 衣服が衣擦れし、微かに耳障りな音を立てる。照れくさい重みを感じる―――。

 「その、重いし、シロ、止めろっ・・・」

 「重い・・・」

 シロの顔が悲しげに歪む。思わず声を止めつつ―――先ほどの台詞がなかったかのように、吐き出す。

 「あ、いや、その・・・恥ずかしいからなっ、だから・・・」

 「・・・それじゃあ。体勢交代でござる」

 何が起こったのか、わからない。
 彼女が上、彼が下、の状況は一変していた。
 ぐるり、と頭の中で音がした時にはもう、彼は彼女を『押し倒し』ていた。


 「あ・・・」

 彼が声を無くしたすぐ後で。
 潤んだ眼差しを向ける彼女のぬれた唇が近づいた。
 


 










 いつか、おキヌちゃんが張っていった『絶対危険、ちるどれん』と言う達筆な掛け軸が、頭にとても痛かった。









































 おーぷにんぐ。



 悲劇は全て、幾つもの出来事が重なった事から起こった。
 美神除霊事務所の運営方針が、『美神と横島を主として除霊を行う』こととなったのが一点。
 そして、横島とシロの二人が除霊を行うべく、遠地へ派遣されたのが一点。
 その街が極めて珍しい純和風な雰囲気の街であったことが一点。
 主軸をになう存在になったと言うのに、時給は全く増えていなかった事が一点。
 何よりも―――横島がクリスマスイブと言う世間一般の大イベントの事を忘れていた事が一つ。




 そのまま忘れていれば何とかなったかもしれない。ならなかったかもしれない。
 帰宅途中に、下手に気づいてしまったので、どうしようもなかったのである。




 プレゼントなんて用意してねぇよ、冬。
 っていうか、金さえないよ、冬。








 しかし、横島には金が無かったが、代わりにアイデアが浮かんだ。




 「そうだ!」



 そのアイデアにシロは協力を約束し、そしてつい先ほどまで、行動を起こしていたのである。





















 「・・・結局、いなかったでござるな」

 「あぁ・・・」

 横島はそっと彼女の身体を抱いた。思っていたよりも小さな身体が微かに震える。

 「・・・捜索範囲を、広げるべきだったかもしれん・・・」

 「・・・そうでござるな」

 もっと致命的な何か欠点があるような気がしていた―――が、二人とも敢えてそれに触れようとは思わなかった。

 「・・・帰れそうに、ないなぁ」

 「そうでござるな・・・」

 午後、六時半。 

 「・・・どうしようか」

 「・・・先生」

 「・・・?」

 「拙者、心の準備は出来ているでござるよ」





 ぺし。
 と、乾いた音が寂れた公園に響いた。





 「ほんと・・・どうしようか」 

 額を抑えるシロの目に、横島の姿とは違う何かの姿が浮かんだのは、その時だった。
















 「横島さんっ、シロちゃんっ、おかえりなさいっ!」

 「ったく・・・心配したじゃないの、遅かったから」

 「ま。馬鹿犬と横島のことだから、死んでも幽霊になって帰ってくるだろうから、別に何も思っちゃいなかったわよ、ほんとに」



 三者三様のお言葉に、横島とシロはしかし、ふふふっ、と含み笑いしか応えなかった。

 「「「?」」」

 きょとんとするおキヌちゃん、眉を顰める美神女史、何よ?と、口を尖らせるタマモさん。









 「俺達のプレゼントは・・・凄いぞ!」

 叫んだ横島。

 「凄いでござるっ!」

 その後に続けるシロ。
















































 「・・・つちのこは、くりすますぷれぜんとには、ならんか」

 「先生・・・」



 どしゃぁぁぁぁと、アスファルトに顔面からめり込みつつ、横島はうめいた。
 それを心配そうに眺めるシロ。
 あれから、二人が発見した『つちのこ』が室内を動き回り、料理をしっちゃかめっちゃかにしてしまったり、おキヌちゃんが泣いてしまったり、美神女史が横島を二階の窓から殴り飛ばしたり、タマモが追い討ちをかけるように狐火を叩き込んだりしたのである。

 シロは憤りを覚えていた。確かにおキヌちゃんにはすまないことをしてしまった、と思う。
 しかし、つちのこを捕まえてきたのである。彼も自分も、相当に頑張って捕まえた。それこそ、何か間違ってる気がする。もうちょっとこのエネルギーを別の方向に使うべきな気がする―――とか思いながら。
 その結果がこれだった。皆を喜ばせようとしただけなのに。
 シロは悲しかった。横島の身体が痙攣しつつ、身を起こそうとする姿が、この世に生を受け、立ち上がれなかった子馬とダブって見えたからでもある。

 起き上がる頃にはしかし、悲しみは消え。
 彼への思いだけが残っていた。

 そうだ。彼の傷ついた心は自分が癒してあげよう、と。



 彼女は思い―――そして、彼の手を引いた。







































 後日談



 この時期になるといつも、思い出す。


 「ねぇ、ちちうえとははうえはどうして結婚したんでござるか?」


 幼い子の質問と共に呼び起こされるのは決まってあの日の記憶。





































 つちのこが―――と、言いかけて。
 止める。
 代わりに、微笑を浮かべ、こう、応えるのだ。


 「サンタさんが、俺にははうえをくれたのさ」

 と。

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