ザ・グレート・展開予測ショー

見えないプレゼント


投稿者名:純米酒
投稿日時:(04/12/25)

「メリークリスマス!・・・・・っちゅーのも疲れたなぁ〜。今年はあと一軒か・・・。
 よっしゃ、仕事終わったらタバコと酒買ってのんびりするか」

ドガッ!


「なんやぁ?何か轢いたんかな?トナカイよぉ、お前なんか見たか?・・・っても分からんわなぁ。
 まぁ空飛んでるソリに轢かれるマヌケな人間が居るわけが無いか!」

遠い昔に何処かのGS事務所の結界にぶつかったことは忘れているようだ。
特に気にする事無く、最後の子供にプレゼントを渡すためにソリのスピードを上げる。

一方、空飛ぶソリに轢かれるという、人生では宝くじに当たるよりもレアな体験をした人間は・・・

「オレがなにしたっちゅーんじゃドチクショー!!」

自由落下に身を任せるしかなかった。



ズズゥウン・・・・・・・・



綺麗に人型に空いた穴から「あー死ぬかと思った」という呑気な声と共に土埃にまみれた男が顔を出す。

「くそっ!こうなるって分かってりゃ文珠使って空飛ぶんじゃなかった!
 ・・・でも早くしないと美神さんはモチロン、おキヌちゃんやシロまで文句言いそうな雰囲気だったしな・・・」

ブツブツ独り言を言っているが周囲の人間はだれも彼を見ていなかった。
彼らにとっては、イヴの夜に一人で独り言をいう『寂しい奴』のことはどうでも良く、
すぐ隣に居る恋人との語らいの方が何万倍も大事な事なのだ。

かじかんだ手をポケットに突っ込み、一人身独特の寂しさと満たされない思いを抱えて歩く。

右を見ると腕を組んだアベックがイチャイチャ。
左を見ても寄り添うアベックがイチャイチャ。
前を歩くアベックも手を繋いでイチャイチャ。

(憎しみで人が殺せたら・・・嫉妬で世界がかわるなら・・・・)

血涙をながし「チクショーチクショー、なんだかとってもチクショー!」などと呟いていると目当ての場所に着いていた。

魔法料理 魔鈴

男の目当ては、例に漏れずクリスマスケーキ。
事務所のメンバーでクリスマスパーティーを開くという事になった時、ケーキを持ってくる役目として横島が選ばれたのだが、
ついうっかり持ってくるのを忘れて、事務所の面子全員から批難を浴び、
パーティーの最中だというのに、ひとっ走りして取って来ることになったのだ。

自業自得と言っても良いのかもしれない。

とにかく楽しいクリスマスを過ごす為には、早急にケーキを持ち帰らねばならない。
道中のカップル達を見て憎しみもしたが、ミッション成功の暁には女性4人に囲まれてクリスマスパーティーだ。
そう言い聞かせて、ライトアップされた店舗に向う横島だった。

「すいません、横島ですけど・・・ケーキ取りに来ました」

店内は混雑こそしていなかったが、空いた席は見当たらなかった。
そんななか、ジージャンにジーパン姿で土埃も払いきっていない自分が場違いな事を察し、小声で厨房の方に声を掛けると、
猫がズボンのスソを引っ張って案内するので、素直に着いていく事にした。


「そんなキタナイ格好で来られると困るニャー。ここはレストランにゃんだからもうチョット気を使って欲しいニャー」

スタッフルームに通されて猫から説教を受けてるという現実を鑑みると、なんだかクリスマスという日まで憎らしく思えてくる。

(キリスト教でもないのに浮かれおって!独りがそんなに悪いんか!?職場の仲間とのパーティーは負け犬か!?
 彼女とデートできなきゃ人生の終わりかぁーっ!!?」

「・・・聞こえてますよ、横島さん」

額におっきな汗を浮かべて苦笑いしている魔鈴。

「アアァッ!!?・・・またしも声に出てた!?オレって奴は・・・」

カップルを呪い、熱意のこもった呪詛(?)を呟いていたかと思えば、取り乱す。

どうにも忙しい人物だ。

だが、そんな彼を見つめる彼女の視線は優しいもの・・・というより憧れに近い物が感じられる。

イギリス時代から東洋人と言う事と、魔女である事からさまざまな視線を向けられた。
当時は研究に意識が傾いており、そういった他人の視線に耐えることが出来た。
古代の魔術を一つ復活させるたびに、尊敬と同時に気味の悪い物を見るような視線に晒されてきた。

友人と呼べるような人も当然の様におらず、同郷の先輩が時折話し相手になってくれたが、
同郷のよしみか、あるいは彼の大好きな『持てる者の義務』としか感じられなかった。

それでも、自分の支えになってくれていた事は確かだ。

だが、今目の前にいる彼は魔女だということを気にしない。
彼曰く「美人なら魔女でもOK」とのことだ。

客観的に見れば酷い言い様だが、建前で付き合ってきた男より信用できる。
なによりその裏表の無い、あけすけで欲望にストレートな言動は母性本能を刺激した。
そして、真剣な表情は胸を甘くうずかせた。



そんな思いに気が付き、彼に惹かれたのはいつの事だろうと考える。

賑やかに取り乱す彼を後から抱きとめると、頬に唇を寄せる。

(コレは・・・・!?背中にあたる柔らかな感触はアレでホッペにくっついてるのは・・・)

頭を壁に打ち付けていた動作をすぐさま止めて、背中と頬に全身神経が集中する。

しかし、すぐさま冷静になる。
この男は自分で「ちちしりふとももー!」などと言っているが、女性から迫られると途端にうろたえてしまうのだ。

「あ、あのー魔鈴さんなんで・・ですか?」

自分でもなんでこんな行動をしたのかいまいち理解できなった。
猫にいたっては目を丸くして固まっている。

「・・・えーとですね・・・横島さんのお怪我が酷かったのでヒーリングを・・・」

もちろんウソだ。
ヒーリングよりも自分で薬を調合するのが魔女と言う者だから、自分でもこんなことで納得してくれると思ってない。

「あ・・・そうなんですか、ありがとうございます」

横島は顔を赤くして照れるだけだ。

「でもまだ怪我してますね・・・・・」

熱っぽい瞳で横島を見つめると、だまって顔を寄せる。
横島も雰囲気に流されてか、魔鈴の行為を受け入れる。

触れ合う唇。

互いの吐息が交じり合う。



突然魔鈴が顔を真っ赤にして俯く。横島としては、もう少し触れ合って居たかったが、
魔鈴の慌てようが気になったので、黙ってみつめているだけだ。

「あ、あの・・・ケーキを取りに来たんですよね!?こ、コレがそうです!」

どもってしまっているのが自分でもわかるが、何しろ直前までしていた行為のインパクトが強すぎた。

「あ、ハイそうでした、ありがとうございます魔鈴さん・・・」

ケーキを受け取る横島は、すこし残念そうな表情をしている。

(まぁちょっと考えれば、魔鈴さんがオレなんかに惚れてない事は判るのに・・・オレってば、まいあがって・・・)

寂しそうに背を向ける横島。

そんな横島を見ると、胸が締め付けられそうに痛む。

このまま、離れるのは寂しい。
独りで過ごすのはもう嫌。
彼になら、私のすべてをさらけ出せる。
彼なら私を受け入れてくれる。

そう気が付くと、先ほどの自分の行為が自分の望んだ事だと魔鈴は悟る。

「あ、あのっ!」

ドアノブに手をかけて今にも出て行こうとしている横島に声を掛ける。

「・・・なんですか?魔鈴さん」

律儀にもこちらに向き直ってくれ、優しく瞳を覗き込んでくれる。

「・・・・さっきのは、今年のクリスマスプレゼントです・・・次はもっとすごいものを用意してますから、
 来年のクリスマスは一緒に過ごしてくれますか?」

本当は「行かないで」といいたい。
でもそれは彼を困らせるだけ。
優しい彼は、彼女達と私を天秤にかけられない。
それに先約はあちらだったのだ、今回はこれで良い。

「ハイ!来年は二人で過ごしましょうね、魔鈴さん!」

来年の約束は無事に取り付けられた。






「上手くいったようやな・・・まったく形の無いモンお願いされるとやりにくくてかなわんなぁ・・・
 ま、でも昔プレゼントし損ねたおっちゃんが悪いからなぁ・・・・ちょいとサービスといたる。
 ・・・さてこれで今年の仕事はおわりやな、酒飲んでねるかぁ・・・」











「でも、魔鈴ちゃんなんでイキナリあんにゃことしたんだニャ−?」

「うーん・・・どうしてかしら、もしかしたらサンタさんが勇気をプレゼントしてくれたのかも?
 私、小さい頃、意気地なしで何度も『勇気があれば・・・』っておもったもの」

「でもにゃんで横島にゃのかにゃ−?オイラにはわかんにゃいにゃー」

「いいのよ、私が好きなんですもの・・・今頃どうしてるのかしら?」

別れた想い人の姿を思い浮かべる。
そういえば頬と唇にルージュが着きっぱなしだった。

「・・・戦線布告にはちょうどいいかしら?」







そのころ横島は・・・・


「たかがケーキを取りに行くってだけなのに、随分と時間がかかると思ったらそういうこと・・・」

「な、なんのことでしょうみ゛がみ゛さん・・・?」

「横島さん・・・ほっぺと唇に口紅がついてますよ・・・ナニやってたんですか?」

「え・・・?あぁ!?」

指で確かめてみると、確かに淡いルージュのあとが残ってる。

「・・・・・・・このニオイは・・・ケーキの作者と同一人物でござる!」

「やるじゃん、横島」

三人の夜叉に囲まれていた。

(だが、決して後悔はしてないぞ!来年はばら色じゃ!来年まで生き延びればオレの人生に春がくるんじゃー!)

春の前には厳しい冬が。

横島は乗り越える事ができるのだろうか?

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