ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 33〜和解?友情?強情〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/25)

横島の意識が水面下から浮上しかけた、だが意識に薄幕が掛かったかのようにハッキリとはしない。
そんなもどかしさ、だがこのまま安楽な眠りに身を委ねたい、そう思った時だった。

ダンッ!ダンッ!ダンッ!ダンッ!
「せんせえ〜、今日から新学期でござるよっ!いるはずでござる〜!起きるでござるよ〜。」

聞いた覚えのある声が横島の頭から薄幕を剥ぎ取る。体を引き摺るようにして玄関を開ける。

「先生、おはようでござる!今日から拙者も中学生でござるっ!張り切って散歩に行くでござるよ!」

そこにいたのは、彼を先生と呼ぶ唯一の存在、犬塚シロだった。

「・・・・・・・うるさい。」

横島としては他に言葉の選びようも無い。文句のあるヤツは二日酔いの朝にこの大音声で起こされて
みれば良い。きっと今の横島の気持ちがわかるだろう。とりあえず中で待たせて着替えを済ませる。
トレーニングウェアに着替えてから冷蔵庫の中のスポーツドリンクをガブ飲みする。
なんとか落ち着いた。これで一汗流せばもうちょっとはましになるだろうか。
待ちきれない様子のシロと、散歩という名のフルマラソンに出発する。

最初はゆっくりとしたペースで走りだした。それでも一歩毎に、自業自得という名の後悔が
脳天へと突き抜ける。シロは不満そうだったが中学への編入で張り切っているのはシロであって
横島では無い。それでも一時間程走って少し体調の良くなった頃にコンビニに立ち寄って2リットルの
スポーツドリンクのペットボトルを2本買う。一本をガブ飲みして、そのまま走り出す。

ようやくシロの望むハイペースでの散歩になり、見晴らしの良い丘に着いたところで休憩する。
空いてないない方のドリンクを渡して自分は残りの分を一気に飲み干す。
なんとか体からアルコールは抜けたようだ。帰り道は全力疾走に付き合った。

マンションに着いた後、部屋に誘う。

「シロ、これ事務所の皆へのお土産なんだ。渡しといてくれないか。」

そう言いながら、ナルニア土産を渡す。ちゃんとどれが誰の分かを説明すると自分の分のビーフジャーキー
を抱えて大喜びしていた。

「くうっ!拙者感激でござる。先生がわざわざそんな気配りをしてくれるなんて・・・中学生の初日から
幸先が良いでござるよ〜。」

横島はシロのあまりのハイテンションぶりにちょっと心配になってしまった。人懐っこい性格なので
すぐに溶け込めるだろうとは思うのだが、最初に空回りしてスベッてしまうと後がきつい。

「なあシロ、今日が転入初日なんだが、今日一日だけで良いから、おとなしくしとけ。」

いきなりそんな事をいわれても当然シロには意味がわからない。横島は懇々と話して聞かせる。
シロの明るさは素晴らしい美点だが、いきなり全開にするより最初だけでもセーブした方が打ち解けやすい事。
最初から目立ち過ぎると反感を買う場合もある事。おそらく殆どは横島の老婆心だとは思うのだ。
だがそれでも万が一の事もあると、この無邪気すぎる弟子に忠告だけはしておきたかった。

「う〜ん、わかったでござる。拙者今日はおとなしくしているでござるよ。」

完全に理解した訳でもないが、師匠が自分の事を心配してくれている事はわかったので頷いておいた。
そうして元気良く家へと帰るべく駆け出して行く。そのすぐ後で、

「どういう事?まさか私と同じ学校じゃないでしょうね?」

タマモがそう話し掛けてきた。まあ、あれだけ煩くしてれば当たり前だ。さっきの会話も筒抜けだろう。
まさかどころか正しく同じ学校、同じクラスなのだが今まで言いそびれていたのだ。

「う〜ん、実はクラスも同じだったりするんだが・・・でもな?タマモ、お前友達いないだろう?
今迄一度も誰も家に連れて来た事もないし、ナルニアで土産を選ぶ時も相手は俺の知り合いばかりで
学校の友達らしい名前は出てこなかったろう?良い機会だとは思ったんだよ。」

「まさかアイツと仲良くしろって言うんじゃないでしょうね?」

横島が心配してくれのは解るが、だからといって一人目の友人にあの犬コロを選ばせる必要は無い
だろうと思う。それに別にクラスで嫌われている訳では無い。適当に話は合わせているがあまりに価値観が
違いすぎて、それ以上踏み込もうという気がしないのだ。

「確かにシロは良いヤツだが、相性ってもんもある。無理強いはしないよ。寧ろシロがきっかけになって
他のクラスメートと仲良くなれれば良いなって思ったんだよ。」

そうこられてはタマモとしても強くは出れない。仕方なく今日一日はおとなしくすると約束しておいた。
それを聞いて横島はホッした顔になりシャワーを浴びにいく。その間にタマモが朝食を用意した。
二人で朝食を食べた後で横島が洗い物をしていると、横でタマモがおかゆを作っている。二日酔いの
雪之丞の為だそうだ。自分も二日酔いのまま寝たきりになっておけば良かったと後悔しても後の祭り。
温め直して食べるよう、伝言を残して二人そろって登校した。


{美神除霊事務所}

散歩から帰って来たらしいシロがハシャイだ声で皆を起こしてまわっている。普段なら美神に一喝されて
終わりなのだが、今日は登校初日でハイなのも無理はないと大目に見てもらえたようだ。
美神とおキヌがリビングに集まると横島からのナルニア土産が手渡される。シロは自分がもらった
ビーフジャーキーをひとしきり見せびらかした後、部屋へと持って上がった。自分の部屋で少しづつ
大事に食べるつもりなのだろう。ハムスターかアイツは、と思いつつ自分の分の包装を解いてみる。

二人ともに香水で、おキヌにはシャネ○のNO.19。自前の香水など持っていないので、なんとなく自分が
大人の女性として見られたような気がして、おキヌはとても嬉しかった。
一方美神は複雑だった。目の前にあるのは、オキヌと同じくシャ○ルの香水、だが銘柄が違う。
そのラベルに印字された名前は、《エゴイスト》・・・・・

これはあの男のスパイシーな皮肉だろうか?だがこういうヒネったやり方は、横島の流儀ではないような
気がする。ならば偶然か?皮肉な事に美神は以前同じ物を使っていた事がある。その時に嗅いだ匂いを
覚えていたのだろうか?あの男は嗅覚も人間離れしているからありうるだろう。
そもそも別の人間から同じ物をもらったとしても、ここまで考えこまないだろう。
西条からなら素直に喜ぶだろうし、母親からなら、更に激しく落ち込むだろう。

とりあえず香水の事は頭から無理矢理追い払う。
今日がシロの編入初日なので、一応学校までは付き添うつもりでいる。おキヌもついでに一緒に車で送れば
今朝はのんびりできるだろう。タマモと同じクラスにしたので波乱含みではあるが、まあ別に釘を刺す
必要もないだろう。初日からトラブルがあった方が学校生活は盛り上がる。退屈で平穏な日々を送るより、
波乱と刺激に満ちた生活の方が楽しいに決まっている。ゆっくりと支度してから出かけよう。



横島にとっては始業式など退屈なだけだが、タマモの手前サボるわけにも行かない。
寧ろ意外だったのは、タイガーとピートが休みだった事だ。学校には真面目に通っていた二人だけに
何かあったのかとも思ったが、一日ぐらいで心配する事もないだろうと放っておいた。
タマモとシロにも釘をさしておいたし、いずれはトラブルが起きるかもしれないが今日ぐらいは
大丈夫だろう、という横島の楽観的な見通しは脆くも崩れ去る事になる。

午前中で始業式も終わり、下校しようとしていた横島に校内放送で呼び出しが掛かった。あわてて職員室に
行くと、横島宛に六道女学院から電話だという。話を聞いてみるとタマモが問題を起こしたので保護者は
至急学校まで来て欲しいといわれたので慌てて全力疾走するはめになった。


横島が血相を変えて六女の生徒指導室に駆け込んだ時、そこにいたのは、タマモ・シロの二人と六道理事長
教師らしい男、それと何故か美神だった。シロが一緒にいるという事は、まさか二人が何か揉めた
のだろうか?だがこの二人には今朝方言い聞かせたばかりだ。その時は二人共納得していた。その場限りで
ごまかすような二人では断じてない。詳しい事情を聞かせてもらう事にした。

事の起こりは下校時に校門に向かう途中、シロから横島の土産の事を聞かされた時だった。別にシロも
揉め事を起こそうとした訳ではない。精一杯友好的にお前も何かもらったんじゃないか、と聞いてみた。
それを受けてタマモが指輪を見せたそうだ。サイズが合わないので指には着けていない。鎖に通して
首から下げていた。パピリオの時のようにワザと誤解させようとした訳でもない。ちゃんと事情も説明
しようとしたのだ。この点、二人共横島との約束を守ろうとしていた。

運悪く、その場面を生活指導の教師に見られたらしいのだ。六女の校則では装飾品を身につけるのは
禁止されているので、没収しようとしたらしい。タマモにしても校則は弁えている。だから鎖に通して
服の下に入れていたのだ。結果取り返そうとして、もみ合う内に突き飛ばされるような形になったらしい。
その時に鎖が千切れて首に擦り傷が出来ている。そんな光景を目の前で見せられてシロが黙っていられる
はずもない。元はと言えば自分に見せようとしたせいなのだ。持ち前の正義感で教師に食って掛かり、
一触即発の状態になったらしい。

そこに居合わせたのが、美神だった。シロを送り届けた後、理事長の長話に付き合わされ、高等部の生徒達
に囲まれようやく帰れそうな時に、その場面に出くわしたそうだ。とりあえずその場を治めて場所を移し、
横島の到着待ちになったという事らしい。

話を聞いて事の経緯は理解できた。だが今の横島の目から離れないのは、突き飛ばされて転んだ時にできた
らしい手足の痛々しい擦り傷と首筋に残る痣になった傷だけだ。我知らず横島の全身から怒気が噴き上がる
目の前の、この見知らぬ男がタマモに傷を負わせたのかと思うと殺気さえ滲み出そうだ。だが感情に任せて
暴れる訳にもいかない。二人の今後の事もある。ならば直接的な暴力よりも、間接的な言葉の暴力で
叩きのめす。そう決意して頭の中で理屈を練り上げる。

「話を聞いた限りでは二人に何の落ち度もないでしょう。装飾品とは”身を飾る品”でしょう?わざわざ
人目に付かないように鎖に通して服の下に入れていた物を放課後友人に見せていた事の何が悪いんです?」

友人というくだりには、二人共大いに異存があるだろうが、この場は黙ってくれている。
するとその教師は中学生が分不相応な高価そうな品を持ち歩くのは周囲への影響上良くないと言う。
余計なお世話だ。別に見せびらかしていたわけではない。第一何が相応かなどこんな教師ごときに
判断されるいわれなど無い。

「第一あれは横島家に代々伝わる守護聖獣の宿る指輪、言ってみれば家宝であり守り刀のような物。
それを不当に奪われれば取り戻そうとするのが当たり前でしょう。ましてやそれを理不尽な暴力で
振り払い、年端も行かない少女に怪我までさせたとあっては、正義感の強い友人が黙っていられなくても
当然です。総ての責任はそちらにあるでしょう。いい大人が責任転嫁はやめて下さい、見苦しい。」

別に嘘は言っていない。「代々」とは「代」という字が二つ重なる。横島が初代、タマモが二代目だから、
合っている。これは嘘ではない、強弁ではあるが。
教師の方は反省した色も無く、家宝かどうかなど関係無い、だの、たかが掠り傷で大袈裟に騒ぐなだのと
ほざいている。家宝云々の発言はどうでも良いが、たかが掠り傷、という言い草は聞き流せない。
横島がいい加減切れそうになっている時に、意外な場所から援軍が現れた。

「たかが掠り傷って言うけど医者に行って診断書を書いてもらえば、全治2〜3週間の擦過傷、でしょうね。
これを持って警察に行けば充分告訴できるでしょう。それとも少年法や未成年の人権保護に熱心な
弁護士の事務所にでも持って行ってみる?さぞかし楽しい事になるでしょうね?」

美神にしてみれば別にタマモを庇うつもりなど無い、横島に加勢する義理など更に無い。
だが昔からこのテの教師は大嫌いだった。教師という職業を何かの特権と勘違いして威張りちらす。
こんなイケ好かない男をヘコます為なら悪魔のバックアップだろうと喜んでやってやる。

思わぬ方向から追い詰められた教師は、救いを求めるように理事長を見ているが六道女史としては
苦々しいばかりだった。元々は教頭の縁故で採用した教師だった。ガミガミと口やかましく生徒からは
嫌われていたが、人気者の生活指導などありえないので気にしなかった。だが今回のこれは最悪だ。
身に付けていた訳でもない装飾品を力ずくで奪った挙句に怪我までさせている。愚劣極まりない。

美神が言った通りの処置を取れば大騒ぎになる。名門六道女学院にとって大幅なイメージダウンだ。
もちろん美神にそんなつもりはあるまい。単にこの愚劣な男が気にくわないのだろう。
実行する意思の無い脅迫など気にする必要も無い。だが横島は別だ。彼なら躊躇わないだろう。
タマモに害を為す者は何であれ許さないだろう。その結果学院が大打撃を受けて居辛くなりそうなら
さっさと転校させるだろう。そのまま六道家とも縁を切るつもりかもしれない。

今でさえ懸命になって自分の中の激情を押さえ込んでいる。そんな時ですらその理論に破綻は無い。
絶対に手放せない逸材だった。というより一層気にいっていた。娘の婿としても申し分無い。
ならば答えは決まっている。この愚劣な男などどうでも良い。懲戒免職でも当然のところを自主退職に
してやれば、温情ある処置として自分の株は上がるし教頭には貸しができる。

「貴方は〜職員室に〜戻ってちょうだい〜。それから〜横島君達とは〜話し合いましょう〜。」

自分が理事長からも見捨てられた事がはっきりとわかり、男は愕然としていたがそれ以上居続ける訳にも
いかない。憎々しげにタマモとシロを睨みつけると部屋を出て行こうとする。その時に横島とすれ違いざま

「覚えてろよ。」

そう小声で囁いて通り過ぎようとするがこれは横島が許さなかった。襟首を掴んでそのまま片手で
吊り上げる。片手のネックハンギングツリーだ。

「今なんて言ったんだ?良く聞こえなかったな、もういっぺん言ってくれよ。」

横島としては断じて放置できない問題だ。この男はタマモとシロを睨んでいたのだ。逆恨みはここで
潰しておくべきだろう。もしくは総ての恨みを自分に向けさせるかだ。
男は最初は足掻いていたが外しようがない。何せ横島が本気で締めているのだ。やがて顔色が紫色に変色し
チアノーゼを起こし始め、口の端に泡が出てきて手足が痙攣し始めた頃に、

「やめなさい横島君。」

美神から制止の声が掛かった。生死のギリギリまで見極めてから止めるあたり、美神の性格の良さが窺える。
何せ嫌いな相手には容赦などしないのだ。横島にしても丁度頃合だと思っていたので素直に従ったのだ。
男は覚束ない足取りで逃げるように部屋から出て行った。

「それで〜横島君と〜令子ちゃんは〜どんな条件なら〜手打ちしてくれるのかしら〜?」

理事長からそう提案されても横島には特には思いつかない。タマモとシロが快適な学生生活が
送れさえすれば良いのだ。あの不愉快な教師さえいなくなれば、当座の望みは無い。

「ますは当然の事として、タマモに指輪を返して下さい。それからさっきの男が二度と
タマモ達の視界に入らないようにしてくだされば結構です。」

「私の方は特にありませんわおばさま、今はね。」

美神の心配事はシロの学校生活の快適さだけだが、それは横島が先に言ってしまった。
だったら今無理して考え出すよりも六道家当主への貸しにした方が賢明だろう。

理事長はその条件をあっさりと承諾した。
そうしてタマモに返す指輪を繁々と眺めながら手渡していた理事長から質問されてしまった。

「それにしても〜横島家の守護聖獣なんて〜初めて聞いたわ〜すごいのね〜。」
「ああ、あんなのただのハッタリですよ、当然でしょう?」
「ふ〜〜〜〜〜ん?」

横島としてはあまり他人に言いふらすような事でもない。というより知られたくなかった。
一応惚けてはみたが、あの様子ではバレバレかもしれない。第一美神の目をごまかせるとは思えない。

「それじゃあおばさま、私達はもうよろしいですね?では帰りますわ。」

そう言うと先頭にたって部屋から出て行く。そのあとから出て行こうとした二人に向かって、

「二人ともよく最後の一線を我慢したな、信じていたぞ。偉かったな。」

二人にとっては何より嬉しい言葉だった。信じていてくれた、偉いと誉めてくれた、自然と上機嫌になる。

「ま・まあ、先生から貰った指輪をあんなに必死に取り返そうとするなんて、あのクソ狐にも少しは
可愛いとこがあるでござるな。イケ好かないヤツではござるが。」
「まあ、少しぐらいはあの犬コロにも良いとこはあるみたいね。バカは相変わらずだけど。」

「誰がバカでござるか、それに拙者は狼でござる!」
「バカなんてアンタしかいないでしょうが!?それにイケ好かないってのは誰の事よ!」

相変わらず言い争いは絶えないが、それでも横島の目には二人が一歩づつ近づいたように見えるのだった。




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(あとがき)
シロタマの和解の第一歩はこんな感じにしてみました。不自然じゃなかったですかね?

あとこの場を借りて、スタープラチナ様、31話のコメントに返せなくてすいませんでした。何せズバリ
見抜かれてたんで、そうなると一人だけコメント返しをしないのも失礼だし、今度はそれ以降のコメント
にも返せなくなるしでしたね〜。あっさり見破る方が鋭いのか、見破られる方の底が浅いのか。
あの香水「プワゾン」も候補だったんですけどやっぱあの人のイメージは
「毒」よりも「我儘」で(笑)

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