ザ・グレート・展開予測ショー

雪明り、優しく。


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/12/25)


夕焼け。
夕焼けが好きな、少女が居た。
今はもういない、その少女の命の灯は。

儚く終わる、夕焼けにも似て。

また、来ていた。
来てしまっていた。
此処に来ることそのものが、彼女への甘えになる気がして。
そんないつもの葛藤も、今日に限っては無かった。

「クリスマス……だもんな」

語りかけたその言葉は、仄かに紅い風に流れて―――









少し、余裕を持って着いていた。
遅れる訳にはいかなかった、と言えば格好がつくのだけれど。
なんとなく、早くに目が冴えてしまっただけ。
だからって、別に不純だとも思えない。
日毎に薄れていく彼女を、肯定している自分もいて……。

今日という日の夕焼けまで、暫し。
それがすぐであって欲しいような、永遠に来て欲しくないような―――






「……んで、いつまでそこで眺めてるつもりです?」
「……あ、バレてた?」

鉄骨の陰から、注がれていた視線。
肌に馴染む、その人の視線。

「いやだってアンタ、なんかカラミにくい雰囲気放ってたもんだから……」
「まぁ、否定はしませんけど……てか、どうやってココまで?」

「下の警備員に小金掴ませたら、スンナリと。まったく、ここに来るまでのタクシー代といい、
 なんでアンタの為にこんな出費を……」
「俺、頼んでませんよ?」

無駄だとは思いつつも、一応反論してみる。
こういう人なのだから、仕方ないとも思えて。
「……で?」
「はい?」




「約束でも、してたの?」




「………。」
「何よ?」

「いや……いきなり核心突くなぁ、と」
髪を掻きながら、苦笑する。
そのまま、答える。
淀んだ泥から、掬い上げたような答え。

「別に約束とかじゃなくて…俺の、自己満足ですよ」





「女々しい、ですよね」
「女々しいわね」

間髪入れず、斬り捨てる言葉が続く。
その無遠慮さが、少し嬉しくもあり。

「此処は、墓みたいなモンですからね。だからって、アイツが眠ってる訳でもないんですけど……」
「形だけの、か」

「……そうですね。結局あいつ、 クリスマスも、雪も見たことないままだったろうから……
 なんとなくですよ」

一緒に、見たかった。
此処から見たとしても、それが叶う訳ではないけれど。
……やっぱ、女々しいか。

「そういや、何しに来たんです?」
「ちょっと、アンタを呼びに来たんだけど……もう一つ」

「? 何です?」
言いながら、隣に座ったその人を見つめて。



「私も、見てくわ。それぐらいは良いでしょ?」

なんだか、そう言った笑顔が可愛かった。
口に出したら、大変なことになりそうだけれど。

「どうぞ。お気に召すかは、解りませんけど」


何処からか見てるのか、見てないのか。
どっちにしても、文句は言わせないからね。




    ◇



夕陽は、人を饒舌にするのかもしれない。
少なくとも、この日の夕陽は。

「もう……良いんじゃない?」
「何ですか、今度は」






「――ルシオラ」

とくん。
鼓動が、一つ優しく響いて。

「……なんかその名前、久々に聴いた気がしますね」

知らないうちに、心の中で呼ぶことすらしなくなっていた。
遠ざけていたかもしれない、名前。


「そりゃそうでしょ。お互いに、気を使いあって……少なくとも、私は疲れたわね」
「スンマセン、本当に」

反論は出来ないし、する気もない。
もう、そこは自分にとって聖域でなくなりかけている。
それが良い事なのかそうでないのか、定義するだけでも面倒。

「もう一つ訊くわ。忘れたいの?あの娘の事を」

「これでも、割り切ってるつもりなんですけど……それじゃあ、ダメですかね?」


「笑えない冗談、言ってんじゃないわよ」
見据えるその瞳は、強く。
「クサいものに蓋するみたいな扱いで、ルシオラが喜ぶと思ってんならずっとそーしてれば?」
「酷いっスよ、クサいもの扱いは」

敵わない。
きっとそれは、何処かで感じていたことだから。

「しょーがないでしょ、アンタがそういう風にしてるんだから。せめて……」

珍しく、言葉を選んで。

「『家族』にぐらい、ブチ撒けなさいよ。シロだってタマモだって、気付いてない訳ないんだから」

染まった頬は、寒さの所為か。





「………みか『ぐしゃ。』



「……急に何するんスか」
見事に顔面を潰されて、それでも喋れる辺りがらしいといえばらしい。


「いや、『このまま飛びついても大丈夫かも』みたいな顔してたから」

「……シリアスに疲れたもんで」
「よっぽど、そっちの方がアンタらしいわ」

こんなやりとり、結構久しぶりかもしれない。

そんな時に、空気の紅がその強さを増した。



「………あ。」
「あぁ………綺麗ですね」

夕陽の沈む空を舞台に、ふわりと雪が踊った。

はらはらと舞うそれは、蛍の舞にも似て。
ただ、不思議な風景。
雲も無いのに、雪だけがつらつらと降ってくる。
燃えゆく程に、その身を紅く染めて。






「………終わっちゃいましたね」
それは一瞬。
雪はその身を、今度は金色に染め変えていた。
柔らかな月光を、その身に浴びて。
「そうね……綺麗だった」

狙ったわね、あいつら……
小憎らしい演出が、悔しくも心に響いた。

ふと、目が合った。
意外に、顔が近い。
無性に恥ずかしくなって、お互い慌てて顔を逸らして。
そろそろと、目線を戻すと……やっぱり、見慣れた顔があって。

「あの……美神さん、俺……」
「な、何よ?」

もう、先程までの余裕は遠い彼方へ飛んで行ってしまったようで。

「あの………えぇと………ん?」
二人が、同時に空を見上げた。








「せぇ〜〜んせ〜〜〜〜〜っ!!」

………嘘だろ、おい。










「せんせぇ、せんせぇ!!雪でござるっ、お祭でござるサンポでござるっ!!」

その『せんせぇ』はというと、背中の上で訳の解らない理論を喚く弟子に対して、
軽い殺意を抱いていたりする。

「なぁ……シロ……?」

「なんでござるかっ?せぇんせいっ♪」

「いきなり空からしかも俺の上に降ってくるなっていうか雰囲気読まんかこのボケ――ッッ!?」

「きゃうんっ!?」

「アンタが言えたクチか、アンタが」

残念なような、ホッとしたような。
そんな気持ちを、精一杯の苦笑に込めて。

「はぁ〜〜、重かった……」
「あら、タマモもか」

両腕を翼に変化させたタマモが、次いで降り立つ。

「荷物はともかく、なんでシロまで担いで飛んでこなきゃいけないのよ……」
「そこまで頼んでないから、知らない」

「………。」
口喧嘩では、まだまだ。

「それよか、シロとアンタの格好は何?」
「え?クリスマスは、女の子はみんなこれ着るって厄珍が……」

その格好はまぁ、簡単に表現すると。
サンタガールな格好な訳で。

「あんのチビオヤジが……」

今度会ったら、脅迫のネタに使おう。





「メリークリスマス、美神さん」
「あれ、魔鈴まで?あ、おキヌちゃんも一緒か」

それこそ、サンタが持っていそうな袋を箒の先からぶら下げて、珍客が到来した。
袋の先からは、見慣れぬ食材『らしき』物がはみ出している。

「……あ。さては、あれっておキヌちゃんが?」

指差した先には、まだぎゃあぎゃあやっているシロ。

「そうですよ♪なんだか心配だったので、横島さんのニオイを辿ってもらって、
 私はそれについてきたんです」
「……ホント、用意周到なことで……」

冷や汗を隠して、皮肉たっぷりに返事を返す。
いつからこんなに戦略家になったのだろう、この娘は。

「相変わらず、楽しくて良いですね」
「アンタも魔女のくせに、クリスマスなんか祝ってて良いの?料理頼んだだけのつもりだったのに」

「楽しいから、良いじゃないですか」
「……どっかの仏教の神様も、最後にはおんなじ事言ってたわよ……」


「じゃあ私、先に行って準備しておきますね。おキヌさんは、美神さんたちと一緒でいい?」
「あ、ハイ。よろしくお願いしますね」

「さぁて、それじゃコイツの出番ね。横島クン、ちょっと手伝って」
「コレって……シロと私が持ってきた、この凄く大きな荷物?」

「はいはい……ってコレ、美神さん……」
「コレ……私達が前に乗った、サンタさんのソリじゃ……」

「そうだけど?」

解ってはいたけど、再確認。
この人、絶対にロクな死に方しない。
全世界の子供の夢とか、大丈夫なんだろうか。



「新車に乗り換えたがってるって噂を聞いたから、中古を目一杯安く買い叩いたって訳」
完全に、おもちゃを見せびらかす子供の顔であった。
付け加えるなら、「安く」にかなりのアクセントがついて。

「いよしシロっ!トナカイ役は頼んだわよっ!!空は渋滞無いしっ!!」
「まことでござるかっ!?」

シロは勿論のこと、タマモもワクワクしっぱなしの様子で。
横島とおキヌは、苦笑していたけれど。
とても、とても楽しそうで。

雪、星、月、鈴の音と共に。

「では、しゅっぱーつ!!」





永遠なんて、贅沢言う気は無い。
ただ願わくば、少しでも長く。
みんなと一緒に、居られますように。



『メリークリスマス、みんな。』

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