降る雪は、想いをのせて。
投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/12/25)
この季節の太陽は、せっかちだ。
すぐに時間を連れて、空の境目に引っ込んでしまう。
クリスマスの夜まで、あと少し。
「さて、後は……」
軽く考えをまとめると、足を屋根裏部屋へ続く階段のほうへ向ける。
『高い所のほうが、空に近いからもっとよく見える』
電話に集中しつつも、その言葉だけは聞き逃していなかった。
見慣れた階段を登って、ドアを開ける。
けれども、二人の姿は屋根裏部屋に無かった。
さも当然と言わんばかりに、ずかずかと窓まで進む。
窓から身を乗り出して、屋根の上に目をやると―――やっぱり。
「シロ〜、タマモ〜?」
「あ、美神どの〜、今夜はきっと、雪でござろ?」
「ん?なんで?」
「タマモが、『今夜は降りそうもない』とか言うんでござるっ」
ふくれた様子で、隣を見るシロ。
「だって……気持ちいいくらいに晴れてるじゃない。だから、今年は無理かも……って」
「降る、って言ったらどうする?」
「「……へっ?」」
きっと、今の表情は得意げ。
「私が降る、って言ったら降るのよ。たとえ、神様が文句言っても」
「じゃあ、じゃあ……!!」
シロの瞳が、目に見えて光を帯びた。
「あ、でもタマモがイヤなら別にいいんだけどぉ……」
「えっ!?いやあの、それは……」
あまりに期待通りの反応に、なんだか嬉しくなる。
「んー?よく聞こえないけどー?」
我ながら、意地悪。
「……見たい、です」
言葉、ぽつり。
「おっタマモ、お前顔が真っ赤でござるぞー♪」
「あーもう、うっさいこのバカ犬っ!見たいものは見たいのよっ!!」
「はいストップ。雪は降るから、あんたたちはパーティーの準備行ってきて。わかったら返事」
また始まりかけたケンカを、寸前で止める。
その言葉には、有無を言わせぬ迫力。
「「らじゃ(でござるっ)」」
「よくできました。厄珍堂は知ってるでしょ?あそこに色々頼んどいたから。じゃ、お願いね」
「ちょっと待ってよ。私達に買い物頼んどいて、自分はどこに行くつもり?」
タマモも、言われっぱなしで黙っているような性格ではない。
当然、反撃も覚悟の上であったのだが。
「あぁ……忘れてたけどさ、一応、あのバカも呼んでやらなきゃな、と思って。
どーせ、一人寂しくふて寝でもしてるだろうし」
この人は時に、とても優しい顔をする。
「それじゃ、宜しく……ん?」
「……美神どのっ」
後ろから、がしっ、とばかりに腰に巻きつく二本の腕。
「? 何よ?」
「……抜け駆けはぜったい、ぜ〜ったいダメでござるよっ!!」
「そんなに殴って欲しいの?アンタは」
「だって、拙者が行きたいって言っても、ぜったいダメって言われるでござる……」
「よく解ってるじゃない」
「かくなるうえは、無理や……
どげし。
シロの言葉は、鈍い音と共に遮られた。
「すっごくいい対応だとは思うんだけど……ソレ、どっから出した訳?」
「ん、内緒」
タマモが振り下ろした、その巨石。
ものの見事に、シロの脳天に食い込んでいた。
人間だったら、命も危ない傷なのだろうが、シロは人狼だから……
大丈夫だろう、多分。
「バカ犬は私が連れてくから、さっさと行って。雪……楽しみにしてるんだから」
「はいはい。じゃ、シロはお願いね」
頬を染めていたのが、なんだか可愛らしかった。
先に出て行ったタマモと、気絶したまんま引き摺られていくシロを見送って、自分も身支度を始める。
さすがにもう寒いので、いつもの格好の上にコートを羽織らなくてはならない。
だからいつものように、壁に掛かったコートを手に取ったのだけど。
「………ん?」
ひらり、と落ちた紙一枚。
達筆な文字が、踊っていた。
『抜け駆けだけは、ダメですからね♪』
あぁもう。何処までカンが鋭いのか、あの娘は……。
「全く、どいつもこいつもしつこいったら」
言葉の割に、自分でも驚くほどに優しい声音で呟いた。
「あ、人工幽霊一号?所長室のパソコン使って、めぼしい知り合いに連絡しといて。
どうせ独り身か、つまんないことやってそうなやつらばっかだし」
『了解ですが……この時期、なにかとお忙しい方が殆どだと……』
「そんなの、決まってんでしょ?」
『……承知致しました』
もし自分に表情という物があったなら、きっと苦笑しているんだろう。
それだけ言い残して出ていった主人が、次に何を言うのかは解りきったこと。
どんな手使ってでも、呼び出しなさい―――。
◇
今日は珍しく、歩いて行く気分だった。
距離は結構離れている。
のんびりと、行きたい気分だった。
冬の寒さに吐く息は白く、通りの電飾にもやをかける。
中々に、幻想的でもあった。
それを切り裂く声が、響くまでは。
「み〜かみ―――っ!!」
後ろから聴こえたその声には、覚えがあった。
「あぁ……久しぶり、パピリオ。小竜姫とベスパも、か」
三人ともが、珍しく普通の格好をしていた。
なぜか、小竜姫だけが泣きそうだったけれど。
「美神さん……やっと、やっと会えた……」
「まったく、小竜姫には困ったもんでちゅ。ここに来るまで、どれだけ迷ったことか……」
「だってっ、『ひこーき』に乗ったら早いと思って……」
「せめて、国内線にしときなよ……。よくそれで神様やってられるね」
「わたしとベスパちゃんが道案内して、やっと着いたんでちゅ」
そう言って、パピリオは胸を張るけれど。
話のさわりだけで、中々に壮絶な道のりであったことが伺える。
「別に、今に始まったことじゃないし……」
「そんなっ、美神さんまで……」
「んなことはどーでもいいとして、珍しいわね。ベスパまで来るとは」
小竜姫はともかく、ベスパまで来るとは予想外だったらしい。
どーでもいい呼ばわりされて、凹んだ神様を横目で見つつ、ベスパも答えを返す。
「たまには良いか……ぐらいのもんだよ。あと、それと……」
「それと?」
「何でもないでちゅよ、ねー♪」
姉の母親候補の様子を見に来た、とは流石に言えず。
もっとも、パピリオにとってはライバルのつもりなんだけれど。
「……ま、いいか。それで、雪のほうは大丈夫なんでしょうね?」
「もちろん、ばっちしでちゅ。とってもキレイだから、楽しみにしてるといいでちゅよー♪」
「特別製の雪とは言っても、騒ぎになるのもまずいしね。少し暗くなってから、空に撒いてくるよ」
よしよし。順調だ。
「ぢゃ、いろいろ準備があるからもう行くでちゅっ!」
「ホラ、いつまでも凹んでないで……行くよ、小竜姫」
「ううっ……だって、なんで私がこんなヒャクメみたいな扱いを……」
「アンタ、意外とヒドイこと言うのね……」
引き摺られるようにして去って行く、小竜姫。
でもまぁ、降らせてくれさえすれば文句は無い。
そう思い直すと、また歩みを始める。
目的地まで、あと少し。
◇
やっと見えたその場所は、いつもの古ぼけたアパート。
嫌な音をたててきしむ階段も、今、目の前にある汚いドアも。
クリスマスが、ここだけにはまだ来ていないようで。
ノックも無しに、ドアを開く。
遠慮するような相手でもないことだし。
「あれ……?」
部屋の中に、主の姿は無く。
ふて寝してると思ったのに……。
アイツは、自分の予想の外に居るんだ。
当たり前のことなのに、その事実を更に押しつけられるようで。
芽生えた感情は、寂しさか、希望か。
でも、居場所には一つだけ、心当たりがあった。
そのことが、まだ繋がっていることを思い出させてくれる気がして。
でも、そこに居て欲しくないと思う自分もまた、真実。
……面倒だ。
うだうだ考えてないで、行けばいいんだ。
居たら居たで、引っ張ってくれば良い。
冬の陽が、段々と沈みかけてきている。
クリスマスの夜まで、もう少し。
今までの
コメント:
- 次でラストになります。重ね重ねスンマセン(汗)
キャラが多い………。 (龍鬼)
- 今はまだ見ぬ、これから降るであろう雪にその想いを乗せて。彼女たちは、そして彼は皆で一緒のクリスマスを過ごそうとする。登場キャラの人数が多いにも関わらずきちんと書き分けられ、それぞれがきちんと動いているのが何より凄いです。雪、というもの一つだけでここまでお話を昇華し、堅実に描いていられる龍鬼さんにはただ脱帽です。
さて彼がいるのは「あそこ」でしょうか?彼女にとってはまさしく希望と絶望の同居する場所。だけどソレを彼と共に乗り越えなければいけないのもまた事実。だけどきっと彼女と彼なら乗り越えられるでしょう。
|x ̄)。O(ところで。パピリオにとって美神さんは筆頭候補なのですね…) (浪速のペガサス)
- 雪、見たいなぁと。どんな手使ってでも降らせたいなぁ、と。
要するに、ワガママ話なわけです(ぇ
正直、時間が無くて至らなかった部分も多いので、恐縮することしきり(笑)
もっと短くする予定だったんですよ♪ ただ詰め込みすぎただけで……(ぇ
さて、彼の場所ですが。「あそこ」しかないでしょうねぇ。
根が捻くれているので、当てられて悔しくもあるんですが。捻りたいんですが(笑
やっぱ、あそこじゃなきゃいけない気もしますね。
さらっと、乗り越えてくれたら……。二人で。
追伸:パピですけど、「らいばるきゃらA」ぐらいの扱いデス(笑) (龍鬼)
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