雪の花を、あなたに。
投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/12/25)
十二月。
街並みが、すっかり冬の色に染められてきた。
暖かかった今年の秋も、やっと舞台袖に隠れたらしい。
あちこちの窓から、師走の人々の慌ただしさが溢れていた。
そんな中に、ちょっと変わった窓一つ。
中からは、無心に空を見上げる少女たちの顔が覗いている。
「………降らないのかなぁ」
「つまんないの………」
「雲一つ、出てないでござるな」
三人の少女は、待っていた。
どれだけ楽しみに待とうとも、さすがに相手が悪いのだけれど………。
「………アンタ達、いつまでそうやってるわけ?」
「だって……」
「そりゃあ……」
「ねぇ、でござるっ」
おキヌ、タマモ、シロ。
それぞれの表情が、なんだか本当の姉妹みたいによく似ていた。
「クリスマスには雪、ってんでしょ?何度同じこと言ってんのよ」
そう、今日はクリスマス。
そして、久しぶりのお休み。
だからって、そんな事で暇を潰さなくてもいいのに。
そんな事を思いながら、美神は所長の席でコーヒーをすする。
休みにしては珍しく、この日は寝起きが良かった。
「だいいち、そんないいモンでもないでしょうに………。余計に寒くなるだけなんじゃない?」
熱いコーヒーが、美味しい。
それは寒さの裏返しでもあった。
「だってだって、明日はお祭で、それで雪が降ってみんなで遊んだら楽しいでござるっ」
多分、シロにとってクリスマスの由来とかはどうでもいい事。
みんなが楽しければ、それがいちばん。
もしかしたら、何よりも大事なこと。
「まぁ、シロはともかく……タマモも、そーいうとこあるんだ?」
にやにやしながら、美神が問いかける。
「え……いや、別に私は……」
どぎまぎしながら、顔を赤らめるタマモ。
面白い。
こうやってからかうのが、美神の最近の楽しみの一つでもあった。
「いやだって……私、クリスマスって初めてだし……」
言葉の終わりは、殆ど聴き取れないほどに小さく。
俯く姿は、必死に言い訳を考えていそうで。
「タマモちゃんだって、綺麗なクリスマスの方がいいもんね?」
不意に出されたその助け舟に、照れくさそうにこくこく頷く。
「でもっ、おキヌどのの里は雪国でござろ?いくらでも見れるんではござらんか?」
ふと思い出したらしく、シロがじゃれつきながら尋ねる。
本当に不思議なのか、シッポがぴょんぴょこ跳ねていた。
「ウチは、クリスマスって雰囲気じゃ……」
苦笑しながら、少女はもう一度空を見上げる。
まぁ、神社じゃ仕方ないか……。
「それにね。今年はみんなで、見たいの」
そういえば今年は、シロとタマモが事務所に来てから初めてのクリスマス。
二人がここの家族になって、初めてのクリスマス。
「そーいえば、私もホワイトクリスマスって見たことないかな?」
椅子に深く体を預けて、思い出してみる。
二十年ちょっと生きてきて、クリスマスに雪が降った覚えはなかった。
「ひーとあいらんど現象、というやつでござろうかっ?」
「……はいそこのバカ犬。キャラに合わない発言をしないように」
「誰がバカ犬でござるかこの女狐ー!」
「へぇ、自覚してないんだ?」
「はいはい、二人とも。その辺にしておきましょうね」
おでこにふわり、と優しく触れた掌を押しのけてまで、喧嘩しようとは思わなかった。
シロも、タマモも。
完全に納得しては、いなかったみたいだったけど。
「「………ぶー」」
鏡に映したみたいに、二人の両頬がふくれる。
「ほら、二人一緒に謝って。みんな仲良しの方がいいでしょ?」
不満はたっぷりあったけれど、それもなんとなく解けてしまって。
「「……ごめんなさい。」」
見守る表情は、やっぱり優しかった。
「あ、ゴメンおキヌちゃん。コーヒーのおかわりくれる?」
「はあい、ちょっと待っててくださいね〜」
人徳だろうなぁ。
とてとてキッチンに走っていく少女の背中。
解りきった事だけれども、美神にはそれが改めて感じられた。
自分には、とてもじゃないが真似できない。まぁ、したいとも思わないけど。
「クリスマス、か………」
見上げた上には、いつもの天井。
見たことない、とは言ったけど。
覚えてないだけかもしれない。
クリスマスっていっても、別に特別だったわけじゃないし。
親父もママもいない時で、お祝いもなかったし。
神父のところに居た時も、ずっとお祈りサボってたしなぁ………。
クリスマスに降る雪。
それは、いつもの雪と違うんだろうか。
……なんだか、見たくなってきた。
それも、無性に。
つーか、二十年も生きてきて、一度も見た覚えがないってのは癪に障る。
「………うしっ!!」
机を両の掌で叩いて、椅子から立ち上がる。
手近にあった電話を引っ掴むその姿を、三人の少女がきょとんとした様子で見ていた。
◇
「あーハイハイ。んじゃ、そーゆう事でよろしくー♪」
「急にどうしたんですか?いったい誰に………」
じっくりと沸かしたコーヒーと一緒に、疑問が運ばれてきた。
シロとタマモは、まだ空を眺めてきゃあきゃあやっている。
「あぁ、小竜姫のとこに、ちょっとね」
「小竜姫さま……何か、ありましたっけ?」
最近では、妙神山と連絡をとりあう事も少なくなった。
おキヌがまめに出している、年賀状や季節ごとの手紙ぐらいだろうか。
「んー、大した事じゃないわよ。ただ、『雪降らせて♪』って言っただけ」
「………え゛?」
「なんかさー、急に見たくなっちゃって。適当に人集めて、雪眺めながら騒ぐのも良いでしょ?
向こうも最初は渋ってたけどさ、『色々とチクっちゃおうかな♪』って言ったらそりゃもう快く」
「そ、それって大丈夫なんですかっ!?」
「……多分大丈夫なんじゃない?ただの雪じゃみたいだし。どっちにしても、
お咎めがいくのは小竜姫だし」
「あはは………」
こういう人なんだもんなぁ……。
冷や汗を流しつつも、ちょっと納得してしまうおキヌであった。
勝手に雪なんか降らせちゃったら、大変なことになりそうだけど。
いいよね、クリスマスだもん。
「それでおキヌちゃん、魔鈴のとこ行って料理頼んでくれない?」
「あ、わかりました。それと……」
「ん?何?」
ちっちゃな、ちっちゃな声で。
――ありがとう、ございます。
「……いや、私が見たくなっただけで、別におキヌちゃん達のためじゃないんだけど……」
「じゃあ、そういうことにしておきましょうか」
「あーもう、いいから早く行ってきて。グズグズしてると夜になっちゃうわよ」
「は〜い♪」
それでも、おキヌは気付いていた。
美神さん、顔がちょっと赤かったなぁ。
時刻は、もう昼過ぎ。
クリスマスの夜まで、まだ少し……。
今までの
コメント:
- 紛らわしいですが、続き物です。タイトル違いますが、続き物です。
……お祭なので許してください_| ̄|○ (龍鬼)
- 可愛くて極悪な美神さんがだいすきですっ
りゅーきさんの書く美神さんは、魅力的なのですっ
……いやその、みんな魅力的ですよ。続きを期待しますねー (hazuki)
- >はずさんへ。
美神さん、可愛いですよねぇ。
俺が書かなくても普通に可愛いですよねぇ(目線を逸らしつつ)
魅力的、嬉しいです。や、マジで(笑)
好きなキャラは魅力的に書きたいですもん。
あ、それと続きっていうかもう終わってますこの話(爆)
タイトル違うんですよ〜解りにくいんですよ〜……
スミマセンまぢで(土下座) (龍鬼)
- 素直じゃないけれど素直な美神さんが素敵です(挨拶)
こういうのを読んでるとつくづく思うのですがやはり美神さんは素直じゃないな、と。だけどそれこそが彼女の魅力であり、その優しさが光るのですよねぇ。素直に、いい女です美神さん(^^)
そしてこのお話、キャラの書き分けが素敵なんですよ。シロの元気さは相変わらずですが、タマモとおキヌちゃんも素敵なんです。クリスマスした事が無い、と可愛らしいタマモに、美神さんの優しさを感じるおキヌちゃん。さすがじごろらいだーですね(笑)。冗談は抜きにしてホント、巧いなぁと思いました。
さて「雪の花をあなたに」。あなたは受け取ってどういう反応をするのでしょう?喜んでくれるのかな?それとも…?次の話を読みますか(^^) (浪速のペガサス)
- >天馬さんへ。
美神さんは可愛いのです。えぇもう可愛いのです。
素直じゃなくても可愛いのですとかだけじゃダメですか(駄目です)
書き分けには結構気を使いましたね。
ワンシーンでこんなにキャラ出すの初めてだったんで(笑)
女性はやっぱ可愛く書きたいですし。
いやもー女性は天馬さんに褒めてもらえば間違いないですね(笑)
さぁ。雪の花。何やらラストで伏線回収し忘れた気もするのですが(何)
ただ、何よりも……
俺はじごろらいだーぢゃないやい――――っっ!!(爆泣脱兎で次へ) (龍鬼)
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