ザ・グレート・展開予測ショー

雪と姉妹とどろっぷきっく。


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/12/25)

雪が、好き。
何処までも真白い雪が好き。
何もかも、包んでくれる雪が好き。

その絶対的な冷たさは、全てのものの速度を緩め、やがて―――等しく止める。

いっそ、私を凍らせて欲しい。
このいつまでも煮え切らない心と。
そして、過去と共に。

前夜に積もった雪は、和風の庭に白の絨毯を敷いていた。
縁側から眺める雪は、なんだかとても新鮮で。

その白さが、ほんの少し怖くもあり。

日暮れが、もう近かった。
段々と、お日様が真っ赤な服に着替えていく。
あのまま西の地平線に潜ったら、この雪がみんな融けてしまわないだろうか。



―――馬鹿みたいだ。
私って、前からこんなに夢見がちだったろうか………。

独りだと、そんな事ばかり浮かんでくる。
だからかもしれない。
いつも、何かに没頭していた気がする。






――たったったったったったっ………。

背中から、小刻みな足音が肩を叩く。
あぁ、あの娘か………。

なんて、話しかけようかな。
そう思って振り向いた瞬間、視界は暗闇に塗り潰された。

神経を襲う、鈍痛を伴って。

見る人が見れば、きっとこう言ったに違いない。







見事な、実に見事な―――

















顔面への、どろっぷきっくだった。



「パ、ピ、リ、オ〜〜〜〜〜〜〜〜?」
突き刺さるように顔面に張り付いた小さな足を、ゆっくりと引き剥がす。
思いっきり良い笑顔を作ったつもりだったが、額に青筋が出来ていることも、きっちり自覚できた。

「わざわざクソ忙しい中呼び出しといて、挨拶がコレかいっっ!?」

「ベスパちゃんが悪いんでちゅっ!!な〜んにも連絡寄越さないし、会いに来てもくれないし!!
 挙句の果てには、三時間の大遅刻ときたもんだ、でちゅっっ!!」

そう、ベスパを呼び出したのは、パピリオ。
時間になってもなかなか現れないので、ふて寝としゃれこんでいた。
寝起きなもんで、怒りゲージは五割増し(当社比)である。

「………渋滞で」
「この広い広〜い空の、いったいドコが渋滞してるんでちゅかねぇ?」
にっこし。


………ヤバイ。
笑ってるけど、目がアブナイ。
このままだと、何をしでかすか分かったもんじゃない。

「………悪かったよ」
「分かれば良いんでちゅ」
腕組みをして、うんうんと得意気に頷くパピリオ。

――しっかし……。暫く見ない間に、姉さんに似てきたか?

冷静であるように見えて、実は一番向こう見ずだった姉。
怒らせると、一番怖かった姉。
末の妹は、少しだけその姉のように見えた。



――まぁ、他はともかく……向こう見ずなのは、私も一緒か。

何たって、お互い惚れた男の為に戦ったんだもんなぁ。

そう考えると、苦笑するしかなかった。

――心を抉られるような、微かな痛みと共に。

「それで、いったい何の用なんだ?」

ふふ〜ん、とばかりに、パピリオは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
ちょっぴり、ヤな予感。




「今日は、今日は……『クリスマス』でちゅよっっ!!」
特に意味も無いのだろうが、明後日の方向に向かって指を突き上げる。
その姿と表情は、やりきった感に満ち溢れていた。

「………はひ?」
ええっと、ちょっと待ってください整理させてください。
私達、一応魔族のハズ……なんだけど、
キリストさんのばーすでぃを祝っちゃったりしてよいのでせうか。

とゆーより、此処って一応仏教の………。

「あら、いらっしゃい、ベスパ♪」

………え゛。

その声の主は、紛れもない小竜姫。
仏法を守護する、竜神………のハズ。

「………質問。」
「はい、何でしょう?」
疲れきった腕をなんとか持ち上げて、小竜姫に問う。
すっっっごくヤではあるが、一応訊いておかねばなるまい。

「そのカッコは………何?」

指差した先には、真っ赤なミニスカート姿の小竜姫。
ご丁寧に、生地の端には白いファーまでついている。
同色の帽子で纏めた姿は、どっからどーみても『あの人』だった。


「サンタさんです♪可愛いでしょ?」

無邪気な笑みを浮かべながら、くるりと一回転してみせる小竜姫。

いや、この際可愛いとか可愛くないとかそーいうのは置いといて。
アンタまがりなりにも仏法の………

「ふふふ………。半年前から、毎晩寝ている小竜姫の耳元に『クリスマスは楽しいクリスマスは楽しい』って
 きよしこの夜をばっくにずっと囁き続けた成果でちゅ♪」

耳元で呟く妹が、何処か遠くに逝ってしまったように感じられる。
えぇ、そりゃご立派な洗脳ですとも。

「あ、そういえばまだ飾りつけ全部終わってないんですよ。取り敢えず、後は鬼門を……」

「鬼門を、どーするのさ?」
もう、投げやりにでも訊いてしまえ。
毒を喰らわば皿まで、と人間も言っていることだし。






「「トナカイ(きっぱし)」」



「理由は激しく予想がつくんだけど………なんで?」



「「だって、角ついてるし」」

当然じゃございませんか、とでも書いてありそーな顔が、目の前に二つ。
先ほど蹴られた頭部が、また痛み出してきていた。

「それじゃ、私は鬼門をアレコレしてきますので、後は姉妹で積もる話でも♪」

鬼門の運命を哀れんでいる暇は無い。
出来ればさっさと逃げ出したかった。

「じゃ、ベスパちゃん、プレゼント交換でちゅ!!クリスマスは、プレゼント交換するんでちゅよ!!」
「プレゼントったって……用意してないよ。まぁ、どっちみちあげられる物も無いけど……」

所詮は、子供の戯言。
そう、考えていた。

「ベスパちゃんでちゅ」
「………え?」

「ベスパちゃんが来てくれたのが、わたちへのプレゼントでちゅ。それで、わたちがベスパちゃんへの
 プレゼントでちゅっ!!」

無邪気に微笑む、たった一人の妹。

「………生意気な」

小さな頭を肘で小突きながら、少し嬉しくなる。
ついこの間まで、子供だったくせに。

「そんな訳で、雪合戦の開始でちゅ!とりゃっ!!」
「イタっ!?やったな、この………」

縁の下に降りて、足元の雪をかき集めて。
雪合戦は知ってたけど、実際にやるのは初めてだった。






「楽しーでちゅねっ♪」
「……ずっと融けなきゃ、良いのにね」

「? なんででちゅか?」
「だって……その方が、ずっと楽しいだろ?」

「えぇ〜〜〜、そんなのイヤでちゅ………」
「………なんでさ?」

期待していたのかもしれない。
楽しい時が、続いて良いんだって証明を。

「だって、ずっと雪が融けなかったら、春にお花が見れまちぇん」


思わず、呆けてしまった。
驚くほどに、単純な答え。

「虫さんたちだって、困りまちゅ。それに、なんにも変わらないなんてつまんないでちゅっ!!」
「………そう、だね」

―――ホント、馬鹿みたいだ。

そんな事、当たり前なのに………。

「わぷっ!?」

雪球が、眼前で弾ける。
「だ、か、ら♪ 融けるまで、力いっぱい遊ぶでちゅ♪」

「やったね………。そろそろ、本気でいくよ」
「小学生が負けた時みたいな言い訳、するもんじゃありまちぇんよ?」

雪は、まだまだ融けそうになくて―――






雪が、好き。
いつかは、融けてしまうけれど。
でも多分、それは春を連れてくる為で。

掌に、固めた雪球。
それが融ける時に、自分をも変えてくれる気がして。
そんな雪が、大好き。

今、雪は降っていなくとも。
私にとって、最高のホワイトクリスマス。

―――ありがとう。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa