ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 第19話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/12/24)



〜appendix.18『魔狼再び』



「・・・・・。」

都心中央、セントラルビル。
駅に隣接するオフィス街の一角に、ひときわ高いその建物はあった。
朝陽に照らされ、黄金色に染まった壁面を、一同はポカンとしたまま見上げている。

「高い・・ですねぇ・・」

「高い・・・わねぇ・・」

もの珍しげなおキヌの声に、美神はげんなりため息をついて・・・。
もしものために、と持参してきたガイドブックが役立った。
地上50階まであるというそのタワービルは、25階を境として大きく2層に分かれており、それより上へと進むには・・

「・・はぁっ!?非常階段を使うか、専用の有料エレベーターを使うしかない!?しかも片道500円!?ボリすぎでしょ、コレ!!」

・・・ということらしい。
雑誌のカラーページを破り捨てんばかりに凄む美神を、シロが必死に押さえつけ・・
「み、美神どの・・落ち着くでござ・・」  「すごい・・24階の展望レストランって・・。一度はこんな所でお食事してみたいですね・・」

「・・・・。」
ワイワイと騒ぎ始める面々に、美智恵は小さく頭を抱えた。
つい先ほど、蟲たちと死闘を演じてきたばかりだというのに・・。この適応力、とてもではないが真似できない。

「・・ほらほら、観光に来たわけじゃないんだから。他の皆も少しはスズノを見習いなさい。まだ小さいのにちゃんと・・。・・?」

足元にいるはずの、スズノの頭を撫で付けようとして・・美智恵の動きがハタ、と止まる。
・・居ない・・。
撫でようにも、スズノの姿が忽然と消えている。

「?スズノ・・?どこに・・」

目を白黒させて辺りを探すと・・・

「・・・・。」 「す、スズノ?」

銀髪の妖狐は、ビルの壁面に頬をくっつけ、気持ちよさそうに目を閉じている。時折、ほぅ、と可愛らしいため息をついていて・・。

「・・・何やってるの?」

「・・。冷たくて、とても気持ちいい。」

「・・・・・。」

「・・・ひんやり・・・」

行動が全くのナゾだった。


―――――――――・・。

「わぁ・・私、こういうエレベーターに乗るの、初めてです。」

「・・・おぉー・・・。」

街の景色、ゆっくりち下方へ流れていく。
総ガラス張りの展望エレベーターの中で、スズノとおキヌがキラキラと瞳を輝かせている。
25階へと向かう美神一行はを乗せ、昇降機はただただ静かに上昇する。・・夜景が見える時刻ではないことが、美神には少し残念に思えた。

「でも、良かったの、ママ?安易にエレベーターなんて使って、危なくない?」

腕を組みながら、美神が尋ねる。美智恵はそれに首をひねり・・・・

「あら?じゃあ、令子はひたすら重力に逆らって、何千段もある階段を上るほうが良かった?」
「・・別に。そういうわけじゃないんだけどね・・」

苦笑して、すぐそばの少女たちの様子を盗み見る。
シロを交えたこともあり、テンションが最高頂に達している事務所居候3人娘。
都会で暮らして日が浅い彼女たちにしてみれば、確かにこの景色は衝撃的だろう。初めからこうなることは分かっていたのだが・・

「・・まぁ、冗談はともかく、これだけ高いと狙撃されることも無いだろうしね・・。罠を想定するのは25階からでいいと思うわ。
 そこからは階段を使いましょう。」

落ち着いた声音でつぶやくと、美智恵は、眼下に広がる市内のジオラマを見下ろした。
予想以上に見晴らしがいい。積み木のようなビル群の向こうには、淡く輝く海が見える。


「・・・・・・――――――・・。」


だが・・。


空と海を分かつ、蒼い境界・・・。


それが一瞬・・・・・・――――――――――――――。



「・・え?」


美智恵は思わず目をこすった。『ありえない・・』彼女の口から、そんな言葉がついて出る。


「・・ママ?」

「令子・・今少しだけ、風景がおかしくならなかった?太陽が・・なんだか緑がかって・・」
「えぇ?」

呆然とする母の表情を、美神は怪訝そうに見つめ返した。
「もう・・何言ってんのよ・・」笑いながら、逆にそう問いかけようとして・・。

――――――ゴッ・・・・ウゥゥゥゥゥンッ!!!!

刹那、ビル全体に衝撃が走る。
巨大な振動に揺さぶられ、ガラスが共鳴とともに弾け飛ぶ。エレベーターはなおも上昇を続けているが・・

「わわわ・・せ、拙者・・こ、こここ高所恐怖症になりそうでござる!」

剥き出しになった透明のフレーム。唾を飲み込み、シロがその場を飛び退いた。

「・・っととと。?どうしたでござる?スズノ」 「・・・・。」
唇をかみ、うつむくスズノに足がぶつかる。彼女は真剣な表情で顔を上げ・・・・

「・・シロなら、分かると思う。」

「へ?」

「感じないか?私たちと同種の・・・それも最高位に近い霊格を持った存在が・・・」

近づいてくる・・・・。


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!!!!!!』

大気を砕く、圧倒的な咆哮が上がったのは・・・その時だった。


                         ◇


「・・!?この霊気・・・!」

全身の皮膚がざわめき立つ。空間から滲み出す膨大な魔気に、タマモの体が警告を発した。
あたりを浮遊する獣臭・・血の香り。見紛うハズもない、これは・・人狼が発する霊波動だ。

「・・フェンリル、だよ。真打ち登場ってトコロだね。」
「フェンリル・・!?どうしてそんな上位邪神が・・」

事も無げに言い放つユミールとは対照的に、タマモの瞳が見開かれる。
・・・信じられない。
北欧の神々を、次々に食い殺したと云われる伝説の魔獣。犬神族であるタマモにとって、そのネームバリューは絶大だった。

「なんで、って・・。一目瞭然じゃない?蘇ったのよ、私たちの世界の加護を受けて・・。緑色の綺麗な太陽、見えなかった?」

ニコニコと嘲笑う少女の顔。その猫なで声が、タマモの神経を逆撫でた。

「・・世界?太陽?ワケの分からないことを言わないで。」

無意識のうちに声を荒げ、鋭くユミールを睨みつける。
灰の少女は、それでも恍惚の表情を浮かべたままで・・。

「はぁぁ・・怒った顔も素敵・・・。ねぇねぇ・・もっと近くにいっていい?」
「・・・は?あ、あなた・・何を言って・・」

ふわり・・と。
ユミールが翼を開き、タマモの傍へと飛翔してくる。
あっけに取られ、動きを見守る金髪の妖狐は・・数秒後、彼女の動きに違和感を感じた。

(・・?止まら・・ない・・?)
『近くにいってもいい?』たしかに目の前の少女はそう言ったはずだ。
百歩譲ってそれは許すことにしよう。しかし・・残り数センチという位置に来て、未だ接近を続けているというのはどういうことだ?

「うふふ〜っ。つ〜かまえた♪」
「え?ちょっと・・?な・・―――――――――!?」

陽気な声が耳に届いて、両腕を首筋に回される。身をよじってかわそうとするが、逆に無理やり押さえつけられ・・。
次の瞬間、唇に感じる柔らかい感触・・。

「??―――――――――!!?☆>!<<!?」

1、2、3・・。
マンガでよく見かける、俗に言う『真っ白』な状態。たっぷり3拍、タマモの中の時間が止まる。
ようやく我に返るころ、金色のポニーテールがワナワナと上下に揺れ始めた。

「――――――・・な、ななな・・・・・は、放して!」

勢いよくユミールを突き飛ばそうとするが、強靭なハッグがそれを許さない。
時間がじょじょに経過するにつれ、タマモの脳裏を混乱と怒りが渦巻き始める。

・・・キスされた。
それも見ず知らずの少女・・・・女にだ!(←強調)

「ごめんね〜足がすべっちゃったの。」

「う、うそばっかり!言っておくけど私にそういう趣味は・・・じゃなくて!何考えてるのよ、あなた・・!」

「ん?なになに?もしかして・・ファーストキスは横島君にあげたかった、とか?大丈夫、大丈夫。女同士だもん、ノーカウントだよ。」

「・・!・・そ、それは・・」

思いがけず横島の名前が飛び出してきたことと、思いっきり図星を突かれたこと・・。
ビクリと体を硬直させて、タマモが大きく仰け反った。情けないやら、恥ずかしいやらで・・彼女の頬が、薄く朱に染まる。

「・・さっきから、どういうこと?もしかして・・ただの痴漢?」
「痴漢はひどいな〜。それに私、女なんだけど・・。それを言うなら痴女だよ」

頬をふくらませ、どうでもいいことを指摘してくる。
・・・タマモはひどい頭痛を感じた。

「・・・。悪いけど、私急いでるの。早く戻って知り合いに加勢しないと・・・」

わざわざこの娘のペースに付き合う必要などない。冷静さを取り戻したタマモはその場でクルリと踵を返して・・


―――――「その必要はないよ。」


呼び止めるように声が響いた。

・・・?
こちらの主張を、あっさり否定してくる翼人の少女。いぶかしむタマモの視線を、ユミールは上目遣いに受け止める。

「それとね・・良かったんじゃないかな?初めてのキス、私が相手で・・・」

反論を許さない無機質な笑顔で、少女は鋭利な言葉を突きつける。
それは・・研ぎ澄まされたナイフのようだった。

「これ以上、横島君に近づくとね・・・・」


――――――・・君、死ぬよ・・?



                          
                          ◇


風を引き裂き、獰猛な調べが空を流れる。
猛獣特有の、無差別な破壊衝動と・・・それを誇示するかのような、激しいうなり・・。
セントラルビルの上空に、巨大な影が降り立った。

「あれは・・・」  「うそ・・・でしょう?」

口々につぶやく。まるで悪夢・・いや、そうであったならどれ程良いか・・。強烈な神気は飛び交う中で、美神はガクリとヒザをついた。

「・・っ!犬飼・・っ!!!」

フェンリルは、上昇するエレベーターと等速で空を移動し、一定距離からコチラを静かに見つめている。
怒りをあらわに飛び掛ろうとするシロを、美智恵が寸前で抱きとめた。

「・・落ち着きなさい!シロちゃん・・あれは、あなたの仇なんかじゃないわ!」
「た、隊長殿・・?で、でも・・それじゃあ一体・・」

「・・もっと、『ひどい』モノよ・・」

下唇を噛みながら、美智恵は邪神を睨みつける。
そう・・以前、降臨したというフェンリルと、目の前の魔獣は別物だ。妖刀を使い、神をその身に『降ろそうと』していた犬飼に対して、コレは・・。

「・・『飲み込まれている』・・」 「・・えぇ。」

うめくようなスズノのつぶやきに、美智恵は肯定の頷きを返した。
コレは・・すでに《神降ろし》とすら呼べる代物ではない。魂の同調が進みすぎ、ベースが完全に逆転しているのだ。
限りなくオリジナルに近い・・言わば、肉体を犠牲にした変貌《メタモルフォーゼ》。術者は絶大な力と引き換えに、自らの人格を失うことになる。

「正気の沙汰じゃないわ・・。強くなれれば、それでいいとでも言うの?」

押し殺された問いかけに、美智恵とフェンリルの視線が交差する。魔獣の双眼がわずかに揺らぐが・・・やはりそれも一瞬のことだった。

「・・!美神どの!フェンリルが・・!」
「げ・・・。マジ?ちょっと・・シャレになってないわよ!」

フェンリルが動く。それも犬歯が覗く大口を、裂けんばかりに広げながら・・・。
エレベーターごと一飲みにするつもりなのか、真っ向から美神たちへと突撃してくる。


――――――――グォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!


「『グォオオオオオ!!』じゃなーーーーーーい!!って、つっこめばいい所なの!?ここは!?」

「ど、どどど・・どうしましょう!?美神さん!」「ど、どうしよーったって・・。ここ地上20階よ?もうかくなる上はアレよ。奇跡を信じるぐらいしか・・」

「お、落ち着いて!今、ここから飛び降りるのと、じっとしているので、どっちが生存確率が高いか割り出しを・・」

「そんなの、どっちも0%に決まってるでござる〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


「・・・・。」

何かもう、絶望を通り越してボケツッコミを始めている一同を尻目に、1つの影がエレベーターを飛び出した。
影は、毛玉のように丸まりながら、ポンポンとビルの側面を跳ね上がり・・・
そして・・・

「・・はぁぁ!」

接近するフェンリルの・・やはり真正面。両手を前に突き出して、魔狼の巨躯を受け止める。
衝突の瞬間、暴風と見間違うほどの、大気の奔流が巻き起こった。

「――――――・・っ!?な・・スズノ・・!?」

舞い上がるガレキと、目も眩む閃光。瞼を閉じかけていた美神は、逆に大きく目を瞠る。
・・スズノが、上空でフェンリルを押さえつけている・・。

「・・・・っ・・・くぅ・・・・っ!」

ジリジリとしのぎを削るように・・・しかし、少しずつ後退を余儀なくされるスズノ。
少女の顔に、かすかな苦悶の色が浮かび始めた。

「うそ・・スズノでも・・勝てないの・・?」
信じられない、といった風に独りごちる美神へ美智恵は小さく首を振り・・・

「いいえ、まだ・・・・」

その直後。スズノの体が、銀色の発光を開始する。伸びる髪、伸びる手足・・・。
爆発的な霊気の高まりに呼応して。彼女の全身が急激に成長し・・・。極めつけが、この一言だった。

「・・っ!この犬っころ・・っ!気安く私の体に触れないでよっ!」

「「「「は?」」」」

瞬間、スズノはフェンリルを弾き返すと、間髪入れず、アゴに掌底を叩き込む。
あんぐりと口を開ける4人の目の前を、邪神が凄まじい勢いでブッ飛んでいき・・・。それをビシッと指差しながら、スズノは続けた。

「・・フン。魔狼だかなんだか知らないけど・・このスズノ様を倒そうだなんて、なかなかいい度胸じゃない・・。
 本当はこの週末・・横島とタマモ姉様の3人で、町内揚げ物巡りツアーを予定してたのに・・。アンタのおかげで全てがパーよ!」

もしかしなくても、恐ろしく性格が攻撃的になっているスズノに、美神が顔を引きつらせ・・。
シロに至っては、『犬っころ』という言葉に反応して、端の方でびくびくうずくまっている。

「な、なんなの?一体どういう・・」
「前に、スズノの性格が変わったことがあるって・・・横島くん、言ってたでしょう?
 もしかしてリミッターが外れると、自動的にあっちの性格に切り替わるんじゃあ・・・・」

本人に聞かれないよう、ボソボソと会話しながら目を向けると、依然、フェンリルは宙を舞い上がったまま・・。
ボーリングのピンのように、ボキボキとビルを破壊し、ついには地面へと墜落する。

「・・・・。ここじゃ被害が増えすぎるか・・。仕方ないわね。ついてきなさい、狼さん」

苦虫を噛み潰し、そう漏らした後・・スズノは周囲の空間を歪め始める。
3週間前、暴走時の一件でそうしたように・・フェンリルを固有結界へと誘い込むつもりなのだ。

「・・・・ん。」

かすかに微笑み、4人に向かって目配せする。闇の中へと消えるスズノと、それに黙ってついて行くフェンリル。
・・気のせいだろうか?ほんの一瞬、魔狼がため息をつくような仕草を見せたのは・・。

(?まさか・・まだ意識が残ってる?)
驚く美智恵の表情を一瞥して、彼もまた、結界の向こうへと消えていった――――――。





「・・・それで、どうしようか?これから・・」

自動ドアが開く。
紆余曲折を経たものの、なんとか25階にたどり着いたエレベーター。頬をかきつつ尋ねる美神に、一同は一斉に首をかしげる。

「・・とりあえずは、階段を使って上、ね。気になることもまだ残ってるし・・」
そう言って、美智恵がチラリと天井を見据え・・。非常階段を探すため、その場は一時散会となった。


「・・・スズノちゃん・・」

「あの子のこと・・心配?」

不安げにつぶやくおキヌの隣で、美智恵が小さく微笑を浮かべる。
窓から吹き込む掠れた風が、2人の髪を揺らしていき・・。

「3日前、パピリオちゃんから聞いたんです・・。『スズノが突然大人になった』って。
 でも・・その時は、性格が変わったなんて一言も言ってませんでした。」

「・・・。」

「だから、思ったの・・。もしかしたらさっきのは、スズノちゃんが私たちを安心させるための強がり・・・演技だったんじゃないかって。」

・・気づくのが遅かった。最後の、あのいつもと変わらない笑顔を見るまでは・・そんなこと夢にも思わなかった。
目を伏せるおキヌを励ましながら、美智恵は外の景色へ目を向ける。

・・霊力、身体能力、そして持久力・・。こと戦闘に関する項目を比較すれば、スズノに負ける要素など、何一つ無い。
彼女の力はフェンリルはおろか、おそらくはあのアシュタロスのすら比肩するだろう。

(だけど・・・)

美智恵は思う。『あの子は優しすぎる』と。
爆弾や、血の通わない黒い人形・・・そんな無機物が相手でも、スズノは闘うことを躊躇する。
ましてやそれが、現し身を持った相手ならば・・。

「・・・・。」
拭えない不安。しかし、今は歩を進めなければならない。
上で一体何が自分たちを待っているのか・・それも分からない。それでも今は・・・・

                                     
                                ◇


「分かれ道・・か。」

蟲たちの残骸が転がる、せまい十字路。暗緑色の血液が、そこらかしこに飛び散っている。
立ち止まった西条につられる形で、横島も思わず足を止めた。
施設の空気が黒く、淀む。
・・最深部が近いことは、どうやら明白のようだ。自分たちが来たときには、すでに通路にはこの惨状が完成していたのだから。

「・・で、と。どっちに進めばいいんだ?早くしないと敵さん、待ちくたびれちまうぜ?」

こうはなりたくないもんだ・・と。そう思いながら横島は、蟲たちの死骸に手を合わせる。
容赦なくバラバラにされていることから見て取ると、怪物たちとイーターは、別段協力体制にあるわけではないらしい。
・・それにしてもひどい殺し方をする。


「・・僕は右。君は・・左だろうな。」
「?なに言ってんだ?お前・・。」
                   
突然、トンチンカンなことを言い出す西条に、横島は思わず顔をしかめて・・。
苦笑を浮かべた西条は、首を竦めて、壁に寄りかかる。

「このまま先に進んだところで、そこにはタマモくんも美冬ちゃんもいない、ということだ・・。
 もしも彼女たちが居るとすれば、それはまだ僕たちが探していないD区画か・・・」

あるいは、外か・・・。
言いながら、西条は通路にかかる赤い標識をアゴで指した。そこには、蛍光塗料で記された文字で、こう・・。

   『 巡回用非常通路 ←左      右→ 動力室   』

・・・。

「各区画と外に直通で繋がる非常口だ。遠回りにはなったが、結果的に時間は短縮できるだろう。」
「・・って、お前・・。まさか初めからそのつもりで・・」
「・・・タマモくんも、美冬ちゃんも、君に助け出された方が嬉しいだろうからな。白馬の王子役は君に譲るよ。」

まじまじとこちらを覗き込んでくる横島。西条は無言で、服のホコリを払い落とす。
・・彼と自分とでは、ここに居る目的が一致していない・・。それは分かっていた。
横島にとっての最優先事項は、あくまでタマモと、神薙美冬を見つけ出すこと。そして、自分は・・・。


「・・過去の因縁には、自分一人でケリを着けたい・・ってか?」

「違うな・・。単なるアフターケアさ。自分勝手な感傷に対する、ね。」


尋ねる横島に、西条は皮肉げに首を振ってみせる。
ポケットに手を突っ込んだまま、落ち着いた声音で・・。そんな様子に、横島は一つ笑みを作った。

「イーターが相手だかなんだか知らんが・・もし敗けるようなことがあったら、あの世にまで殴りに行くからな。そのつもりでいろよ?」

「・・軽く捻ってやるさ・・。君の方こそ、足元をすくわれないように気をつけたまえ。」

へらず口を叩いた後、打ち付けるような勢いで互いの腕を交差させる。
気づいた時には、すでに横島は逆方へ向かって走り出し・・・西条はそれに背を向けていた。

行く先に待つのは禍々しい殺気を放つ屍の山。

自分には似合いだ・・。
薄く唇を吊り上げながら、西条は闇に満ちた通路を歩き出すのだった。


『あとがき』

メリークリスマス!!!(爆)どうも〜かぜあめです、皆さんいかがお過ごしでしょうか?
せっかくのクリスマスなのに、出来がイマイチですいません(汗)
スズノは久々の大人バージョンですね。彼女はもとが気弱な性格なので、ピンチになると自分の中で役を作ってしまうクセがあるみたいです。
まぁ、今回は自覚を持って演技してたみたいなので、20話では元に戻りますが・・(笑
タマモのキスはですね・・実はもっと過激だったんですよ。
プロットの段階では、たしかこう舌が入っていって、タマモが「ハァハァ(以下略)ソフトに改定されてます(笑
横島と西条が分かれ道に差し掛かり、西条と間下部の激突も迫っています。今回はメインキャラの1対1バトルを書きたかったもので・・。
横島のラストバトルも1対1です。ほんとのほんとに最後のあたりなので、横島ファンの方はヤキモキしてしまうかもしれません(汗 

それでは〜次回、おそらくは、西条VSイーター戦開幕になると思いますのでご期待ください〜
最後に、各オリキャラの少しモチーフなんかを挙げてみたいと思います。

《あくまで、モチーフなので外見は必ずしも一致しません(汗)》

読者の皆さんがそれぞれ描いている外見で正解なのだと思います〜
ドゥルジ・・・分かる方がいるかどうか微妙ですが、「『鬼畜王ランス』の魔人ホーネットさま」(って18禁ゲーかよ>オレ)
イーター・・・外見のイメージは、漫画版『GOTH』の「僕」。性格は・・う〜む。。ダークな人って感じなので特にはないですね・・(汗
ユミール・・・特になし(ごめんよ、ユミール(泣))

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa