ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-5- ねばーぎぶあっぷ!


投稿者名:いすか
投稿日時:(04/12/24)

「特訓はしばらく令子ちゃんと円(えん)ちゃんにまかせて〜。私はおうち見つけないと
ね〜」

 白鳩の式神、円の使用方法を令子に教え、冥子はどことなしに不動産を練り歩いていた。
円には体内の霊気の流れを整えるには打ってつけの能力を持たしているので、一週間もす
れば横島も自分の体内に流れるチャクラを感じることができるようになるはずである。な
らばと、今のうちに住居を構えようとしたのだが……。

「いらっしゃいませー。どのような物件をお探しですか?」
「ん〜、大きな家がいいわね〜」
「えー、具体的にどれ程の?」
「都内で〜、お部屋は10個くらいで〜、できたら庭と大きなキッチンがあるような〜」
「ちょ、ちょっと我が社ではそのようなお屋敷は……」

 といった具合である。
 お嬢様育ちで、世間の水に慣れ親しんでいない冥子の要求を満たすような住居など、そ
うそう見つかるものではない。金額的なものは妙神山からのバックアップがあるため問題
ないのだが、ないものはない。東京都内の土地事情は一筋縄ではいかないのだ。

「ふ〜、ちょっと休憩」

 三件、四件と不動産を訪ねたが、思うように成果が上がらず、何故か声をかけてくる多
くの男性をあしらうことばかりで疲れてしまった。

(男の人って暇なのかしら〜?)

 この年頃の娘さんは全くといっていいほど自覚がないが、今の冥子は男女問わず注目を
集め、羨望と嫉妬の一身に受けているのだ。未来での三年間の厳しい修行は、お嬢様育ち
だった冥子の華奢な体に、遅い成長期をプレゼントした。
 170cmを少し越えるくらいの細身の長身に、それを際立たせるような細く長い手足。以
前はどこか幼げだった顔付きも、余分な肉が適度に落ちシャープさを感じさせるものとな
っている。透き通るような白い肌はそのままに、長く伸びた黒髪がよりいっそう彼女の美
しさを際立たせていた。
 「かわいい」というよりは「可憐」、「美人」というよりは「美女」。
大人の女と成長した冥子だったが、悲しいかな、その成長を目の当たりにしてきた男は未
来の横島と師匠であるハマヌンのみ。そういうわけで冥子は己の成長による見目の変化に
全く無頓着なのだ。
 タイトパンツに包まれた長い足をもてあまし、冥子はどうしたものかと空を見上げた。

(お家ほどじゃなくても〜、せめて令子ちゃんの事務所くらいほしいわね〜。今の事務所
じゃなくて、元の世界の……)
「あ〜〜!!」

 そこまで考えて冥子は思い出した。さっきまでの疲れた足取りはどこへやら、一挙動で
立ち上がりそのまま全力疾走。あの場所はよーく覚えている。旧渋鯖男爵邸、今は一人の
人工幽霊が管理する屋敷へと冥子は向かっていった。



          ◇◆◇



「ちゃんと人工幽霊一号はいるみたいね〜」

 屋敷の前に立ち、霊視を行いながら口ずさむ冥子。その声に反応したのか、テレパシー
で冥子に呼びかけてくる声が聞こえた。

『私のことを知っているのですか?』

 冥子もよく知る声音。人工幽霊一号だ。久しぶりの再会に冥子は頬を綻ばせるが、むこ
うにしてみたら初対面の相手だ。

「はじめまして〜、渋鯖人工幽霊一号さん。あなたにお願いがあるんだけど〜、聞いても
らえる?」
『お願いといわれましても、私はこの屋敷から出ることもできませんよ?』

 冥子の突然な願い出にも紳士的に答える人工幽霊一号。

「ん〜とね、私、今お家を探してるんだけど〜、あなたさえ良ければここに住まわせて欲
しいの〜。もちろんお金は払うわ〜」
『お金は別に構わないのですが、私はもう自己維持霊力が尽きかけています。霊力を供給
していただかないと、この屋敷を維持することすら難しくなっています』
「え〜と、どれくらい?」
『維持するだけでしたら一日あたり5マイトもかかりません。それでも貴女のような一般
人にはつらいと思いますよ』

 このとき冥子は周囲に影響を及ぼさないように、霊力を一般人並の10マイト程まで抑え
ていたため、人工幽霊一号には冥子が普通の成人女性と見えたのだろう。冥子はとりあえ
ず100マイト程霊力を開放して改めてだずねる。

「これくらいなら平気〜?」
『……素晴らしいお力をお持ちですね。十分過ぎますよ。一般の方でしたら、なんとかお
帰り願おうと思っておりました』
「じゃあ、住まわせてくれる?」
『こちらからお願いしたいくらいです。よろしくお願いします。失礼ですがお名前は?』
「あ、ごめんなさい〜。熾恵、妙神山熾恵よ〜。よろしくね〜」
『熾恵オーナー、改めてよろしくお願いいたします。二階の執務室に必要な書類を準備し
ましたので取りに来てください』
「は〜い」

 人工幽霊一号の気配が消ええると、冥子もテレポートで瞬時に移動する。突然、執務室
に現れた冥子に、人工幽霊一号は惜しみもない賞賛の声をあげた。

『実に素晴らしいです。貴女のような女性にオーナーになっていただけると思うと嬉しく
て仕方ありません』
「ふふ、ありがと。この椅子に座ればいいのかしら?」
『はい。それで私との契約は完了です』

 冥子は言われたとおりに促された椅子に腰掛ける。その瞬間、廃屋同然だった屋敷がま
ばゆい光を放ち、瞬く間に修繕された。感慨深げに内装が変化していく様を見ていた冥子
に男性の声が掛けられる。

「オーナーの嗜好にあわせて多少、模様替えしました。システムキッチンも完備……どう
しました?」

 修繕が終わった部屋の真ん中に直立不動で立ち、冥子に言葉を投げかける男性。首の後
ろあたりで纏められた黒髪と、冥子よりも10cmは高いであろう長身が印象的だ。極々、
当たり前の質問を冥子はその人物に訪ねる。

「あなた、だ〜れ〜?」
「渋鯖人工幽霊一号ですが?」

 その男性は簡潔かつ明確にそう答えた。



          ◇◆◇



 人工幽霊一号自身も、冥子に言われて自分が幽体化していることに気付いたらしい。彼
の分析によれば、冥子の霊力が非常に大きかったため、こうなってしまったのだろうとの
こと。多少驚きはしたが、冥子にとっては別段気にすることではない。

「じゃあ、名前決めなきゃね〜」
「名前ですか?」

 冥子にとってはこっちのほうが重要らしい。冥子いわく、彼を人工幽霊一号と呼ぶのは
違和感があるようだ。(作者がタイピングするのが面倒くさいというわけではない)

「ですが、私は戸籍に渋鯖人工幽霊一号となっていますよ?」
「書類上は仕方なくても〜、呼び方くらい考えないと〜。渋鯖……うん! 渋鯖幽一さん
で決定〜! これから幽一さんって呼ぶからね〜」
「はあ、確認しました。ところでオーナー」
「な〜に〜?」
「私がこのような外見をとったのはオーナーの意識下の影響によるものだと思うのですが
……」
「やっぱり〜? 幽一さん、私の知ってる人に似てるな〜って思ってたのよ〜」
「? どの様な方なのです?」
「強い人よ〜。霊力はもちろん人としてもね〜♪」

 嬉しそうに語りだす冥子。傍から聞いていれば惚気以外の何物でもないのだが、幽一は
逐一相槌を打ちながら冥子の言葉を聞き続けている。十数分も話が続き、冥子がトリップ
し始めたころに、幽一がぽろっと口を開いた。

「オーナーはその方を愛しておられるんですね」

 ボボボボボンッ!!
 彼にしてみれば率直な感想を口にしただけなのだが、どうにもこのオーナーは年齢とは
不相応に恋愛に関して初心らしい。急に口をつぐんで指をあわせてモジモジとしている。
顔は茹で上がったタコのように赤く染まり、湯気まで出ている有様だ。
 そんなオーナーを苦笑しつつも不憫に思い、幽一は軽く激励しようと声を掛ける。

「大丈夫ですよ。オーナーは十二分にお美しい。その方もオーナーに好意をもっておられ
ると思いますよ」
「でも〜……」
「自信を持ってください。貴女の心を真っ直ぐにその方に向ければよいのです。きっと受
け入れていただけますよ」
「うん……そうだと思うんだけど〜……ダメなの〜」
「駄目、とは?」

 幽一は一般的な人間の恋愛というものしかインプットされていないが、冥子の話し振り
からするに、相手も彼女に対してしっかりとした愛情をもっている。どこにも問題は無い
ように思えるのだが、幽一の考えとは裏腹に冥子は見る見る落ち込んでゆく。どうしてい
いか分からず直立不動の幽一だったが、搾り出すような冥子の声が彼の耳に届いた。

「私には……受け入れてもらえる資格が無いの……」
「どういう意味ですか?」

 彼女にこれ以上何を求めるというのか?
 力も、容姿も、愛情も。その男にとって冥子以上の女性など皆無だろう。幽一の何気な
い疑問に、冥子は涙でかすれ消え入りそうな声で答えた。

「っ! 申し訳ありません!!」

 冥子の言葉を聞き取り、幽一は即座に深々と頭を下げた。なんと自分は愚かだったのか。
幽体となることができ、浮かれていたのかもしれない。自分の軽い気持ちが目の前にいる
女性をどれだけ傷つけてしまったのか。心底、幽一は悔やみ、深々と頭を下げることしか
できなかった。
 なんとか泣きやんだ冥子が、頭を下げる幽一に「気にしないで」と声を掛ける。

「大丈夫よ。私だって諦めてないから。絶対、みんなで幸せになるって決めたのよ〜」
「私もできる限り助力します。本当に、申し訳ありませんでした」
「ううん。幽一さんのおかげで私の気持ちが確認できたわ〜。やっぱり諦められないって。
改めて、これからよろしくね〜」
「はい……」

 この時、人工幽霊に過ぎない彼に、ひとつの確固たる自我が生まれた。この女性の幸せ
のために、自分は渋鯖幽一として彼女のために尽くすのだと。




(後書き)
 なんでこんな話に……。プロットには「冥子が渋鯖邸に住む」としか書いてないのに。
いろいろ伏線張ってるつもりですが、ちゃんと伏線になってるか心配です。もうバレバレ
ではないのかと小一時間。ほのかに匂わせながらっていうのが理想なんですが、そんなこ
と自分で分かるわけもなく。なんかへたってますが、がんばって書き続けますのでこれか
らも御贔屓の程、よろしくお願いいたします。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa