ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 32〜妙神山の休日〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/23)

「よお鬼門達、久しぶりだな。」

横島がそう声を掛けながら、妙神山の門番である左右の鬼門に近づいて行く。
タマモはそんな横島に無言で寄り添っている。

「「おお横島兄妹か、久しぶりだな。姫様達は中じゃ早く入れ。」」
「久しぶり鬼門さん達、あけましておめでとう。」

横島兄妹、と呼び掛けられたので、タマモも一応挨拶を返す。
その反応に気付いた横島が、嬉しそうにタマモの頭を撫でている。
ところが、そのまま中に入ろうとしない。それどころか腰を落として踏ん張っている。

「何してるの?」
「いや、いつもならこのタイミングで、パピリオのブチかましが来るんでな。」

どうやらいつもここでパピリオにフッとばされるので、今日こそは受け止めるつもりだったらしい。
だがどうやら今日はこないようだ、そう思い、中に入ろうとした瞬間に、

「ヨコシマ〜〜〜っ!!」 ドゴォッ!

完全に気を抜いた瞬間だったので、モロにくらってしまいフッ飛んで行く。
門の内側の陰に潜んでいたのだろう。殺気でもあれば気付いたろうが、パピリオにそんなものは無い。
そこにあるのは親愛と慕情だけだ。タマモの横を砲弾のように飛んで行く。

「ヨコシマ〜〜来るのが遅いでちゅよ。ずっと待ってたんでちゅ。」
「お・おう、すまんなパピリオ。遅くなっちまった。」

ともすれば手放しそうになる意識を無理矢理つなぎとめながら、頭を撫でてやる。
六道家に年始の挨拶に行った時に、ナルニアの一件を受けた為、今日まで顔を出せなかったのだが、
そのせいで淋しい思いをさせたのかと申し訳なく思っていると、

「まったく、パピリオ、貴女という人は何度言ったらわかるんですか?」
「そ・そうよパピリオ!いつまでしがみついてるのよ!?」

呆れたように声を掛けながら、小竜姫が出て来るのを見て、ようやくタマモが我にかえった。
タマモがパピリオを引き剥がしている横で、小竜姫が横島を助け起こしている。

「お久しぶりです小竜姫様、相変わらずお美しい。挨拶が遅くなってすいませんでした。
あけましておめでとうございます。今年もこの不肖の弟子をよろしくお願いします。」

横島がそう尋常に挨拶してくる。その顔を見て小竜姫は違和感を感じた。前に会った時とは明らかに違う。
だが悪い方への変化では無い。何より以前の危うさ、儚さが無くなっている。
あの自虐的な、自分に死を赦さない死にたがりの空気はまったく感じられない。
世界と繋がっている事に、自分で気付いたのだろう。信じて見守り続けて良かった、と心から安堵する。
後の方でパピリオといがみ合っている少女のおかげだろうか。

「あけましておめでとう横島さん、お元気そうですね。」

そう言ったまま、余計な事は何も言わない。ただ優しい目で見つめてくる。話したければどうぞ、
という事なのだろう。こちらの内面の変化などお見通しらしいと思うと門をくぐる前の自分の逡巡が
なんとも馬鹿らしく思えてくる。自分が精神的には未だに師匠の手の平の上にいると自覚すると
なんとも気恥ずかしいものがある。そんな横島の元に二人の少女が競うように駆け寄ってくる。

「ヨコシマ、私には挨拶してくれないでちゅか?」
「あけましておめでとう、小竜姫さん。それとパピリオ、今日こそ負けないからね!」
「ふん、生意気な、返り討ちでちゅ。」

駆け寄ってくるや否や、マシンガンのような言葉の炸裂だ。横島は小竜姫に対するタマモの態度が
和らいでる事に気付いたが、とりあえず挨拶の方を優先すべきと思いパピリオに笑いかける。

「あけましておめでとうパピリオ、今年もよろしくな。」

その様子を背後から見ていた小竜姫も、もちろんタマモの態度に気づいたが、おそらく横島の変化と
関係しているのだろう、と推測していた。そして彼女は礼儀に関してはきちんとしていた。

「あけましておめでとうタマモさん、折角来たのだから中に入ってくつろいで下さい。」

そう声を掛けて横島と並んで部屋へと向かう。後から足音が追いかけて来たかと思うと、あっと言う間に
追い越して行き、押し合いへしあいしながら、最後は全力疾走になっている。

「相変わらずだな〜あの二人は。」
「決して仲が悪い訳ではないのですけどね。」

そんな会話を交わしながら、年長組はゆっくりと歩いて行く。
雪之丞の事が気に掛かっていたので尋ねてみると、老師と加速時空間での修行の為この五日間というもの
こもりきりらしい。あの二人でこもってるなら食生活は悲惨だろう、そう考えているとそれを見透かした
ように妙神山に戻っていたジークが一緒にいる事を小竜姫が教えてくれた。魔界軍の少尉は料理番らしい。

部屋に着くと、ゲーム機の準備に余念が無い二人が互いを挑発している。
それを見ながら、忘れないうちにと横島が土産物を取り出す。最初に老師宛のゲームソフトとバナナを
預かってもらう。それから気に入ってもらえるか、不安に思いながら小竜姫にスカーフを渡す。
やや緊張しながら感想を待つ間、広げたり畳んだりして見ていた小竜姫が嬉しそうに話し掛けて来る。

「さすがですね横島さん、この絹布なら竜気を込めれば剣にも盾にもなるでしょう。身に纏う布一枚が
生死を分ける事もあります。そこまで理解してくれていたとは、私は嬉しいです。」

スカーフ本来の用途とはかなり違う評価のされ方だが、喜んでくれているので問題無い。
何やら過大評価されているようだが、今更正直に話して表情が曇るのも見たくない。惚けてしまおう。
パピリオがこちらの様子に気付いて近寄ってきた。

「私へのお土産はどれでちゅか?」

そう聞いてくる。信頼しているのか自分の分が無いなどとは、思ってもいないのだろう。
つくづく忘れずに良かったと思いながら、大きな容器に入ったハチミツを手渡すと大喜びで味見しだした。

「むう、まったりとコクがあり、それでいて少しもクドくない。これは人界でも最高級品質のハチミツ、
ナルニアキングダムハニーでちゅね!」

激しく下界の文化に毒されたような台詞を吐いている。大体品名に関してはラベルの丸読みだろう。
それに気付いてないのか、タマモが驚いたような悔しいような表情をしている。横島のハッタリなどは
すぐに見抜きそうだが、パピリオとは常に同じ目線で張り合っているせいか気付かないようだ。

「ふふ〜ん、これはヨコシマから私への贈り物でちゅ。誰にもあげないでちゅ。」

パピリオが自慢気にタマモに見せびらかしている。それを見たタマモは何かを思いついた顔になった。

「ふっ、そんなので喜んでいるようじゃ、まだまだ子供ねパピリオ。私なんか指輪もらったんだから!」

宣言するように言い放つと、指輪を嵌めて見せ付けている。左の薬指につけて。ちなみにサイズはブカブカだ。
だがそれに気付かないパピリオは血相を変えている。一方小竜姫の方はというと、

「そう、そうですか横島さん。それが貴方の選択なら、私は心から祝福しましょう。本当に良かった。
貴方の人生における決断ですもの、誰も責めたりなどしませんよ。ああ、嬉しい、今日はお祝いですね。」

血相を変えて詰め寄って来るパピリオ、それを楽しそうに見ているタマモ、涙ぐみながら祝福してくる小竜姫。
それを見た横島は混乱の極みにあった。確信犯のタマモと、まんまとそれに乗せられているパピリオ。
それはまあ、予想の範囲内だが、まさか小竜姫が一足飛びにそこまで誤解するとは思ってもいなかった。
自分がそこまで心配を掛けていたのか、と思うと申し訳無さで一杯になるが、今はそれどころではない。
だがムキになって否定するとタマモが傷つくかもしれない。どうしたものかと悩んでいると、

「この指輪、一生大切にするね、お兄ちゃん。」

とどめとばかりにパピリオを見ながら横島の腕に抱きついてくる。パピリオは頭から湯気が出そうな様子だ。
だがこれを聞いて小竜姫が不審そうな顔になる。血が繋がっていなければ兄妹間で婚姻を結んでも別段、
おかしくはない。だが人生の伴侶に対する呼びかけに”お兄ちゃん”はおかしくはないだろうか?

その表情に気付いた横島が、チャンスとばかりにタマモに精霊獣を呼び出させる。タマモも充分に
パピリオをからかって気がすんだのか、おとなしく呼び出してくれる。それを見て大まかな事情に
察しがついたのか、小竜姫が少し残念そうに納得している。パピリオが収まらないのを見て、

「落ち着きなさいパピリオ、その指輪は守護者として、横島さんがタマモさんに渡した物ですよ。」

それを聞いてピリオが一旦矛を納めるが、”指輪を貰った”という事実は変わらない。

「ヨコシマ、私も指輪が欲しいでちゅ。」

上目遣いで目を潤ませながらそう言ってくる。これも下界の文化から身につけたテクかと思いながら
今度こそ途方にくれた。さすがに指輪など用意していない。だがパピリオとて横島にとっては妹同然だ。
タマモにあげた以上は、やはり何か指輪をあげた方が良いのだろうが、この場に無い以上どうしようもない
かと思った時に、ハチミツが目に入った。ひとつのアイデアが閃く。

パピリオの薬指をハチミツの容器につけて、陰陽文殊を生成する。刻む文字は《精製》、続けて単文殊を
三つ生成する。刻む文字は《結》《晶》《化》これらを同時発動させる。横島のイメージに従い
力が注ぎ込まれる。痛みなどを感じさせないよう、細心の注意を払いながら、頭の中で思い描いた通りの
形を実際に結実化させる。ハチミツの量がかなり減った頃にはパピリオの薬指には、蝶を象ったデザインの
指輪が完成していた。色は文字通りのハニーゴールドだ。パピリオは大ハシャギで喜んだが、今度は
タマモが不機嫌そうにしている。二人の間の火花は更に激しくなり、ゲームで決着をつけるようだ。

「横島さん、過去においても未来においても、貴方のような使い方をする文殊使いは皆無でしょうね。」

呆れたような声が小竜姫から掛けられる。横島としては苦笑するしかない。確かに馬鹿な使い方だろうとは
思う。だが無駄な使い方とは思わない。パピリオが喜ぶのなら、自分にとっては正しい使い方なのだ。

「いやあの、今回仕事のついでにナルニアの両親にタマモも連れて会いに行ってきたんですよ。
そこで色々と考えたっていうか気付いた事とかあって・・・。」

横島が訥々と語りだす。小竜姫は無言でただ聞いている。愛弟子からの懺悔のような告白を。

新しくタマモが増えた、家族の絆に支えられている自分に気付いた事。
同時に家族以外の大勢の仲間達の温かい想いにも包まれていた事に気付いた事。
その中で最も自分の事を案じ、優しく温かく包み支えてくれた妙神山の、自分にとってもうひとつの家族。

「そんな訳でようやく、というか、遅ればせながら、というか、なんとか前を向けそうです。
答えはずっと目の前にあったのに、気付くまでこんなにかかるなんて全く・・・遠回りしたっていうか、
無駄なまわり道っていうか、本当バカですよね・・・俺は・・・。」

そう自嘲的に、あるいは甘えるように、横島が言葉を結ぶ。

「例えまわり道であっても、その道のりは総て貴方の糧になります。無駄な事などひとつもありません。
遠回りの結果、得る事の出来たものは貴方にとって必要なものでしょう。何も間違ってなどいませんよ。」

小竜姫の力強い言葉が横島の心の奥まで染み込んで来る。あるいは自分は、小竜姫にこう言って欲しくて、
甘えてみたのだろうか。そう思うと急に、自分がガキに戻ったような気がして気恥ずかしかった。
実際、小竜姫から見たら横島など目の離せない少年のような者かも知れない。

「あ〜〜、・・・ありがとうございます。あと、心配掛けっぱなしですみませんでした。これからも何とか
やってくつもりですんで、もしまた馬鹿な方向に行きそうになったら、もうブン殴って下さい。」

照れたような様子なのは、素直になるのが恥ずかしいのだろう。そんな弟子の様子がなんとも年相応で
可愛らしい。だが弟子とは言え、仮にも男に向かって可愛いなどという表現は避けるべきだろう。

「別に殴ったりはしませんが、弟子を見放す師などおりません。それよりも今の言葉、ちゃんとパピリオや
老師にも自分の口から伝えて下さいね。心配していたのは私一人じゃないんですよ?」

そう言われると何も言えない。だが勝負に熱中している今のパピリオには声を掛け辛いし、
老師はこの空間にはいない。そんな事を考えている時に丁度、老師が部屋に入ってきた。その後からは、
意識を失っているらしい雪之丞をジークが背負って入ってきていた。小竜姫が心配そうにしているが、
単なる過労らしい。老師と目があったので、挨拶しようとしたら、機先を制された。

「おう、久しいの横島。お主がおるとはちょうど良かった。文殊でこやつの疲れを癒してやれ。」

そう命じられたが、先程既に四個使っている。ストックは帰りの転移の分の陰陽文殊1個だけだ。
新たに生成するのも結構疲れる話だと考えていると、

「よ・こ・し・ま・さん?」

威圧感に満ちた小竜姫の声が聞こえてきた。何せさっきの文殊の使い道を見られてる。
パピリオの指輪の為には使えて、雪之丞の疲れを癒す為には使えないのか、と怒っているのだろう。
だが横島にも言い分はある。雪之丞の疲れは放っといても回復するが、パピリオの指輪は放っといたら
ハチミツのままだ、同列にはできない。だが師匠の言葉には逆らえない。仕方なく回復させる。

「あれ?おう、横島じゃねえか。何時来たんだ?」

そう尋ねてくるが、応えるよりタマモが駆け寄って来る方が早かった。

「お疲れ様雪之丞、あとただいま。お土産買ってきたの、気に入ってくれるかな?」

見ると、何時の間にやらゲームが中断している。老師達が入って来たのに気を取られていたのだろう。
余程みやげを渡すのが楽しみだったのだろうか?考えてみれば今までに、誰かに土産を買うなど
経験した事がなかったのだ。一刻も早く手渡したかったのだろう。

雪之丞が受け取ったのは皮革製の財布だった。普段の雪之丞は財布を持ち歩かない。ポケットに適当に
現金をねじ込んでいるだけだ。弓あたりから煩くいわれてはいるのだが、面倒だと放置していた。
そんな雪之丞を気遣って、買ってきてくれたのだろう。弓など確かに女性らしい面もたくさんあるのだが
生憎こういう気配りとは無縁だった。それだけに雪之丞の嬉しさもひとしおで、いそいそと、置いてあった
服のポケットから現金を移している。財布に全部移し替えた後、笑顔で、

「ありがとなタマモ、大事に使わせてもらうぜ。」

そう応えていた。
その間に置き去りにされていたパピリオに纏わりつかれたまま、老師とジークに新年の挨拶を済ませた
横島は、改めて感謝の言葉を伝えていた。

「あの老師、パピリオ、今まで色々とすみませんでした。何かが解ってきたような気がしますんで、
これからもお見捨てなく、お願いします。」

そう言うと老師は何を言われているのか解らないような、惚けた顔をしてバナナを食いだすし、パピリオは
嬉しそうに、本当に嬉しそうにしがみついてきた。ジーク一人が訳が解らない顔をしているが、
最初から説明するのも恥ずかしいので放っておいた。


その後は結局酒宴になった。最初はジークの用意したワインを飲んでいたが、あっという間に7本が
空になる。一人頭1本の計算だが少女二人がゲーム勝負を続行している為、1本以上だった。
次に老酒が出て来たのだがこれがキツかった。神魔の三人は酔った気配も無い。横島達は酒には強い方
ではあるが、あくまでも人間としてだ。こんな相手に付き合わされては沈没してしまう。

男二人で這いずるようにしてゲームの場所まで逃げ出した。だがここに来た以上はゲームに参戦しなければ
ならない。男二人が来たので色々な組み合わせを試したが男達は一勝もできない。だいたい酔いに
目が霞んでまともに画面を見る事もできない。以前のように文殊で酒精分解したくても、ここまで酔うと
新たに生成もできない。

最後には2対2のタッグ戦になり男女に分かれたが、一方的にボコられるばかりだった。
いつのまにやらタマモとパピリオの二人の息はピッタリと合っており、パーフェクトに勝利した時などは、
ハイタッチなどしている。負けっ放しはシャクに触るが、二人が仲良くなるのは素直に嬉しい。

何より重要なのは、ここで負け続ける限りは飲まされずにすむのだ。
だがそれもそろそろ限界だった。これ以上酔うと転移できなくなる。普段なら泊まれば良いだけなのだが
明日からは新学期だ。始業式からタマモにサボらせる訳にもいかない、という理由をタテになんとか、
老師を納得させた。女性陣との名残は尽きないが、キリがないので自宅へと転移した。

なんとか三人分の制御はできたが、正真正銘の限界だった。
ここまで精魂尽き果てたのは実戦でもそれほどは無い。雪之丞はなんとか部屋まで行きついたが
横島はそのままリビングでブッ倒れてしまった。タマモは随分心配していたが、一人では運べないので
仕方無く毛布を掛けて自分も部屋に引き取った。

結局横島の泥のような眠りは、次の日の早朝、彼の弟子による頭の割れるようなノックの音で破られる事になる。






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(あとがき)
はぁ〜〜新学期までいけなかった。派手にイベントを起こしたかったんですが届きませんでした。

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