ザ・グレート・展開予測ショー

GS新時代 【鉄】 其の四 3


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(04/12/23)


「妖狐と人狼は預かった、返してほしくばその少女をよこせ」
汰壱は絶句した。

今自分の置かれた状況に

最悪の状況になった。

だが思考を止めない、どんな状況下であっても思考を止めてはいけない。
すぐに携帯を取り出し、留美に掛けさせる。
まずは確認である。敵に言われた言葉を鵜呑みにするほど、汰壱は馬鹿ではない。
タマモへの電話・・・・・・

ピンイロピンピンピーンーン。

不意に汰壱の一番近くのピエロから着信音が響いた。
緊迫した空気そぐわない間の抜けた音が響く。

ピエロはゆっくりと携帯を取り出し、汰壱の眼前に突きつける。

・・・・血の着いたタマモ携帯だった。
電話の向うから、留美の呼びかけが聞こえる。


「意味が解っていないようなので、もう一度言う・・妖狐は人狼は預かった、返してほしくば
その少女をこちらによこせ。」




タマモは間違いなく捕まっている。あの携帯は見覚えがあったし、掛けさせた番号も間違いはない。
この分ならばシロもおそらくは捕まっている。

ギリィ

「二人は無事なんだろうな」
怒りを押さえながら、問いかける。
ここで感情に流されてはいけない。激昂すれば相手の思う壺だ。
わざわざ血の着いた携帯を見せてきている。みえみえの揺さぶりである。
「お前のでかたしだい・・だ」
機械のように感情の篭らない声が答える。

他の十数人ピエロたちはいずれも周りを取り囲んだまま、こちら監視している。

「お前が余計なことをしなければ無事に帰してやる」

「信用できんね」
吐き捨てるように答えた。
「信用するもしないも、勝手だ、言っておくが我らと戦うのはやめたほうがいい。先程までお前の行動を監視させてもらったが
貴様では精々二・三匹葬れるかどうかいうとこだ。断言する、不可能だ諦めろ。」
「ぐっ」
その言葉、憶測や推論ではなく、客観的な事実のみを述べた言葉だった。
「その少女を渡しさえすれば、見逃してやる。無駄な足掻きは、止すんだな。」
言葉が詰まる。相手に断言される。【不可能】という言葉・・・
何とか打開策を考えるが、その言葉に自分の脳の動きが鈍くなる。

自分の後ろいる留美が震えていた。さっきまでまるで取り合わずにいた。自分の危険が眼前に突きつけられて震えていた。

(クソッ!!監視されていたいたのに気付かないなんて、間抜けすぎる。それにこいつら、一対一なら何とかなるが、
包囲されてるこの状況、後ろにいる嬢ちゃん、手持ちの武器じゃ話にならない。あいつらの言うとうり二・三匹が限度・・・・
・・・・・)







自己嫌悪に陥りながら、この状況の悪さを再確認して悪態をつく、頭が靄がかかりそうになる。
逃げることも戦うことも出来ないこの状況で、戦うという選択はもっとも最悪の選択である。
なぜならば戦うのはこちらが、勝てる見込みがあるからこそ戦うのである。
この状況を強引に覆すほどの戦闘力を汰壱は持ってはいない。それに戦えばシロとタマモの命が危ない。
自分が敗れ、留美が攫われ、シロもタマモも死ぬというのが最悪のケースである。
これだけは絶対に避けなければならない。

逃げることは不可能ではない、端的に言ってしまえば、汰壱はこの囲いを突破する自身はある。倒すのでない不意をつきさえすれば、
一匹を倒しそのまま脱兎の如く逃げればいい。だがそれは同時にシロとタマモを見捨てる事になる。
そんな選択絶対にNOだ。
仲間見捨てて逃げるような、腰抜けには絶対なりたくない。

ならば連中の言うとおりに、留美を渡して、シロとタマモを返すという交換条件を飲むか?
これならば、最悪留美を渡せば、話が済む。
シロとタマモはこちらに帰ってくる。任務失敗になるが、所詮は他人。


優先するべき者がどちらかなんて決まっている。
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・
・・・・・                     (馬鹿か俺は!!)



吼えた。

何を考えた!

今何を考えた!!

何を優先するだと?

自分より弱い者を、相手に差出し見逃してもらうだと!

自分のすぐ後ろで、震えながら自分の手を握っている。何で出来ない子供を差し出すだと!!

ふざけんな!ふざけんな!!ふざけんな!!!

考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!考えろ!

                           (諦めるな)。

もう少しで、敵の言うことを真に受けて自ら可能性を捨て去る所だった。シロもタマモも留美も全員助ける可能性を。

もう少しで、自分本来の信念を捨て去るところだった。

思い出せ、俺の信念。

考えろ、状況の打破を。


「可能・不可能は他人が決めることじゃねぇ・・・てめえが決めることだ!!」

そうだ俺は・・・古牙 汰壱は【極めて】諦めが悪い。


自分のことなのに、あの時誓った。大切なことなのに。
策を労そうとして、出来る出来ないを振り分けて、出来ることだけしか、しなくて。
こんな根性で最強を目指すなんておこがましいにも程がある。


八方塞がりな、この状況。

アチラを立てれば、コチラらが立たずのこの状況。

圧倒的に不利な状況

ならばどうする?、


簡単だ。


実にシンプル。


単純明快。


霞がかった、ドタマに活を入れる。

見事に打破してやろう。
アチラも立てて・コチラも立てて
八方塞がり立ち回り、

八方、丸く治めてやる。





「嬢ちゃん・・・俺を信じろ必ず護ってやる。」
汰壱は留美にだけ聞こえる様に小さく呟いた。
「・・・・うん」










(覚悟を決めろ!)






揺るがぬ決意と共に懐のホルスターからトカレフを抜き出す。
「我らと戦う気か?馬鹿め」
周りのピエロ達が同時に身構え、ナイフを何処からか取り出し構えた。
全方向からぶつけられる殺気に、臆すことなく汰壱は笑った。不敵に

「いいや、そういう訳じゃない」

スッ   ガチャ


何気ない動作で、銃口を留美の頭に突きつけ、感情を込めない低い声で話す。

「交渉しようじゃないか・・・ピエロ軍団」
「おっさん何で!!・・・」
「うるせえぞ、チビ」
留美の悲痛な声に対しての返答は、ゾッとする様なドスの利いた声だった。
汰壱の眼前にいる、一人のピエロに僅かな動揺が走った。

汰壱の死角から攻撃を仕掛けようとする途端、

「動くんじゃねえ!このチビの頭吹き飛ばされてぇか!コラ」
「ひっ」
小さな悲鳴が出る。
留美の頭に銃口を強く押し付ける。
その怒声に機先を制され、動きを止めるピエロ達


(やっぱりな・・・・・成る程落ち着いて考えりゃ、解る事だ。こいつ等は人間じゃない!式神だ。
それも遠隔自動操縦が出来るタイプのかなり、上位のクラスの奴だ。この位のレベルの高い奴らを使役できるのは
かなりの実力者ってこと。そしてこれが最も大切な事だ・・・・・・こいつらは留美に危害が加えられない!!)

そう思う根拠はあった。もしピエロ軍団の目的が留美の殺害が目的であるのならば、とっくに襲い掛かって来ているはずである。
事実汰壱は(悔しい話だが)包囲されるまで気配どりが出来なかったのだ。(半ば放心状態のせいもあるが)
これ程実力がるのならば、とっくに、殺されているはずだ。(自分も)

(そして、何より留美の頭に拳銃を突きつけると、何も出来なくなった。こいつ等自身は留美の誘拐が目的ってところか
 だったら、こいつ等は、今留美を俺に殺されるのは不味いはずだ。誘拐してどうするにせよ、生きてなきゃいけないんだし。
だったらこの交渉は聞くはずだ。相手の要求を呑むんだからな)

「何を考えている?」
眼前のピエロが威嚇するように、ナイフをチラつかせる。
しかしその動きは人間臭いと言うよりはどこか、機械染みていた。
「おいおい、人が二秒前に言った言葉も覚えてねぇのか?馬鹿ピエロ共、交渉するってんだよ。」
大げさに肩をすくめて見せた。
「それは、要求を飲むということか?」

「条件つきでな、お前らこのチビ渡せば、二人を本当に返すんだな?」
確認しながら、留美に突きつけた拳銃のトリガーに指を掛ける。
今度は逆に相手に揺さぶりをかける。拳銃を突きつけたとき、僅かに動揺が走ったのを、汰壱は見逃していなかった。
「ああ嘘ではない、その少女を渡しさえすれば、二人とも開放する。」

「OK、だが・・・そのまま信用すわけにはいかないな・・・・」

「条件を聞こうか?我らとしても、その少女は無傷で手に入れたい」
(やっぱな)
「なーに別に大した条件じゃない、人質交換を同時に行うのさ。流石にこのガキだけ渡して、
ハイさいならって、されたらたまんねぇからな」

「場所は?」
そう聞かれ、汰壱は出来るだけ、今考え付いたかの様に答えた。

「そうだな・・・あまり移動は避けたい・・狙われるのは勘弁だ・・・デジャーブランド廃棄施設にGS体験ツアーってアトラクション
がある。そこなら人もこねぇし、丁度いいだろう?時間はそっちに任せる。」

しばらくの間をおいて、ピエロが答えた。
結論を出したようだ。

「いいだろう、時間は今から三十分後だ、念を押すが仲間を呼べば二人の命はないと思え」

「解ってる、俺も二人の命は惜しいからな」

了承を取ると、十数人の式神ピエロはドロンと消えた。

「やっぱ式神か・・・・・・・!!」


ガス






留美に思いっきり向こう脛を蹴られた。
当然である。護るなんて言っておいて、いきなり拳銃を突きつけられ、あまつさえ自分を引き渡すなどと、賜っているのだ。
留美からすれば、裏切られたも同じである。

留美は信じていた。確かに最初は信用なんてできなかった。
みえみえのご機嫌をとりながら、自分を鬱陶しそうに見る、周りの大人達と同じ様に、対応してくる汰壱を信用できるはずがなかった。




(だが、自分が変なのに声を掛けられたり、連れて行かれてそうになったとき、助けてくれた。)

(強引にお化け屋敷に入れられて、とても怖かったがずっと自分の手を握っていてくれた。)

(自分の悩みを真摯に受け止め、話を聞いてくれた。)

留美とっては両親以外の初めて信頼できる人に会えたと思っていた。

裏切られた。
ただ悲しくて、頭にきて、怖くて
その眼には涙が溜まっていた。


(クソが)

心の中で悪態をつく、表面上は何事も無い様に振るまわなければならない。
敵は去ったが、すぐにでも行動起こさなければならない。

時間が無い。

留美の誤解を解くこと事だけでもしたかったが、それは得策ではない。
あくまで向うには留美を渡す様に見せなければならない。これを演技だと気づかせてはならないのだ。
あって間もなくな為に汰壱は留美の細かい性格までは把握できないが、僅か十歳の女の子にプロのGSを欺くほどの演技を
要求するのは酷である。

したがって、留美の誤解を解かないほうがよかった。
例え、それが留美の心を踏みにじることになっていても。

手段を選ぶつもりはない。
どんなことであっても、必ずシロとタマモ、そして留美を助ける。

こんな方法を選ぶ、自分をシロは怒るだろう。      (演技とはいえ子供に凶器をむけ脅すのだから)

こんな方法を選ぶ、自分をタマモは怒るだろう。     (依頼人をわざわざ危険に晒すのだから。)





俯きそうになる心を叱咤して、顔を上げる。

拳をつくる。         強く強く強く強く握り締める。

自分の不甲斐なさを怒る。

子供一人安心させる事のできない、自分を怒る

弱い自分に怒る。


握り締めた拳から、血がながれた。

周りには変わることない、楽しき喧騒が流れていた。




今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa