幻の痛み
投稿者名:詠夢
投稿日時:(04/12/23)
胸が痛む。
夕日を眺めていると、いつもどうしようもなく切なくなる。
辛くなるのが分かっていながら、それでも俺は夕日に心奪われてしまう。
彼女と共有した、あの日と変わらぬ夕日に。
今日の仕事は最悪だった。
仕事自体の難易度は高くないのに、みんな危ないところだった。
その時のことを思い出すだけで、ゾッとする。
幸い、誰も怪我をするものはいなかったが、一歩間違えれば全滅の可能性だってあった。
原因は、俺だ─。
俺があのとき、敵を引き付けている最中に別なことに気をとられたから。
棒立ちになった俺を助けようと、シロが飛び込み。
タマモが狐火で敵を牽制し。
美神さんとおキヌちゃんが、作戦も何もなしに飛び出して。
結局、なんとかなったものの、俺のミスは皆を危険にさらした。
俺があの時、『夕日』に気をとられたりしなければ。
…きっと美神さんは気付いていたのかもしれない。
軽く注意はされたけど、いつもの致死レベルの折檻はなかった。
本当だったら、そのまま悪霊の一撃を喰らったほうがマシってぐらいボコられるのに。
俺はそのまま帰されて、気がついたら東京タワーに向かっていた。
俺は、その場所に目を向ける。
アイツが、最後に横たわっていた場所。
そこに立ち、もう一度夕日を見やった。
誰かを失ったかもしれないという気持ちが、失ってしまったものを強烈に思い出させる。
アイツの笑顔が、最後に交わした瞳が脳裏に浮かび、涙が流れそうになる。
意地でも泣くか、と思った。
手前の不甲斐無さを棚に上げて、そんな恥知らずな真似が出来るか。
今、泣くのは卑怯だと思った。
他のことならいざ知らず、このことに関してだけは、俺は自分を甘やかすつもりはない。
ただ、自分の情けなさを噛み締めようと思った。
それが、自分の覚悟だと。
それでも、心は揺れる。
揺れて、血を流し、痛みが走る。
あの頃と、俺は変わっていないのか?
弱いままか?
お前は、いつまで情けない男でいるつもりだ、横島忠夫!?
俺は自分を罵り、嘆く。
その度に、苦い記憶に心が痛み、悲鳴をあげる。
構うものか。
砕けるなら、砕けてしまえばいい。
俺の心が一層の痛みを訴えたとき─。
《 泣かないで ヨコシマ… 》
声が聞こえた。
もう、聞くことが出来ないと思っていた声が。
懐かしく、愛しいあの声が。
彼女を想うあまり、とうとう幻聴が聞こえ出したのだろうか?
それならそれでいいと思う。
たとえ幻であったとしても、その声は俺が望んでいたものだから。
でも。
ひょっとしたら、幻なんかじゃないかも。
そんな淡い期待を抱きつつ、俺は振り返る。
「 ルシオラ…? 」
そこには誰もいない。
でも、なぜか俺は悲しくなかった。
彼女が傍にいる。
そんな感覚があったからだ。
錯覚かもしれない。
いいじゃないか、錯覚でも。
俺は今、笑っているのだから。
彼女が俺に泣いていて欲しくないのなら、俺は笑顔を送ろう。
今はもう、幻となってしまった彼女に。
ふと、下のほうで皆の声が聞こえた。
そろそろ帰るとするか。
俺はもう一度、すでに半分以上沈んでしまった夕日を見る。
胸の痛みは、消えたりはしない。
でも、それは俺を苛むものじゃなく、ある意味心地よい疼きとしてそこにある。
その痛みは、彼女がいた証明。
そしてこれからも、俺の中に彼女を刻み付けるもの。
きっと彼女が帰ってくるそのときまで。
失ったものは、その存在があった証として痛みを訴える。
それは幻の痛み─ファントムペイン。
ひどく不確かで、どこか寂しく、だけどかけがえのない痛み。
なら、俺はそれを抱えていこう。
いつか君が帰る、この世界で─。
今までの
コメント:
- GTYでは二回目の投稿になります、詠夢です。
今回の話ですが、以前GTYに投稿した『ファントムペイン』と繋がっています。
あれがルシオラ視点で、こちらは横島視点ですね。
今回は横島の、ファントムペインを書かせていただきました。
なんだか横島が自分を責めるあまり、すごい真面目なキャラになってしまいましたが…。
まあ、こんな横島もアリかな〜と、広い目で見ていただければ幸いです。
それでは、またいずれ。 (詠夢)
- はじめまして詠夢さん。
両方読ませていただきました。
こういう、感じの話は大好きです。
やはり彼女には彼の枷になるのではなく支えになってほしいです。
というわけで、次回作に期待しております。 (ウェスペル)
- シリアスな横島君も好きです。
何処かで読んだような気が?…と思ってたら、以前のお話と対になってたんですね。 (偽バルタン)
- 普段はおちゃらけでなーも考えていなさそうな横島くんですが、アシュ編の最中や直後なら、こんなシリアスもあったんじゃないかと思います。
投稿のモチーフ自体は、随所で繰り返し扱われている題材でしたが、「失いかけた焦り」と「失った痛み」をリンクさせて紡いでゆく回顧から決意への流れは印象的でした。
もしかしたら原作のアシュ編エピローグに至るまで(もしくはその後のいつか)に、こんなエピソードもあったかもしれませんね。 (斑駒)
- 痛みを強く感じている時こそ、痛みのせいになんかしない。
彼女との思い出の為にも、また失ったりしない為にも自分を戒める…「普段の」ではないけれど、十分「こんな時の」彼らしい姿だと思えます。
そんな彼だからこそ、みんなが側にいて……そして、彼女もいるのだと。
ファントムペインに引きずられる事なくキッチリ制御する、成長を見せた横島。なかなかカッコイイです。 (フル・サークル)
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