ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-4- 横島の転機


投稿者名:いすか
投稿日時:(04/12/23)

 天竜が天界へ戻って一ヶ月。その間、天竜からの近況を告げる手紙が引っ切り無しに届
いたが、この日はそれとは別にもう一通別の手紙が舞い込んだ。あて先は小竜姫。竜神王
直々の勅命書である。
 曰く、竜神王はこの度の息子の成長をとても喜んでおり、とても感謝しているとのこと。
その上で小竜姫と冥子を見込んで、重要な特務を頼みたいというものだった。

『書面では伝えられないことのようなので、私はちょっと天界に戻ります』
『わかりました。姉様がいない間に、私は美神さんの所へ戸籍の確認に行ってきますね』

 二、三日留守にします。と書かれた札を立て、小竜姫は天界、冥子は人間界へと、それ
ぞれが赴いたのであった。



          ◇◆◇



(令子ちゃんはまだ前の事務所なのね〜。いつ引っ越すのかしら?)

 久しぶりに人間界に降り、三ヶ月前に令子に貰った名刺を見ながら冥子はふと考えた。
冥子の記憶では、過去でどのような経緯を経て美神除霊事務所があの屋敷に引っ越すこと
になったかは知らないため、まさかメドーサに事務所を吹き飛ばされたからだとは考えも
しなかった。

(ええと、確かここを曲がって〜……あった〜!)

 冥子のおぼろげな記憶通り、オフィスビルの二階に見える美神除霊事務所の文字。正面
の階段を上り、ドアをトントンと叩く。

「れ……美神さ〜ん。あ〜け〜て〜」

 そういって呼びかけた瞬間、ものすごい勢いで開かれるドアと、跳びかかってくる人影。

「お久しぶりです熾恵さーーん!!」
(相変わらず横島クンの動きは人間離れしてるわね〜)

 妙な感慨にふけりながらも冥子は以前と同じようにテレポートしてやり過ごす。

「横島さんもお久しぶり〜」
「うぐっ。お、お久しぶりっす」
「キサマは女なら誰でもいいのかー!!」
「堪忍やー! 若さや! 若さが悪いんやー!!」
「あ、熾恵さんお久しぶりです!」
「おキヌちゃんこんにちは〜。お変わりないようね〜」

 見慣れた光景を傍目に捉えつつ、おキヌと挨拶を交わし奥へと通される冥子。二、三分
して、令子がずるずると横島だったモノを引きずって戻ってきた。

「ごめんなさいねー、熾恵さん。お前も謝らんかー!」
「うう、ゆ、許してください美神さ〜〜ん……」
「まあまあ、美神さん私はいいですから。でも、だめよ〜横島さん。好きでもない子にこ
んなことしちゃ〜」
「俺の熾恵さんへの愛は本物です! 俺的にはこのままベットインでもー!!」
「いいかげんにせんかー!!」
「ん〜、やっぱり横島さんの好きってちがうんですよね〜」
「へ? どういうことっすか?」

 令子の神通棍を頭に刺しながらも、平然と冥子の言葉に疑問を返す横島。そんな横島に
諭すように冥子は人差し指を立てて言う。

「横島さんの好きっていう言葉は、女性を性的対象として求めていることしか感じられな
いんですよ。それじゃ〜、誰もなびいてくれないと思うわ〜」
「そ、そんなっ!? この俺の熱烈な愛情表現がセクハラとしか伝わってないなんて!?」
((自覚なかったのか……))

 横島の発言に令子とおキヌは頭を抱えるばかり。さらに、というように冥子がもう一本
指を増やす。

「それに〜、横島さんみたいにいろんな女性に声をかけていると本当に後悔しますよ」
「なんでっすか!!?」
「例えば〜、横島さんが本気で好きになった女の子ができたとします。もちろん性的対象
としてだけではなくですよ?」
「うっす」
「相手も横島さんのことを気に入っているとしましょう。横島さんが告白してあげれば、
喜んで付き合ってくれるくらいの恋心を持つ女性です」
「うっす」
「じゃあ〜、その女性は横島さんに告白されてどう思うと思います〜?」
「? 嬉しいと思うんじゃないっすか?」

 冥子は首を横に振る。隣に座っている令子も、ふよふよと浮いているおキヌも冥子を肯
定するようにうんうんと頷く。

「確かに嬉しいでしょうね〜。好きな人に告白されたんですから〜。でもそれ以上に不安
を感じるでしょうね〜相手が横島さんなら〜〜」
「な、なんで……」

 冥子の物言いに狼狽する横島だが、令子とおキヌも大きく首を縦に振るばかり。すがる
ように横島は冥子の言葉を待つ。

「いくら横島さんが本気でも〜、相手にはそれが伝わらないわ〜。他の女性と同じように
性的対象でしかないんじゃないか。自分だけを愛してくれるのか。本当に愛してくれてい
るのか。横島さんが普段からやっていることを見ていたら、その女性はきっとそう考える
わ〜」
「……マジっすか?」
「ええ」

 令子、即答。

「おキヌちゃんも?」
「はい」

 当然です、というがごとくこちらも即答。
 かなり本気で落ち込んでいる横島が「どうしたらいいのか?」と冥子に目で教えを請う。

「不用意に好意を振りまかないことね〜。相手が自分をどう思っているのか考えて〜、横
島さんも他の人のことをよく知ろうとするの。そうしていくことで〜、横島さんが誰かを
本気で好きになったときに〜、きっとその人も安心して横島さんを受け入れてくれるわ〜」

 「だから、セクハラはだめよ〜?」と、冥子に冗談めかして釘を刺され、苦笑した横島
だったが、その胸中は穏やかではなかった。

(何やってたんだ俺は……)

 自分の馬鹿さ加減を呪い、それと同時に他人に好まれる要素が横島自身に全く感じられ
なかったことに愕然としたのだ。力なく下を向いている横島の頭にぽんぽんと軽く頭を叩
く感触。

「そんなに落ち込まないで〜。横島さんにもいいところはたくさんあるわ〜。ね、美神さ
ん」
「ちょ、私に振らないでよ」

 こいつにいいところなんて……、と言おうとしたところで横島が真剣な表情でこちらを
見つめてくるので、ん〜ん〜と思考をめぐらせる。

「ま、まあ、安い労働力だし、力仕事とか一手にやってくれてるし、セクハラさえなけれ
ば17歳のガキにしては良い部類なんじゃない?」

 横島はもちろん、おキヌもこのひねくれ者の上司の素直な考察には心底驚いた。令子に
してみれば冥子に促されたことと、珍しく落ち込んでいる横島を見て、しかたなく無難な
感想を述べてやったに過ぎないのだが。それに続くようにおキヌも口を開く。

「私は、横島さんと初めて出会ったとき、幽霊の私を普通の人と分け隔てなく接してくれ
たのが嬉しかったですよ。ああいう優しさも、横島さんのいいところだと思います」
「おキヌちゃん……」

 令子とおキヌの言葉に横島の顔も多少ほころぶ。そんな横島をみて冥子が何か思いつい
たように手を叩いた。

「そうだわ〜、横島さん私と一緒に今度のGS試験受けてみない〜?」

 唐突な冥子の爆弾発言に令子らは一瞬フリーズするも、なんとか頭を切り替えてそれぞ
れに対応する。

「や、やーねー、熾恵さん。こいつにそんな才能あるわけないじゃない」
「あら? 結構いけると思いますよ〜」
「ま、またまた〜。俺を慰めようとそんな冗談を」
「冗談じゃないわ〜。横島さん、ずっと美神さんのお仕置き受けてきたでしょ〜?」
「? それがどうしたんですか?」
「ん〜、美神さんの神通棍って、生身の人が受けて平気でいられるものじゃないのよ〜。
チャクラがズタズタになっちゃうわ。多分、横島さんは無意識に霊力を集中してそれをふ
せいでると思うの」
「……そんな器用なことしてたの?」
「……そんな容赦なくどついてたんっすか……」
「ま、まあ、二人とも落ち着いて」
「いきなり意識的に霊力を集中することは無理でも〜、試験まで一ヶ月あるから、がんば
ればなんとか形にはなると思うわよ〜。横島さん次第だけど、どうします〜?」
「ど、どうするって……」

 いきなりの展開にうろたえる横島。冥子がとどめの一撃を放つ。

「横島さんが強くなれば〜、好きな人を守りやすくなるわ〜。横島さんも自分に自信がも
てると思うの」
「だって。どうするの、横島クン? 私は止めないわよ。好きにやってみなさい」
「……美神さん、GS試験までご指導よろしくお願いします」
「よ、横島さん!?」
「よし! よく言った! やるって言った以上こっちも本気でしごくからね。美神除霊事
務所の看板に泥塗るんじゃないわよ!」

 かくして横島のGS試験参加が決定したのであった。



          ◇◆◇



「あ、美神さん私の戸籍のことなんですけど〜」
「ああ、出来てるわよ。ばっちり小竜姫様の分もね」

 横島のGS試験登録の書類を書き終え、一息ついたところで冥子はここにきた本題を口
にした。机をあさり、冥子に手渡されたのは二枚の戸籍の写し。

「妙神山熾恵、24歳。妙神山竜姫、25歳。続柄は姉妹ね。小竜姫様の年齢なんて書けるわ
けないし、あんたの年齢にあわせたわ」
「お手数おかけしました」
「で、GS試験受けるって言ってたけど保証人のあてはあるの?」
「流石にないわね〜。その件も美神さんに頼もうと思ったんだけど〜」
「あんたね……まあいいでしょ。変わりに、横島クンの特訓に付き合ってくれること。こ
れが条件」
「い!? み、美神さん、さすがにそれは熾恵さんに悪いっすよ」
「いいですよ〜、私もこちらで部屋を探そうと思ってましたし〜」

 令子の出す条件を快く受け入れ、冥子は横島にも声を掛ける。

「横島さんはさっき言ったとおり、霊力を集中するのが得意みたいだから、その特訓に合
わせた子を作ってあげるわ〜」
「作る? 作るって何っすか?」
「ちょっとまってね〜」

 そういって冥子はソファーから立ち上がると、両手を胸の前で合わせて霊力を練り始め
る。しばらくして冥子が手を開けると、小さめの白い鳩が一匹。

「はい。横島さんに貸してあげるわ〜。かわいがってあげてね〜」
「は、はぁ」
「ちょ、何よそれ!? 式? 触媒もなしで式を作るなんて……」
「式じゃないわよ〜。私の力の一部を切り離して作ったれっきとした式神よ〜」
「式神を作ったぁ!?」
「何驚いてるんっすか美神さん?」

 オカルト知識のない横島は令子が何を驚いているのかわからないが、それを目の当たり
にした令子にとって冥子の行った行為は青天の霹靂だった。横島の首を鷲掴むと、形容し
難い形相で声を絞り出した。

「いーい! よ〜く聞きなさい! あんた冥子の十二神将は知ってるわね!?」
「も、もちろんっす。あれも式神なんでしょ?」
「あれは大昔どっかの力を持った神様が作って、六道家に与えたものなの! ここまでは
いい!?」
「オーケーっす」
「多かれ少なかれ式神ってのは、そういうとんでもない力の持ち主が自分の力を後世に残
そうとして作るもんなの! それこそ命を削ってね!」
「え? でも熾恵さんは……」
「だ・か・ら驚いてるのよ! 式神を作るだけでもとんでもないのに、式神作ってピンピ
ンしてるなんて信じられないわ!!」
「そ、そんなもんなんすか」

 説明を受けてもいまいちどれほどすごい事か横島やおキヌにはわからないが、美神の狼
狽っぷりを見るに相当に高レベルのものだということはわかった。

「美神さんにも出来ないんですか?」
「できるかー! 作ろうとするだけで魂のかけらも残さず消滅するわー!!」
「いい!?」

 やっとことの重大さに気づいた横島は、まじまじと手渡された鳩を見やる。よく観察し
てみてもどこにでもいる白い鳩にしか見えないが。

「その子が横島さんの霊力を集束する手助けをしてくれるわ〜。横島さんの意識とリンク
して、霊波の流れを導いてくれるの」
「あ、ありがとうございます」

 鳩から視線を移し、冥子に礼を述べる横島。令子やおキヌのまじまじと向けられる視線
に、冥子は照れくさそうにはにかんだ。

「伊達に先生にしごかれてませんよ〜。これでも天界では『式姫』熾恵で通ってたんです
から」

 この世界ではないが、人の身でありながら天界に名を知らしめた『式姫』は、くすぐっ
たそうな表情のままそういった。



(後書き)
 ちょっと原作とは横島のキャラが変わっていくことになるかと思います。周りの横島に
対する評価も。拙いながらも匍匐全身で進んで行こうと思いますので、末永くお付き合い
ください。

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