ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 31〜家族の想い、仲間の絆〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/22)

完全に日も沈み、あたりは真っ暗になっていた。
横島夫妻はそろそろ家の中に戻った方が良いのではないかと思ったが、なんと声をかけるかで迷ってしまう。
それほど目の前で寄り添う二人の子供達は、分かち難かった。別におかしな意味ではない。
子供達の年では珍しくも無いが、全く”男と女”としての空気は無い。
二人の迷子が寄り添い、支え合っているようだ。

「タマモ、日も暮れたしそろそろ中に入らないか?」
「・・・うん。」

それでも年長である分だろうか、兄である忠夫の方から声を掛けている。

「良い加減腹もへったし、そろそろ食事にしよう。」

兄妹の会話を聞いて、昼食抜きだった大樹がそう提案する。
何せ昼間は、地獄の鬼も裸足で逃げ出す、折檻フルコースをくらっているのだ。
充分に栄養を摂らないと、回復できない。 血ぃ、血が足りねぇ〜

「夕食は簡単にできるものにしましょうか。二人共手伝うのよ?」

百合子がそうまとめて、中へと入って行った。残りの面々がそれに続く。

夕食の支度はあっという間だった。大樹がしつこく空腹を訴えるので、パスタで手早く仕上げる事にした。
ポットで保温してある湯を鍋に移してパスタを茹でる。食べ易く切ったベーコンをフライパンに放りこみ、
適当に切ったほうれん草と炒める。火が通った頃にインスタントのスープを入れる。
ちょうどパスタが茹であがって、フライパンで全体を絡めれば出来上がり。ここまで正味20分。

深みのある大皿に山のように盛られた、ベーコンとほうれん草のスープスパゲティーの出来上がり。
取り皿とスプーン・フォークを置いて準備完了である。

「「「「いただきます。」」」」

四種類の声が揃うや、大樹が猛烈な勢いで大皿上のパスタをスプーンとフォークで巻き取っていく。
横島がそれを見ながらタマモの分を取り分けてやる。それを見た大樹が一瞬、しまった、という顔をしたが
空腹に目が眩み、タマモに構うチャンスを逃がしたのは自分だ、どうしようもない。
結局食べる事に専念するしかない。6人分はあったであろう、食事があっという間に無くなっていく。
最後の残りが男二人で、取り合いになるが大樹が巧みに巻き取り確保した。完食まで20分少々である。

取り敢えず腹も膨れて落ち着いた大樹が息子に話し掛ける。

「それで何時までこっちにいられるんだ?忠夫。」

今回ナルニアへは個人で受けた仕事で来ている為、それが済めば六道事務所に戻らなければならない。
一旦事務所に連絡を入れようと、時差を確認して電話を借りる。

「もしもし横島です。あっ所長ですか?」
「あら〜たークンじゃな〜い、元気そうな声ね〜。」

のんびりとした声で、所長である冥子が答えてくる。
完了の報告をしようと思ったが、仕事が長引いた事にすればこちらでゆっくりできるのでは、と思った時に

「も〜依頼を果たしたんですってね〜、さすがだわ〜。」

既に知られていたらしい。バレていては仕方が無い。帰るしかないだろうと思っていると、

「こっちも〜依頼が詰まってるし〜帰ってきてもらいたくはあるんだけど〜折角のお正月の〜
家族団欒ですもの〜、ゆっくりしてきて良いのよ〜。」

思いがけない事を言われた。本心だろうか?それとも建前だろうか?
だが相手は見栄をはったり、無理して強がったりする女性ではない。本心から気遣ってくれてるのだろう。
だがそれに甘えて良いものか?雪之丞が修行に行った以上、事務所は冥子一人である。
確かにその成長は著しいのだが、単独で任せて大丈夫なのだろうか?そこで改めて考え直す。

自分は周囲の人々の想いに支えられてきたのに気付いたはずだ。今回のこれは純粋に相手からの思いやりだ。
相手が”六道家”であれば多少構えもするが、”六道冥子”個人であればその必要も無いだろう。
なら相手を信頼する事が、思いやりに応える道ではないだろうか。

「すいません、お言葉に甘えさせてもらいます。その分帰ったら頑張りますんで、お願いします。」

「良いのよ〜久しぶりに〜ご両親に甘えてきたら〜。」

こちらの信頼が伝わったのか、嬉しそうに言って来る。礼を言って受話器を戻し居間に戻る事にする。

「ゆっくりして来いって、所長が言ってくれたからのんびりできるよ。」

そう返事はしたが、冬休みがあければ新学期である。ギリギリで帰るのは初日がつらいだろう。
結局冬休みに一日だけ余裕を残して帰国する事にした。

「そう言えばその事務所なんだがな、今の所ではどれくらいもらってるんだ?」

大樹が気になっていた事を確認する。何せ美神事務所で勤めていた頃の極貧ぶりは知っている。
息子だけなら、若いうちの苦労は買ってでもしろ、と言えるが今は娘も一緒である。
養女にする時に仕送りの増額も申し出たが、心配いらないの一点張りである。
聞けばタマモの通っているのは名門六道女学院であると言うし、娘には金で苦労などさせたくなかった。

「え〜と、年俸二千万プラス出来高払いに社宅の無料貸与。あとタマモは特待生待遇だから心配ないよ。」

大樹は二の句も継げない。自分の倍近い収入なのだ。だがランクSならば当然なのだろうか。
現に今回の依頼では10億の報酬を受け取るのだ。正直高校生には過ぎた金額だろう。
無論自分の命を的に稼いだ金だ、とやかく言うつもりは無い。だが心配な事はある。
聞いた限りでも、息子は強さを身につけ、その力を完全に制御している。
だが金という物も、現世ではひとつの大きな力だ。今まで縁が無さ過ぎた分振り回されないか心配だった。

「お前今回の報酬の使い道はどうするんだ?」

だから聞いてみたのだ。返答次第でその判断力や考え方を測る事もできる。

「あ〜それに関してなんだけどさ、会社の中で親父の事を嫌ってる偉いサンとかいるんじゃねえ?」

何がどう関係してくるのかは解らないが、確かに心当たりはある。だが今まで息子に話した事は無い。
どこからそんな推測が出てきたのか、興味が湧く。

「なんでお前がそんな事を言い出すんだ?」

「いや、本社に移管してから協会に持ち込む決済が降りるまでが、みょ〜〜に長いんで気になったんだよ。
会社全体の不利益なのにわざと遅らせる理由ったら、考えられる事は限られて来るだろ?」

驚いた、実際の現場では必要無いだろう事まで、注意して検討している。
現場でドツき合うだけが仕事では無く、事前情報の重要さも熟知して注意を怠らない。プロの姿勢だ。

「まあ、お前の言う通りだが、それがどうかしたか?」

「あの10億好きに使って自分の立場を強化したら?例えば自社株を買い集めるとかしてさ。」

横島にしてみればタマモの父親が左遷されたり、クビになって無職だったりという状況は避けたかった。
今の自分にそんな大金は必要無い。それよりもタマモが将来苦労しない為に、できるだけ多くの布石を
打っておきたかった。あっさりとやられるような親父では無いとは思うが、何がおきるかは解らない。
将来タマモが、「横島大樹 続柄 父 無職」などと書類に書くような自体は絶対に避けたい。

一方大樹にしてみれば、息子が何を考えてそんな事を言い出したか、検討はついていた。
タマモの為なのはわかるが、面白くは無い。この年で息子から心配されるなど冗談では無い。
自分はそこまで不甲斐無く思われているのかと、腹も立つ。断ろうと思ったのだが、

「その話、面白いわね。でも10億では集まる量は知れてるわね。それより10億を元手に仕手戦を
別の株でしかけましょう。やるなら充分元手を増やしてからだわね。徹底的にね、ふっふっふっ。」

それまで黙って話を聞いていた百合子が突然そんな事を言い出した。両目に炎が宿っている。
今の百合子は大樹が妻として見知った女性では無い。かつての上司、”村枝の紅百合”だ。

「うふふふ、ダンナの会社にM&Aを仕掛けるなんて考えた事も無かったけど、面白くなりそうね。」

横島はどうやら自分の発言が、昼寝中の雌虎を起こしてしまった事に気付いた。
今後、あの商社の上層部から何名かが消え去るのだろう、知った事ではないが。
まあタマモの将来における安泰の為だ、成仏してもらおう。

一方タマモにしてみれば急変した母の様子に腰が引ける。何か物騒な事を考えていそうにも見える。

「あ・あの、お母さん?なんか感じが怖いんだけど・・・」

そう、おずおずと尋ねている。尋ねられた途端にその目から炎が消え、笑みを浮かべるが余計に怖い。

「あ〜ら大丈夫よ?別に乗っ取りなんて考えてないわ。ただ持ち株数が過半数になるようにするだけよ。」

それは事実上の乗っ取りでは?とは怖くて言えない大樹である。
これ以上この話題には深入りしない事にする。というより話題を変えたかった。百合子も気にしてる話題に。
口調を改めて息子に話し掛ける。

「なあ忠夫、最後にどうしても一つだけ聞いておきたい事があるんだ。」

いきなり口調が真剣になったので、どうやら自分に関する深刻な話題らしいとあたりをつける。

「なんだよ?あらたまって。」

そう尋ね返すが、言い難そうにしている。どんな内容なんだ?

「お前、・・・誰かを憎もうとか、恨もうとか思った事は・・・無かったのか?」

最後にこれだけは聞いておきたかった。最初例の話を聞いた時は、自分を一番責めているようだった。
今の息子が前を向こうとしているのは信じている。だが恨みや憎しみという感情は人を後ろ向きにする。
自分でさえ、話を聞いて、顔も知らない息子の周囲にいたであろう人々に対し深甚な怒りを感じたのだ。
当人が何も感じないはずがない。誰か一人でもそういう相手がいれば、息子が前を向く
妨げになるかも知れない。場合によっては、人知れず自分が手を汚す覚悟もあった。

だがこれは百合子に反対されている。
”復讐は憎しみの連鎖を生む、今度はそれが子供達に降りかかるかも知れない”という理由でだ。
それは解るのだが・・・。  そこまで考えた時に息子が答え始めた。

「憎しみ・恨みねえ・・・正直な話、途中は色々とあったよ。見殺しにされそうになったりしたしね。
でも総てが終わってみれば、結局は、皆が皆が精一杯足掻いてただけなんだよ。自分にとって大事な
ものの為に、自分に出来る精一杯でね。その中で俺だけがこうなったのは、俺の力が足りなかったからだ。
それで誰かを逆恨みしてもルシオラは喜ばないだろうと思ったんだよ。そういう意味で言うなら、
アシュタロスの事さえ恨んでないよ。そもそもアイツがいなきゃ彼女に会えなかったんだしね。」

一息にそれだけを言い終えた息子の顔には迷いも翳りも無い。つくづくルシオラという女性に感謝したい。
息子は最高の女性と出会えたのだ。適うものなら直接会って深々と頭を下げたい想いだった。
息子がそう言う以上はこれ以上の口出しは、かえって息子を信頼しない事になる。控えるべきだろう。
もっとも、その当事者達に会った時に笑顔で応対する義理も無いが。

「お前がそう言ってくれてホッとしたわ。まさか息子の事を誇らしく思える日が来るなんて
昔は想像もできなかったけどね。」

せっかく自分が決めようとしたのに、根こそぎ百合子に持って行かれてしまう。
仕方なく息子をおちょくるように方向転換する。

「さて、もう遅いし寝ようか?今日も川の字で。忠夫はどうしてもと言うなら俺の隣にでも寝るか?」

自分の隣、と言うのはタマモと反対側という事だろう、そんな気色悪い真似はごめんだった。
自分が相手の術中に嵌っているのは自覚しているが、だからと言ってどうしようも無い。結局、

「俺は先に寝る。」

憮然と言って居間を出て行くしかなかった。
そんな息子の背中を見ながら、勝った、と思っている時に氷のような声が掛けられる。

「あ・な・た?セアラさんから、色々と聞いたわよ?ちょっとこっちにいらっしゃい。」

そう言うと奥の部屋へと引き摺って行く。
大樹の顔からは完全に血の気が引いており、どこかの国の蝋人形館に展示されていそうだった。
結局この日は母娘二人で寝る事になった。この話を翌朝聞いた息子が快哉を叫んだのは言うまでも無い。


滞在中は百合子の料理教室や大樹のナルニア案内(タマモ限定)で過ごしたが長くも無い冬休みの事、
あっと言う間に帰国の日がやって来る。いつまでも未練がましい大樹を百合子がタマモから引き剥がす。

「じゃあ、また。」
「今度はこっちが日本に行くかも知れないね。」

そう口々に別れの挨拶を交わしてチェックインする。
タマモは初めての空港での”お別れ”に涙ぐんでいた。
トイレに行く、と言うので荷物を預かり免税店で待つ事にした。涙を洗い流したいのだろう。

免税店のなかを見回しながら、そういえば自分にとって自分の意志で来た、初の海外である事を思い出す。
となればやはり土産の一つも買って帰るべきだろうか。誰に買っていこう、色々な人の顔が脳裏に浮かぶ。
まず所長である冥子、日頃から何かと世話になっているエミ、年始の挨拶に来てくれたおキヌとシロ。
これくらいか?だがおキヌとシロに渡すとなると、当然もう一人、あの事務所にいる女性の事も考える
必要があるだろう。

美神は自分の事など大して気にもとめていないだろうが、事務所のメンバーの中で自分だけが蔑ろに
されているような気がするのは面白くないだろう。そのせいで、あの事務所の雰囲気が悪くなったりしたら
責任を感じてしまう。買っておくのが無難だろう。大人の女性への土産ならやはり香水だろうかと思い、
物色するが、横島の知ってる香水の名前などシャ○ルのNO.5ぐらいしか無いが、それを全員に買っていく
のは余りにも芸が無い。ひとつづつ試しに匂いを嗅いでいる時に、タマモが戻ってきた。

皆への土産を選んでいる事を告げると自分も買うという。エミ、雪之丞、銀一、おキヌに渡したいそうだ。
それだけ言うと、香水の匂いが苦手らしくその場を離れて行った。結局悩んだ末決めたのは、それぞれ、
冥子にはニナ○ッチのフルール・ド・フルール、エミにはゲ○ンの夜間飛行、おキヌはシャネ○のNO.19。
悩んだのが美神への物だったが、彼女のイメージにピッタリの香りがあったのでそれに決めた。
シロは、タマモと同じ理由で香りの強い物は苦手だろうから、無難にビーフジャーキーにしておいた。

あとは誰に買うべきだろうか、と思った時に、ナルニア特産の最高級ハチミツが目に入る。迷わず購入だ。
となれば優しい方の師匠には何を買おう。香水か?だが武神でもある彼女が余計な気配を発するような物を
身につけるとは思えない。無難なところでエル○スのスカーフにしておいた。あの師匠であれば、
これに竜気を通わせて岩をも切り裂くかも知れない。

二人で買い物が終わり、機内に乗り込む。往路での反省を活かしてか、タマモも長い機内での時間を
おとなしく過ごそうとしている。食事と睡眠の繰り返しにうんざりした頃にようやく日本に着いた。
空港の到着ロビーに降り立ってようやく一息つく。

「やーっと着いた。大した日数離れた訳でも無いけど、やっぱ日本は落ち着くな。」
「そうね、早くきつねうどんが食べたいな。」

タマモがそう言うので空港内のうどん屋に入る。
席に着いて早々にきつねうどんを二つ注文すると、おもむろに横島が口を開く。

「なあタマモ、明日は俺妙神山に年始の挨拶がてら、土産物を渡しに行こうと思うんだ。長旅の疲れが
残ってるようなら、ゆっくりしてもらって構わないけどどうする?」

そう言われて考え込む。確かに疲れてはいるが、横島を一人で妙神山に行かせるのは何となくいやだった。
行く事にするが、ちょっとだけ我儘を言ってみたくなった。

「ヨコシマが今日のおうどんの油揚げくれるなら、行っても良いわよ。」

「もちろん、お安い御用さ。」

タマモの可愛らしい我儘を叶えるのが楽しくて、思わず笑みがこぼれる。呼び名が再び”ヨコシマ”に
戻ったのは少々残念だが、元々娘のように思っていたので、まあ良いか、ぐらいにしか思わない。

食事が終わり店を出た後でタマモはもうちょっとだけ横島に甘えてみたくなった。
明日は妙神山でパピリオ達と一緒だ。それ以降は日常の生活に戻るだろう。だが今日までなら、
今この瞬間だけは、自分一人だけの”ヨコシマ”だ。我儘を言って困らせてみたかった。

「もう疲れちゃった、歩きたくないな。」

そう言ってみた。相手の困ってる顔を独り占めするのは、これが最後だと自分に言い聞かせながら。
だが横島の反応は予想外のものだった。真顔で、解った、と言うとそのままタマモを背負い荷物を持って
柱の陰に歩いていく。何を言う間もなく、文殊を生成し自宅へと転移した。
有史以来、文殊使いが何人いたのかは解らない。だがこんな理由で文殊を使用した使い手は、絶対にいなかったろう。



結局次の日も、日帰りになるので転移で往復する事になる。
もちろん斉天大聖老師への手土産に新作のソフトと台湾バナナを準備してからだが。

転移して鬼門の前に立ち、横島はガラにも無く緊張していた。どれほど今まで優しく包まれていたかを
自覚して以来、お礼とお詫びを言いたかったのだが、何と言えば良いかが解らない。
迷っているとタマモが力づけるように手を握ってきた。大丈夫私がついてる、と言うように。
そして横島は吹っ切れた顔で門に向かって歩き出した。

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa