ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-3- プロポーズ!?


投稿者名:いすか
投稿日時:(04/12/20)

 令子に戸籍を作ってもらう約束を取り付けてからはや二ヶ月。「戸籍でっちあげるのに
ちょっと時間がかかるのよ。三ヶ月くらい待ってもらえる」ということで、冥子は現在、
妙神山で世話になっている。ハマヌンは天界でやることがあるといって戻ってしまったし
、冥子は小竜姫を姉妹(?)二人っきりの生活をのんびりと満喫するはずだったのだが…
…。

「熾恵さ〜ん、手合わせしましょう♪」
「姉様は本当に修行が好きですね〜」

 義理の姉は口を開ければ二言目には修行修行。なんでも人間界に逗留するようになって
、自分と互せる相手と手合わせする機会が全く無く、退屈で退屈で仕方なかったのだとい
う。冥子としては目的の時が来るまでのんびりと過ごそうと思っていたのだが、ひどく嬉
しそうな顔でそういってくる小竜姫を前にして、そんな彼女の申し出を断ることは出来な
かった。

(でも〜元の世界でもこんなに嬉しそうな小竜姫様の顔は見たこと無いわね〜。やっぱり
武神だから戦うのが好きなのかしら〜)

 冥子は小竜姫が修行相手として自分が受け入れているのだと思い、それならばと毎日の
ように姉の相手をするのであった。だが、小竜姫自身は、修行ももちろん楽しいのだがそ
れ以上に、急に出来た妹とのコミュニケーションが新鮮で楽しくて仕方が無いのだ。

「あなたと手合わせするのが楽しくて仕方ないんですよ。姉妹で遊ぶというのはこういう
気持ちなのかもしれませんね」

 そういって屈託の無い笑顔を見せる小竜姫を見ていると、冥子としても嬉しい。彼女と
しては誰とでも仲良く過ごせることが一番大事なのだ。

「じゃあ、美神さんから戸籍をもらったら一緒に遊びに行きましょうよ〜。これからは姉
様も人間界に来ることあるんですし」
「そうですね。たまには羽目を外すのもいいかもしれません」
「しょ、小竜姫さまーー!!」

 彼女たちがおしゃべりに花を咲かせていると、急に鬼門(右)が息を切らせて走りこん
できた。

「なんですか? そんなに慌てて?」
「お客様ですか?」
「こ、これを!」

 そういって小竜姫に手渡されたのは一本の書簡。豪華な装飾が施してあるその筒は、小
竜姫にもよく見覚えのあるものだった。押印を確かめるのもそこそこに、何事かと内容に
目を通す。

「お仕事ですか?」
「任務には違いないのですが……はぁ」
「?」

 なぜか大きくため息をつく姉に、冥子はわけがわからずただただ首をかしげるだけであ
った。



          ◇◆◇



(な……なんと)

 腰まで届く豊かな黒髪。整った眉目に暖かい母性を感じる黒瞳。透き通るような白い肌
はさながら至高の陶器のよう……。

「天竜様?」
「殿下?」

 冥子と小竜姫の呼びかけに反応することも無く、小さな角を生やした少年、天竜童子は
食い入るように冥子を凝視していた。

(なんと美麗な女人なのじゃ……)

 生まれ落ちたときからこれ程美しい女性などと出会ったことは無かった。そんな彼にと
って、今、目の前にいる女性―――冥子との出会いは運命以外の何物ではなかった。

「殿下ー? どうされたんですか?」
「しょ、小竜姫!」
「な、何ですか急に? ちょ、ちょっとどうされたんですか殿下!?」

 こっちの世界に戻ってきた天竜童子は小竜姫の腕を引っつかみ、そそくさと建物の影へ
と連れて行く。冥子にとってはわけがわからないことばかりで首をかしげるばかりだ。

「もう! 一体何なのですか! 返事が無いと思ったら急に走り出して!」
「あ、あの女人はどなたなのじゃ! 名をなんと申す!」
「ああ、私の弟弟子の熾恵さんです。老師の下で幼少より過ごされ、今は私の義理の妹と
してこちらで過ごされている方です」
「そうか熾恵殿と申すのか……」

 そういってまたブツブツと一人ごちる天竜。

「殿下っ! いい加減にしてください! 御母上殿にいいつけますよ!!」
「(びくぅ)な、何じゃ小竜姫。余が一体何をしたというのじゃ?」
「さっきからずーっと上の空だからです。いつまでもその様だと、御父上殿の後を継げま
せんよ」
「ふむ……父上の後を継ぐ、とな」
「その通りです。天竜王様は思慮深く大変立派な方です。殿下もいつまでも子供っぽいま
まではなく、落ち着いた行動を……」
「……うむ! 小竜姫! 余は決めたぞ!!」
「まだ話の途中です! はぁ、何なんですか一体?」
「うむ! 心して聞け!!」

 小竜姫は半ば呆れがちに天竜の言葉を待った。こうなったら何を言っても聞かないのだ。
素直に言わせて、それが無茶なものでないことを祈るのみである。だが、今回ばかりは幸
運の神は彼女を見捨て、どこか遠くへ羽ばたいていった。

「熾恵殿を余の妃とするっ!」

 小竜姫の意識もどこか遠くへ羽ばたきたかったに違いない。



          ◇◆◇



「お話はわかりましたわ」
「おお! それでは!」

 天竜は満面の笑みを浮かべるが、冥子は首を横に振ることでそれに否定の意を示す。当
然、天竜も食って掛かるが冥子は首を振るばかり。

「何故じゃ!? 余が子供だからか!?」
「いいえ」
「身分の差か!? そちが人で余が竜じゃからか!?」
「いいえ」
「では何故じゃ! 何が気に食わんと申す!?」
「天竜様、落ち着いてください」

 激昂する天竜を落ち着かせるように茶をすすめ、冥子自身も間を取るように茶に手を伸
ばす。一呼吸の落ち着きの後、冥子は真剣な面持ちで口を開いた。

「天竜様が真剣なお気持ちだということはわかりましたわ。ですから、私も真剣にお答え
します。できれば他言は避けてください」
「……うむ」

 冥子が自分と対等に話してくれることを嬉しく思いながらも、その表情に並々ならぬも
のを感じ、天竜も気持ちを引き締める。

「私には心に決めた男性がいます。わけあって名前は申せませんが、私はその方以外と一
緒になるつもりはありません」

 きっぱりとした意思表示。天竜にとって死刑宣告にも近い言葉だったが、それでもあき
らめられなかった。好きな男がいるというだけで、初恋をあきらめられるほど彼は利口で
はなく、愚かでもなかった。荒ぶる気持ちを抑え、思考をひとつずつ言葉にする。

「素性を明かせんというが、その男はどのような輩じゃ? 他の男がいるというだけで納
得はできん」
「とても優しくて暖かい人です。彼の側にいるだけで安心できるんですよ」
「両思いか?」
「わかりません……嫌われてはないと思うんですが」
「他に好きな女人がおるかも知れんぞ。それでも……」
「あきらめません。絶対に」
「……そなたがその者へ向ける気持ちと同じものを、余がそなたに向けていてもか」
「はい」
「そうか……」

 その言葉に頭をたれて押し黙る天竜。その状態からは表情を確認することはできないが、
わずかに震える肩が如実にそれを物語っていた。それを見ないように冥子は普段の口調に
戻ってしゃべりだす。

「天竜様〜?」
「……なんじゃ」
「天竜様が〜私のことを好きだったら〜……」

 にこやかに笑いながら言葉を紡ぐ冥子。天竜は下を向いたままそれに耳を傾けている。

「もっと、う〜んといい男になってくださいね」
「なんじゃとぉ〜?」

 涙でぐしゃぐしゃになった顔を跳ね上げ、それでは余が不細工みたいではないか、と怒
り心頭の天竜。冥子がそんなことはないと笑いながら手を振り、笑顔もそのままに言葉を
続ける。

「だって〜、天竜様がものすっごい美男子になったら〜『こんなにかっこいい子が私のこ
と好きだっていってくれたのよ〜』って自慢できるじゃないですか〜」
「な、なにぃ〜??」
「ね♪」

 冥子からの予期せぬ言葉に一瞬唖然とするも、その意味を理解しゴシゴシと顔をぬぐい、
眼前の冥子の顔を指差し笑顔で言い返した。

「よ、余をみくびるなよっ! 自慢どころか『あ〜、天竜様がこんなにかっこ良くなるな
んて〜』と後悔させてやるからな!」
「覚悟しておきますわ〜」
「ふは、はははは……」
「ふふふ……」

 ひとしきり笑いあった後、天竜はすっきりした顔で冥子へと向き直り「ならば友なら良
いだろう」と提案し、冥子も喜んでそれを受け入れた。



          ◇◆◇



 あれから天竜と冥子が談笑している所に、様子を見に来た小竜姫も混じり、事の顛末を
聞いてほっと胸をなでおろしたのだった。そこで天竜からぽそりと出た一言。

「そういえば、小竜姫にはそういう浮ついた話は聞かんのぅ。父上も言っておったぞ『あ
いつはまだ身を固めんのか』とな」
「そうですよね〜。姉様せっかく美人なのに〜〜」
「な、何をおっしゃるんですか二人ともっ!? わ、私にだって気になる人くらい……」
「えっ!? いるんですか!?」
「どんなやつじゃ!? 竜族の中で『絶対落とせない女』とまでいわれたそなたに気に入
られるとは……」
「わー! 誰だっていいじゃないですかー!!/////」
「だ〜め〜で〜す〜〜」
「うむ! 余の初恋から失恋までの顛末を聞いたのじゃから、そなたもちゃんと話すのが
ふぇあというやつじゃ」
「勘弁してくださいー!」
「「まてー!」」

 逃げ惑う小竜姫に、それを追いかける冥子に天竜。超加速やテレポートが飛び交う中、
ふと小竜姫が異変に気づき急停車。急にとまった小竜姫に勢いを消しきれず激突する天竜。

「ぶっ! きゅ、急に止まるでない小竜姫! 鼻がつぶれてしまうかと思ったぞ」
「で、殿下っ! 何故追いかけているのですか!?」
「そなたが逃げるからであろう?」
「そ、そうではなく! どうして超加速を使っている私を追いかけれたんですか!?」
「ふい〜、やっと追いついた〜。姉様も天竜様もやっぱり速いですね〜。超加速使われた
らさすがに追いつけませ〜ん」

 天竜の後から出てきた冥子の言葉に、小竜姫は疑問を確信に変える。

「殿下! おめでとうございますー!」
「うわ! なんじゃ小竜姫。驚くではないか」
「もっと驚いてください! 殿下は大人になられたんですよ!! 見てくださいその角!」
「なに!? おお! つ、角が生え変わっておる!! やったぞ熾恵! 余は大人になっ
た!!」
「?」

 自分の頭の角をさすりながら喜びを告げる天竜に、冥子はわけがわからず首を傾げてい
たが、小竜姫が竜にとって人の成人のようなものだと教えてくれた。

「でも、外見は変わらないんですね〜」
「そんなに急には変わりません。ですが、こうして角が生えかわってからは神通力も体も
一気に成長します。殿下にとって失恋したことを受け入れ、精神的に成長したことがきっ
かけになったのでしょう」
「うむ! これで余はもっと強く、かっこよくなれるのじゃ! もう後悔しても遅いぞ、
熾恵!」
「ふふ、楽しみにしてますわ。でも〜……」

 ガシィ!
 満面の笑みを浮かべたまま冥子は小竜姫の手首を掴む。

「へっ?」
「今は小竜姫様のコイバナを楽しみましょ〜♪」
「おお! そうであった! 洗いざらいはいてもらうからな小竜姫。父上たちへの土産話
じゃ♪」

 そういってパワーアップした力でもう片方の手首を掴む天竜。こちらも大人になったと
はいえ、その顔は見た目相応の悪ガキの表情だった。

「も、もういいじゃないですか。殿下が無事大人になられてめでたしめでたしで……」
「「だ・め♪」」
「許してぇ〜!!」

 小竜姫はずるずると連行され、天竜の迎えが来るまで延々と尋問され続けたのであった。



(後書き)
 メドーサ出番なし。ついでにイームたちも出番なし。思うところがあってメドーサと冥
子の初顔合わせは先送りです。しかし、キャラクターの心理の変化を書き表すのが難しい。
読者様にうまく伝わっているか不安です。 

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