ザ・グレート・展開予測ショー

マリアと大家が大奮闘


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/12/18)

「マリアの帰りが遅いのぉ。どうしたのじゃ?」
年頃の娘を持つ父親・・でもないが、少々心配のドクターカオス。
ひょいと窓の下に目を向ければ。
「ふむ。しかし今年は以上じゃのぉ。まだ銀杏が青いのぉ」
などと感想をしていると、ドアのノック音。
「ん?誰じゃ?」
『ドクターカオス・マリア・戻りました』
心配の種が戻ってきている。
「おぉ、そうかご苦労じゃったな、はよ入らんかい」
彼女もこの家の住人部屋に入るのに何が問題なのか。
なかなか入ってこない。
痺れを切らしてカオス。
「どうしたんじゃ?」
ドアをあけてやると、マリアの腕に。
『・・・カオス・・赤ちゃん・拾い・ました』
報告するマリアの御髪(おぐし)が妙に乱れている、ようにカオスには見えた。
カオスの顔に驚いたのか、赤ん坊が堰を切ったように泣き始めた。
「こ、こりゃ、いかん牛乳を温めねばな」
と、慌てて用意に取り掛かろうとするも。素に戻ってカオス。
「マリア、どーして赤ん坊をお前が持っているのだ?」
当然の質問である。
『カオス・説明の前に・赤ちゃんの・ご飯・あげる・優先』
マリアに諭された形になった。

流石のカオスもマリアも赤ん坊の世話なぞした事がない。
となると。
「すまんな、大家のばーさん。おんしに世話を頼んで」
ひたすら頭を下げるはご存知大家のばーさん。薙刀の有段者で知られるあの婆様である。
「しょうがないだろうが。こーゆーのは男よりも女のほーがうまいのさ。ほれ、御飲み〜」
目を細めて哺乳瓶でミルクを与えている。
なんともなれば、何時でも生活用品の手に入る日本。流石である。
「で、マリアどーしてお前が赤ん坊を」
『イエス・ドクターカオス・この・あぱーとの前に捨てて有りました』
捨てた親の愛とでも言おうか、一応冬という事で厚手の産着と。
【訳有りでこの子を置いていきます。お願いです。お願いです】
と書かれてある。
「お願いします、と書かれてものぉ、せめて施設の前とかにせんのかのぉ」
ぶつくさ言っても始まらない。電話帳で子供問題を扱う施設を探していると。
「ちょいと、カオっさん」
「なんじゃい。婆さん」
「こいつは聞いた話だけどさ、施設にいれるよりも、ここで暫く育てたほうがいいんじゃないかい?」
とんでもないことを!とでも言いそうな顔のカオスである。
「いいかい。これは女の勘だけどね。幾日もすれば母親は顔を見せるよ」
大家の婆様が言い切った。
「じゃあ、婆さんが預かってもらえるのか?」
「そうねぇ、いいけど、マリアちゃんもそれでいいかい?」
カオスとしては、マリアも『YES』の返答をするかと思えば。
『・・マリア・この赤ちゃん・育てたい・です」
なんと意外すぎる意思表示。
「い、いかん、いかんぞマリア!ここが赤ん坊を育てられる環境ではない!」
声を大にして反対するカオスの反応にまた大音声の泣き声である。
「静かにおし!かおっさん。そーかい、そーかい。それじゃあマリアちゃん」
『なん・ですか?大家さん』
「アナタと一緒に少し預かりましょ」
『ありがとう・です・大家さん』
以前反対姿勢を崩さないカオスであるが。
彼の意見は一向に聞き入れてくれなかったのである。

それから彼の生活が一変した。
カオスの趣味にして実益は実験である、錬金術と呼ばれるものだ。
ところが、劇薬やら危険な品が散乱している部屋に赤ん坊は向くであろうか。
否である。
「こらっ!カオっさん、部屋の片付けは終ったのかい」
「今やってる所じゃよ・・・とほほ」
実験一つも今までの数倍の手間である。
「ホントは実験もやめさせたいところだけど、そこはお情けなんだからね」
「わかっとるわい、それに家賃もまけてもろおてるしのぉ」
当初、マリアも婆様も数日で飽きて施設へいくであろうという希望的観測は見事に打ち破られた。
半月程たった頃である。
掃除を終えて空気を入れ替えている間はマリアが子守をしている。
最初は何度も赤ちゃんを泣かしたマリアも反芻機能はお墨付き。
『この・抱き方・ベスト・の・ようです・赤ちゃん・すやすや』
他にも気をつけねばならぬ注意事項は厳守できている。
逆算これが出来るから大家の婆様はマリアと一緒に、という目算もたったのもしらぬ。
さて。
「ほら、赤ん坊の食事と、ついでにカオっさんの食事の用意するから、マリアちゃんおいで」
買い物に出かけようというようだ。
『YES・大家・さん・ドクターカオス・赤ちゃんの・世話・お願い・です』
「・・・な!」
目を丸くするカオスを知らずか、赤ん坊を渡して、お買い物にいってしまった。
ぱたんとドアが閉まってからカオスが一言こう漏らした。
「よもやマリアがこのワシに頼みごとをするとは・・」
以外ではあるが、これはある種の成長か、ともとれる。
マスターとしての心中複雑とい所だが。
「しかしのぉ。考えても見れば、赤ん坊よ、わぬしも、哀れな」
とても普通ではない人々に育てられているのだ。
人間として最も重要な時期のひとつにである。
ところが、赤ん坊はそれを知らずにすやすや夢心地である。
眺めるカオスの目じりも緩むというもの。
「しかし、ワシには何時頃の事かのぉ、こんな時期は」
概算でルネッサンス時代以前である。
改めて歴史の重さを感じるというところか。
そんな事を考えていると、
「くしゅん」
赤ん坊がくしゃみをした。
「おや?埃でも入ったか?」
何気なしに赤ん坊の顔を撫でると、カオスの表情が真っ青になる。
「い、いかん!熱があるぞい!」
一大事だとばかりにそれこそとるものを取らず、病院へ向かったカオスであった。
「し、しっかりするんじゃぞ。あかんぼ。寒くないのか?」
いくら暖冬とは言え冬は冬。
ご自慢のロングコートに赤ん坊を来るんで走る姿が目撃されていた。
尚、幸いにも軽い風邪であったことがカオスを始め三人を安心させた。
ようである。

『赤ちゃん・いない・いない・ばー』
「うきゃきゃ!」
『ばー・ばー・ばー』
「きゃっきゃっ!」
何が楽しいのかのぉ、とでも言いたげなカオスであるが。
「そうそう。この頃の赤ん坊は目が見えるからね、そういった簡単なことが面白いのさ」
『イエス・大家・さん・自我の・芽生え・です』
「そうそう!よく勉強してるじゃないか!マリアちゃん」
『・・・サンクス!』
その時の顔はカオスは確認していなかったが、
明らかに笑顔であったと大家の婆様が言い張っている。
今でもである。
「にしても、いつこやつの母親が現れるのか・・・」
『・・・マリア・あかんぼうの・ママです』
そうじゃのぉ、そうじゃのぉ、と相槌をうったカオスであった。

「か、カオスのおっさんどーしたんだ?その赤ん坊!」
数日後大来でぱったり出くわした横島の一声である。
もともと皺の深かった顔が更に険しくなり、目の周りのくまが出来ている。
あきらかに寝不足の様子だ。
「いや、赤ん坊をちと引き取っている形なのじゃ・・」
「どしてさ?」
カオスと赤ん坊、まるで対極の似つかわない単語である。
「カクガクシカジカなのじゃ」
「そ、そっか、マリアが赤ん坊を拾ってきて育ててるのか」
「うむ、大家のばーさんが言うには絶対に母親が現れると言ってのぉ」
「現れるって、そんな馬鹿な」
「ワシもそう思うがのぉ。じゃが・・」
「?じゃがって?」
「女の勘は馬鹿に出来んし、まっ、それに」
疲れてはいるが目だけは輝いて。
「このまま、この子を育ててもよいと思うようになってきたわ」
ほれ、可愛いじゃろ?と横島に見せた。
「ま、まぁな、ほら何処と無くマリアににてるよーな」
「ははは、そんな馬鹿な」
笑い声に誘われたか、赤ん坊も赤ん坊なりに笑っているようである。
では、と別れの挨拶をした時。
こちらを見つめる若い女性。
手を力なく伸ばしてこちらを見ている。
「・・・カオっさん、あの人」
横島もカオスも勘はいい方である。
「おそらくは・・かもしらん、のぉそこの女」
振り返って声をかけると、その女は脱兎の如くである。
「坊主!あやつを追いかけい」
「言われるまでもねぇよ!」
あちらがウサギなら俺はチーターだ、とでも言おうか。
すぐに女性の肩を捕まえて。
「今、カオス・・あのじーさんがあやしている子はあなたの子供っすね」
怒気を含んだ一言である。
子供を捨てる、たとえどんな理由があろうと許せない、行為だからだ。
へたへた、とその場にしゃがんで泣いてしまった。

場所を変えて。カオスのアパートにてである。
むせび泣きながらの女の話であるが。
どうやら父親が悪すぎる。話を聞いた全員が怒りをあらわにした。
「うぅう・・それで・・とうてい・・育てる事は・・ムリで・・そこで・・・・」
という事のようだ。
「理由はわかったよ、もう泣くのはお止め」
大家の婆さんがぽんと母親の肩を叩いた。
「で、アンタはこの子と一緒に暮らしたいのかい?」
「・・はい、でも先ほど言ったとおり」
「甘えるのはおやめ!その男から逃げるなりなんなりの手があるだろう」
すべてを打ち明け実家にもどるも良し、警察に保護を求めるも良し、
何も考えず捨てるのはかわいそう過ぎるじゃないか。
いや、身勝手だよ、
この罵詈雑言はカオスも引くほどであった。
「・・でも・・」
何かを言おうとした母親に頬の痛みが走った。
ぱしんと平手打ちの音。
「ま、マリア!やめるんじゃ」
慌てるカオスである。こんな事は今までに一度たりとも無かったからだ。
アンドロイドは人を襲う。たとえどんな理由でも・・。
『みて・ください・赤ちゃん・アナタの・顔見て・笑って・ます』
「・・・マリア・・・そうか、そうじゃな」
ぽつねんと、言葉を発してカオス。
「女、そういうことじゃ、とりあえず、旦那をなんとかせねばいかんようじゃな」
「どうにかするって・・」
「ふん!このドクターカオスに不可能はないわ。小僧ちいと手伝え」
「いいぜ、乗りかかった船ってやつだ」
「では出かけてくる、でいま旦那は何処に・・そうパチンコ屋か」
居場所だけを聞いて二人が出かけると。
「で、もう一つはアンタの今後だね、どうする?」
「・・・・全てを両親に話して、戻れれば戻ります」
「そうだね。それが一番だよ。でも電話するのも勇気がいるだろ、マリアちゃん」
「イエス?」
「付いていってあげな」
「イエス」
そして、電話をかけた母親であった。
最初は緊張していた、ところが段々と声に張りが出てきたと思えば。
最後は泣き崩れて感謝していた。
話が纏まった所で二人が戻ってきた。
「おや、カオっさん、お帰り、で、ろくでなしはどーしたの?」
「・・・聞かんほうがええ、な、坊主」
「そうっすねぇ。まさかあんな事をするなんて」
「じゃが、法律には違反しとらんよ」
「??何をしたんだい」
「秘密じゃよ、男同士の、のぉ」
「そうっす、そうっす、ちょいと記憶を・・」
「それ以上言う出ない、坊主」
その後聞き出そうとした大家の婆様であったが。
二人の口は貝であった。

そして母親は実家へとも戻っていったのだが。
少しだけマリアが赤ん坊を離そうとしなかった事実があった。
「やめんか、マリア」
「・・イエス・ドクターカオス」
そして、この悲しそうな顔を一瞬見せたのも、カオスは見逃し大家の婆さんは見ていた。
後日。
マリアのメンテナンスをしていたカオスが。
「・・?おや?感情回路がちいと劣化しておる、これは・・」
ビニール紐が一部剥がれ微妙な変化が出ていることに気が付いたカオス。
当初はそのままにしようかと思ったが。
「・・・・」
無言でその箇所を補強していた。
暖冬の今年、この日も小春日和であった。

FIN

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