ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-2- 令子の申し出


投稿者名:いすか
投稿日時:(04/12/18)

(ああ〜〜! どうしよ〜〜〜!!)

 どこまでも続く白い地平線。よく覚えのあるその空間で彼女、六道冥子はその穏やかな
顔つきとは裏腹に困り果てていた。その彼女のに対峙するのは、してやったりの表情を浮
かべる美神令子その人。神通棍を右手に構えヤル気満々といったところである。

「ふふふ、小竜姫様とタイマン張るよりよっぽど楽だわ。世界最高のGSをなめんじゃな
いわよ」
(ああ〜!! 令子ちゃん本気っぽいし〜〜!?)

 本気で戦えばあっさりと冥子の勝ちである。今は抑えているが文字通り、霊力の桁が違
うのだ。だが、冥子本人にとって重要なことはそんなことではなく、

(どうしよ〜! 私が勝っちゃっても令子ちゃん、ちゃんと前みたいにお友達になってく
れるかしら〜〜!?)

 と、いう事らしい。
 冥子にとって令子は初めての友達であり、掛け替えのない親友である。彼女にとっては
勝負の勝ち負けよりも、友情の構築(再構築?)の方が重大な事柄なのである。

「あ、あの〜……」
「あんたを疑ってるわけじゃないけど、ちゃんと本気出してよね。私が力をどれだけ引き
出せるかはあんた次第なんだから」
(あああああ〜〜〜!!)

 そんな彼女の苦悩も知らず、令子は冥子にしっかりと釘を刺す。令子にしてみれば明ら
かに実力の違う小竜姫より、力は不明でも同じ人間である冥子のほうが組しやすく、力を
発揮しやすいと思っている。故に、冥子と全力でぶつかり合い勝つ事が令子にとって、最
も理想の展開なのだ。

「せ、せんせ〜い!」
「ん? 向こうがああいっとるんじゃ、全力でやればよかろう。骨は拾ってやるから心配
するでない」
「先生の薄情者〜〜!!」

 すがる思いで助けを求めた師ににべもなくその手を振り払われ、冥子は今までの出来事
を反芻しながら叫んだ。

「待った無し。一本勝負です。では……始めっ!」
「いっくわよー!」
(なんでこんなことに〜〜〜)

 飛び込んでくる令子を視界に収め、泣きそうな表情の冥子は迎え撃つ体勢を整えた。



          ◇◆◇



「熾恵さん、ですか? 失礼ですが家名の方は?」
「え、え〜っと〜〜」
「こやつは赤ん坊のまま捨てられておってな。見かねてワシが天界へ連れ帰り育てたのじ
ゃ。故に家名は無い」
「あ、し、失礼しました」
「いえ、お気になさらないでください」

 恐縮する小竜姫に言葉をかけながらも、ハマヌンの助け舟に冥子は胸を撫で下ろす思い
だった。即興で作った偽名だったのでそこまで考えていなかったのだ。なおも謝罪を続け
る小竜姫の態度にハマヌンはさらに声をかける。

「おぬしの弟弟子などといったが、実際ワシの孫のようなもんじゃ。姉貴分であるおぬし
がそんな調子でどうする」
「わ、私が姉ですか!?」
「うむ。仲良くしてやってくれ」
「よろしくお願いしますね。小竜姫姉様」
「ね、姉様……」

 自分を指差ししどろもどろする小竜姫の様子に、冥子も面白がって呼びかけてみる。明
らかに小竜姫の方が年上なのだが、その童顔を赤面させてあわてる姿はかわいらしいこと
この上ない。

「どっちかっていうと小竜姫様の方が妹って感じが……」
「……どういう意味ですか、横島さん」
「いや、こう成熟した体のラインというか、大人の女の色香というか……」
「何をほざいとるかキサマはー!!」
「悪かったですね! どうせ私は胸も小さいですし! 熾恵さんのような色気も無いです
よ!!」
「ノォーーーー!!」

 ハマヌンに組み敷かれたままの横島のセクハラ発言に、令子の蹴りが飛び、小竜姫の神
剣が唸った。

「堪忍やー! 俺はあくまで客観的事実を述べただけで……」
「まだいうかこのアホー!」
「あの、美神さんも小竜姫様もそれくらいに……修行もまだ途中なんですから」
「そ、そうでした。それで老子、今日は何用ですか? 熾恵さんを紹介するためだけにこ
られたわけではないでしょう」

 おキヌの言葉に我を取り戻した小竜姫が、ハマヌンに問いかける。

「もちろんじゃ。と、いっても熾恵のことなんじゃがな」
「といわれますと?」
「こやつもようやっと一人前になったでな。人間界の常識も教養も教え込んだし、霊力も
人間では破格じゃろう」
「はあ」
「ワシは人間は人間として生きるのが自然だと思うのじゃ。それで人間界との交流のある
おぬしのところへ連れてきたとうわけじゃ」

 これも当然嘘だが、実に巧妙。これで冥子は今まで人間界とは全くかかわりが無く、天
涯孤独。しかも常識が備わっていることに対しても、周りから怪しまれることはないとい
うことである。

「え、じゃあ熾恵さんは下界に降りられるんですか?」
「それはこやつ次第じゃ。小竜姫のところにしばらく身を置くのもよし、すぐ山を降りる
のもよし。まあ人として生きていく以上、必要なものは小竜姫に揃えてもらわんといかん
がな。戸籍とか」
「ちょ、ちょっとまってください。私にそんなツテはありませんよ!? 住居くらいなら
ともかく、戸籍となると……」
「私が用意してあげてもいいわよ」
「えっ! 本当ですか美神さん!?」

 予期せぬ令子の申し出に驚きの声を上げる小竜姫。そんな彼女の態度に腹を立てること
も無く、令子は彼女らしからぬにこやかな笑顔で答えた。

「そのかわりにさー……」



          ◇◆◇



「ハアァッ!」

 袈裟懸けに振り下ろされた令子の神通棍が、狙い通りに冥子の左肩口に吸い込まれる。

(もらった!)

 バシィ……ん!

(えっ!?)

 予期せぬ反動を受け、令子の神通棍が大きく跳ね上がる。愕然とする令子の目の前に
、黒光りする何かが瞬いた。

「っ!」

 それに本能的が警報を発し、それに従い令子は神通棍を手放し慣性を無視してしゃが
みこんだ。その一瞬後に令子の頭上を猛スピードの何かが音を立てて通過した。それを
意識的に無視し令子はしゃがんだまま後ろに跳んで距離を開け、眼前の冥子を視界に収
めようとする。

 トン。
「―――なっ!?」

 背中に感じた感触にぞわりと背筋が震えるのを感じ、令子は身体をひねるようにして
神通棍をなぎ払う。

 キィン!

「ダメよ。目を離しちゃ」

 令子の放った斬撃を事も無げに右手に持った黒いカタナで受け、諭すように声をつむ
ぐ冥子の姿を確認し、令子は頬を引きつらせた。斉天大聖の弟子といっても同じ人間と
タカをくくったことを、令子は今更ながらに後悔した。

(全く、とんでもないわね。小竜姫とやったほうがよかったかも)

 令子は後悔しながらも牽制の突きを繰り出し、冥子はそれを避けるようにバックステ
ップして令子から距離をとる。
 令子にしてみれば大誤算だ。斉天大聖の弟子とまでいわれるものを侮ったつもりは無
いが、まさかここまでレベルが違うものとは思わなかった。最初の一合やり取りでの冥
子の動きどころか、後ろに回りこむ動きすら視認できなかった。

(神でも悪魔でもない、同じただの人間なのにね……)

 その事実が令子を愕然とさせ、奮い立たせた。今はかなわないだろうが、同じ人間で
ある以上、自分もたどり着けるはず。
 全身を緊張させ気合を入れる。神通棍を斜に構え、その視線は射抜くように冥子へと
向ける。そんな令子の姿に、冥子は先ほどまでの悩みなどすっぱり忘れ、とても満足し
た表情を浮かべた。

「あんた、強いわ。今の私じゃ逆立ちしても勝てそうに無いけど、はいそうですかって
引き下がれるほど私はおとなしい女じゃないのよ!」

 令子の気合に呼応するように、右手の神通棍がバチバチと悲鳴を上げる。令子に促さ
れるように冥子もカタナを正眼に構えなおした。

(一発勝負! 小細工なんて通用する相手じゃない! 当たれば勝ち、外れれば負け!
全霊力をこの一発に……!!)
「いっくわよー!!」
「いきますっ!」

 同時に踏み込み、お互いの得物が激しくぶつかり合う。そこまで確認して令子の意識
は唐突に途切れた。



          ◇◆◇




「……ん、んー……」
「! み、美神さん気が付きましたか!? みなさーん! 美神さんが目を覚ましまし
たよ〜〜!」
「あ、おキヌちゃん? ここは……?」
「小竜姫様のお部屋ですよ。熾恵さんとの試合のあと美神さん倒れちゃったんです。心
配したんですから〜〜」
(ああ、そういえば……)

 言われて思い出す。全力で一撃を見舞った後に霊力の使いすぎで倒れたのだ。ぼふっ
と枕に頭を埋め、天井を見ながらぼそりと一人ごちる。

「負けちゃったか……」

 あれは今の自分に出せる最高の一撃。それでも届かなかった。力の差があるのはわか
っていたが、現実を突きつけられるとやはりへこむ。

「いいえ、引き分けですよ」
「へ? 小竜姫様?」

 ベットの上でへこたれていた令子に声をかけたのは、部屋の主である小竜姫。彼女が
作ったのか、その手には雑炊がおいしそうな湯気を上げていた。

「はい、どうぞ。お腹すかれたでしょう?」
「言われてみれば……」
「美神さんはあれから5時間程眠られていたんですよ。夜道は危険なので今日は泊まっ
ていってください」
「5時間も寝てたのかー。そういえばさっき引き分けって言ってたけど……」

 小竜姫から渡されたカニ雑炊を食べながら、令子は熾恵との試合の顛末を聞いた。 

「気持ちの乗った良い攻撃でした。熾恵さんも真正面からは完全には受け流せなかった
ようです。まあ、霊力の使いすぎで倒れてしまったので痛み分けといったところです」
「それで引き分け、か……」
「引き分けでもすごかったです! 老師様も褒めてましたよ!」
「老師直々の合格が出ましたのでこれで全ての修行は完了です。これであなたの霊力は
かなり底上げされました。単純な霊力なら唐巣さん以上です」
「ありがと」

 言葉少なく礼を述べる令子の様子、おキヌは疑問を感じる。彼女の知っている令子な
らもっと喜んでもいいような気がするのに。

「どうしたんですか、美神さん? うれしくないんですか?」
「うれしいわよ。でも、流石にあれだけ力の差を見せられちゃね……霊力云々の前にぜ
んぜん動きについていけなかった」

 そういって頭をたれる令子におキヌも押し黙る。そんな様子を見かねて、小竜姫が口
を挟んだ。

「んー、身体能力という点では熾恵さんよりは美神さんの方が上でしょう」
「えっ!? でも無茶苦茶素早かったわよ!?」
「熾恵さんは一歩も動いていません。その場から消えて、美神さんの後ろに現れただけ
です。美神さんの神通棍をはじき返したのも、霊力で筋力を増幅していたからです」
「テレポートしたっての!? あんな一瞬で!?」
「私も驚きました。熾恵さんは霊力で行えることの幅が非常に広いのです。通常、札や
儀式を必要とするようなことでも自分の霊力のみでやってしまえるようです。まあ、莫
大な霊力がないととても無理ですが」
「小竜姫様でもできないんですか?」
「テレポート自体はできますが、あのように使うことは無理です。私の場合、具体的な
イメージを描いてからテレポートしますから」
「あんな簡単に好きな場所にテレポートされるんじゃお手上げよ。本気になったら絶対
捕まえられない」
「ほわ〜、熾恵さんってすごいんですね〜」

 小竜姫と令子の評価におキヌの賞賛の声が上がる。言葉通りお手上げといった感じの
令子は余りの力の差に逆にすっきりしたのか、幾分軽い調子で小竜姫に問いかけた。

「具体的に私はどれ位強くなったの? 確か先生が80マイトくらいだったと思うけど」
「85マイトといったところですね。15マイト程、最大霊力が底上げされたものと思って
ください」
「85マイトかー……熾恵さんとの差は大きそうだわ。小竜姫様の見立てでは熾恵さんの
霊力はどんなもんなの?」
「力を抑えていますので確かなところはわかりませんが……最も効率的に霊力を扱って
も、あの様にテレポートを行うには最低150マイトは必要でしょう。まだ余裕があった
ようですから、少なくともその倍くらいはありそうですね」
「す、少なくとも300マイト……」

 エミのように儀式を行い霊力を増幅せずとも、ただ霊力を無意味に垂れ流しているだ
けで最低300マイト。一般GSの基準が50マイト、日本最高の美神も85マイトであること
を考えれば完全に人間として規格外であることは明らかである。

「何食べてたらそんなに強くなるのかしら」
「環境より熾恵さん自身の資質によるところが大きいと思います。老師が言うには、ま
だまだ発展途上だそうですし」
「まさに天才ね……あーあ、戸籍もつくらなきゃいけないし、頭が痛いわ」
「ご迷惑をおかけします」

 小竜姫ではなく熾恵との試合を行うことを条件に、令子は熾恵の戸籍をどうにかして
作るというのが約束だったのだ。結果オーライだが、分の悪い条件だったと今更ながら
に思う。

「あ、そうだ。この際だから小竜姫様も戸籍とっちゃえば? 熾恵さんの姉ってことな
ら持ってたほうが何かと便利よ」

 人間の間では確固たる個人証明が第一。最低限戸籍くらいはないと住居を構えること
すらままならない。

「でも、そこまで美神さんにご迷惑をおかけするのは……」
「どうせでっち上げるんなら一枚も二枚も同じよ。迷惑って思うんなら令子、小判が欲
しいな♪」
「み、美神さんってば……」

 商魂たくましい令子におキヌは苦笑するしかなかった。小竜姫もその程度ならばと思
い申し出を受けることにした。

「細かいことはこっちでやっとくけど苗字どうする? 二人とも苗字ないでしょう?」
「んー、私はこの地に括られているので、そのまま『妙神山』でいいでしょう」
「オッケー。出来たらまた連絡するわ」

 この様なやり取りを経て、冥子はこの世界で『妙神山 熾恵』として存在することと
なったのだ。




(後書き)
 冥子の過去での名前が決まりました。ついでに小竜姫にも戸籍を作ってみたり。やた
ら説明的セリフばかりで、お目汚しではありますがこれからも精進いたしますのでなに
とぞご容赦を。小説は本当に難しいです。 

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