ザ・グレート・展開予測ショー

仲良きことは美しきかな。


投稿者名:龍鬼
投稿日時:(04/12/18)

 始まりは、その一言。
「ねぇ、シロちゃん。お散歩、行かない?」

「………え゛?」
 思いっっっきり後ずさるシロ。
 そりゃそーだろう。
 シロとの「サンポ」が一般人にとって死と同義であることぐらい、
 流石のシロも自覚している。

「おキヌどの……誠に失礼でござるが、頭でも打っ「何か言った?」
「何も言ってません、でござるっ!!」

 何故か敬礼と共に、きっぱり言い切る。
 だって、底抜けの笑顔がちょっぴり怖かったんだもん。

「違うのよ、本当に、お散歩。ゆっくり、周りの景色を見ながら歩くの。
 お買い物のついでだけどね」
「えぇ〜〜〜、そんなの………」
 そうやって、今にもぶーぶー言い出しそうな顔で呟く。
 シロにとっては、サンポはスピードと走りきった後の爽快感なのである。
 のんびり歩くなんて、性に合いそうもない。

「美神さんと横島さんは仕事だし、タマモちゃんはあぁだしねぇ………」
「あぁ………」

 二人の目線の先には、ソファーでぐっすりのタマモ。
 キツネの姿で、完全におねむのよう。

「まぁ、たまには良いと思うわよ。それに………帰りに、内緒でお肉買ってあげ「まことでござるかっ!?」
「シ……シロちゃん。顔、近くない?」

 おキヌの眼前には、目を爛々と輝かせたシロの顔が広がっていた。
 少し前に美神から、余りにも多い食費を節約するよう言われたばかりである。
 目の届かぬ所で肉を食い溜め出来るとあれば、行かない訳にはいかない。

「でわ、でわ!!早く逝くでござるっ!!」
「………シロちゃん、字がちょっと違わない?」

 なんだか、一抹の不安を抱えつつ―――
 いざ、出発。

「じゃあタマモちゃん、留守番お願いね。行ってきます」
「くふぅん………いってらさい………」

 起きた時のタマモに、その記憶が残っているかなぁ………。










「早く、早くでござるっ!!」
「ねぇ、シロちゃん……もっとゆっくり歩きましょ?」

 シロが急ぐせいで、事務所からだいぶ離れた通りにもう着いてしまった。
 もっとも、シロにとってはまだ遅いぐらいのペースなのだろうが。

「えぇ〜〜〜、でござる………」

 ぶすっ、として速度を緩める。
 どうも、楽しさがよくわからない。

「だいいち、あそこの店に買い物に行くなら、
 あっちの道の方が近道でござるよ?」
「いいの。こっちの道の方が『良い道』なの」

「よく分からんでござる………『良い道』というのは、
 近い道のことでござろう?」
「こっちの道は、確かに遠回りだけど……景色が、好きなの」

「景色、でござるか?」

 いつの間にかそこは、小高い丘の上。
 街の喧騒も、ここまでは届かない。
 そして事務所や、街の様子が一望出来た。

「うわぁ………」

 いつも自分たちが暮らしている街が、小さく見える。
 シロにとっては、それが不思議で、楽しくて。
 先生とのサンポで、よく通る道なのに。

「あ、ほらシロちゃん。この花、綺麗………」
「おぉ、ホントでござるなっ♪」

 初冬だというのに、この日は小春日和。
 うっすらと暖かい風の中に、可愛らしい花が一輪。

 そして森の木も、鳥たちも。
 全てが調和して、自分を包んでくれている気がして。

「うーむ……拙者、こんなに色んなものを見逃していたんでござるなぁ………」
 そう言って、シロは頬を掻く。
「ね?たまには良いでしょ?」

「う〜ん、でも……せっかく今まで色んな場所をサンポしたのに、
 なんだか損した気分でござる……」
「そうだね……でも、横島さんも同じこと、思ってないかな?」

「え?」
「きっと、横島さんも……シロちゃんと一緒に、
 いっぱい綺麗な景色を見たいんじゃないかな?」

「それは………」

 今までのサンポが、思い出される。
 ただ自分は全力で走るばかりで、後ろの先生のこと、
 忘れてなかっただろうか……。

「確かに、申し訳なかったでござるかなぁ……」

 しゅん。
 顔は笑ってたけれど、ちょっぴり落ち込んだ。

「だからね、シロちゃん」

 その人の表情が、もっと優しくなる。

「横島さんのこと、好きだったらね。一緒に歩いてあげなきゃダメよ?」
 表情は、やっぱり優しいまま。
 ちょっぴり、イタズラっぽくなった部分を除いては。

「………負けないもん」
「お互い様です」

 目が合うと、どちらともなしに笑みが零れる。
 でも、シロはちょっと思った。
 敵わないなぁ。この人には。
 ……今はだけど。

「でも、たまにはいっぱい走っても良いでござろ?」
「だって、横島さんだもの」

 もうそこに居るのは、二人のイタズラっ子。

「じゃ、改めてお買い物ね。そろそろお肉、安くなるし」
「正々堂々、勝負の誓いでござるな♪」

 ゆっくり、ゆっくり。
 また歩き出した二人。

 でも、考えてることはきっと同じ。

 事務所に帰ったら、あの人はいるのかなぁ……。

 そんなとってもとっても平和な、小春日和の一日。

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