ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 28〜親子対面〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/17)

銀一達三人が帰った時、横島と美衣親子が出迎えてくれた。ケイがタマモに飛びついて
遊園地の話をせがんでいる。既に食事も済ましており、美衣の家庭料理を堪能したそうだ
ちょっと羨ましかったが、こちらはタマモとの外食だ。負けてはいない。
正直、雪之丞達が邪魔だったがこの男が一向に離れようとしない為、結局最後の夕食まで
六人で摂る事になった。ああ、憎しみで人が殺せるなら・・・

大体ちゃっかり彼女とも楽しい時間を過ごしながら、タマモとも過ごしたがるなど
欲張りも度が過ぎるのではないか?連れの彼女もヤキモチのひとつも焼いてくれれば
良いものを、変に理解ある態度でタマモにも親切に接してくれていた。
それ自体は良いのだが、お似合いのような似合わないような妙なカップルである。
もうひと組の方は解り易く、体育会系というか、肉弾派という感じだった。
だが雪之丞達は、令嬢と用心棒といった感じでどうにもピンとこなかった。
そんな事を考えていると、

「美衣さんの仕事は決まったから、住む処も見つかったんで近々引っ越すから。」

そう報告してくる。昨日の今日で素早い事だと感心してしまう。相変わらず辣腕な男だ。
タマモはケイがいなくなるのが、寂しそうだったが、これで会えなくなる訳でもない。

「それとタマモ、両親がタマモに会いたがってうるさいから、冬休み中にナルニアに
行こうと思うんだけど予定はどうかな?」

随分急な話だった。確かに戸籍上は養女になっている為、義理とは言え両親の顔も
知らないというのはマズいだろう。それは解るが横島は今まで面倒がって何やかやと
先延ばしにしていたのだ。急に心境の変化でもあったのだろうか?

「別に予定は無いから、明日からでも平気だけど?」
「じゃあ明日出発するから、準備しといてね。」

間髪を入れずに返事が返ってきた。どうも変だ。確かに両親からうるさく言われて一応
パスポートは作ってあるが、いくらなんでも急すぎる。他にも何かあるのだろう。
取り敢えず準備を急ごうと席を立つとケイがまとわりついてくる。

「お姉ちゃんもう会えないの?」

年下の(実際はタマモの方が下なのだが)少年に慕われるという体験がなんとも新鮮で、
何となくエミのようになれた気がして気分が良い。

「ばかね、帰ってきたらいくらでも会えるわ。何時でも遊びに来て良いのよ?」

そんなタマモの様子を見守りながら残りの男二人も何か考え込んでいた。

「ちょうど良い俺はその間妙神山にこもるぜ。横島が見せた技を身に付けたいからな。」

「ほんなら俺は大阪に帰るわ。昔馴染みに会えるかもしらんし。」

二人が口々に言い出した。横島とタマモがいないのであればここにいる意味もない。
二人が馴染んでいるのは”部屋”ではなくその”空気”なのだ。
美衣親子もほとんど身ひとつなため明日にでも引っ越せるという。明日の午後には
この部屋は無人になるだろう。

「あ、そうだ、雪之丞。お前正式にウチの事務所で働かないか?」

いきなり横島がそんな事を言い出した。悪い話ではない、それどころか破格の話だ。
自分の実力に自信はあるが、前歴のせいでどこも正式には雇ってくれなかった。
小竜姫の計らいで試験の合格は認められたが、免許は見習いのものだ。正式に認可
してもらわなければ正規のGSとしては認められない。自分の師匠にあたるのが
アレになるのかと思えば色々と考える処はあるが贅沢は言えない。条件面では
自分と同程度になるよう交渉すると言っているがそんな事はどうでも良い。
大事なのは横島と肩を並べて闘える環境が正式に手に入るという事だ。

「条件はどうでも良い、あ、社宅はいらねえぜ。住む処はもうあるからな。」

そう言って快諾した。
家主の意見も聞けよと思いながらも承諾してくれたのでホッとした。
結局そのまま解散して、翌日全員がバラバラに出発した。




飛行機に乗った最初の頃はタマモも珍しそうにハシャいでいたが、流石に24時間以上も
機内にいると疲れたように言葉少なになっていた。横島も同様でナルニアに着陸した
時は正直ホッとした。飛行機から降り、空港のゲートを抜けると迎えが来ていた。

「まーったく!娘の顔見るのになんで四ヶ月も待たなきゃならないんだい?ホントに
気のきかない息子だよ! ああ、初めましてタマモちゃん、私は百合子よ。」

「その通りだぞ忠夫!おおっ!このコが俺達の新しい娘か、可愛いなあ。初めまして
タマモちゃん、俺は大樹だよ。」

のっけから両親に罵倒されるが、面倒臭がって先延ばしにしたのは自分だ仕方が無い。

「初めましてタマモです、あの、おとうさん・おかあさん、私の事、娘にしてくれて
ありがとうございます。おかげで、今、幸せに暮らせています。」

タマモなりに初対面の挨拶を考えていたのだろう。少々猫をかぶっているような
気もするが、可愛いので問題無い。案の定、

「くぅ〜〜っ!なんて可愛らしいんだ!お父さんは感動したぞ!親子の間で敬語なんか
無しだ、普通に喋っていいぞ。百合子さん、こんな可愛い娘ができたら息子なんかもう
いらんのじゃないか?」

「そうねえ、確かに可愛くない息子だしね〜。ああ、それと親子の間でちゃん付けも
変ね。よし、タマモって呼び捨てにするから貴女も普通の言葉遣いにする事。いいね?」

同意を求めてはいるが、反論など聞くつもりが無いの明白だ。タマモは正直驚いていた。
心配いらないと言われてはいたが、ここまで普通の親子として接してくれるとは予想
していなかった。自分の正体も全部知っているはずなのに、関係ないとばかりに
側に寄って来る。さすがにあの横島の両親なだけはある。息子の扱いはぞんざいだが。

「疲れただろう、車を待たせてあるから早く家に行って休もう。荷物なんか忠夫に
持たせれば良いから。」

そう言って三人でスタスタと歩き去って行く。どうやら自分の扱いはポーターらしい。
ため息をひとつつくと、見失わないように後を追う。車まで来た時に、

「そういや忠夫、今回えらく急だったな。いきなり電話してきてこっちに来るなんて。」

タマモが驚いて顔をあげる。横島から聞いたのとは逆だ。

「ああ、いけねえ言うの忘れてた。悪ぃ、じゃなくて、失礼しました!」

いきなり横島の口調が変わる。

「横島支社長、本社からの依頼を受けて参りました、GSの横島です。」

きっぱりと、まるで別人の凛々しくそう告げて来る息子を見て、大樹はブッたまげた。

「ちょ・ちょっと待てっ!あれはランクSだから本社決済になったんだぞ?」

そう言ってくる大樹に対し、黙って自分のライセンスを差し出す。大樹はライセンスと
忠夫とを見比べながら開いた口が塞がらない。それはそうだろう、本社に移管して以来
イライラしながら待っていたら何の連絡も無くやってきたGSが息子だったのだ。
件の鉱山は支社の生命線と言えるもので、社内の政敵に対抗する為にも絶対に解決
する必要がある。大方決済が遅かったのもその辺りからの横槍がはいったのだろう。

派遣されてくるGSは正に大樹にとっては救世主のような者なのに、それが息子とは。
だが何度見てもライセンスの表示が変わる訳でもない。まぎれもなくランクSだ。
一方、百合子は切り替えが早い。一人で仕切って予定を変更する。

「ああ、それじゃ忠夫は仕事が先だね。会社に寄って降ろしてやるから、仕事が
片付いたらおいで。食事くらい作っといてやるから。」

あっさりそう言うと車に乗り込み皆を急かす。乗り込んだ処で走り出した。
会社に着くと一人だけ降りて受付へと向かう。その際に百合子から、

「お前がプロを名乗るならグダグダ言う気は無い、責任を果たしな!」

なんともあの母らしい激励だと苦笑しながら、

「お任せ下さい!このGS横島忠夫、過去の依頼の達成率は100%!受けた依頼は必ず
果たします。貴社のお悩みも迅速に解決してみせましょう。」

このへんはさんざん鍛えた営業トークだ。まだ不安そうな大樹に安心させるように
笑いかけて、社内に向かって力強く歩いていく。そんな横島を見てタマモがポーッ
としている横で大樹はあれは誰だ?と呟いていたし、百合子は微妙な表情をしていた。

横島は意識を仕事用に切り替えていた。今回は完全に本気モードだ。
正直疲れてはいたが、一日余分に操業が停止すればそのまま業績にシワよせがくる。
大樹にはタマモの件での恩もある。仕事のワクを超えてでもこの依頼は必ず果たす。
早速案内人がついて現場へと向かう。そこでは褐色の肌をした女性が待っていた。

「お待ちしたおりました。精霊石技師のセアラ=プレストンです。セアラとお呼び下さい
お会いできて光栄です。お噂はかねがね。」
「こちらこそ光栄です、派遣されたランクSのGS横島忠夫です。早速ですが詳しい説明
をお願いします。状況を把握次第中にはいります。」

相手を安心させる為に敢えてランクSを強調する。お噂は〜、のくだりは気になったが
今は余計な事に時間を割く余裕は無い。技師と名乗ったがおそらくこの女性が狂える精霊
に気付いたザンス人の技師なのだろう。詳しい事情を聞けるはずだ。

一方セアラの方も、目の前のランクSを名乗る少年を観察していた。ライセンスに表示
してある以上は本当なのだろうが、予想よりずっと若い。だが危険な現場を前にして
緊張した様子もなく、力んでいるようでもない。力強い眼差しには決意が込められて
いるようだ。この少年は信用できる、そう判断して説明を始める。

セアラの説明によれば、坑道内に召喚されたのは風の精霊で無理矢理そこに縛られている
風の吹かない場所でそんな事をすれば、精霊はその本質を見失い狂ってしまう。
本来はそのまま吹き荒れて力を失えば精霊界の還って行くはずなのに、そうならないのは
無理にそこに留め置いている存在があるからだ。そんな存在が尋常なもののはずがない。
魔獣にしてもかなり知能は高いだろう。下手をすると魔族の可能性もあるが、そんな事
までして奥に引きこもる理由が解らない。魔族の引きこもり君など笑い話にもならない。
やはり魔獣が防護壁として利用しているのだろうか?ここで考えていても始まらない。

「ようするに狂える精霊は力を使い果たせば還るんですね?」
「そうです、それができれば、ですが。」

なるほど、近づいただけで無差別に攻撃してくる精霊を相手にして、力が尽きるのを待つ
など自殺行為だ。ならば精霊をぶつけるしかないだろう。炎は駄目だ。
現場が滅茶苦茶になる。水や雷も同じ危険がある。となると残るは風しかない。
だがこちらが弱ければ吹き消される。互角だとそのまま留まって狂ってしまう。
相手より強い強制力を働かせて一気に消滅させるしかない。危険だが他に方法は無い。
しかもそこまでやって尚、更に強い相手が後に控えているのだ。だが横島は躊躇わない。

「んじゃ、ちょっくら片付けてきますんで、ここで待ってて下さい。」

気軽そうに言うと、無造作に中へと入って行く。
あまりの気安さにセアラは何も言えなかった。だが引きとめるわけにもいかない。

「こいつか・・・確かにこりゃ並みのヤツじゃ手に負えんな。」

横島が遠目に見ているのは半透明な姿を蠢かせている、かつては自由だった風の乙女達。
最早その本質を見失い荒ぶるままに近寄るものを攻撃する。どの距離から攻撃が
始まるのか解らない以上、ここから備えて行くべきだろう。霊符を出し精神を集中する。
自分の力を限界まで高め、引き絞るように霊力を練り上げる。

「唸れ疾風の刃! 風精召喚!」

最高の状態で召喚された風精が、標的に向かって疾走する。無音のままに激突し
一瞬の静寂の後、爆散した。そのあおりを受け吹き飛ばされる。もんどりうって
起き上がった時には、         総ての精霊が消滅していた。

「やれやれ、これだけやってまだ露払いか。どんな本命が待っているのやら。」

そう呟くと恐れ気もなく、更なる奥へと踏み出して行った。

しばらく歩くと獣臭が漂ってきた。やはり魔獣の類らしい。闇の奥から唸り声がする。
周囲は漆黒の闇に閉ざされ何も見えない。気配は伝わって来るが姿はわからない。
無視界戦闘ができない訳では無いがこの状況は分が悪すぎる。

「これじゃあな・・・殺るしかなくなっちまうな。見えないと手加減もできないからな。
しょうがねえ、呼ぶか。  あまねく闇を照らせ! 光精召喚!」

辺りが昼間のように明るくなる。ようやく相手の姿が見えると思った瞬間、
ゴアァッ!

咆哮とともに炎の柱が直進してくる。横島は咄嗟に身をかわしたが側を通るだけで
肌を焦がすようだった。恐ろしく熱の収束率が高い、炎というより灼熱の槍だ。
第二撃を警戒して身構えていると、その後一向に攻撃が来ない。不審に思い相手を見る。

それは漆黒の巨大な獣で三つ首の犬のようだった。噛み合わせた牙の間から炎が
もれている。さっきの炎はこれだろう。鋭い牙、日本刀のような爪、口から炎を吐き
更に精霊まで召喚する。すこぶるつきに厄介な相手だった。だがそれ以上に横島を
戸惑わせるものは既視感だった。どこかで見た事がある?どこだ?いつだった?

相手の方も戸惑っているようで、次の攻撃の気配もない。試しにゆっくりと近づいて
行くが、やはり攻撃してくる様子は無い。念の為、文殊を用意し転移の準備を整えて
目の前に立つ。喉の奥で唸っているだけだ。ひょっとしてさっきの攻撃は急に明るく
なったのに驚いただけだったのだろうか?尤も当たれば消し炭になっただろうが。

魔獣はじっと見つめている。何かが頭の中をよぎる。思い出したのは今となっては
懐かしい、あの魔法兵鬼、逆天号での日々。最初は首輪に繋がれ檻の中だった。
そのペットルームにいた種々雑多な同居人達。

「お・お前っ!?ケルベロスか?パピリオのペットの?」

そう言うと嬉しそうに喉の奥を鳴らしながら鼻面を摺り寄せてくる。

「そうかあ、最後の方は全然見なかったと思ったらこんな所に迷い込んでたのか〜。
帰れなくなったのか?」

三つの首を交互に頷かせている。こちらの言葉を完全に理解している。相当に知能は
高いのだろう。おそらく見知らぬ世界で知った顔もなく途方に暮れていたのだろう。
なまじ知性があるだけに、見境無く周囲を襲えば逆襲される事が解り、守りの結界として
狂わした精霊を配置したのだろう。魔獣の引きこもり君だったわけだ。
単なる血に餓えた獣なら本能のまま暴れて、退治されて終わりだったろうに、知性が
ある分それができず、孤独感もひとしおだったろう。想像すると可哀想になってくる。

イエス・ノーで会話を進めて行くとパピリオの元に行くよりも、魔界に帰りたいらしい。
パピリオなら何があっても守ってくれるだろうが、庇護は束縛と同義でもある。
獣の本能が自由を求めているのだろう。話は決まった。

「よっしゃ、ケルベロス今から魔界に送り帰してやる。ジッとしてろよ。」

そう声をかけると嬉しそうな吼え声をあげる。それは良いのだがコイツの吐息は炎なのだ
咄嗟に脇によけてかわしたが服の表面が見事に炭化している。まあ、仕方が無い。
無闇に殺さないと誓った以上このくらいのリスクはあるだろう。

「闇より生まれし黒き獣よ、汝の故郷へ帰り給え。開け魔界の門!」

これは召喚術のベクトルを逆転させたもので横島のオリジナルだった。
召喚術ならぬ送還術とでも呼ぶのだろうか。
ケルベロスの足元から闇が湧きあがり徐々に沈んでいく。

「じゃあな、ケルベロス。元気でやれよ!」

そう笑って見送ると、応えるようにもう一度吼えた。再び炎が走る。
咄嗟にマトリックス避けでかわすが前髪がチリチリと焦げている。

「アイツに吼えられるのは命懸けだな。」

そう呟きながら見ていると完全に地面に沈み込み、見えなくなった。

「やれやれ、なんとか依頼完了だな。何も殺さずに済んだし、良かった良かった。」

そう一人ごちると出口へとゆっくりと歩いて行った。






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(あとがき)
前回中途半端に終わっていたので慌てて続きをアップしました。
なんか今日の23時からしばらく書き込めないそうなので焦って送りました。
連稿になってたらごめんなさい。荒らす気なんか無いんです。今回だけですんで。

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