ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 27〜ナルニアへ?〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/17)

横島忠夫は眼前の女性と睨み合っていた。正確にいうと目の前の女性は無邪気そうな笑み
を満面に浮かべているのだが。
それは唐突だった。いきなり自分に六道女学院で講師をやれと言い出したのだ。
冗談では無い。未来ある学生達に教えるのであれば、他に幾らでも適任者がいるだろう。
少なくとも自分より経験豊富なプロがいくらでもいるはずだ。この場にいるだけでも、
大勢いる。ここには美神美智恵・令子の親娘に小笠原エミまでいるのだ。どう考えても
自分などの出る幕ではない。そもそも相手の言葉の途中で拒絶の意志を伝えてある。
だが相手は聞こえなかったかのように言い切った。言い切りやがった。断固として拒絶の
意志を視線で伝えようとするが、相手は逸らす様子も見えない。ただ笑っている。
こちらの方が視線を逸らしそうになるがここは絶対に引けない処だ。万が一美衣親子の事
を持ち出されたら、その時は堂々と謝ろう。そう決意を固めていたら、

「オバさま、それはいくらなんでも・・・」
「六道先生、いくらなんでも無理があります。」

エミが出そうとしてくれていた助け舟を上から沈めそうな勢いで美智恵が口を挟んできた
冗談では無い。ただでさえ現在大きく水をあけられているのだ。これ以上横島が六道家に
取り込まれるような事態は避けたかった。美衣親子の件も先に自分を頼ってくれれば力に
なれたものをよりによって六道家に先に頼られてしまった。確かに自分は一介の公務員。
巨大コンツェルンのトップに比べれば微力な存在だろう。だが事前にそのことを知ってさ
えいれば先回りできた。娘の様子を見れば予め知っていたようだ。それならば自分に一言
言ってくれさえすれば手の打ちようはあったものを、全く気がきかない。
美智恵は横島だけが持つその特殊能力、それを持つ血を美神家に入れたかった。
最もその立場に近かった令子は自分からそのチャンスを棒にふった。今ではわだかまりも
無くサバサバとしているがそれでは何の進展も無い。もっとわだかまれ、と言いたい。
ひのめは確かに横島に一番懐いている。横島も可愛がってくれているが、少なくともまだ
15年以上は先の話になる。いっそ横島に妙なシュミがあれば大歓迎なのだが、生憎と横島
にその傾向は無い。ならばいっそ、ワタシが?・・・
美神美智恵、ICPOオカルトGメン日本支部長であり、沈着冷静な戦術家、冷徹非常な
戦略家として知られ、内外の評価も高い彼女であったが・・・・・・・・
最近かなりテンパッていた。

「と・とにかく!同じ高校生が教えるというのは無理がありすぎます。教えられる側の
学生も困惑するでしょう。いくらなんでも無茶苦茶ですっ!」
「そうです、その通り!だいたい俺の仕事は所長のサポートでしょう!?」

美智恵の援護を得て、ここぞとばかりに言い募る。美智恵の顔には、大丈夫私は味方よ、
とはっきりと書いてある。今こそが攻める時だ。

「とにかく絶対に、はっきり、キッパリ、とお断りします。できません。」
「わかったわ〜高校生同士は無理で〜冥子のサポートがメインだから〜できないのね〜
二人がそう言うのなら〜仕方が無いわね〜。」

どうゴネるかと身構えていたら意外にもあっさりと引っ込んだ。ダメもとで言い出したの
だろうか?まったく傍迷惑なひとだ。そう思った時いきなり冥子が割り込んできた。

「ところで〜たークンに〜個人で受けてもらいたい仕事があるの〜このファイルを〜見て
欲しいの〜、事務所は通せないから〜。」

思いっきり棒読み口調でそんな事を言い出した。だが事務所を通せないとはどういう事だ
大幅に赤字が減るような依頼額なのだろうか?取り敢えず渡されたファイルに目を通した
それはいわゆる超一流企業からの依頼だった。海外支社が採掘しているレアメタル鉱山で
トラブルが発生した。坑道内にいわゆる”狂える精霊”が出現したというのだ。
狂える精霊とは召喚されたものの本来の姿をとれず、意志を無くして単なる”力在る者”
に成り果てた存在の事だ。それだけでも厄介なのだが、召喚された精霊がいる以上は当然
召喚者がいるはずだが、どうも人間では無いらしい。何と魔獣らしいのだが、精霊を召喚
できる魔獣となれば魔界でもかなりの大物。ランクS以上でなければ無理だ。心霊後進国
のナルニアでは対処できる人材はいないだろう。依頼料に10億とあるが高すぎるとは思え
ない。何せ問題のレアメタル鉱山では精霊石も産出しており、それが良質な為ザンスから
技師を招いているほどだそうだ。今回その精霊に気付いたのはその技師らしい。
さすがに精霊の加護の厚いザンスの人間だけの事はある。事情は大体わかった。
確かに10億の依頼料というのは今の六道事務所では受けられないだろう。馬鹿馬鹿しいが
だが何故自分にふってくるのかが解らない。それこそ美神事務所にでも持って行けば、
二つ返事で引き受けるだろう。何故自分なのだ?そう思いながらレポートを捲っていくと
最後のページに報告者の事がこう書かれてあった。

《村枝商事 ナルニア支社長 横島大樹》

なるほどそういう事か。自分に話を振った訳がようやく解った。おまけに個人で受けるの
だから助手を誰か連れて行っても経費は相手が出すと言う。ようするに、依頼主の負担で
タマモを連れて親娘の対面を果たす良い機会だと言いたいのだろう。
その辺りの事情を話した覚えはないのだが、相手が相手だ。知られていても不思議は無い
と思えてしまう。また一本、自分の首に鎖が巻かれていくような気がしたが、これでは
断りようがない。どうにも自分では駆け引きでは勝ち目が無いらしい。仕方無く、

「解りました。助手一名を連れて明日にでも出発します。」

そう返事するしかなかった。そこまでの会話を終えた時に待ちかねたようにシロが話し掛
けてくる。聞けばシロも六道女学院中等部に新学期から編入すると言う。
タマモに刺激されたのだろう。シロはタマモにやたらと対抗意識を持っているのだ。
最初はそれが不思議だったが、最近ではひょっとして自分を巡るヤキモチでは?
と思いはじめている。銀一の指摘以来、色々と考えるようにしている成果だろう。
それより気になるのは編入するクラスだ。タマモと同じクラスだと洒落にならないような
気がする。理事長に確認しようとしたときに、

「アンタまさかシロとタマモが別のクラスになれば良いと思ってんじゃ無いでしょうね?」
いきなり美神がそう声をかけてきた。実に全くその通りだったので反応できないでいると

「わかってないわね〜タマモに今友達はいるの?誰も寄せ付けてないんじゃないの?誰か
一人でも紹介された?喧嘩相手でもいれば少なくとも本音をさらす事が増えるわ。それを
見て近寄って来る相手もいるんじゃないの?」

横島は何も言えなかった。言われてみれば正にその通りなのだが、そこまで考えが及ばな
かった。それより意外だったのが美神からタマモを気遣うようなフレーズが出た事だ。
何せ二人の出会いが最悪だった。てっきりタマモの事は嫌っていると思っていたのだ。
現にタマモは美神の事を蛇蠍の如く嫌っている。考えてみれば美衣親子の時はワザと負け
てくれてまで助けようとしてくれたのだ。タマモの時の対応があんまりだったので、失念
していた。タマモに対しては美神に関するフォローをしようとしてはみたのだが、名前が
出ただけで不機嫌になるのでどうしようもなかった。今後の課題だろう。

「あ・あの横島さん?最初は喧嘩ばかりでも、何かきっかけがあれば仲良くできるように
なるかもしれませんよ?私のお友達もそうでしたし。」

おキヌがそう言葉を添える。おキヌから見てもタマモの態度は相手によって全然違う。
幸い自分には心を開いてくれているし、他にも何名かは気を許す相手もいるようだ。
だがその総てが横島と親しい者だという事に気付いていた。これでは世界が広がらない。
シロも横島と親しい者ではあるが、現在の仲はあまり良くない。そういう相手に打ち解け
る事ができれば、タマモの人間関係に更なる広がりができるだろうと考えていた。

一方シロにしてみれば面白くない展開だ。自分の編入の話題のはずなのに何故か中心が、
タマモに移っているような気がする。先日学校の事を話題に持ち出され、反応できなかっ
たのが悔しくて美神に自分も学校に行きたいと頼み込んだ。すると美神の方では既に総て
の手続きは済んでおり、あとは編入するだけだと言われた。前々から考えていたらしい。
これでタマモと同じ土俵に上がれると思い、あのヒネクレ者には絶対に負けない、と誓い
を新たにする。何に関して負けないのかは本人は考えていない。

「せんせえ、拙者もこれでぷりちーな女子中学生でござる。ちゃんと見てくだされ。」

シロがそんなことを言ってくる。確かにタマモを大事に思う余りシロには注意をはらって
いなかったかも知れない。だがシロとて可愛い一番弟子。当然大切に思っている。
その証拠に、引越し先を教えて以来毎朝散歩のお誘いにくるのだが、横島は律儀に毎朝
付き合っていた。それは散歩という名のフルマラソンなのだが、横島としては鍛えた肉体
をなまらせたくなかったので、自分の足で一緒に走っていた。以前なら過労死していた
だろう運動量だが今の横島にはどうという事もなかった。

「シロなら六女の制服も似合いそうだな。見るのが楽しみだよ。」

そんな言葉で会話を締めくくる。こんな事を言えば相手が舞い上がる事ぐらい解りそうな
ものだが生憎発言者は横島だ。相手が今何を考えてるか、を推測するようにはしているが
自分の言葉が相手にどういう感情を誘発するかという事までには考えが及んでいない。
横島はまだまだ発展途上であった。
取り敢えず用件はすんだので帰る事にした。エミがお茶でもしようか、と言ってきたのは
多分労ってくれるつもりなのだろう。喜んで承知すると残りの面々も一緒にくると言う。
何故か一番熱心なのが美智恵だった。不思議には思ったが断る理由も無い。おキヌとシロ
が嬉しそうにしているなら尚更だ。ひのめも楽しそうに笑いかけてくれている。
美神だけはいきなりエミとの睨み合いを始めてしまったが、この二人の関係は他人が口出
しできないような気がしたので、そっとしておいた。
早ければ明日にはナルニアに向けて出発だ。冬休み中に戻って来ないとタマモの学業に
悪影響が出てしまう。相手は強いが今回は人質救出のような面倒は無い。力押しで行ける
なら大して不安要素もない。それより親子の初対面の方が心配だった。



{東京デジャヴーランド}

弓かおりは怪訝そうに隣を歩いている男を見ていた。昨年末放ったらかしにされた埋め合
わせをさせる為に今日は自分から初詣に誘った。するとおみくじを引いたあたりでこの男
の方から、遊園地に行こう、と言い出した。これはこの男にしては実に珍しい言い草で、
相手も昨年の事に関して罪悪感を感じて積極的に埋め合わせをしようとしてくれている
のかと思うとちょっと嬉しかった。そうしてランドに着いたのに、この男はしきりに周囲
に視線を彷徨わせている。そうしてるうちに見覚えのある二人連れが歩いて来た。
自分同様埋め合わせをさせると張り切っていた、級友の一文字魔理とタイガーだった。
成る程二人がいる事を事前に知っていて捜したのか、と納得しそうになるが、まだ周囲を
見ている様子は変わらない。新たに一組の男女が近づいてくるのを見て、ようやく雪之丞
の表情が安堵のソレに変わる。

男の方は雪之丞と同い年くらいだろうか。サングラスをかけ帽子を目深にかぶっている為
今ひとつどんな人相なのかはっきりとしない。その連れは中学生くらいの少女で、玲瓏と
した美貌と輝くような金髪をしており、見た事のないような髪形をしている。たくさんの
シッポのようだ。数えてみると九本あったのでナインテールとでも言うのだろうか。
どうやらこの少女の方が早くにこちらに気付いていたらしく、嫌がる連れの男性を引きず
るようにして連れて来たらしい。男の名は銀一と言い雪之丞とはかなり親しい様子で
話している。悔しそうにしている銀一としてやったりといった感じの雪之丞が好対照だ。

雪之丞を見るとこれまで弓が見た事も無いような優しげな表情でタマモと名乗った少女を
見ている。自分以外の女性をそんな目で見る事はないではないかと思っていると、

「その人が雪之丞の彼女のヒトなの?」
「お?おお、弓ってんだ。おい弓、コイツは横島タマモ。アイツの妹だ。」

そんな会話を交わしている。アイツというのは横島忠夫の事だろう。正直、何故雪之丞と
あの男が親しいのかがよく解らない。弓から見て好印象などひとつも無いのだ。だがあの
男の事を悪く言うと雪之丞はすぐにムキになる。自分に理解できない以上揉めたくなけれ
ば話題にしないようにするしかない。それで今日までこの少女の事を聞く事もなかったの
だろう。それにしても雪之丞の態度が気に入らない。これだけ少女に対して優しくできる
なら、その何割かでも自分に向けてくれても良いだろう、と思ってしまう。
自然にその相手に対しても険のある視線を向けそうになるが、この少女は弓の事を雪之丞
の”彼女”と呼んだのだ。雪之丞に対する態度は異性に対するというより、年長の男性に
懐いている類なのだろう。雪之丞もその認識を受け入れて、弓の事を”彼女”として紹介
していた。人前でそういう扱いを受けたのは初めてで割と嬉しかったりする。
ならば変にヤキモチなど焼かず、姉ように接するのが弓らしいというものだろう。

「おい雪之丞、せっかく彼女と来てんのやから二人きりで廻れや。別行動でエエやろ。」
「さあな、ソイツはタマモに聞いてみちゃどうだ?」

連れの男性が焦ったような口調で言って来るのに対し雪之丞が余裕の口調で答えている。
さっきから妙に目の前の男性が気にかかる。声に聞き覚えがあるような気がするのだ。
はっきりとは言えないが顔にも見覚えがあるような気がする。以前に会ったのだろうか?
一文字の顔を見ると、こちらをからかうような、優越感に浸るような複雑な表情で弓を
見ている。という事は一文字はこの男性の事を知っているのだろう。有名人だろうか?
だが雪之丞が親しくする相手で有名人?接点がありそうなものといったら、この男が制作
に協力した映画関係だろうか。そこまで考えてようやく気付いた。何とあの映画で主役を
熱演していた近畿剛一ではないか。普段テレビなどあまり見ない弓であるが、あれはGS
を題材にしている事もあってドラマも映画もすべて見ていた。新作の映画を一文字と二人
で見るはめになったのは少々悲しかったが、映画自体の出来は良かった。それまであった
矛盾した状況や設定は殆ど無くなっており、ストーリー自体も単純な勧善懲悪といった物
からひとひねりしてあり見ごたえがあった。戦闘シーンの最中に隣に立っている男を
見つけた時には魂消たが。映画が終わった後で、弓としてはスタッフロールに伊達雪之丞
の名前が出て来るのを見たかったのだが、せっかちな連れによって早々に外に連れ出され
てしまい、結局見る事はできなかった。一刻も早く映画の感想を話し合いたかったらしい
自分のお相手も出演していたのだから、無理もないのだがお互いに初耳だったのだ。
どうやら横島からの紹介らしかったが、当の本人は出ていなかった。どうせ大した事も
していないのだろう。

結局みんなで廻ることになり楽しい時間を過ごせた。弓は上機嫌だったしタマモも楽しん
でいた。銀一が一人不服そうだったが、そんな事は雪之丞の知った事では無い。
抜け駆けしようした罰だと思えば良い。今は二人の間にタマモがぶら下がるようにして
家路を歩いている。自分として初期のドリカム状態のように思っているが、傍から見たら
連れ去られる宇宙人グレイに見えたかもしれない。





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(あとがき)
ちょっとハンパなとこで終わっちゃいました。今日の夜からしばらく書き込みができない
らしいので次をどうしようかと悩んでいます。アセろうか、のんびりいこうか。

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