ザ・グレート・展開予測ショー

〜『キツネと羽根と混沌と』 第17話後編〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/12/16)




「・・霊波が効かないっていうの・・どうやら本当みたいね」

内心の動揺を押し隠し、タマモがつぶやく。
部屋をただよう硝煙と、化学繊維の焼けこげた匂い・・。暗闇の中、ぼんやり輝く鬼火を見据え、彼女は体勢低く身構えた。

・・先ほど打ち込んだ狐火の威力は決して低いものではなかったはず。
これでさして堪えていないとするならば、導き出される結論は一つしかない。
案の定、炎を直撃を受けてなお、人影は歩行を止めようとせず・・・被害といえば『彼』が全身を覆う、炭をぬりつけたようなコートのみ。

『やれやれ・・せっかちだな、お前さんは・・。今日、調達したばかりの一張羅が台無しだ。』

・・また、あの声。
目の前の人影から発せられたとは思えない、天井の上から響く声・・・。

「・・なるほど、そういうことですか。」
険しげな口調で言いながら、神薙が空間に指を走らせる。彼女の全身から、淡い燐光がほとばしった。

『しかし、なかなかどうして好判断だ。今の攻撃・・俺の正体を確認すると同時に、霊波の耐性がどれほどのものか、調べる意味合いもあったんだろう?
 妖狐の狐火は・・霊波と物理の中間属性を持つ能力だからな・・実験台にはちょうどいい。』

爛れたコートが焼け落ちて・・中から、針金のような腕が飛び出した。
かろうじて2足で動く・・・そのような表現が当てはまる、細々とした黒い体。

「!?・・え・・?」
写真で見せられた『イーター』の姿ではない・・?
目、鼻、口。それら全てが欠如した、その のっぺらぼうな顔形は、一見して人外と分かる不気味なものだ。

「分体・・自由に生み出し、操ることができるとは聞いていましたが・・。こんなところでお目にかかるとは思いませんでしたよ・・」

前に踏み出す神薙に対して、黒い人形は手首を振った。
それは誤解だ、と言わんばかりの大げさなしぐさで・・・。

『断っておくが・・ハメられた、とでも思っているなら筋違いだ・・。コイツには、俺の全エネルギーの3分の1をつぎ込んでるんでね。
 囮などという可愛げのある代物じゃあない。』

――――あんた相手に手を抜くなど、そんな失礼な真似をするわけないだろう?

くぐもった声で笑った後、分体は神薙の様子を観察する。
紅髪を揺らし、まるで幽玄の境にでも立つかのような、その圧倒的な存在感。たしかに霊力値自体は見る影もないが・・
しかし、それを補って余りあるほどに・・。

「3分の1・・全力を投じない時点で、すでに礼儀を欠いていると思いますが?」
『・・ハハッ手厳しいな。ならば・・少々、俺の勝率を引き上げるとしようか。』

―――――――!?

瞬間。

イーターの奇妙な発言に呼応して、タマモの体が宙を浮いた。
驚愕の声を上げる間もなく、彼女の手足が・・次いで胴が・・空気の中へと透けていく。

「・・っ・・何を・・」

『金毛百面九尾の転生・・妖狐タマモ。俺はお前さんの力を決して過小評価はしていないよ・・。
 むしろ恐れているぐらいだ。場合によってはここに居る神薙や・・横島忠夫よりも、な。』

言い終わるころにはすでに、タマモの姿は半ば消えかけているような状態で・・・
・・なんだ?これは。コレといったダメージを与えるわけでもなければ、体を拘束するわけでもない。
そもそも、攻撃なのかどうかすらが疑わしい。

『その幻視能力・・正直、俺では始末に終えない。アンタには相応しいステージと、相応しい相手がいる・・。
 送り届けてやろう。』

「な・・ふざけないで・・!」

パチン、と尖った指先が音を鳴らす。同時に光が弾け、タマモの姿は完全に・・・・

「・・!タマモさん・・!」

「神薙さ――――――――――・・。」

ノイズを伴い、大気の向こうへ掻き消えた。





「・・・・。」

『そう恐い顔するなよ。誓って言うが、何一つ危害は加えていない。』

肩を竦める人形は、おどけた調子でそう言って・・・。器用にも腕を組む彼の姿に、しかし神薙は眉一つ動かそうとしない。

「・・お答えなさい。タマモさんに、何をしました?」
『さて、な・・。この2日間、あんたがメドーサに集めさせた資料の中にヒントはある。推理するまでもないだろう?』

彼女の反応にため息をつき、《喰らう者》は小さく謎掛けを口にした。
少女の体から吹き出している、爆発的なプレッシャー・・それを柳のように受け流しながら、飄々とした足取りで距離をつめ・・。

『3年前・・俺が所有していた肩書き。Gメンが試行段階で起用した、スイーパーとしては史上初のESP能力保持者』
「ESPタイプは・・トランスポーテーション。」
『ご名答。人間を止めたからといって、力まで消えるわけではない、ということだ。』

黒い人形は、どうやら笑みを浮かべたようだった。
粗悪品のごとき間接が、キリキリとぎこちないディスコードを奏で続ける。
2人の位置は、すでに後数メートルというところまで近づいていた。

「1対1・・というわけですか・・。殊勝な心がけですね。」

『・・いや?正確には、20対1だ・・』

「・・?」


―――・・その時、神薙の背後から、黒い刃が唸りを上げる。

天井から、あるいは左右の壁面から・・・出現した破壊の鞭に、神薙は鋭く目を細めた。
一撃をかわせば二撃・・・二撃目をかわせば三撃目・・。
八撃目で避けきれないと判断し、彼女の足が地を蹴った。


「・・・っ・・・」

わずかながら舞った鮮血に、神薙が一つ、歯噛みする。

『ほう?肉体の方も人間レベルに落ちているというのに・・その程度のリアクションとはな・・。
 最後の一発は当たっていただろう?常人なら失神するほどの痛みだったはずだが?』

サディスティックに声を震わせ、イーターが床下にかがみ込んだ。
それに続くように1つ・・また1つ・・。神薙の周りを包囲するように、次々と黒い人形が飛び出してくる。

『噂に聞く魔界の姫君がどれほどのものかとは思っていたが・・。これは認識を改めなくては。予想以上にいい女だよ、あんたは・・』

宣言通り、分体の数は合計20。絶対的不利に立たされてなお、神薙の顔からは余裕が消えない。
・・それは、彼女がこれまでにくぐってきた、修羅場の数を物語っていた。

「・・光栄ですね。かのイーターからの過分な賛辞・・私の身には余るほどです。」

ニコリと微笑む、端正な顔立ち。挑発を意に介さない神薙に、さらに、イーターは言葉を続ける。
彼女の傷口を抉る、酷薄な声音で・・・・

『謙遜するなよ。あんたの経歴は、ちゃんと調べがついている・・。
 なるほど、たしかに「いい女」さ・・そうなるように教育されたんだから、当然だ。』

「・・・・。」

『ある時は殺戮の道具として・・ある時は権力を顕す象徴として・・体良く振舞うよう、造られたお人形。
 そうそう・・例の噂は本当なのかい?その常軌を逸した美貌は、あんたの親父が性欲の捌け口として・・・・』



・・・パキン・・――――――――


不意に、涼しげな音色が風を薙いだ。一瞬、何が起きたのか理解できず、分体たちが動きを止める。
神薙の背後の一体・・その上身がグラリと揺れて、氷片となって弾け飛んだのは次の瞬間。

「楽しくおしゃべりするのも結構ですが、隙だらけですね・・。挑発はもう少し考えてから行うものですよ?」

くすくすと笑う神薙の掌が、空間に無数の魔方陣を形成していく。
倉庫を包む魔界の冷気が、イーターたちの動きを阻害し・・・・

「始める前に名誉のための訂正を・・。
 先程の貴方のご高説、取り立てて否定するつもりはありませんが・・1つだけ間違った箇所があります。」

極寒の檻に『囚われた』には神薙ではなく、彼らの方だった。
突き刺すようなダイアモンドダストが、全てを飲み込み咆哮を上げる。

「私の父・・アンリ・マンユは、私の肌を指一本たりとも冒すことはできませんでしたよ・・。
 畏れていたのです・・・被造物である、私の力を。」


――――――・・アブソリュート・ゼロ・・・!?

動揺を誘うヒマすら与えず、数秒にして5対の分体が凍結した。
大きく陣形を崩しながら、それぞれの『イーター』が息を飲む・・・・。

「・・それでは、戦闘開始です。お望みどおり、私の力・・・存分に味わっていただきましょうか?」

澄んだ声音。
威圧するようにつぶやくと、神薙が一歩を踏み出した。


『あとがき』
久々の前・後編です。ここまでお付き合いくださった皆さん、ありがとうございました〜
相変わらず横島たちの出番が・・(泣)以前出てきたイーターの分体の伏線はここで回収です。
微妙に明かされたドゥルジさまの過去・・・い、いえ・・彼女はまだ清い体ですよ!?昔、何度か親父を撃退してたみたいです(笑
ニコニコしながら、実はバッチリ怒ってるっぽいドゥルジさま・・・幼少時の彼女はもっと無表情な『感情欠如系お姫様』みたいなキャラなんですけどね〜
この2人の会話はシリーズの確信に迫る内容が目白押しなので要チェックです。

さてさて次回はついにフェンリル復活!?タマモとあの百合娘が(笑)初邂逅を果たします。それでは〜

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa