ザ・グレート・展開予測ショー

〜『キツネと羽根と混沌と』 第17話前編〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/12/16)



チカチカと、点滅する光。
吊られた電灯が明暗を繰り返し、振り子のように揺れていた。通風孔から風が吹き込む・・おそらくは予備電源が稼動し始めたのだろう。

『待っていたよ。』

不可解なほど反響する声が、部屋に響き・・・。振り返るタマモたちの耳元に届いたのは、何かが引きずられる、不快な高音だった。
・・金属どうしが摩擦している?片側が床だとしたら、もう一方は・・・・

「・・誰?」
闇に熔ける殺戮者の気配。冷ややかな口調でタマモが尋ねた。
『先客』の正体が一体何か・・・・大方の予想はついていたが、機先を制するため、あえて口にする。

『・・・・。』

返答は黙殺。しかし・・ブラインド越しに差し込む光が、語るよりも雄弁に問いの答えを映し出す。
ストライプの光学模様を横切る残影。それはまるで・・・・・

「来ますよ、タマモさん」
閉鎖された倉庫の奥で『何か』が蠢く。
神薙の言葉に頷きながら、タマモは、ほの暗い視界へ腕をかかげて・・・・紅蓮の炎を解き放った。


〜 『キツネと羽根と混沌と 第17話 』 〜



灰色の翼が大気を切り伏せ、慟哭のような音を奏でる。
都市空間の上空を駆け、少女が薄く目を細めた。高速でこちらを追尾してくる無数の蝶を、彼女は楽しげな顔で一瞥して・・

「・・・君たちの相手はもう飽きたよ」

ポツリとつぶやくと、その細身の体をさらにさらに加速させる。
向かう先は、高層ビルの真正面・・・間違いなく、激突する速度を持った直線運動だった。

「ふふっ」
一瞬にして、蝶たちの間の統制が乱れる。減速し、直撃を避けようとする彼らとは対照的に、ユミールが取った行動は単純な直進・・そして・・

―――――――!?
ユミールの頭部が、銀の壁面に叩きつけられようとした・・まさにその瞬間。
彼女の翼が左右に大きく開かれた。ギリギリの一線でインパクトを避け、少女の体が垂直に向かって急上昇する。

―――――――!?・・・!?

目標を失い、混乱する追跡者たち。
ビルの表層部を並走し、ユミールがにこにこと手を振りながら・・・

「バイバ〜イ♪黄泉の船出へよ〜そ〜ろ〜」
一連の動きで周囲に散った何百もの羽根・・・刹那にして、それらが鋭利な刃へと変わる。
蝶の数にも劣らぬほどの、凶器の嵐が辺りを飛び交い・・直後、ユミールの手によってパピリオの眷属たちは粉々の欠片へと変えられた。


――――――・・。


「ふむむ・・思ったよりも手こずっちゃった。パピリオちゃんと小竜姫さんはどこかな〜っと」

パタパタ空をはばたいて、ユミールはぐるりと周囲を見渡した。そして、一しきり観察した後、顔をしかめる。
視覚迷彩はおろか、霊波の遮断法まで心得ているのか・・今のところ、彼女たちの気配はまるで感知できない。
獲物を見失うだけならいざ知らず・・これは少々予想外だ。

・・・・。

「う〜ん・・なんか、ちょっと前に見たことあるような状況だねぇ。あの時は横島くん相手にまんまと引っ掛かっちゃったけど・・」

ユミールがつぶやく。
コロコロと笑みを浮かべつつ、そのまま彼女は空気の上で寝そべって・・・

「・・狙いが見え見えだよ、お2人さん?」

空にいる自分の、さらに上・・・。
頭上から剣撃を放つ小竜姫と、斜めから手刀を繰り出すパピリオを見据え、肩を竦める。

「・・くっ・・!」   「残念でしたぁ・・」
危うげなく小竜姫の刀を回避すると、ユミールは半回転して、パピリオに鋭利なカギ爪を振り下ろし・・・

―――――――ゴォオオオオオンッ!!!

瞬間、打突部が交差し、火花を吹く。
打撃と斬撃の応酬。連続して生じるバーストに、一帯の壁面が大穴を開けた。パピリオとユミールの身のこなしは、ほぼ互角。
勝敗を決するのは力量の差だ。

「!?」
「見たところ、霊力はせいぜい2000〜3000マイトってところでちか。その程度でパピリオと張り合おうだなんて・・甘いでちよ!」

互い互いを相殺したかに見えた、2つの霊弾。
しかし、出力においてパピリオのそれは敵が操るものの遥か上をいく。制御を失い、大きく跳ね飛ばされるユミールに・・
・・パピリオはさらなる追撃を加えようとして・・・

「・・・霊力、ねぇ・・」

しかし、彼女を見つめるユミールの瞳は、恐ろしいまでに冷ややかだった。
唇を吊り上げると、少女は哀れむように首を振り・・・。パピリオの立つ位置を中心にして、周囲を混沌の風が吹き荒れる。

(・・なんでちか?)
わずかな違和感と、そして戦慄。不意に胸のうちに去来した、その感情をいぶかしみ・・パピリオの動きが目に見えて鈍る。
ユミールはその隙を逃さなかった。

「♪〜」  「!パピリオ・・!止まってはだめ・・!」

小竜姫の叱咤が先か、ユミールの口笛が先か。
パピリオは我に返ると同時に目を見開く。・・目を疑った、というべきかもしれない・・。
彼女の背後・・ビルをスクリーンにして映し出される影の奥から――――――白いユミールの右腕が、生えるようにニョキリと突き出ていた。

「な・・・・ななな・・なんでちか!?これは!」
「知る必要はないよ。消えちゃえ!!」

刹那、ユミールの掌が、凶悪な煌きを照射する。
彼女自身が『Howling』と称するその力・・。これがパピリオの感じた「戦慄」の正体―――――・・!

「・・くっ・・間に合って!」

考えるよりも早く、小竜姫が前に向かって飛び出した。
超加速を用い、一瞬で距離を縮めるとそのままパピリオの襟首をつかみ、後方へ・・・。
重力とともに、ほとんど墜落する形で地面へと着地する。
・・・・強大な威力を持った衝撃の渦が、かすかに彼女の肩をかすめていった・・。

―――――――――・・。


「ふふっ・・うふふふふっ・・」

爆発炎上するビルの群れ。
火の粉が飛び散る街を見つめて、ユミールが憑かれたような笑みを浮かべる。
淀みなく降り注ぐ美しい陽光と、地獄絵のような街の対比が、彼女には可笑しくて堪らなかった。

「あははっ・・何が神よ、何が悪魔よ・・。私一人に、ここまでメチャクチャにされて・・馬っ鹿みたい・・」

嫌悪を顕につぶやきながら、無邪気に歌を歌い始める。青空の中、彼女の笑いはしばしの間響き渡った。






 
「くそっ・・なんなんだ!こいつらは!?」  「退けっ!ここはもうあきらめるしか・・・!」


Gメン本部の広間の中央。
突如として現れた、怪物たちの軍勢に・・待機していた人員は、ほぼ総崩れの状態へと追い込まれていた。
負傷する者たちが後を絶たない。
かろうじてこの場に防衛ラインを築いたものの、もはや突破されるのは時間の問題・・・全滅は火を見るよりも明らかだった。

「くっそおおおおおおお!!!死にたくねぇ!!こんなことなら、玉砕覚悟で美智恵隊長にモーションかけときゃ良かったぜぇ!!」
「・・おい、たしか隊長は既婚者だったはずじゃあ・・」
「オレはスズノちゃんだ!!死ぬ前に一度でいいから、あの白いほっぺを『ふにふに』して見たかったぁ!!!」
「ああああ〜〜〜ん!!!西条くーーーーーん!!!!」

・・・。

死を目の前にして、思い思いに自らの未練を絶叫する、職員A・B・C・D(うち1人は女性なのであしからず)
いや、お前らそんな元気があるならさっさと走って逃げろよ、という話もあるが・・。
ある種の潔さすら感じられる彼らの生き様に感銘を覚えるのは作者だけではないだろう(多分)

「うっ・・」
ガチガチと、灰色の蟲たちが歯を鳴らす。
逃げられない・・今度こそ殺られる・・。息がかかる程に迫った化け物の姿に、4人はきつく瞼を閉じた。

・・・だが。

「だぁああああ!?お前ら!なんでいきなり諦めちゃってんの!?オレだったら敵に命乞いしてでも助かろうとする場面だぞ?そこ。」
「・・それは君だけだろう。いいから口より手・・・いや、足を動かしたまえ。」

素っ頓狂な声と、それにつっこむ低い声。言い争う2つの影に、職員ABCDは一斉に、前方へと視線を移し・・


「「「「??」」」」

「ほい、ヤラレ役の奴らはご苦労さん。見せ場作ってくれてありがとね」

瞬間、凄絶な光の奔流が、十数匹の蟲を吹き飛ばす。宙に舞い上がる異形たちを、さらに幾重もの剣閃が見舞い・・・
両断。鈍い音とともに、無数の巨躯が崩れ落ちた。

―――――――・・。

「「「「・・・・・。」」」」

それは・・息もつかぬ間の出来事だった。
完全に覚悟を決めていた4人のGメンは、ポカンとしたまま互いの顔を見合わせる。
視線の先の2人の人物・・・彼らが自分たちを救ってくれたのだと・・そう理解するのにも、しばしの時間を必要とした。

「さ、西条くん?それに、民間GSの・・」
おずおずと尋ねる女性職員に・・西条とは別の、もう一方の男が目をキラキラさせて・・・

「・・横島です。間に合って良かった!そう・・貴方を助けたのは隣にいるコイツではなく、この横島忠・・・・ぉゴハァッ!!?」
手をワキワキしながら近づこうとする横島のアゴに西条の鋭い拳打がメリ込んだ。

「え・・?え・・・?」
「たしか君は、経理部の鈴木さんだったね・・あんな状況で僕の名前を呼んでもらえるなんて・・光栄だな」

言ってるそばから、西条が髪をかき上げ顔を寄せてくる。
一気に口説き落とそうという作戦なのか・・それはもういきなり唇なんかを奪っちゃいそうな勢いで・・

「・・なるほど。そうやってイギリスでは節操なく、女をナンパしまくってたわけか・・。今度、美神さんと魔鈴さんに言いつけてやろ・・」

ぼそり、と横島が口にした。

「なっ!?卑劣な・・!とうとう本性を現したな、横島くん!」
「そりゃこっちの台詞だよ、馬鹿野郎っ!!!!!」

友情や信頼といった類のものから、おおよそ、かけ離れた会話が為される。
今すぐにでも戦闘へ突入しそうな両者の空気に、職員全員は思いっきりその場を後ずさって・・・・

「・・・あ〜・・こんなことやってる場合じゃないんだった・・。アンタら、動けんならとりあえず、この建物の医務室に向かってくれ。
 そこが避難所になってるから。」

「ひ、避難所?」

「すまないね・・エスコートしたいのは山々なんだが、こっちも人探しの途中で。無理せず休みながら進んでほしい」

あっけに取られる4人をよそに、横島と西条はきびすを返した。まだ少し気がかりなのか、横島がチラチラと振り向いて・・

「大丈夫かなぁ・・大した手間でもないし、やっぱり送ってった方がいいんじゃないか?あの人たち」
「Gメンはそれほどヤワじゃないさ。第一、敵は今ので最後だろう?この区画の化け物は、君と僕があらかた潰したからな・・」

・・そんなやりとりの後、2つの影はズンズンと廊下の奥へと遠ざかっていく。
後には職員たちだけが残されて・・・。

「と、とりあえず・・言われた通り、医務室に行こうか?」
「そ、そうだな」

一同は口々に言いながら、頷いたのだった。

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