ザ・グレート・展開予測ショー

春が来た!


投稿者名:SEISUI
投稿日時:(04/12/13)

「う!うああああぁぁぁ……!!!」

 著しい眩暈、平衡感覚を失うが、すぐさま彼は彼自身が持つ霊能を使い、落下速度を減速させる。そして即、気配を隠す。今現在の彼……横島忠夫は自身が潜入者である事を自覚していた。

「うぅ……気持ちわりぃ。何だ今のは? もしかして失敗したのか?」

 荒縄でグルグル巻きにされビルの屋上から吊るされた後、どこぞの妖精が目の前の結び目を解いて地上まで一気に回転しながら落ちた時と似た感覚を、軽く頭を振って元に戻すと、あたりを見回した。

 上には満天の星空が広がり、下にはそこら中から火の手が上がっていた。そして、異様な霊気の充満と、その中心に屹立する光り輝く巨大で異様な建造物。見紛う事は無い、宇宙処理装置……

「ば、馬鹿な!?
 俺はこの日の夕方、夕焼けの中をイメージした筈だ!!」

彼は今より数時間前の夕方に、離れた所に来るつもりであった。そして東京タワーの中に潜み、彼女を、ルシオラを救うためにきたのだ。そう、未来から……

「場所のずれはイメージ上しょうがないが、時間のずれが大きすぎる! あの夕焼けの中をイメージした以上、ここまで大きくずれるなら時間移動自体成功しなかったはず……イメージミスか? いや、それだけは失敗するはずが無い!」

 この日の夕方、絶対に忘れてはいけない思い出があった。絶対に忘れられない思い出があった。故にイメージを失敗するはずもない。横島忠夫の魂にすら刻まれた思い出、彼女と初めて愛を語り合った時間なのだから。場所のずれはその思い出の場所に引きずられたからであろう。

「……そうか、アシュタロスの一番恐れていた事が外部からの干渉。魔界や神界だけに留まらず、過去未来からの干渉も注意すべき事じゃないか!!
 なんてうかつ! 美神さんを逃がさない為だけの時間移動妨害だと決め付けていたとは!!」


 間に合わないかもしれない、という嫌な予感を必死で振り払う。

 ルシオラを連れ帰ろうと思った訳ではない。一緒にここで過ごそうと思った訳でもない。自己満足にしか過ぎないと解っていても、彼女が生きて居る世界を、過去の自分自身と一緒にある可能性を、彼は見たかったのだ。自身の手によってその可能性を生み出したかったのだ。

 暗闇の中を貫く巨大な鉄塔、東京タワーをすぐさま探し出す。距離にして7キロメートル。今の彼なら二十秒掛からない距離だ。

「飛んだ方が早い!」

 文珠を使っての瞬間移動は移動時間こそ零になるが、移動前の集中と移動後の状態把握に時間がかかりすぎる。その上瞬間移動後は無防備となり気配は消せず、自身の存在が彼らに察知されるだろう。それでは意味が無い。そう判断すると気配を消しつつ飛翔した。

 嫌な予感が急激に大きくなって来る。大切なものが、絶対に離さないと誓ったものが、硬く抱きしめたものが、指の間から零れ落ちて行くと言う幻視。
 後十数秒で辿り着くという時に、東京タワーの特別展望台の屋上から自身と同じ霊波が飛んで行くのを感じた。


━━大丈夫…! って何回言わせるのよ! 早く行きなさい!!


最後に聞いた彼女の声が心に響く。

(大丈夫だ。あの時ルシオラは大丈夫と言った。笑顔を向けてくれた。まだ大丈夫だ。まだ間に合う。
 間に合う……間に合う……)

自分自身を騙せて居ない事にすら横島忠夫は気が付かない。


 そして、辿り着いた彼がみたのは、


━━━カラーン━━━


落ちて一際高い音を響かせた彼女のバイザーと、光となって散って行く、ルシオラの魂だった。


震える足で、ふらふらと近づき、
震える手で呆然としながら彼女のつけていたバイザーを手にとり、
胸に押し抱き、
膝を着いた。

「…………ぁぁぁああああああああ…………」

無意識の内に声を上げていた。
悲鳴では無く、泣き声でも無く、唯々声を発していた。
涙が滂沱と流れていた。




 どれだけの時間がたっただろうか。横島忠夫の時間間隔は完全に麻痺していた。下手をすれば幾日もそうしていたかもしれない。
だが、茫然自失とした状態に有っても、常と化した穏行は維持され、鍛えられた感覚は近づいてくる魔族を捕らえ、彼を呼び戻す。
ゆっくりと顔を上げ、感覚に引かれるままに目を向ける。

「……ああ、パピリオか……」

ルシオラの妹。そして未来においては彼の妹の1人であるパピリオの霊波だ。


「……いや、そうだよな。会っちゃ不味いよな……」

首を振り、そう呟く。

「ごめん、ルシオラ。また、助けれなかった」

 必死で溢れ出そうとする涙を堪えると、『道』と浮かんでいる文珠を取り出し意識を向けた。

 とても細いが、確かな霊糸がその文珠から虚空へと伸びている。この霊糸は遥か世界の境界を越え続いていた。今居るこの世界にとっては、平行世界の1つと化してしまった彼の本来居るべき世界に置いてきてある『標』と浮かんでいる文珠と繋がっているのを感じる。

「何とか帰れそうだ」

 本当は『道標』が無くとも可能だと言う妙な確信があったのだが、念の為繋げておいたのだ。これなら霊糸が繋がっている限り、どのような妨害━━今回は世界の壁━━も超えて元の世界へ戻れる。

 さらに文珠を取り出す。その数は『時間移動』の為の4つでは無く2つ。横島忠夫が時間移動により過去に戻った時点ですでに此処は彼の過去ではない。故に入れる文字は『帰』『還』である。


 すでに沈んでしまっている夕日に向けて呟く。

「……ルシオラ、お前が好きになってくれたこの世界の横島忠夫は、俺がここに来た事で俺とは違う道を歩くはずだ。…………その変化がお前に笑顔をもたらす事を……祈ってる…………」

未練を断ち切るように目を閉じ、文珠を発動させる。
横島忠夫は文珠の光に包まれ、消えていった。





気が付くと横島は自宅兼横島除霊事務所にある自室に立っていた。

 時計は十六時三十分を指している。六時間が経過していた。そろそろパピリオが学校から帰って来る頃だなぁ、と、現状を把握した所で襲って来る後悔の嵐。

横島の霊体に注がれたルシオラの霊気構造は自身の物と同化変質してしまい転生は不可能。
残された霊波片は固体を成すに足る量は無く、核となる霊波片も無いため培養も不可能。
ルシオラへの最後の望みが潰えてしまったのだ。それも横島自身の失敗によって。

ふらふらと、椅子に座り込もうとした時に左手にある物に気が付いた。

「ありゃ、バイザー持って来ちゃったか……」

まいったなぁ、と溜息。

「あの世界に変な影響出て無きゃいいんだが。
 …………あれ? そう言えばこっち側のバイザーどうなったんだろう? 東京タワーには無かったし、パピリオもベスパも……ああそうか、どっちかが持っていったんだろうな、多分。今となっちゃ唯一の形見だろうし」

「でも、パピリオはそれ持って無かったわよ」

「じゃ、ベスパかな……って、うわ!」

突然後ろから聞こえた声が、この部屋には自分以外もいると気付かせ横島は驚いた。振り返ると彼のベッドの上でシーツに包まっているタマモがいた。

「タ、タマモさん、何時からそこに……というか、何故俺のベッドに……?」

「私はタダオが出かけてる時に寝るのはここでって決めているのよ。だから、最初から、かな」

タマモは横島のベッドの上で惰眠を貪っていた。横島と一緒に住むようになってから、暇な時は何時もそうしている。今日もパピリオとシロを送り出した後、潜り込んでいたのだ。一旦横島の匂いに包まれてぐっすりと睡眠をとった後、至福のまどろみを堪能していた。

「そんな顔しないでよ。私も気付かれないようにしてたんだし当然よ。それよりも……」

タマモはシーツから手を出しておいでおいでと手を振る。

「そんな事言ってもなぁ」

気が付かなかったのはショックだぞ、などと呟きつつ近くに来た横島の手を取り、引っ張った。またもや不意を突かれた横島はあっけないほど簡単にバランスを崩して、タマモの上に倒れこむ。

「どわ! タマモ、一体!?」

両の頬に当たる柔からな感触に慌てて離れようとする横島だったが、タマモはやさしく抱きしめて離さなかった。

「ほんとうに、そんな顔しないでよ……何があったか知らないけどさ。私達が居るから。ずっとさ、そばに居るから」





「ただいまー」

窓から流れ込む夕焼けの赤が部屋を染めた頃、玄関から声が聞こえてきた。

その声に一瞬びくっとした横島は、何時の間にかタマモの背中にまわしていた腕に力を少し入れ、きゅっとタマモを抱きしめる。

「……ただ、さ……もう一度だけ会いたかったんだ」

「…………うん」

軽く抱きしめ返して、タマモは頷く。そして、どちらからとも無く腕を解くと、ゆっくりと体を起こした。

「パピリオも高校から帰って来たか」

玄関の方に顔を向けて話す横島。顔がすこし赤い。先程までの事が恥ずかしくて顔を合わせられ無いのだろう。
くすくす、とタマモが笑う。

「じゃあ、シロももうすぐ帰ってくるわね」

シロはパピリオが通っている高校━六道女学院だ━に週一で実技の臨時講師をしている。それが丁度今日だったと思い出しながらタマモは言った。

「そろそろ、晩飯の仕度もしないとな。リビングに行こう」

「あ……先に行ってて」

タマモはシーツに包まったまま動こうとしない。

「どした? あーもしかして足痺れちゃったか?」

抱きついて居る間は気が付かなかったが、改めて思えば結構な時間そうしたままだったような気がする。

「それは無いんだけど、ちょっとね」

「なんか顔も赤いじゃないか。熱でもあるんじゃ?」

タマモはしばし『むー』と言った感じで横島を見ていたが、不意に目を逸らした。

「……裸だから」

「へ?」

「…………私、ここで寝る時は裸で寝てるから」

タマモは先程までの自分がとても際どい事をしていたと気付き、さらに頬が赤みを増す。何しろ、シーツ1枚で横島を抱いていたのだ。横島のベッドの上で。

横島もその事を思い出し、理性は本能に道を譲る。

「タマモーーーー!!!!」

と、同時に横島の体はタマモ目掛け放物線を描いて宙を舞っていた。

「ちょっとっ! 今はパピリオが「ただいまーー!!」ドゴッ!

 横島がタマモの視界から消えうせ、背後からの破砕音。その音に振り返ると、すぐ後ろの壁に貼り付けになっている横島にパピリオが抱きついていた。

タマモは「ふぅ」と溜息をつくと、こつんとパピリオの頭を小突く。

「パピリオ! 駄目じゃない。今の貴方がそんな体当たりなんてしたらとんでもない破壊力になるんだから」

横島とパピリオが出会った頃の幼い体の頃でさえ、恐ろしい威力だった。今の成長した体だとさらにさらに威力が上がっているのだ。無論、別の意味でも威力は比べ物にならない。

パピリオが顔を上げるとすぐそこに頭から血をだくだくと流している横島。

「…ごめんなさい」

「今度からは気をつけてくれよ、命に関わるぞマジで。まあ、それはそうと、おかえり、パピリオ」

命に関わるとか言っておきながら何事も無かった様な調子である。説得力の欠片もない。

「ただいま!」

笑顔でパピリオは言った。




「ところで、タマモ。何でそんな所でシーツに包まってるの?」

パピリオがジトっとした視線を送りながら言うと、タマモは視線を宙に泳がせる。

「……おかえり、パピリオ」

「ただいま。で、何で?」

タマモの露骨な話題の逸らしをさっくりと無視する。

「んー。タダオを誘惑しようかなと思ってね」

「なな、なんでちゅってーー! 抜け駆け禁止だって約束したじゃないでちゅか!!」

「冗談よ。冗談。」

 そう言うとタマモはシーツを一気に捲りパピリオの視界を隠す。一瞬の後、タマモはジーンズにシャツを身に纏いベットの脇に立っていた。

「……タマモはほんと良い性格してるでちゅよ」

「誉め言葉として受け取っておくわ。それと言葉使い戻ってるわよ」

 妙神山から降り、中学校に通う事になった時から、流石にでちゅ言葉では良くないと自身も思ったのか、使わない様にしていた。もっとも、我を忘れると出てきてしまうのだが。

「むー、横島、さっさとこんな性悪雌狐ポイッと放り出しちゃって」

「何言ってるの。私が離すわけ無いじゃない。だいたいこんな良い女、横島が放り出すわけないし」

ね、横島。といってタマモが横島に顔を向けると、彼は鼻の辺りを手で抑えて蹲っていた。

「どしたの、タダオ?」

「……いや、こうしてないと理性が…………」

 タマモがシーツに身を隠し、一片の霊力の漏れも無く服を作り上げたその瞬間、横島の位置からは一瞬とは言えタマモの全てが見えていたのだ。
 瞬間を逃さぬ動体視力、瞬間を記憶する記憶力、瞬間とは言え状況により煩悩を押さる理性、昔とは格段に成長している。




「…………え?」

 そんな時、パピリオが不意に声を上げた。彼女の瞳は大きく見開き、じっと机を……いや、机の上にあるバイザーを見ていた。

「横島、これ……ルシオラちゃんの…………」

「あー、別にこっそり取った訳じゃないぞ。大体パピリオかベスパどっちが持ってたか知らないし」

「どうしてこれを横島がもってるでちゅか!」

「いや、ちょいと、やむにやまれぬ事情がだな……ほんとだぞ?」

「事情が有ったのは解ったでちゅよ! でも、どうしてあの時、持ってるって教えてくれなかったでちゅか!」

パピリオの瞳にみるみると涙がたまり、溢れ出す。胸にしっかとバイザーを抱きしめながら。

「それはついさっき持ってきたんだ、パピリオ」

そう言う横島をじっと見つめていたパピリオは、きゅっと抱きつき言った。

「……横島。……ルシオラちゃん生き返るでちゅよ」と。


 横島はパピリオの言った事の意味を理解するのに相応の時間を要した。何しろ、横島があの時よりずっとその方法を探し続けて、見付からなかった事だ。無論、全人生を賭けてでも見つけ出すつもりだが。
 切望し、渇望し、そしてあるいは絶望していた事。故にその言葉は何よりも予想外な事であった。

「……え?」

だから、間抜けな声でそう聞き返す事しか出来なかった。

「このバイザーはルシオラちゃんの瞳……ルシオラちゃんそのものなんでちゅよ」

「……ルシオラそのものって?」

「ルシオラちゃんの霊体そのものが安定した状態で埋め込まれているんでちゅ」

 それは、アシュタロスの遺産とも言うべき物であった。心眼や第三の目とも呼ばれる物。人間は勿論の事、神族、魔族と言った純粋な霊体でさえ、上位の者やそれに特化した者以外自在になる物では無い。アシュタロスはその心眼に直接接続できる外部入力装置を作り出していた。

 無論、機能は限定れているが、機械式に制御する事で、部分によっては特化した者に迫る性能を持っていた。とは言え心眼は霊的中枢と直結している。外部入力装置にそのまま接続する事は、出来なくも無いがあまりにも危険であった。そこでアシュタロスは外部入力装置その物をルシオラの霊力を使い強化してルシオラ自身との親和性を高めた。その上で外部入力装置と心眼とを繋げるためにもっとも安全な物、つまりルシオラ自身の霊体そのものを使っていたのだ。
 そして、その霊体自体も覆う結界を張り、魔界において最良の金属で覆い、強化した物。それが彼女のバイザーであった。

 もっとも、ルシオラは本来の目的であるメフィストの転生体を探す為ではなく、兵鬼作成等の為にばかり使い、あまつさえメドーサの攻撃を受け止めると言うアシュタロスが聞いたら怒るような使い方をしていたが。

「これで、ルシオラが……」

「うん! ルシオラちゃん復活でちゅ!」

涙で濡れた顔で横島を見上げ、満面の笑みでパピリオが宣言した。そして、涙を腕でぐいっと拭うと、

「早速、準備するでちゅ! まず、バイザーを分解して結界を解除して……ああん、結界破りなんてベスパちゃん担当なのに!」

「パピリオ」

それまで静観していたタマモが不意に声をかける。

「なんでちゅか?」

「人界で蘇らせちゃっても良いの?
 魔族だと人界で復活ってきついんじゃない?」

「それもそうでちゅね。じゃ、魔界に行くでちゅ!」

いきなり飛び出して行こうとしたパピリオの頭を、むんずとつかんで振り返らせる。

「おちつきなさい!
 あんたは神界経由で来てるって事忘れてない? ちゃんと許可取らないと大変な事になるわよ。そうね、まず小竜姫の所に行って一時的に魔界に行けるよう頼むの。その時にベスパとも連絡とって、二人で慎重に復活させるの。わかった?」

ピッっと人差し指を立てて言うタマモ。

「わ、わかったでち……わかった」

「横島もそれでいいわよ……ね……?」

「おう。もちろんだぞ。それがベストみたいだしな。……どした? 人の顔じっと見て」

 涙が滂沱と流れている。
その顔は、歓喜に、幸せに、そして希望に満ち溢れていた。彼がいかに切望し、努力していたかを知っているタマモは何も言えず、ただ

「ううん。何でもない。おめでとう、タダオ」

と、微笑んだ。



 トントントン包丁がまな板を打つ音が響く。今日の料理当番であるタマモが嬉しそうに油揚げを切っていた。

 こんな嬉しい事があった日のご飯はやっぱり豪華にと思ったのであろう。油揚げの炊き込み御飯、油揚げのお吸い物、中身色々の巾着に、油揚げと豚肉の炒め物。さらに今作っているサラダ。カラッっと焼いた油揚げを散らせば完成だ。かなり豪華であった。

 サラダに油揚げを盛り付け、丁度一煮立ちしたお吸い物の味を確認。

「う〜ん、良い味〜」

満足そうに頷いた。これで準備は終了。後はシロが帰るのをを待って器に盛るだけである。

(ルシオラ、かぁ。本当の所はどんな女なのかしら。聞いた限りじゃ良い女らしいけど、言ってるのが横島とパピリオじゃ客観的な判断なんて出来てないだろうし…… 横島を好きになるくらいだから見る目はあるんだろうけど……
 う〜ん、やっぱり此処は牽制の……もとい、絆を深める為に横島を襲って……襲って……3人一緒……子供……新居が…………)

 後片付けをしながらタマモは、新たに加わる事となろう家族の事に思いをはせる。

 横島達は妙神山へ行く準備を済ませ、シロの帰りを待っていた。



キッチンから良い香りが漂うにも関わらず、パピリオは苛立っていた。

「遅い! 遅すぎる!
 シロは一体どこまで散歩に行ってるの!!」

「文珠で連絡しようにも妙神山に飛ぶぎりぎりしかないから、使えないんだよなぁ」

 時間が時間だ。通常の交通手段を使って妙神山に行くと夜明け近くになる。だから、文珠で瞬間移動することにしていた。

「でも、こりゃあ、明日にした方が良いのかもしれんなぁ。いくらなんでもこれ以上遅くなると小竜姫様にも迷惑だろうし」

「そんな! 早くルシオラちゃんに会いたくないの!?」

「会いたいに決まってるって。そりゃもう、今すぐにでもさ。でも、ルシオラは家族皆で迎えに行きたいっていうか……もちろん、すぐにあえないのは解ってるんだけど。ま、俺の我侭だなぁ、これは。……お、シロが帰って来たな」

元気すぎる霊波が近づいて来るのが感じられる。間違いなくシロだ。

「むむ、やっと帰って来た!」

パピリオは玄関の方に向かおうとするが、部屋を出る直前で振り返る。

「そう言えば横島」

「ん? どしたんだ?」

「どこにあの時見付からなかったバイザーが横島の部屋に有ったの?」

パピリオが首を傾げながら聞いてくる。横島は当然の様に答えようとした。

「そりゃあ、過去に飛んでルシオラに……あ゛」

ピキィッ! と音を立てて凍りつく横島。

(そして今、パピリオは『あの時見付からなかった』と言った。
 ……って事は
 もしかして、もしかして……
 俺が過去に戻ること自体が歴史通りって事で
 あの時、バイザーが見付からなくて霊波片が十分な量集まらなかったのは……)



「俺のせいかよ!!
 ちくしょーー!! 俺のあほおおぉぉぉぉ!!」

横島一家が新しい家族を迎えてちょっとした騒動のあと、皆で幸せな生活を送ったのはまた別のお話。

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