ザ・グレート・展開予測ショー

式姫の願い-1- プロローグ


投稿者名:いすか
投稿日時:(04/12/13)

(やれやれ、ようやく折れおったわ。あーだこーだとごねおってからに……)

 歩きなれた板作りの廊下を軋ませ、猿神―――ハマヌンは肩をならしながら
足早に修行場へと向っていた。胸中で不満を呟いていても、その皺だらけの表
情はどこか満足げなものに溢れていた。

(まあ、これであやつらにようやく顔向けができるというものじゃ。喜ぶ顔が
目に浮かぶわい)

 待ちきれないように修行場へと続く戸を引き、二人の弟子の顔がこちらを向
くのをを確認すると声も高らかにハマヌンは言い放った。

「横島! 六道! 許可がでたぞ! あのオイボレ共、ようやく重い腰をあげ
おった!!」

 その言葉に二人してきょとんとした顔を見せるも、一瞬後にはやはり二人し
て満面の笑みを浮かべて歓喜の声をあげた。

「よっしゃー! 第一関門突破じゃー! 冥子さん、おめでとうございます!」

 両拳を握り締め大きくガッツポーズをとりながら、横島は傍らにいる女性、
六道冥子へと祝福の言葉を送る。それに答えて冥子も満面の笑みを見せて答え
る。

「ありがとー! 私、がんばるからね! 絶対、皆で幸せになるんだから!!」
「信じてます!」

 お互い高く掲げた手を打ち合わせ、祝福しあう弟子達を見て満足げに首肯する
ハマヌン。その様子は未だ喜びを抑えられず、はしゃいでいる二人を孫のように
慈しんでいるようですらあった。

「それくらいにしておけ。横島の言ったとおりまだ第一段階なんじゃからな。本
当に大変なのはこれからじゃ」

 ひとしきり二人の喜びようを確認したハマヌンは、ぱんぱんと手を叩き二人を
落ち着かせ細かい確認を始める。

「確認するぞ。ワシと六道で過去に戻る。横島、文珠はいくつある?」
「今は二つっすね。『魂』『分離』『結合』がそれぞれ二つずついりますが、双
文珠は今は使えませんから問題ないっす」
「私たちが戻ってからじゃないと駄目ね」
「うむ。横島は今から加速空間に入って霊力を高めておけ。ワシらが戻ってきた
ときに霊力が多ければ多いほどいいからな。小竜姫に任せてあるがこちらの時間
で三日もすれば充分じゃろう。ワシらもそれくらいに戻ってくるつもりじゃ」
「わかりました! ……あ、でも不味いんじゃないっすか?」
「ん? なにがじゃ?」

 ふと気づいたことを横島は口にした。冥子も神妙にして耳を傾けている。

「冥子さんの魂の色ですよ。あの頃の冥子さんと外見はずいぶん変わってるから
平気でしょうが魂までは変わってないでしょ? ヒャクメあたりには一発でばれ
ます」
「むぅ、そうじゃのぅ……あやつに口止めしたところで無駄のような気もするし」

 さらっと部下を信用していないことを公言するハマヌン。誰も口を挟まないと
ころを見ると、二人ともがそれぞれに思うところがあるのだろう。

「横島君、文珠は今二つあるんでしょ? 『擬』『態』って書き込んでくれた文
珠を飲んで置けば私の霊力でずっと誤魔化せるわ」
「それしかないじゃろうな。加速空間の中で新たに二つ単文珠を作って置けば問
題なかろう」
「了解っす」

 答えながら横島は手早く文珠を出し、それぞれに『擬』『態』と書き込み、冥
子に手渡した。冥子も躊躇なくそれを嚥下する。

「っ、どうかしら?」
「大丈夫じゃろう。さて、確認に戻るが……六道、くれぐれも十二神将は使役す
るでないぞ」
「わかってますよ。向こうにもこの子達はいますからね」
「それこそ一発で怪しまれますね」
「『使役』せずとも『降式』であれば問題ない。自身の能力ということにしてお
けば誤魔化せるわい」
「はい」
「うむ。過去でもお主はワシの直弟子ということにしておく。天界で修行しておっ
たことにすればいらぬ詮索は受けまい」
「完全に嘘じゃないですもんね」

 苦笑しながら口を挟む横島。その言葉にハマヌンも口を歪めて破顔する。

「わずか三年の修行で天魔界に名を知らしめた『人魔』に『式姫』じゃからな。ワ
シも鼻が高いわい」
「先生のおかげですよ」
「そうそう、師匠には感謝してますって」

 愛弟子二人の言葉にジンと来るものを感じながら、ハマヌンは二人の成長を心よ
り喜んだ。目頭が熱くなるのを隠すようにすっくと立ち上がると、ようやくといっ
た口調で言葉をつむいだ。

「さて、そろそろ行くとするかの六道。横島、小竜姫とパピリオによろしくの」
「信じて待ってますよ。冥子さん、あっちの俺には気をつけてください。今の冥子
さんを見たら絶対飛びつきますから」
「昔も飛びついたじゃないの」

 失笑交じりにそう答える冥子に横島は頭をかくことで答え、ハマヌンはやれやれ
と首を振る。加速空間の中とはいえ、三年間続いてきた他愛無いやり取り。この場
所に必ず帰ってくると心に決め、ハマヌンは如意棒を大きく振りかぶり縦一文字に
振り下ろした。それだけで空間は切り裂かれ真っ黒な口が開く。

「……開いたぞい」
「はい……じゃ、横島君いってくるね」
「ええ……二人ともいってらっしゃい」
「お主もしっかりの」
「わかってますよ」

 それだけの言葉を交わすと、ハマヌンと六道冥子は姿を消した。

 二人を見送り、黒い空間が跡形もなく消えた後も、横島はその場に立ち尽くして
いた。全てがうまくいくように、皆が幸せになれるように願いながら―――
 
「……大丈夫……だよな?」

 ―――不安だった。



          ◇◆◇



「……先生……」
「………」

 横島の不安は杞憂に……

「(カレンダーを指差しながら)これ、読めますか?」
「……すまん」

 杞憂、に……

「なんで〜こんなに〜もどっちゃうんですか〜!?」
「仕方ないじゃろう! ワシだって初めて使う術なんじゃから! 予定外のことが
おこった程度で取り乱すとは……言葉遣いが戻っておるぞ。修行がたりん!」
「また〜そうやって人のせいにする〜〜!」

 ……終わらなかったらしい。
 
 どうやら目標にしていた時間より『ちょっと』前に飛んでしまったらしく、冥子
とハマヌンの舌戦は留まるところを知らなかった。

「死津喪比女の事件が起こるちょっと前って言ってたじゃないですか〜!」
「じゃからすまんと言うておろうに! ちょっとずれただけじゃろうが!」
「半年は少しとはいいません〜〜!!」
「正確な日時を覚えとらんお主らも悪いじゃろう! 興奮した時のその間延びした
口調はどうにかならんのか!」

 喧々轟々。
 
 低レベルな罪の擦り付け合いが続いたところで、両者ともくたびれたのか「事件
の前だから問題なし」ということで落ち着く。

「まあ、この時代の横島たちと接触が取れる時間が増えたと思えば損ではあるまい。
正体さえばれなければ有利に働くわけじゃしな」
「ばれそうだから怖いんですけど……」
「気をつけるしかないのぅ。とりあえずは時間もあることじゃし、こっちの小竜姫
にお主のことを紹介しとかんとな」
「小竜姫様にも秘密ですよね?」
「当然じゃ。あやつは融通がきかんからの。ワシの弟子といって紹介するだけじゃ」
「名前、どうしましょう?」
「適当に考えておけばよい」

 む〜む〜と首をかしげながら偽名を考える冥子をつれ、ハマヌンは部屋を出て小
竜姫を探す。どうやら修行者が訪れているようで、自室にはいないようだがおそら
く修行場のほうだろうとあたりを付け足を進める。

「小竜姫! 小竜姫おらんのかー!」

 銭湯のような修行場の入り口をくぐり、大声で呼びかけているところでドタバタ
と奥のほうから足音が聞こえてくる。

「ろ、老子! きゅ、急におこしになられても困ります!」
「忙しないのぅ。たるんどるぞ」

 ガラッとガラス戸を引いて狼狽した表情をしているのは、冥子もよく知る小竜姫。
もっとも、向こうから見れば初対面なのだが。その小竜姫の後ろからのぞく人影の
一人が苛立ちの声をあげる。こちらも冥子にはよく見知った顔ぶれ。

「ちょっとなんなのよ! 急に修業中断して!」
「ちょ、美神さん神様に向かってそんな……」
「生まれたときから愛してましたーー!!」

 予言通り(?)飛び掛ってくる横島を可笑しげに見ながら、冥子は過去に戻って
きたのだと今更ながらに実感した。



          ◇◆◇



「なんじゃ、修行者が来ておったのか」

 冥子に飛び掛ってきた横島をあっさりと如意棒で撃墜し、その横島の上に胡坐を
書きながらキセルをふかすサル。その様子を見て絶句している一同。

「ぐぐぐ……何故じゃ! 何故勝てん! 美女を前にした俺がサル程度に邪魔され
るとは!!」
「ほっほっほ。修行が足らんぞ小僧。ワシを出し抜きたかったら沙悟浄くらいには
ならんとの」

 サルの言葉にピンときたのか美神は小声で傍らにいる小竜姫に話しかける。

「ちょっと小竜姫様!? あいつってもしかして……」
「ええ、猿神ですよ。孫悟空といったほうが貴女たちにはわかりがいいでしょうね。
私の上司に当たる方です」

 小竜姫の説明にさしもの美神も息を呑む。言葉どおり伝記に伝わる神と対峙して
いるのだから当然であろう。そしてそれ故に気にかかる。何事も無いようにハマヌ
ンの横に立つ黒髪の女性に。その疑問を美神が口にする前に小竜姫が口を開いた。

「あのー……老子? 今日はどういったご用件で……」
「なんじゃ、弟子の仕事振りを見にきてはならんのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「まあ、それとは別に紹介したいやつがおっての。お前の弟弟子に当たるやつじゃ」
「え!?」

 その言葉に皆の視線が集まる。それに促されるように一歩進み出る冥子。

「(meikoだからoki…)おきえ……熾恵といいます。よろしくお願いします。小竜姫様」




(後書き)
 はじめまして。初投稿となります。
 小説という媒体で文章を発表するのは初めての試みですが、皆様のすばらしい小
説に触発され筆をとりました。見苦しいところが多々あるかと思いますが、がんば
って精進しますので末永くお付き合い願えればと思います。よろしくお願いいたし
ます。内容についても少し。冥子(熾恵)はとある事件により人間として少し成長
しておりますので、あの特徴的な間延びした口調では普段話しません。興奮したと
きや、混乱した場合には元に戻りますが。違和感を感じられるかと存じますが、寛
大なお心で見届けていただければと思います。

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