ザ・グレート・展開予測ショー

まごころを君に−2


投稿者名:ゆうすけ
投稿日時:(04/12/13)



まごころを君に−2


【4】
二人は結局その場で眠りについていた。シロを目の届く範囲に留めて置きたかったのと、彼女を一人にさせたくなかったと言う労わりの気持ちからだった。
「ん…」
窓から差し込む光に眠りを妨げられ、シロは目を覚ました。
そしてシロはソファに寝ていた事と、毛布が掛けられている事に気付いた。二人がやってくれたのだろう。シロは嬉しく思った。
窓からそらを眺めた。空はまるで台風が過ぎ去ったかのように青く澄み渡っていて、千里の彼方まで見渡せるようだった。昨晩あれだけ大泣きした所為か大分気持ちが、心が軽くなっていた。
心の傷が少しずつでも埋められる度、人と言うものは自己の心境の変化を確信し、ほんの一瞬、気持ちが弾む。たとえその傷の原因の始末がついていなくとも……。そして次の瞬間、記憶がフィードバックし現実に直面するのだ。
それからどう気持ちが変わるかは人によって、それぞれの状況によって異なるが、シロの気持ちは晴れやかだった。先生にやっと会う事が出来た。先生なら何とかしてくれるだろう。みんな元通りになるんだ。そんな思いがシロを包んでいた。
振り返り、椅子に凭れて眠っている二人を見る。きっと自分が寝ている間見守ってくれていたのだろう。胸が一杯になった。
不意にシロは強い喉の渇きを覚え、喉を押さえた。あれだけ泣いたのだから当然だろう。
水を飲もうと台所へ向かう途中、彼女の気配に気付いたのかルシオラが目を覚ました。
「あ…どうしたの?」
「いや、喉が渇いたから水を貰おうかと…」
それを聞くと彼女は身体を起こした。
「ちょっと待ってて」
台所へ行き、冷蔵庫を開ける。
「いや、水で構わないでござる」
「ダメ。こっちの水はお腹壊しちゃう位ホントに不味いんだから…牛乳で、良い?」
シロはココに来るまでの道中、飲んだ事はあった。確かに不味かったが腹を壊すほどなのかと少し自分の腹を心配した。
「あいすまない」
「いいのよ」
ルシオラは牛乳パックとグラスを二つ、リビング中央にあるやや小さめのテーブルに運んでその前に直に座った。シロに手招きをする。シロも彼女に習い、彼女と向き合う形で胡座をかいた。
グラスに牛乳が注がれ、シロに手渡された。
「いただきます」
挨拶もそれなりにシロは一口含み、ゆっくりと味わった。次には一気に飲み干し、ルシオラに空のグラスを差し出す。彼女は差し出されたグラスに牛乳を注ぐ。
「――ふぅ」
浴びるように二杯目を飲み干すとシロは手の甲で口許を拭い、一息ついた。
「まぁ昨日あれだけ泣いたんだから当然よね」
それからルシオラは朝食を作ってくると言い席を立った。シロは顔を赤らめながら自分にも何か手伝わせてくれと願い出た。ルシオラは快く頷いた。






テンポ良く繰り返される食材を切る音と食欲を掻き立てられる匂いにつられ、横島は目を覚ました。
台所からは和気藹々とした話し声が聞こえる。それを聞いて横島はほっと胸を撫で下ろした。
「おはよう」
台所へ向かい二人に挨拶をする。二人は明るく応対した。リビングに帰る勢いで横島は洗面所へ向かった。
しばらくして朝食が完成し、三人は食卓を囲んで手を合わせた。久し振りに日本食だった。
朝、ルシオラはあまり日本食を作ってくれない。ならば自分が言えば事は済むのだが、せっかく作ってくれたのだからと遠慮するのが常だった。こう言う曖昧な行動の積み重ねがいわゆる倦怠期を招く要因なんだろうか、出来れば来て欲しくないものだなどと一人下らない事を考えながら彼は味噌汁の入った椀を手に取った。今回はきっとシロに合わせて作ったのだろう。味噌の香りが日本を思い出させた。
横島は日本で昨夜の事を思い出した。今日、帰国する。日本に、一体何が待ち受けているのだろう。シロの心が深く傷つくほどの事態とはなんだろう。事務所の誰がその犠牲になったのだろう。
横島は味噌汁を啜りながら悶々と考えていたが、次には考えても仕方が無いと開き直った。シロに聞かない事には全くわからないのだから、今何も知っていない自分が何を考えても無意味だ。
今はこの団欒を楽しもう。
「ヨコシマ、その味噌汁シロちゃんが作ってくれたの。ね、シロちゃん♪」
ルシオラは嬉しそうに話すとシロに確認を取った。
「美味しいですか、先生?」
「おお。うまいうまい!」
シロの表情にも声にも明るさが感じられる。
「えへへ。じゃあ、拙者の卵焼き食べてください」
彼の言葉にシロは笑みを浮べ、横島の皿に自分の分の卵焼きを一切れ乗せた。横島は明るく会釈するとそれを口に運んだ。ふとルシオラの顔を見やる。彼女は嬉しそうに微笑みながら焼き魚を箸で摘まんでいた。
彼は今朝のルシオラは妙に御機嫌だと思った。シロが朝食を手伝ったからだろうか。
「ふう、御馳走様」
横島が箸を置くとルシオラは全員の食器をまとめ、台所へと運んでいった。それにしてもシロの食欲は旺盛だった。聞くとシロはこの国に入国するやいなや道を尋ねた子供に有り金を全部掏られ、空腹の中三日も歩き回っていたらしかった。横島の胸に軽い罪悪感が過ぎった。
「じゃ、俺は仕度しておくから」
食事を終えた横島は台所へ行きルシオラに言うと身支度をするため寝室に向かった。シロもそれについて行く。
「へー、ここが先生達の寝室でござるかぁ」
寝室に入ったシロはまじまじと辺りを見回しながら言った。横島はシロの“達”と言う言葉にギクリと反応し、追い討ちの質問を警戒した。
「言っとくが、あんまり探り回るなよな」
横島はクローゼットから長年仕事で使っていたリュックを引っ張り出し、衣類を詰め込んでいく。隣りではシロが衣類を小さく畳むのを手伝っている。
作業は順調に進み、程無くして終わった。二人が部屋を出ようとした時、ルシオラが入ってきた。
「まだ着替えてなかったわ」
ルシオラはきまりの悪そうな表情を浮べた。横島は彼女の姿を上から下に眺める。彼女はパジャマのままだった。横島は短く溜息を吐き、その場に荷物を置くと早くしろよと一言返し、シロと共にリビングへ向かった。
リビングの一人用のソファーに座った横島の上にシロがさらに腰を下ろした。この行動は意外だった。
「えへへ、ルシオラ殿にはやってたんだから拙者も良いでござろう?」
そーゆー問題じゃないのだが、と横島はルシオラが来たらなんて言うか恐ろしく思った。ふと、横島の脳裏に今日の予定がかすめた。
「そうそう日本に帰る前に俺等が世話になってる研究所にちょっと顔を出しに行くからな。まだ仕事が片付いてないから一時帰国の許可をもらいに行くんだ」
横島はシロに混乱を与えないようにと目的地の説明をする。彼の言葉にシロはキョトンとした。
「?先生、拙者達が行くのは日本じゃないでござるよ?」
今度は横島が意外な顔をする。その時ごめんごめんと、ルシオラがスリッパを鳴らしてリビングに入ってきた。
「へ?じゃあどこに行くんだ?」
二人の様子を見たルシオラのこめかみに青筋が走った。
「いぎりすでござる」
「イギリス?…って、げっ!?」
横島が気付いた頃にはルシオラは拳を振り下ろし始めていた。
「なにやってんのよおまえは!!!」
「ギャーーーーー!!!!」
横島の叫び声は隣家まで響き渡った。



















【5】
三人はバスに揺られながら研究所へと向かっていた。
――イギリス?なんで…
事務所の人間にトラブルがあったのだから横島はてっきり目的地は日本だと思っていた。
除霊のためイギリスへ出張した時に何かトラブルが起こったのだろうか?
ふと横に目をやる。ルシオラはまだ怒っていた。
「なあ、そんなに怒るなよ」
「…ふん」
ルシオラはそっぽを向く。
「それにしても今日のルシオラはカッコ良いな!黒と白の縞々のスーツがシックで!んでもって右の胸に付けた蝶のブローチがアクセントになっててこれまた可愛く仕上がってるぞ!」
「…さ、着いたわよ」
ルシオラは彼の言葉を無視して乗降口へ向かった。
『キャサリーン製薬会社』
主に医療関係の薬品の製造、開発が目的である。しかしそこはGS業界で取り引きされるような薬事法違反品の研究、開発と言うもう一つの顔を持っていた。
「先生は今ここで働いてるでござるかぁ」
シロは研究所へと続く路を歩きながらキョロキョロとその脇にある広大な土地を見回していた。
「まあ働いてるってわけじゃないが…」
横島はシロに自分がここで何をしているのかと言う事を説明する。その姿を横から見ていたルシオラは昔の事を思い出しながら愛しそうに眺めていた。
建物内に入り、横島は二人にロビーで待ってるように言うと受け付けでIDナンバーと写真の入ったカードを見せる。
「おはよう、エミリーちゃん。相変わらず可愛いね」
横島は金髪の受付嬢と軽く雑談を始めた。
「おはようございます、横島さん。あれ?定期検診はまだですけど…」
エミリーも笑顔で彼に返した。
「ちょっと野暮用でね。須狩のねーちゃんはもう来てる?」
「社長ですか?先程いらっしゃいましたが…」
彼女は今日の出勤表を見て横島の質問に答えた。
「サンキュ。じゃあさ、今度の土曜の夜ヒマ?」
彼の言葉に彼女はクスリと笑う。
「何言ってんですか。彼女に言いつけちゃいますよ?」
そんな些細な話をした後、彼は受け付けの奥にあるエレベーターに入っていった。彼は最上階である3階に降りると右手にある給湯室を通り過ぎ、社長室へと向かった。樫の一枚板で出来たドアを軽く叩く。中では何やら激しい言い争いが聞こえた。
しばらく待っていると中からどうぞと言う声が聞こえ、横島は中に入った。
「あら、横島クン。今日はリハビリの日じゃないはずだけど?」
「ちょっとお願いしたい事があって…それよりなんかあったんスか?」
横島は先程の喧騒を尋ねた。
「ああ、あれ?ちょっと薬品の発注の件で相手先とトラブルが発生してね。まああなたが気にすることじゃないわ。掛けて」
須狩は横島に来客用のソファに座るのを促すと受話器を取り応接秘書に紅茶を二つ持ってくるように言った。
「あ、お茶はいいです。すぐ出ますから」
「ゆっくりすれば良いじゃない。そう言えば何か私に頼みたい事があるって言ってたわね」
彼女は彼の向かいソファに座った。
「ええ、実はちょっと身内に何かトラブルがあったみたいで、今日にでも出国したいんスけど…」
その言葉に彼女はピクリと眉を動かした。
「出国!?ちょっと待って。一週間後に研究の発表会があるのよ!?許可できるわけ無いじゃない」
横島もそれはわかっていた。だから勝手に出国する事も考えたのだが、此処には恩義がある。一応ここで食い下がるわけにはいかない。
「そこをなんとか!」
横島は膝に手をつけ頭を下げた。すると彼女は短く溜息を吐き
「出国って日本に帰るわけ?」
「いえ、目的地はイギリスです」
「イギリスかぁ」
須狩は腕を組み思案をめぐらせ始めた。しばらくすると彼女は腕を解き、組んでいる足の上に乗せた。
「しょうがないわね、許可します。イギリスへは社の専用機を手配してあげるわ」
彼女の言葉に横島は勢い良く顔を上げ、そのまま立ち上がると深く一礼した。横島は彼女を裏切る真似はしたくなかったので、この結果は彼にとって非常に嬉しいものだった。
彼女は自分のデスクに座り直し、受話器を取って飛行機の手配を始めた。通話が終わり、受話器を置くと彼女は横島に空港までの足に車を用意したので来るまでしばらくここで待っているかと訊ねた。横島はフロアに連れを待たせてるのでと丁重に断り、何度も頭を下げながら足早に部屋を後にした。彼と擦れ違いに秘書が盆にティーカップを二つ乗せ、笑みを浮べながら入ってきた。
どうやら一連の成り行きを盗み聞きしていたらしい。
「社長って、優しいんですね」
彼女の言葉に須狩は軽く鼻で笑うと、椅子の背凭れに深く体を預けた。
「昔、あいつの上司に助けられた事があってね…。これはちょっとした恩返しよ」
須狩はそう言い、くるりと椅子を回転させ彼女の背後にあった大きな窓から空を眺めた。空は朝と変わらず雲一つ無く、青く澄み渡っていた。





















【6】
彼等がロビーで受け付けのエミリーと雑談をしながら迎えが来るのを待っていると、程無くして正面玄関から黒いスーツを着たボディーガードの様な出で立ちの男がやってきた。
「横島様、ですね?お迎えにあがりました。私カミュと申します」
カミュはサングラスを外し、横島に握手を求めた。少し細面だが中々整った顔立ちだった。横島は彼の顔立ちの良さが気に入らないのか少しムッとしながら握手に応じる。
「先生。こいつ等何者でござるか?」
シロは彼等が現れるやいなや横島の後ろに隠れ、彼の袖を軽く引きながら訊ねた。横島は彼女の警戒振りに少し疑問を覚えたが、別段気にも留めなかった。
「ああ、さっき話した空港まで送ってくれる人達だ」
「ヨロシク。君の名前はなんて言うのかな?」
カミュは横島の後ろを覗き込むような姿勢でシロに話し掛けた。シロはより身を縮め、口を噤んだ。横島は急に接する態度を変えたカミュにさらに不愉快を覚える。
「おっと、どうやら嫌われちゃったみたいだねぇ」
当たり前だこの野郎などと横島が毒気づくのをよそにルシオラはエミリーの表情に疑問を抱いた。
「どうしたの?」
「え?いえ、なんでもないです…」
「さあ、お嬢さん。無駄話もなんだしそろそろ行きましょうか」
二人の間にカミュが割って入ってきた。
「そうだな、急ごう」
横島もリュックサックを担ぎ正面玄関へと歩いて行った。シロも横島にくっつくように後を歩く。ルシオラは少し躊躇したのだが自分がココに残っても仕方ないと思い、彼女も彼の後をついて行った。
横島はカミュに荷物を渡すと助手席のドアを開けた。後部座席は別段狭いと言うわけでもなかったのだが、昨晩変な寝方をしたためか、身体にはまだ疲れが残っていたのでゆったりと座りたかったのだ。
車内に入ると横島はタクシーのような、前部座席と後部座席とを遮るガラスに似たもので仕切られている事に気がついた。
横島は以前これとは違うがこの国に入国した時、須狩が迎えに来た際に乗っていた車にも同じようなものがあったのを思い出した。VIPの乗る車とはこう言う物なのだろうと、彼は納得し席に着いた。背凭れに寄り掛かると案の定、体から疲れが噴き出してきた。重くなり下がってくる瞼を拒む事無く、彼の意識は深い所へ沈んでいった。











彼等が去った後もエミリーの表情は曇ったままだった。
――おかしい。いくらなんでも手配が早すぎる。彼がここに戻って来てから五分と経ってなかったのに…。
社長が気を利かせたのだろうか。彼女が思案を巡らせていると受付に須狩が現れた。
「あっ、社長」
「どうしたの?なんか考え込んでたみたいに見えたけど…」
須狩は怪訝な表情を浮べていた。
「いえ、なんでも。」
「そう。それより横島クン達はどこ?」
「はぁ、すでに空港に向かわれましたが…それよりどちらにお出かけに?」
「ちょっと私用でね。すぐ戻るわ」
そう言うと彼女はいそいそと建物の外へ出て行った。エミリーは本人に確認しようかとも思ったのだが、彼女が急いでる様子だったので言い出せなかった。
「…あれ?」
エミリーは正面玄関の自動ドアの前で彼女が誰かと会話しているのが目に入った。背丈からして男性だ。話が済んだのか二人は再び建物内に入り、小走りをしながらこちらに向かってきた。
「…あ!」
須狩の後ろをついてきた男は見た事のある人物だった。そう、カミュである。
「カミュさん!?なんで!?」
エミリーは目を丸くすると素早く自らの腕時計を見やった。まだ彼等が出発して十分と経っていなかった。再び男の顔を見る。やはりカミュであった。
「やはりそうか…」
彼女の表情を見ると二人は顔を見合わせた。
「となると…もしかして!」
須狩はそう言うとエレベーターへと走っていった。カミュもそれについて行く。
「えっ!?何がどうなってるんですかぁ!?」
事態が飲み込めないエミリーは二人の後を追いかけていった。








そしてその頃…。







「んなアホなぁーー!!放せーー!!!」
エミリーの予想通り、横島は郊外のとある場所で椅子に座らされ、手足を手錠でそれに繋がれて体の自由を奪われていた。蛇口から勢い良く水が流れるように涙と鼻水を流しながらカミュに激しく抗議する。
「やかましい!命が惜しければ静かにしてろ!」
カミュは横島の大声を煩わしく感じ、怒号とともに彼に銃口を突きつけた。他の二人も同様に拘束されていた。ただ違うのは二人は後部座席に座っていた為、カミュが放った催眠ガスをまともに吸い込み眠らされていた。助手席に座っていた横島は運良くその被害を受けなかったのである。
「くっそー!須狩のねーちゃんまたハメやがったなー!!」
「おやおやそれは違うぞ?僕を雇ったのは彼女じゃない。違う人間さ。まあ君が知る必要はない、死んでみるか?」
「アホ、死んでたまるか!俺はまだヤリ…もとい遣り残した事がたくさんあるんじゃ!!」
立て続けに横島が声を張り上げていたからか、ルシオラが目を覚ました。続いてシロも目を覚ます。
「う…ん…」
「先生…。ここは…」
二人は意識が朦朧としていながらも周囲の状況を把握しようとする。
「おや、お目覚めのようだね。…これが、わかるな?」
カミュはルシオラに銃口を向け、念を押した。ルシオラも意識が鮮明になり、それを見ると黙って頷いた。
「お、俺達をどうするつもりだ?」
最悪の場合、被害が自分以外にも及ぶと再認識した横島は態度を慎重にした。
「一週間後にあの会社が開くセレモニーが終わるまで監禁する。なに、殺しはしないさ」
横島の態度の変化を察したカミュはにんまりと笑った。次に彼は銃口をシロに向けた。
「そっちのお嬢ちゃんはさっきから俯いてるけどどうしたのかな?まさか逃げようなんて考えていないだろうな?」
シロは話を聞いていないかのように何の反応も示さなかった。
「おい、聞いているのか!」
彼女の様に業を煮やしたカミュは怒号を放つ。するとシロはゆっくりと顔を上げた。
「…なんで」
「?」
「何で…そうやってお前等は平気で、人を騙したり傷つけたり出来るんでござるか…」
シロの声は酷く沈んでいた。
「何でって、そりゃこうすれば僕も含めて得をする人間がいるからさ」
彼女の言った事が滑稽に感じたのか、カミュは嘲りながら答えた。
「この…畜生が!お前等は生きる価値も無いでござる!!」
彼女の言ってる事に横島は違和感を覚えた。カミュに対してだけではない…。そう思った時にはもう遅かった。
シロは手首にはめられた手錠をまるで紙を千切るかのように引き裂くとカミュに猛然と向かっていった。カミュは彼女の前進を止めようと腹に照準を合わせ引き金を引く。引き金が傾いた時、銃身はシロの左手に捕らえられ、その軌道は大きく外された。シロはさらに右手でカミュの頭を鷲掴みにすると下半身を捻り右足を彼の足に掛け、大外狩りのようなものでカミュを床に叩きつけた。ただ普通の大外狩りと違うのは襟元に掴まれていなければならない右手が彼の頭に置かれ、それを力一杯押している事だった。これによりカミュの後頭部はコンクリートの床に思い切り叩きつけられ、鈍い音が部屋に響き渡った。
「ふうぅうう〜〜!!!」
シロはそのままピクリとも動かないカミュに馬乗りになると、彼の頭を無理矢理引き上げ、左腕を力強く背中に引き寄せた。白いTシャツには後背筋の隆起がはっきりと浮ぶ。そして振り切った左拳はカミュの頭上を掠めていった。先程頭を叩きつけられた事により、カミュは顔のあらゆる穴から血が流れ出ていた。その為、それがシロの右手を滑らせ、カミュは一瞬ながら危機を脱した。
シロは右手のぬるっとした感触に疑問を感じ、自分のそれに一体何がついているのだろうかと確認した。そして彼女は全身を硬直させ、悲鳴を上げながら床に突っ伏した。いや、突っ伏したと言うのは適切ではないだろう。彼女は身体をくの字に曲げ、息苦しそうに首を押さえていた。




その頃横島とルシオラは…











目の前の光景の刺激が強すぎたのか、意識が遠い所へ旅立っていた。







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