ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 23〜異種族との橋渡し〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/11)

横島は意を決して、篭城犯の立てこもる部屋のドアの前に立った。
ドアノブをゆっくりと回す。人一人がギリギリ通れるくらいの隙間を開けて、背中を向け
そろりと入って行く。背中を向け、手を頭の後ろに組んだまま、静かに声を掛ける。

「見ての通り丸腰だ、そちらの方を向くぞ。俺は話し合いがしたいだけだ。」

そう言って振り向くと、真っ先に人質の少女が目に入る。五歳くらいの少女だろうか、
泣き疲れて眠っているようだ。痛ましく思っていると・・・

「やっぱり、横島さん。」「に・兄ちゃん?」

いきなり名前を呼ばれたので、驚いて声の主を見ると、以前に助けた事のある化け猫の
親子だった。当時の横島が美神に刃を向けてまでして守った相手だ、忘れるはずもない

「美衣さん?ケイ?どうして貴女達が?」

驚いて事情を尋ねると詳しく話してくれた。
事の起こりは、二人の住んでいる山奥に最近ゴミの不法投棄が増えているらしい。その中
にまだ使えるテレビが、室内アンテナごと捨ててあったのでケイの為に持って帰った。
ケイはそれを喜んで、母親が眉をしかめるほどテレビかじりついて見るようになった。
その時に料理番組に、美味しい中華料理が紹介されたのを見てケイが食べたいと言いだし
たのがきっかけになった。せめてお正月ぐらいは、子供に贅沢をさせてやりたいと思い、
なけなしのお金をはたいて、どうせならテレビで紹介されていた、一番美味しいと評判の
お店で食べさせてあげようと思い店を訪れた。さすがに評判になるだけの事はあり、確か
に値段は高いが、味も充分にそれに見合うだけのもので満足できるものだった。お互いに
「美味しいね。」「来て良かったね。」と笑いあいながら親子の時間を過ごしていたのだ

それは、ほんのささやかな幸せ、祈りのような穏やかな時間。

その時にいきなり、殺されそうになったのだ。横島は聞いていて涙がこぼれそうになる。
いったい二人が何をした?あるだけのお金を持って、子供に美味しい物を食べさせたいと
思う事すら許されないというのか?人外の者は子供の幸せを願う事すら、いけないのか?
それが人間の常識だと言うのなら、まとめて叩き壊してやる、と決意していると、

「兄ちゃんどうしたの?その傷痛くない?」

そう声を掛けられて我にかえる。自分が上半身裸だった事など忘れていたのだろう。
こんな時にまで、人の事など心配しなくても良いのに、と思いながら、

「ん?ああ、これは古傷だから痛くないよ、大丈夫。ちょっと昔にね、毎日即死しない
程度の致命傷を負っては蘇生させられるって修行の日々を過ごしただけだから。」

そうにこやかに答える。ケイは良く意味がわかっていないようだが、美衣の方は驚いて目
見開いている。横島はそれに気付いたが、説明する時間すら惜しかった。文殊は総て部屋
の外に置いてきたので、新たに文殊を生成する。二文字を刻めるタイプの方だ。横島は、
妙神山での修行の成果で、二文字用の文殊も自在に生成できるようになっていた。模様が
陰陽大極図に似ているので、自ら陰陽文殊と名づけていた。

「とにかく二人とも、一刻も早くここから逃げる必要があります。俺を信じて、総てを預
けてくれませんか?」

そう尋ねると、美衣が貴方なら信じられます、と言ってくれたので文殊を利用して、空間
転移を行う、と説明する。美衣は人間にそんな事ができるのか、疑わしそうだったが一旦
信じると決めた以上はお任せしますと言ってくれた。

「それじゃ、今から二人を俺の家に転送しますので、しっかりケイを抱きしめて下さい。
今は仲間達が集まってますから、俺から家に行くように言われたといって下さい。大丈夫
良いヤツらばかりですから。」

安心させる為に、そう声を掛けて文殊に念を込める。刻む文字は《転》《移》
飛ぶ前に、少女には怪我一つさせていない事、謝っていたと伝えて欲しい事など不本意な
がら、少女を巻き込んだ事を気に病んでいたので、安心させて、自宅に飛ばした。

これで依頼主の条件はクリアした、後はこちらの条件を押し通すだけだ。
横島は眠っている少女を、そっと横抱きに抱えて部屋から出て待ち構えていた大人に渡す

「お・おおっ!美花っ めいふぁ・・・」

そう叫ぶと、孫娘を抱いたまま床に膝から崩れ落ち、安堵の涙を流し始めた。
その黄大人の孫の名を叫ぶ声が聞こえて、何らかの進展があったと思ったのか、数名が中
を覗き込んできた。そこで孫娘が無事でいるのを見るや、全員がなだれこんで来た。その
まま奥の部屋に突進して行く、呆れたことに全員が手に武器を持っていた。当然ながら、
部屋の中には誰もいない。すると全員が横島に詰め寄って来た。妖怪はどこに行ったのか
というのだ。

「見えなかったのか?今アンタらと入れ違いに飛び出して行っただろうが!」

そんなモノは見えなかった、と口々に言って来る。まあ、当然だろう。実際何も出てきて
などいないのだ。だが横島は、正直に全部を話すつもりなど、なかった。何より今後一切
の追求などが無いように、ここで決着をつける必要がある。黄大人は二人に関しては横島
に一任すると確約したのだ。その事の念押しをしておきたいのだが、見ればまだ無事に孫
と再会できた喜びにひたっている。流石にそれを邪魔するのは無粋かと思い、どうしよう
かと考えていると、さっきの連中がより激しく責め立ててくる。見えない相手など絶対に
いなかった、嘘をつくな、と言って来る。妖怪に関しては、黄大人が自分に一任する、と
確約したのに何故お前らが追う必要があるのか、と尋ねると、先程の道士が、それが義務
だと答えてくる。いい加減がまんの限界だった。黄大人さえ話に応じてくれたら、こんな
面倒も終わるのだが、孫との時間の邪魔をしない、と一旦決めた以上自分で対応するしか
ない。せいぜい、丁重に相手をしてやることにする。

「相手の動きが速くて、見逃しただけだろう?自分の未熟を他人のせいにするなよ。」

そう言い放つと、火に油を注いだような状態になった。

「まぁそうか、言葉じゃ納得できんわな。じゃあ見せてやるよ、見れないだろうがな。」

ドンッ!!
そう言い終えると、一音を残して横島の姿がかき消える。一同が慌てて探していると、

「どこを見ている?俺は後ろだ。」

一瞬後には一同の後ろに姿を現している。横島の使った技は”神足通”超加速と違い肉体
の力のみでの瞬間移動だ。横島はこの技と”発剄”を併せて斉天大聖より伝授されていた
のだ。この二つを併用すれば、必殺の奇襲攻撃が成立する。ただの人間相手にそこまでや
るつもりはなかったので、今回は神足通だけを披露しておいた。何より、あの親子を転移
させた事を言うつもりはなかったので、誤魔化す為にはこの技を見せるのが最適だった。

今の技を見せられては納得せざるをえないようで、不承不承ながら大半の者は頷いていた
・・・例の道士を除いては・・・

「そんなまやかしで誤魔化されるものか、いったい妖怪どもをどこへやった?」

あくまでしつこく追及してくるので、横島も良い加減ここらで釘を刺す事にした。

「自分の未熟を認められない程の未熟者なのか?その程度の力しか無いから、何もしてな
い相手にヒステリックに奇襲を掛けたりするんだな?」

そう挑発した。実際あの親子の時間を邪魔した事に関しては、本気で怒ってもいた。言わ
れた方は納まりがつかなくなり、符を取り出しいきなり仕掛けてきた。

「貴様っ!東洋鬼ごときが私を愚弄しおって、思い知らせてくれるっ!
                           火精来々!焼き尽くせっ!」
「来たれ煉獄の炎! 炎精召喚!」

相手が事もあろうに、屋内で火の精霊を召喚したので、横島もそれに応じてより上位の炎
の精霊を召喚して相殺した。もちろん力は充分に押さえてある。でなければ建物ごと燃え
尽きてしまう。結局相殺しすぎて相手の前髪が焦げてしまったがこれくらいはご愛嬌だ。

「ば・馬鹿な!炎精を召喚できる人間などいる訳が・・・」
「現に目の前にいるだろうが!古の術者には幾らでもいたはすだぞ?アンタ自分の師匠に
言われなかったか?天地陰陽の理は人間如きには自在にはならない、符はそこから力を借
りる小さなきっかけに過ぎない。鍛えよ、鍛えよ・・・」

「それは・・・十五雷正法口伝・・、何故、日本鬼子がそれを・・・」
「あのなぁ、別に俺の事はトンヤングィでもリーベングィズでも良いけどな?今のアンタ
をアンタの師匠が見たら、どう思うんだろうな?」

横島はそこまでで手控えた。黄大人がようやくやって来たからだ。

「何を騒いでいる?孫が怯えるではないか。」

そう言われた挙句に、孫娘の不安そうな顔を見てしまうと、自分達が大人げなく思えてし
まいなんとも情なくなってしまった。しかし落ち込んでる暇などない。
先の約束を持ち出して、二人の安全を確保する為に、追跡無用を言い立てる。

「良かろう、我が民族は約束は守る。化け物二匹など、どこでなりと野垂れ死にすれば良
いのだ。ただし、ワシの目の届く場所に来たら容赦はせんぞ!」

孫可愛さからとはいえ、この言われようは余りにもせつなかった。

「黄大人、あの親子はな、アンタの店が一番美味いって評判だから、一度食べてみたかっ
ただけだぜ?子供の為になけなしの金、もちろん働いて貯めたヤツさ、をはたいて、正月
ぐらい美味しい物を食べさせてあげたいと思うのは、悪い事なのか?彼らは人間の愛情に
育まれて、年経たモノが妖怪に変化する種族だ。愛情を注がれる事も注ぐ事も知っている
んだ。親子の間は愛情に溢れている。黄大人、アンタが孫を思う気持ちとどこが違う?」

どうしてもこれだけは言っておきたかった。別に改心する事などは期待しない。ただ人外
の存在にも情はあるのだ、という事だけは伝わって欲しかった。

「フンッ!若造が、ワシに意見するつもりか?」
「まさか、ああ、伝言を預かってたんだ。”料理美味しかったです””迷惑掛けてごめん
なさい”それとお嬢ちゃんに”怖い思いさせてゴメンね”ってさ。」

横島が多少虚構を混じえて伝言を伝えると、目に見えて不機嫌になってしまったが、当の
孫娘が、怖かったけど態度は優しかった事、小さな男の子がずっと慰めてくれた事、抱き
しめられた腕が暖かった事をたどたどしい口調で話すと、少しだが様子が変わってきた。

「ふむ、人外の者がのう・・・」

そう言ったきり黙り込んでしまう。横島は何も言わない、急かさない。ただ見つめるのみ

「いきなりは無理じゃ、無理じゃが、味の判る客というものは料理人にとっては有難い者
でな、店の客としてなら歓迎しよう。」

最初から客として来ていたのだが、別に余計な事をして事態をこじらせたのは、目の前の
老人ではない。ひねくれた言い方ではあるが、これだけ譲歩してくれるのであれば、身の
安全も保障されたようなものだろう。横島がホッとしていると、

「貴様の、いや、貴殿の尽力のお陰で孫の身に何事もなく、無事にすんだ。ワシは日本人
は嫌いだが、まあ、一人ぐらいは構うまい。横島殿、今より貴殿を当家の恩人としてもて
なそう。報酬は望みのままだ、何だろうと言ってくれるが良い。」

とことんヒネクレた物言いだが、日本人を一括りにするのではなく、ちゃんと個人個人と
して相手をみて判断するという事なのだろう。相手がここまで妥協してくれたのであれば
横島としても礼を尽くさなければならない。

「貴殿はやめて下さい。この年齢差ですから、お前なり横島と呼び捨てにするなり、好き
なように読んで頂いて結構です。それから報酬の件ですが、最初に話した通りに美味い物
を、腹すかして待ってる家族にたらふく持って帰ってやりたいだけです。」

そんな報酬で人質救出のような困難な仕事を引き受ける物好きなどいない。大人は、金で
も車でも欲しいものを言えと言ったのだが、正式な依頼として報酬を受け取ると報告書を
出さなければならなくなる。そして今回の事件が明るみになれば、あの親子の身が危うく
なるし黄大人の孫娘にとっても、妖怪に攫われて人質にされたなどと知られたら、更に尾
ヒレがついたような噂がたつかもしれない。事情を話すと納得してくれたが、それならば
せめて最高の料理するから持っていけと言われて、それまで待つ事になった。

「ふむ、ただ待つのも興ざめじゃな。よし皆、客人をもてなすぞ、酒じゃ!」

そう言われると、若い連中が嬉しそうに酒宴の準備を始めた。準備が終わると最初の一杯
が横島に振舞われた。いくら横島でも酒宴の席での最初の一杯を進められる意味ぐらいは
知っている。とてもではないが「未成年ですから」などと断れる状況ではない。第一そん
な真似は宴の主人に礼を欠く事になる。やむをえず一息に飲み干した。

「っ!!!」
「ハハハ!どうかな貴州芽台酒63℃じゃ。いや見事な飲みっぷりじゃ、皆も飲め。」

その言葉を皮切りに、酒宴が始まった。横島は上座に座らされて、皆の酌を受けている。
横島は両親の血を引いて、結構な酒豪なのだが、いくらなんでもこの酒は強すぎる。この
ままでは潰れてしまう、と思った横島は裏技を使う事にした。すなわち、陰陽文殊を二個
使って《酒》《精》《分》《解》の文字を刻む。普段の除霊ですら、できるだけ使わない
ようにしている文殊をこんな使い方をして良いのかとも思ったが、既に酔っている事情も
手伝い、まあ正月だし、で納得させる。こうなると幾ら飲んでも酔う事はない。次々と酌
を受けては飲み干し、それでいて乱れた様子もない。そんな横島を見ている若者達の目が
尊敬の色に染まっていく。この場にいる誰よりも強く、符術まで使いこなし、酒まで強い
これは若者達にとっては、英雄みたいなものだと言ってよい。年長者達は仁勇を兼備する
関羽を好むが、こうした力の信奉者である若者達は反対に張飛を好む。最後の方では横島
は”老師”とか”大人”とか呼ばれていた。黄大人も気分良く出来あがっていた。孫娘の
相手として考えても良い、などととんでも無い事を言い出したが、横島には断じてそのテ
の趣味は無いので断ると、やはり麗蘭が本命か、などと言い出した。いきなり李麗蘭の名
が出たので驚いていると大人が事情を説明してくれた。

現在、李麗蘭は華僑達の注目の的であり、期待の女優であるという。この店に食事に来た
事もあり、皆でこれからの活躍を期待していた処に例のスキャンダル報道である。その事
を苦々しく思い、頭を痛めていた時に、やってきたのが噂の本人だったという訳だ。それ
なら最初から全員が非好意的だった理由も納得できると思い、事の真相を説明する。皆は
それを聞いて一旦納得したのだが、今度は出版社に火をつけに行こう、とか責任者を捕ま
えて5センチ四方のコマ切れ肉にして海にバラ撒こう、などと物騒な事を話し出す。何と
黄大人までが同調しているのだ。こんなヤバイ例えが頻繁に出てくるという事は、まさか
日常的にそんな事をしてるんだろうか、と疑問におもったが、そんな事をしたら今一番噂
になっている麗蘭の周辺に疑いがかかるかもしれない、と説得してなんとか思い止まらせ
ることができた。そんな疲れる思いをしているうちにやっと料理ができあがった。

総てが持ち帰り用の入っており、膨大な量な為、こんなに食えるか、とも思ったがこれも
好意の現われである。黙って持ち帰るしかなかった。皆が見送ってくれる中、両手一杯に
料理を抱えて店を後にする。これならタマモも喜んで食べてくれるだろうと思うと自然に
綻んでくる。どうせなら冷めないうちに食べてもらおうと思い、人目につかない場所で、
文殊を使用する。無駄遣いという気は全くしなかった。何せタマモの為なのだ。色々と
面倒な依頼だったが、まずまずといった結果だろうか。早く皆の前でこの土産を広げたい
と思いながら、横島は我が家へと《転移》した。





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(あとがき)
前話へのコメントで今回は続き早く読みたいとの事でしたので急いでアップしました。
すいません、これ以上早くできませんでした。ちなみに現在12/11 AM 1:53です。

話が全く進みませんでした。美衣親子の食事風景の描写を書いてたら悲しくなってきた
ので、皆に良い人になって欲しくなりました。正月分終わらす予定がいつまで・・・

移転先についてですが、色々な場所をご推薦いただきましたが、この作品を移すのは
溶解ほたりぃHG様の「投稿広場」が向いているのではないかと思い、決めました。
ただ管理人様より「しっかり改訂してから」の方が好ましいとのご指摘を受けました
ので、現在その作業にいそしんでおります。・が・改訂の方が新しい話考えるよりも
難しいとは・・・一応ご指摘を受けた点をできるだけ改善したいと思っているのですが
初期の頃の余りのひどさに、改訂というより書き換えのような感じで遅々として作業が
進みません。
なもんで、できれば最初にある程度まとめて転載したいので、もうしばらく先の話に
なりそうです。ただ改訂だけやってると鬱になるので移転を始めるまでは新しい話を
思いついたらこちらに投稿しようかなと・・・
あとこの段階でこサイトの管理人様に対して、果たすべき仁義とか礼儀がございましたら
どなたかご教示をお願いいたします。ご本人様に確認しようと思ったのですが、メールが
送れませんでした。何故でしょう?

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