ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』第15話 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/12/ 6)



――――appendix.15 『その前夜』


「・・何にしろ、大事ないようで安心したよ。店が襲われたと聞いたときは・・正直、寿命が縮んだ。」


夕暮れ。
つぼみの閉じた街路樹の葉が、うっすらと茜色に染まる時間。
チラリと魔鈴の顔を見やりながら・・・西条が苦笑とともに息をもらした。
陽の照り返しで、同じようにオレンジに染まった彼女の姿。その表情が、何故か少しすねているように見えて・・彼はもう一度笑みを浮かべる。

「全然、無事じゃありませんよ!見てください、この惨状を。・・もう修理費のことを考えるだけで眩暈がしそうなんですから・・」
「・・・・ハハッ」

しょんぼりとした魔鈴の顔も、それはそれで、なかなか面白いのだけれど・・・。

サラサラと、砂塵を流す冷たい風。
へし曲がった支柱を除き、バラバラに砕けた『元』魔法料理店は・・もはや廃墟という呼称の方がしっくりくるかもしれない。
壁から突き出し、お辞儀をしている鉄筋の様は・・どこか屍を思わせた。



「・・・半分は、僕のせいだな・・すまない。」

「え?」



急に声を落とした西条に、魔鈴はかすかに目を見開き・・・。ガレキの礫を拾い上げ、彼はうめくようにつぶやいた。

「・・・アイツから・・・ある程度のことは聞いているんだろう・・?」
「え?・・あ、あの・・私、そんなつもりで言ったんじゃあ・・」

困惑する魔鈴を一瞥して・・・西条は、そのまま彼女に背を向ける。

・・わかっているよ・・。
弱りきった口調で、そう微笑みながら・・・。

―――――――・・。


「・・闘うんですか・・?あの、間下部っていう人と・・・?」
「・・・・。」

すがるような声には何も答えず、ただ影だけが遠のいていき・・。

「・・・だめ・・ですよ・・。あんな人と闘っちゃ、だめです・・!あの人は・・普通じゃなかった・・!」

それも知っている。言われなくても、ちゃんと分かっているよ・・。

「西条先輩が・・死んじゃいます・・。そんなの・・私・・・!」

震えた声と、か細い呼びかけ。
しぼり出すように紡がれた彼女の言葉を・・・・・何故か西条は最後まで聞き取ることができなかった。



〜『キツネと羽根と混沌と 第15話』〜



「♪〜♪〜」

闇と静謐の中に沈む、廃ビルの一室。陽気な歌声を響かせながら、灰の少女が楽しげに街を見下ろしていた。
水鏡のようにユラユラ揺らめく、奇妙にねじれた淡い影。崩れた翼を抱き上げて、彼女は歌を唄い続ける。

「・・お祭りはもうすぐそこ・・。後戻りは出来ないよ?ねぇ、爆弾魔さん?」

ニコニコと微笑むユミールの声に・・闇から一本の腕が這い出した。
床を転がる着ぐるみの首。
しわがれた、ミイラを思わせる掌が・・弄ぶように砂を掴んで・・・。

「フフッ・・よく言う・・。断りもなしに、Gメンへ勝手に予告状を送りつけたのは・・君ではなかったかね?翼人のお嬢さん」

「まぁね〜そのせいで逃げるに逃げられなくなったわけだから・・これで爆弾魔さんが死んじゃったら、もしかすると私のせいかもね〜」

・・・。
沈黙の後、嘆息する。さらに笑みを深くするユミールの顔へ、魔族は諦めたように肩をすくめた。

「まぁ、いいさ・・稼業を続けるのにも少々疲れていたところだ。君にもらったせっかくの『機会』・・無駄にするには惜しいからな」

人狼特有の、血生臭い体臭を漂わせ、爆弾魔は小さく喉を震わせた。
つまらなそうなユミールの視線に、彼はギョロリと目を剥き出し・・・・・。

「・・拍子抜けだなぁ・・もっと嫌がると思ったのに。言っておくけど、変化したらもう2度と元には戻れないよ?そこのところ、分かってる?」

「是非もない・・。どうやら君は・・何故、俺が老体に鞭打って、爆弾魔などを続けているのか・・。少しも理解していないと見える」

・・始めから理解させるつもりなどないのだろう。はぐらかすような問いの答えに、少女は興味なさげなあくびをした。
関係は・・・一方的にとはいえ、あくまでギブアンドテイク。立ち入った事情にまで踏み入るつもりはない。


「それよりも、そちらの首尾はどうなっている?明日はある程度、手勢が必要なのだろう?」

しゃがれ声が言葉を発する。
一瞬、キョトンとした表情を浮かべると・・ユミールはわずかに破顔して・・。

「ふふっ」

懐から取り出した白いナイフを、浅く、自らの手首へと押し当てた。
動脈が千切れ、血流が噴出す・・飛沫となった紅い雨が、ボタボタと地面に染み渡り・・・。

「・・幼女のリストカットを見て・・悦ぶような特殊性癖は、生憎、持ち合わせていないのだがね・・」

「趣味の悪い冗談だね、それ。・・見てれば分かるよ」

気だるげに髪をかき上げながら、ユミールは空へと浮かび上がる。
黒ずんだ血液の水溜まり・・・その奥からグチャグチャと音を立て、灰色の脚が蠢き始める。

「・・・!?」

「私たち混沌の体液を浴びるとねぇ・・霊的に弱い子たちはみんな、こんな風に体の構成が変わっちゃうの。
 ほらほら、どう?可愛いでしょ〜?」

次々に這い出てくる・・身の丈、数メートルにも達する異形の塊り。外骨格に覆われたその全容を目にし・・ようやく気づく。
・・・蟲だ。
グロテスクなまでに変わり果て、その質量を大きく増してはいるものの・・それら全てが、地を這うただの虫けらに他ならない。

「はい、完成〜♪ユミールの3分間クッキングでした〜」

ケラケラと嗤うユミールを尻目に、老魔族の背筋を、冷たい悪寒が通り過ぎていく。

たちの悪い手品でも見せられた気分だ・・。
何より、土くれに埋もれた微生物から創り出したという、この化け物共の力ときたら・・。

「・・どう?たったこれだけで・・私たちは君たちが言うところの、中位魔族と同等の手駒を数千匹生み出すことができる。
 私は全体から見れば下の上ってところだから・・・『上』の人は同じ素材でももっと凄い友達を作れるよ?」

可愛がるように頬ずりしながら、ユミールは怪物たちの背中に寝転がる。
絶句していた爆弾魔が・・やがて鋭く目を細めて・・。

・・なるほど。神魔を裏切り、混沌を信奉する同胞たちがいるというのも、確かに頷ける。
こうも立て続けに規格外のものを見せられては・・。

(そもそもからして・・このユミールという娘も・・)

自分では『下の上』などと、うそぶいてはいるが・・。その実質はとんでもな化け物だ・・。
特に、Howlingともう一つ・・・切り札として隠し持つあの能力は・・・。

危うげに唇を歪めると、爆弾魔はボソリと口を開いた。


「・・分からないな・・」

「ん?なにが?」


上機嫌そうに振り向く少女の瞳は・・ぬかるみのように濁ったまま・・。

「君たちは・・どうしてそれだけの力を持ちながら、直接、我々に手を出そうとしない?俺にはそれが不可解でならんよ」
喜色に富んだ問いかけに、ユミールは小さく歌を口ずさむ。

「・・さぁ?どうしてでしょー?」

すでに太陽は・・黒い町並みの中へと消えゆこうとしていた。






「嵐の前に静けさ・・ってかんじだな」

緩んだ瞳で窓を見つめて、横島がぼやくように吐息をもらす。

逢魔ヶ刻・・。
夕刻と前後する形で現れるその空は・・・彼の嫌う・・しかし、夕焼けを見る上で決して避けては通れない時間。
『逢魔』というのも道理かもしれない。紫がかった黄昏の景色は・・・イヤでも見る者に死のイメージを連想させる。

「・・って、縁起でもないか。それで?お前らはそこで何をやってるわけ?」

険しげな顔から一転。
呆れたように頬杖をつき、横島が窓に寄りかかる。
病院のベッドに腰をかけ、じゃれ合っているタマモとスズノを・・・彼はげんなりと一瞥して・・。

「・・すきんしっぷ」 「右に同じ」

「・・・・あぁ、そう。なんか幸せそうでいいなぁ・・お前らって」

コアラの親子。
ひざの上でスズノを抱きかかえるタマモの姿は、今まさにそんな感じだった。
やさぐれた笑みを浮かべると、横島はそのまま半眼になって・・

(・・・・・。)

まあ・・・明日、忙しくなるのは間違いないのだから、ヒマな時に息抜きするのも大切だとは思うのだが・・・

「お前らってなんつーか・・本気でシスコン入ってるよな・・」
あくびをしながら、そう言ってみる。


「・・?横島・・しすこん、とは何だ?」

コクンと首をかしげるスズノに横島は・・・

「いや、まぁ冗談なんだけど・・。行き過ぎると姉弟、もしくは姉妹が肉体関係を持っちゃうよーな関係だよ」

「・・・にくたいかんけい?」

「お!なんだ、スズノ?興味あんの?もし気になるんだったらあれだぞ?
 大人バージョンになってくれたら、すぐにでも体に教え込んで・・・・・・ぎゃんっ!?」

直後、タマモの回し蹴りが横島の水月に炸裂する。
グシャッ!・・・というヤバ気な音を伴って、彼の頭部が思いっきり天井に突き刺さり・・・。

「・・・今、何か言った?」

「・・な、なにも言ってませんです、はい」

もうグダグダだった。

―――――――・・。

「・・いつつつ・・・容赦ねぇなぁ・・」

苦笑してイスに座りなおすと、横島は不満げに唇を尖らせる。
そのまましばらく、スズノと戯れるタマモの姿を、なんとはなしに眺め続けていたのだが・・・。

「あ・・そうだ、コレお前にやるよ」

やがて、何か思い出したかのように手を叩き、ポケットをごそごそと漁り始めて・・

「?」
不思議そうな顔するタマモに、横島が差し出したもの。・・それは・・・

「・・?なに?」
「見りゃ分かんだろーが。お守りだよ、お守り・・昨日のクッキーのお礼ってことで」

事も無げにそう言う横島は、その守り袋を無理やり、少女の掌に押し付けてくる。
・・戸惑ったのはタマモの方だった。

「・・べ、別に貰って困るようなものでもないけど・・。どういう風の吹き回し?」

「吹き回しも何も・・・なんとなくだよ。とりあえず肌身離さず持っとけって。ご利益、あると思うぜ?」

いたずらっぽい口調で続けながら、彼は楽しそうにヘラヘラ笑みを浮かべて・・。

「・・・。」

目線でスズノに尋ねても、彼女はただただ首を振るばかり。
嬉しさ半分、怪しさ半分・・・ため息をついた後、タマモはもう一度そのお守りを見つめ、静かに眉根を寄せるのだった。






「それじゃあね〜お姉ちゃ〜ん!」  「バイバ〜イ!」

「・・はい、気をつけて帰ってくださいね」

同時刻、紫がかった街の一角。
人気の消えた保育園の正門で、神薙が子供たちに小さく手を振っていた。
最後の園児を見送り、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間・・彼女に肩へ、不意に誰かが手を置いてくる。

「・・・?園長先生・・?」

「ご苦労さま、美冬ちゃん。一日中あの子たちの相手をするのは大変だったでしょう?」

言いながら、白髪の老婦人は神薙に向かって笑いかけた。
穏やかなたたずまいと、老齢を迎えてもなお、魅力的に思える柔らかな微笑。神薙は彼女の笑顔が好きだった。

「それにしても、今日はどうしたの?急にうちの仕事を手伝いたいだなんて・・。こちらとしては大助かりだったけど」

「・・いえ、たまたま暇ができてしまって・・。特別、することもない身の上ですから」

「それで幼稚園に?美冬ちゃんは本当に子供が好きなのねぇ・・」

あらあら、といった感じで目を丸くする婦人に対して、神薙は静かに目を細めて・・

・・たしかに、ここまでまとまった余暇を取ったのは、ずい分と久しぶりのことだった。
普段は魔族を率い、組織の運営に頭を抱える毎日。それを抜きにしても、彼女は日々、学校の予習・復習に余念がない。
依頼の途中・・犯行予告日の前日というこの中途半端な一日が、意外にも彼女のスケジュールに、ぽっかり一日分の隙間を作ったのだ。

(・・本当は、スズノの見舞いにも行きたかったのですが・・)

タマモに『一緒に来ないか?』と誘われた時は、正直、心が揺れたが・・しかし前々から決めていたことだ。
最近、不死王との件でゴタついていたこともあり、園に顔を出すことができなかった。
だから・・きっとこちらの選択で正解だったのだろう。


「・・そういえば・・今日はあの子は来なかったわねぇ・・ほら、いつも美冬ちゃんと学校帰りに寄ってくれる・・・」

「・・・・横島くんは、その・・別の用事があって・・」

思いの外、沈んでいる沈んでいる自分の口調にハッとする。言葉を詰まらす神薙を見つめ、老婦人はかすかに頬をゆるめて・・

「彼が来てくれると・・皆、喜ぶのよ・・特に男の子が。きっと才能があるのね・・」

「才能・・?保父さんの、ですか?」

「えぇ・・きっと天職だと思うわ・・」

満面の笑みでそう話す園長に、紅髪の少女は目を白黒させて固まってしまう。
一瞬、子供たちに囲まれた横島の姿を思い浮かべる。
エプロンを着け、園児たちとままごとをして・・・・・似合っているような似合っていないような。

・・気づけばいつの間にか、神薙の口からは、クスクスと笑いが漏れている。


「・・もう・・こんな時間なのですね・・。園長先生、私もそろそろ・・・」

太陽が完全に消え落ちて・・・空が黒色に彩られるころ。園内の時計塔を見上げ、神薙がゆっくりと立ち上がった。

「そう・・貴方も気をつけて帰るのよ・・?」

頷く婦人にお辞儀をした後、少女はクルリと正門の方へと向き直る・・。
長髪を揺らし、やがて見えなくなっていく神薙の後姿が・・・何故か彼女にはひどく頼りなげなものに見えて・・・。


「・・美冬ちゃん」

「・・・?はい・・」

突然、呼び止められたことを怪訝に思ったのか・・神薙は小さく首を傾ける。

「近いうちにまた・・今度は横島くんも連れて、遊びにおいでなさいな・・」

「・・・・。」
言いながら、優しく微笑む婦人の瞳。それを見つめ、やはり神薙も微笑んで・・・・


「・・はい、必ず」


わずかに頬を染めながら、彼女は静かにそう答えたのだった。



 ◇


〜pause.2 『長い夜の夢』 〜



「君は・・・一体、どんな夢を見ているのかな?」


夜風のそよぐ音が・・聞こえる。
闇の奥に潜む、深い漆黒。それはさながら、入り組んだ迷宮の入り口にも似て・・・。
語りかけ、流れるように続くその言葉は・・・しかし、空しく視線の先へと消え絶えていく。

・・そこは深夜の病室。人の気配はない。

あどけない顔で、すやすやと眠る銀髪の少女を、『彼』は穏やかな瞳で見つめていた。
蒼い髪・・蒼い影・・。混沌の色・・・。

開いた窓から灯りが差し込む。
指先に感じ取れる頬の熱が・・・・『彼』にはひどく温かかった。

「僕がここに居ると知ったら・・どんな顔をする?」

問いかけだけが無駄に募る。薄く細まる、その緑色の瞳からは・・・突き刺すような光が一筋。


――――――・・君は、僕のエモノ・・


・・言葉は要らない。
『彼』は少女の白い首筋に顔を寄せ・・・・・・・













・・キスをした。





                                 ◇



そして・・夜が明ける・・―――――――


「♪〜♪〜」

黄金色に染まる、ビルの群れ。
眩しい朝陽の瞬きしながら、ユミールは空を浮遊していた。
緩慢なリズムに身を任せ、メロディーに添い、灰色のドレスがヒラヒラと揺れる。

予告日から3日後。AM 6:42・・・。パーティー開始の頃合だ。

「これより本日のメインイベント・・世にも奇妙な宴の開園でございます・・。どうぞ皆さん、お気軽に・・
 今まで見たこともないような、刺激な仕掛けが目白押しですよ?・・・ふふっ」

誰にともなくつぶやく少女。
眼下に見下ろす、一切のものを冒涜するかのように、彼女は唇を吊り上げる。
振り上げられた腕の先には・・・混沌の光を放つ、巨大な明滅・・・。


「さぁ・・・!カーニバルの始まりだよっ!!!」


静寂を保つ都市の大気を、一筋の閃光が突き抜けた――――――。



「あとがき」

更新が遅れて申し訳ありません〜色々と(主に金銭面での(汗))諸事情がありまして・・。
『羽根』の15話でした。皆さん、ここまで読んでくださってありがとうございます〜

今回は・・何故か、アドバイザーたち曰く、「いつもと違ってアダルティックな雰囲気」だということなのですが(笑
アダルティック・・でしょうか・・?(爆)
『羽根編』終わったら、色々と番外編を書きたいですね〜
横島とタマモの〜〜〜〜〜とか(笑)それと、横島がドゥルジさまと一緒に保育園に行く話も書きたいですし・・・。

今回はスペースが余ったので、登場人物(オリキャラ)のプロフィールでも・・(笑

スズノ(子供バージョン)                         
年齢 :11才(外見) 身長 :136cm 体重: ??  スリーサイズ 測定不能(笑)

神薙美冬
年齢 :17歳(外見) 身長 :163cm 体重 :45kg スリーサイズ  B:84 W:54 H:86
・・こりゃ横島が驚くの頷けるわ・・(爆

それでは次回は多分12月10日の更新になると思います。それでは。

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