ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 20〜Let's have a party〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/ 6)

{美神除霊事務所}

氷室キヌは夕食の後片付けをしながら明日のパーティーの事を考えていた。
(明日は久しぶりに、横島さんに会えるんだ。)
パーティーというよりその出席者の事だった。おキヌはこの三ヶ月近く、以前の同僚であ
る横島とまったく会っていなかった。

ことの起こりは新たに美神事務所の居候となった、犬塚シロだった。最初に来た時は横島
がクビになったと聞いて大騒ぎして、美神に一喝されていた。ならば直接自宅を襲撃しよ
うと出かけていったのだが、

「おキヌ殿〜、先生がどこにもいないでござる〜。生活の匂いも薄まってて追えないでご
ざるよ〜。」

どうやら、引っ越したらしいのだ。慌てて連絡を取ろうとしたところに令子の母、美智恵
がやってきた。美智恵の話によれば、横島はGSに復帰し、新たな就職先である六道除霊
事務所から提供された社宅であるマンションに移った事を知らされた。すぐにシロと二人
出かけようとしたのだが、向こう二ヶ月程、映画の仕事と掛け持ちになっており超多忙な
日々を送っている為、相手の事を考えるなら遠慮した方が良いと諭された。

美智恵に諭された二ヶ月が過ぎる頃になると、六道除霊事務所が行っている”弱者救済”
の噂が聞こえてきた。美神事務所では絶対に相手にしないような、社会的経済的な弱者を
率先して救おうとしていると言うのだ。この事は今までにない画期的な試みとしておキヌ
の通う六道女学院でも噂になっていた。当の本人である冥子と廊下で偶然でくわした際に
問い質してみると、噂以上で時には報酬が払えない相手や、記録にすら残せない様な相手
まで仕事を引き受けているらしい。その為以前より更にハードになったらしい。それでも
皆が喜んでくれるから、と屈託なく笑う冥子の顔がいつまでも印象に残っていた。

そんな話を聞くと、自分の都合で多忙な相手に会いに行くというのが、なんとも身勝手に
思えてしまい二の足を踏んでいた。シロはまったく頓着せずに飛び出していったが土地勘
のない彼女が住所を聞いただけで探し当てられるはずもなくスゴスゴと帰ってきた。それ
以来、一緒に行こうとおキヌを誘っては逆に窘められるという日々を過ごしていた。

そんなある日、一通の招待状が届けられた。
それは横島が以前、制作に協力した映画の試写会の為のものでパーティーも兼ねていると
いう。これなら堂々と横島に会えると思い、おキヌとシロが二人して色めきたっていると
「私は行かないわよ。」

あっさりと美神が言い放った。

「み・美神さん?」

「なっんっでっ!この私がエミのやつが出演してる映画の試写会なんかに行かなきゃなん
ないのよ!あの女が自慢そうな顔して、試写会場で話し掛けてくるのを想像しただけでも
ムカツクわ!絶っ対に行かないっ!!」

「・・・美神さぁ〜ん・・・」「くぅ〜ん、美神どの〜・・・」

「な・何よ何よ、別に二人に行くな、なんて言ってないでしょ?横島君に会いたいんなら
行ってくれば良いじゃない。ただし、帰りはちゃんとタクシーを使う事それとパーティー
の席上では間違えてお酒を飲んだりしない事、それだけは気をつけるのよ?」

ここ最近で、美神の態度も以前と比べて少しづつ変わってきていた。横島が廃業届を出し
た事を知った時などは荒れ狂っていたが、しばらくして落ち着いた。前後の事情はともか
くとして、横島が出ていったのは紛れも無い事実。そして離れて行った相手に追い縋る事
ができるような性格ではなかった。人一倍淋しがり屋なのだが、それを周りに知られるの
はプライドが許さない。離れていった相手を惜しむような真似は、なんだかその相手に負
けたような気がしてやっぱりできない。

なんとも難儀な女性なのだが、去った相手の事を考えまいとする分、残った者や新しく増
えた仲間の事を自分の”身内”として見る視線が随分と柔らかくなった。最もおキヌの事
は御両親から、シロの事は長老から預かっているという保護者意識も強烈にあり、時折何
とも似合わない、教育ママ的発言がでることもあった。

「ところでアンタたち、パーティーに着ていく服はどうするの?」

おキヌは普通の高校生でヨソ行きの服など、以前横島から贈られた物しか持っていない。
シロに至っては、パーティーとはどんなものかすら解っていない。ただ横島と会えるかも
しれないという認識しかなく、普段着で行くつもりだった。二人がそう答えると、

「冗談じゃないわ!ウチの身内が出席するのに、周りの人間に見劣りするなんて許されな
いのよ。二人共、買い物に行くわよ、ついてきなさい!」

要するに初めてパーティーに出る二人の為に、服を見立ててあげたかっただけなのだが、
彼女はどこまで行っても美神令子だった。
シロもおキヌも、ブティック内で着せ替え人形のようになっていたが、ようやく決まった
服の値段を見ておキヌは青くなってしまった。(何せ安い中古車が楽に買えそうなのだ)
あわてて辞退しようとしたが、
「私に恥をかかせる気?」
とスゴまれてしまい、あっけなく押し切られた。

そしてパーティー当日、美神はわざわざ西条に頼んで、彼の愛車ジャガーで二人を会場迄
送ってもらう事にしていた。二人はタクシーで良いと遠慮しようとしたのだが、最初に一
発カマすのが大切だと言われたので(何をどうカマすのかはわからなかったが)送っても
らう事にした。

「いい?エミに会ったらくれぐれも、私の事は素敵な男性とデート中って言うのよ!間違
ってもひのめの子守だなんて言っちゃダメよ!」

そんな言葉とともに美神は二人を送り出した。


{試写会場}

横島はまだタマモに会えないでいた。エミの提案で華やかなパーティー会場での初見にし
た方がインパクトがあるだろうというのだ。試写会場ではくぐれも自分達を探すなと念押
しされている。その代わりといってはなんだが、他のGSメンバーとは合流していた。
今回は撮影メンバーの他に唐巣神父も来ていた。

「やあ横島君、君達が今やっている弱者救済の事は聞いているよ。素晴らしい事じゃない
か、是非私達にも協力させてくれたまえ。」

「いや・・・神父、俺がやっているのはそんな立派な事じゃないですよ。」

横島が自虐的にそうつぶやいた。

「君が何を言いたいかは判っているつもりだよ、六道家の思惑もね。だがそれとは関係無
しに、現実に君に救われた人々は確かに存在するのじゃないのかね。君はもう少し目の前
事実を重視しても良いのじゃないかな?」

そう唐巣に言われて横島は目からウロコが落ちたような気がした。

「そう・・・ですね。確かに救われた人はいるんですもんね。」

「その通りだよ。余り深刻にならない方が良い。今日は久しぶりの映画なんだ、楽しませ
てもらうよ。実は私は若い頃は結構映画にハマッていたんでね。」

そう言って笑いながら会場の中にはいっていったので、横島も後に続いた。
最初に主なスタッフとキャストの舞台挨拶があって、お決まりの花束贈呈。それから照明
が徐々に落とされていき、上映が始まる。

横島は最初から撮影に関わっていたので全部のシーンを知っていたが、一本の作品として
通して見るとまた違った印象を受けて新鮮だった。周囲の人々の息を飲む音、小さな悲鳴
「おおっ!」という感嘆の声。前半部分でのみ失笑がもれるシーンがあったが、それらは
総て一人の役者の下手すぎる演技のシーンだった。ラストシーンが流れて、周囲から感嘆
のため息がもれている。どうやら反応は上々のようだ。スタッフロールが流れ始めると、
キャストの部分や特殊効果協力の部分で自分の名前を見つけては、隣の連中が声をあげる
のが聞こえてきた。そして”監修:横島忠夫 ランクS ゴーストスイーパー”の表示を
見て周囲から感心したような声がしていたが、横島は苦い顔をしていた。確かにランクS
の肩書きを押し出されるだろうとは思っていたが、だからといって愉快な気持ちになれる
訳でもない。そしえ最後に”Special thanks to 横島忠夫 脚本・演出等多岐に渡る彼の
多才な協力がなければこの映画の完成は難しい処でした。心から深い感謝の意をここに表
します。”という文字が流れて周囲がザワつき始めた時、横島は椅子に沈み込んでいた。

「な・何を考えてやがんだ?あの連中は。」

横島にはこの不意打ちのような仕打ちが不可解だった。
やがて場内の照明がつきだすと、仲間達とともにパーティー会場へと移動した。

仲間達とテーブルをひとつ占拠してからも横島は落ち着かない。 たえず会場内をキョロ
キョロと視線をさまよわせていると、雪之丞が呆れた口調で話し掛けてきた。

「良い加減落ち着けよ、エミの姐御がついてんなら心配いらねえだろ?」

別に横島は心配な訳ではなく、待ち遠しいだけなのだが。その時唐巣神父が興奮したよう
な口調で話し掛けてきた。

「いやあ、横島君なかなか面白い映画だったね。君が監修しただけあって、矛盾点も殆ど
なかったね。まあ、最後の分身技は正直どうかと思うが、映画なんだから、それくらいは
ご愛嬌だね。それより前半だけ出ていた女優がちょっと酷すぎたね、彼女ではなく後半に
出ていた女優が全篇に出ていればもっと映画がしまったとおもうよ。」

唐巣神父が何気に本音全開のコメントをかましてくれている。周囲から失笑が聞こえてく
るのは、おそらく今のコメントが聞こえて同意の証なのだろう。

「ありゃ確かに酷かったな。アイツのせいで映画の評価自体が下がんなきゃ良いがな。」

雪之丞も同調しているが、この男は観客ではなくキャスト兼スタッフなのだが。
そんな会話をしていると、後ろから肩を叩かれた、振り返って見ると、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ちょっと、何黙りこくってるワケ?早くタマモに感想を言ってあげるワケ。」
「あの・・・ヨコシマ・・・どうかな?」

そこにいたのは白を基調にしたシンプルなデザインのワンピース、足元も白のローヒール
で全体をシックにまとめたタマモと、
燃えるような真紅の、タイトなロングドレス、足元は赤を基調にした玉虫色のピンヒール
で全体を燃え立つような華やかさでまとめたエミだった。その二人が並ぶと”炎と淡雪”
という感じの好一対になっていた。

「い・いやあの・もっとこう・ピンクでフワフワの・リボンでフリフリのイメージって」
横島がしどろもどろになっていると、

「やっぱりオタクはセンスがないワケ、私に任せて正解だったってワケ。タマモにはそん
なフェミニンな方向よりシックにまとめるクールビューティーの方が似合うワケ。」

「ヨコシマ・あの・変かな?」

「と・とんでもない。めちゃくちゃ似合うぞ!って言うか似合い過ぎ。綺麗過ぎて可愛い
過ぎるぞ!この会場にどんだけ女優がいてもお前が世界一だ!」

普通ここまで言われると引くものだが、この男の場合、正真正銘本気でである。元々女性
を誉める事に対して、躊躇いも照れも感じない男なのだ。タマモにしてもここまで本気の
誉め言葉を聞いて嬉しくないはずが無い。ほんのりと頬のあたりが紅潮している。

「あら?その”女優”の中には私もはいっているのかしら?」

そう声を掛けてきたのは誰あろう、世界的ハリウッド女優、李麗蘭その人であった。

「ひさしぶりね?忠夫、雪之丞。」

「「俺達の事憶えてるのか?」」

横島と雪之丞が驚いて声をあげる。何せ以前一度会っただけなのだ。

「当たり前でしょう、貴方達みたいに個性が溢れ返ってる男達を忘れるものですか!」

「「い・いや、久しぶりだな。」」

「ところで?私がかなわない女性はどこにいるのかしら?」

麗蘭が茶目っ気たっぷりにきいてくる。対して横島はあくまで真面目に、

「ああ、コイツだよ、横島タマモ。世界一可愛いだろ?」

麗蘭にしてみれば冗談で言った事をここまで真面目に返されると固まってしまう。それを
見て、すかさず雪之丞が動く。相手の肩に手を置きながら、

「気にすんなよ、麗蘭。アイツは妹の事が絡むと常識が地平線の彼方までブッ飛んじまう
んだ。心配しなくてもアンタより良い女なんざ、世界中捜してもいねえよ。」

普段身近な女性に対しても、こんな台詞は絶対に吐かない男なのだが、ファン心理とは恐
ろしい。正に不可能を可能にする。そして麗蘭もこの無骨な男のフォローに気をよくする
こうなると、横島一人が面白く無い。別に麗蘭の容貌をどうこう言うつもりは毛頭無い。
ただ雪之丞の発言でタマモが蔑ろにされたような気がしたのだ。こうなると雪之丞の事を
敵として認識してしまう。その後の行動は早かった。まず携帯を取り出して二人が仲良く
寄り添っているツーショット写真を撮る。もちろん笑顔もカメラ目線で万全だ。

「おう悪いな横島、あとでプリントアウト頼むわ。」

「任せろよ雪之丞、たっぷりとプリントしてからちゃんと渡すよ、ちゃ〜んとな。」

そう言って素敵な笑顔を浮かべると、雪之丞は何かにきづいた表情になり額に汗を浮かべる。
「な・なあ、横島、俺達の間にはまだ話し合う余地が残されていると思うんだが。」
「どうかな〜話し合うにしても俺の常識は地平線の彼方にブッ飛んでるらしいからな〜」

そんな風に二人が友好的な会話を交わしていると、銀一が麗蘭の背後から近づいてきた。

「おお、伊達サン来てくれたんか。横っちそういや・・ってどわっ!り・李麗蘭?」

「あら?確かメインの・・・近畿剛一・・だったかしら?忠夫達に何か用?」

(お・おい横っち、なんでアノ李麗蘭とそないに仲良さげやねん?)
(前に映画に協力した言うたやろ?)
(そんだけの訳ないやろ!なんやねん?あのフレンドリーさは?)
(俺に聞いかて知らんがな!)

「あら、私の目の前で内緒話?悲しいわね。」

「い・いや横っち、スタッフの皆が会いたがってんねん。こっち来いや。」

「あ〜、それやけど、スタッフロールの最後、あれなんやねん?ふざけすぎやないか?」

「お、お前っちゅうやつは・・・」
銀一は心の底から呆れかえった顔をして、横島の首に腕をまわし、小声で話し掛けた。

(なあ横っち、お前他人から鈍いって言われたことないか?)
(何やねん、いきなり。まあ、あるような、ないような・・・)
(そうか、ホナ俺が言うたるわ。お前は鈍い!超鈍感や!)
(超って・・・)
(黙って聞け!まず映画の事やけど、あれはお前がおらんかったら、完成しとらんかった
終盤はお前抜きじゃ撮影も進まへんかったやないか?)

二人は内緒話のつもりだったが、真後ろに忍び寄った雪之丞と麗蘭にはまる聞こえだった

(それだけやない。お前がオーディションで選んだコおったやろ、あのコはランクSの霊
感が見出したシンデラガールっちゅうウリでブレイク必至や!ほんで恩人のお前の仕事ぶ
りを直に見て、周りのスタッフからお前の評判を聞いたらお前の事どう思う?)
(どうって、便利なやつやな〜〜とか?)
(アホかお前は?惚れるに決まっとるやろう!お前の事なんぼ聞かれた思てんねん?)
(う・嘘やそんなん。銀ちゃんやあるまいし・・・)
(お前のその根拠の無い自信の無さはなんやねん?夏子ん時もそうやないか?お前知らん
間にどんだけの女泣かしとんねん!?)

ここまでの話を聞いて麗蘭が顔を上げると、確かに横島の事を凝視している女は多い。

(鈍感もここまで来ると罪やぞ!お前に気のある女がお前の態度みたらどう思う?相手に
されてへん思うんちゃうんか?それがどんだけ残酷かわかるか!?)

横島はかなりのショックを受けていた。商談や戦闘の駆け引きで遅れを取った事などない
が、自分への評価に関しては、根強い自己不信から抜け出せていない。そんな横島の様子
を見て銀一が側を離れるが、全く場の空気を読めない人物が、内緒話は終わったとばかり
に飛び込んで来た。

「せんせぇ〜っ!」  ドガァッ!  「ぐえっ!」

「先生、寂しかったでござる〜、会いたかったでござる〜。」

そう言ってしがみついて来る後ろからおキヌが、

「あの、お久しぶりです横島さん。あ・映画面白かったです。」

そう言いながら近づいて来た。

「ああ、お久しぶりおキヌちゃん。それは銀ちゃんに言ってやってよ。」

そう横島が答えると、銀一が再び近寄って来た。

「おキヌちゃん、お久しぶり。今日は一段と綺麗だね。そっちのコは初めましてかな?」

瞬時に営業用の標準語トークになってるあたり、彼も苦労人である。

「ああ、紹介するよ銀ちゃん。こいつは犬塚シロ、んでこっちは主演の近畿剛一君だ。」

「おお、横山GSでござるな。拙者横島先生の一番弟子、犬塚シロでござる。」

「一番弟子?・・・ああ、よろしくシロちゃん。」

ここでようやく横島は二人の格好に気付いた。

「あれ?二人共随分オシャレだね。一段と綺麗になってないか?」

こういう事を言うなと銀一に忠告されたばかりなのだが・・・

「えへへ、美神殿が買ってくれたのでござる。」

「ええ、事務所の恥になるから、これくらいの格好はしていけって。」

「相変わらず、あの人も素直じゃないな〜。」

「先生、拙者似合ってるでござるか?可愛いでござるか?」

「あら?ヨコシマ、私の事世界一可愛いって言ってくれたわよね?」

それまでエミにくっついていたタマモだったが、シロが近づいて来るのを見ると見せ付け
るように、横島の腕に自分のソレをからませていった。

「むぅっ出たな女狐、拙者の先生を誑かすとは許せんでござる。」

「ヨコシマにとって、私は世界一の女なのよ、バカ犬の出る幕じゃないわ。そうよね?」

「ああ、いや、うん、お前は世界一だぞ?タマモ。」

「狼でござる!せんせぇ〜、可愛い一番弟子より女狐が上でござるか〜?」

横島は正に進退きわまった。片や最愛の妹兼娘、片や可愛い一番弟子。救いを求めて周囲
を見渡しても、雪之丞達は麗蘭も含めて面白そうに眺めてるだけ、助け舟を出す素振りも
見えない。おキヌはどちらの味方もできずに途方にくれている。タマモもシロも互いに、
一歩も引く気配すらない。困り果てている時に思わぬ方向から救いの手が伸びてきた。

「君が横島君か。今回は随分と跳ね回ったそうじゃないか?」

場の雰囲気を読もうともしない、傍若無人な歳の離れた男女が側に来ていた。壮年の男性
の方が話し掛けてきたのだが、横島にはまるで見覚えがない。ただ隣にいるのが、このシ
リアスな映画で唯一笑いを取ってくれた、ダイコンだった。するとこの男が件の大御所だ
と簡単に推測できる。面倒な事になったかなと思っていると、

「いい気にならない事ね!あんな映画誰がやったって大した違いはないんだから。」
「娘の言う通りだな。この世界で長生きしたければ身を慎む事だ。」

周囲にも聞こえるような大きな声だった。見せしめのつもりなのかも知れない。
銀一が心配そうに横島を見ているし、雪之丞はすでに殺る気マンマンだった。
横島にとっては完全に的外れな脅迫だったが、娘の発言は聞き捨てならなかった。さっき
まで曝されていたプレッシャーから解放してくれた、礼も含めて横島は思いっきり八つ当
たりする事にきめた。元々こういう人種は虫酸が走る程嫌いなのだ。

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