ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 19〜はじめてのクリスマス〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/ 5)

横島忠夫は学校の机に向かってうなっていた。

「う〜ん・・・」

「ちょっと!どうしたの?横島君、朝から貴方変よ?」
「そうですよ、何か悩みでもあるなら話して下さいよ。」
「そうですジャ〜横島さんワッシらは友達なんジャから話してツカァサイ。」

クラスメートの愛子、ピート、タイガーが口々にそう言ってくる。
「いや実はな・・・・・」
そう言って六道事務所の当面の方針”困っている人達に救いの手を”を説明する。

「素敵だわ!途方にくれている人達に優しく手を差し伸べる、これこそ青春ね!」
「素晴らしい事じゃないですか!僕も協力しますよ!」
「見上げたもんジャノ〜さすが横島さんじゃがそれで何で悩んどるんですかノ〜。」

「それがな〜企業相手の分は大企業を避けて回れば顧客は見つかると思うんだよ。けどな
個々人で困ってる人達をどうやって探すかが問題なんだよ。周りに知られたくなくて秘密
にしてる場合もあるかもしれないだろ?」

「「「う〜ん・・・」」」
三人はそろって唸ってしまった。横島がそこまで深く考えているとは思っていなかったの
だが、そもそも外回りして顧客開拓をするなど発想のうちになかったのだ。唐巣神父の教
会には困った人が自発的に駆け込んでくるし、小笠原オフィスには固定客がついている。
ピートとタイガーは自分から客を探すなど考えた事もなかった。

「ねえ、横島君インターネットを活用したらどうかしら?」

「「「インターネット?」」」  男三人の声が揃う。

「そう、ネットの世界は不特定多数の人が出入りしてるわ。そのテのサイトに噂話という
形で書き込むのよ!露骨に宣伝すると削除される所もあるでしょうけど人助けになる噂と
いう風にすれば大丈夫なはずよ。」

「う〜ん、良いアイデアだと思うけど俺やり方わかんねーぞ?」
横島だけでなく男連中はパソコンなど扱った事もない。(主に金銭的な理由で)

「任せて!こないだ興味あるって言ったら先生達が色々と教えてくれたのよ。」

「あんのクソ教師ども、愛子ばっかりひいきしやがって。」
そうは言っても愛子の協力はこの際ありがたかった。

「わかった、頼むよ愛子。この礼は必ずするから。」

「期待してるわ。それじゃ早速今日からやるから2〜3日あれば反響があると思うわよ。」

愛子の協力のおかげで個人で霊障に悩む人達に関する見通しはたった。後は自分の足で、
仕事を獲ってくるだけである。
そして放課後、とある企業にて、

「そういう訳で現在我が事務所では、社会への還元の為に霊障に悩む方々を救済するべく
破格のお値段で除霊を請け負っております。」

横島は現在、奥まった場所にある応接室で口上を述べていた。受け付けで名刺を渡すと、
六道家の家紋入りの効果は絶大で、更にそこに記載されている”ランクS”の文字。横島
は丁重な扱いで奥に通された。

「お申し出は良くわかりましたし実際助かる話でもあります。ですが以前査定を受けた際
に当物件は難易度Aとなっております。本当にこんな値段で受けて頂けるんですか?」

こういう質問こそ横島にとって望むところだった。

「もちろんですよ!例え難易度Aといえども我が事務所の六道所長の手に掛かれば大した
手間もかかりません。それに今回は飽くまで困っている方々の救済が目的なんです。値段
の事でのお気遣いは必要ありませんよ。我々は今回金はあるのにケチりたいという大企業
は相手にしておりません。もしお知り合いの方で同様にお困りの方がいたら是非我が六道
除霊事務所を紹介して差し上げて下さい。」

これで決まりだった。弱い立場である中小企業同士のネットワークは侮れない。ある意味
情報こそが彼らを救う事もあるのだ。今後同様の悩みを持つ企業の間で六道除霊事務所の
名前は燎原の火のごとく拡がっていくだろう。

2〜3日の間は企業からの依頼(これが結構な数だった)を二人でこなしていったが、その
頃から個人の依頼がポツポツときだしていた。それから一週間もたたないうちに爆発的に
増加した。これは愛子の仕掛けの成果かと目星をつけて確認したところ、今やネット上で
は六道除霊事務所が話題に上らない日は無く、その評判はうなぎ昇りになっているとの事
であった。

中にはひやかしの電話も少なからずあったのだが、本当に困っている人の数は更に多く、
二人は大車輪の勢いで除霊をしまくり、横島に至っては学校に行けない日もでてくる始末であった。横島は以前の事務所をクビになって以来、学校へは極力行くようにしていたが
困っている人々の助けを求める声を聞いて放っておけるような男ではなかった。第一所長
である冥子が泣き言ひとつ言わずに働き続けているのだ。元々金に困った事が無いために
金銭への執着が人一倍薄かった冥子である。金額に関り無く霊障を解決して行く冥子に対
して向けられる、心からの感謝の言葉と笑顔が彼女に対する何よりの報酬だった。

そして霊障に悩まされている人々の中で、横島も予想していなかったのが日本人以外の人
達の存在である。彼らは不法入国者だったり不法滞在者だったりで公の場に出れない立場
の人もいた。またそれ以外の人でも日本の官憲に対して、根強い不信感を持っている者も
多くオカルトGメンなどの存在も忌避している場合も多かった。そんな人達に対する偏見
など横島にとっては縁遠い物だった。だいたい神魔人妖の区別すら無い男にとって国籍の
違いなど更に些細なものだった。また冥子に至ってはそのような俗界の事情に疎い。彼女
はただその善良なる性根に従い、目の前の困っている人を助けるのみであった。向けられ
る感謝の言葉がたどたどしい日本語だろうと彼女の気にはならなかった。

依頼人達の事情の為、公にできないものあり、業績に反映できないものも多かったが二人
とも気にしなかった。そんな二人の事は口コミで在日外国人達の間に拡がりやがて華僑の
ネットワークの中でも六道除霊事務所とその助手横島忠夫の名前は注目を集めていくのだ
がそれはまた後日の話。

そんな忙しい日々を送る横島達のもとに一通の招待状が届いた。

「プレビューパーティー?」

それは以前横島が協力を余儀無くさせられた映画の試写会を、各界の著名人を招いて行う
というものだった。横島が出欠を悩んでいると来客を告げる呼び鈴がなった。来客は・・

「おう!横っち招待状とどいたか?」

横島の幼馴染、堂本銀一(芸名:近畿剛一)だった。

「ああ、届いたけど、今出ようかどうか悩んでたとこやってん。」
横島は正直に答えただけだったのだが、

「ああ!?フザけんなやコラ!お前が来んでどうすんねん!?」

横島にとっては面倒事に巻き込まれた仕事でしかなかったが、銀一には目の前の男がいな
ければ映画は完成しなかった事がわかっている。その第一の功労者が出席しないなど言語
道断であった。

「協力してくれはったGSの人らにも招待状送ってあるんや、お前が来んかったら話しに
ならんやないか!」

「へ〜、で?みんな来るって?」

「ああ、伊達さんだけは連絡先わからんかってんけど他の皆は来てくれるそうやで。あと
一応美神さんとこにも送ってんけど返事はけえへんかったな。」

「しょうがね〜な〜雪之丞は・・・んで美神さんからは返事がなかったって?」
そう言ってお茶を濁して返事を引き延ばしにかかるが、

「それはええねん!ホンでお前やお前!絶対来いよ!」

「そう言われてもな〜、最近本当に忙しいんだよな〜。」
疲れきった表情でそう呟く相手を見て銀一は路線を変更した。

「お前クリスマスはどないすんねん?」

「は?クリスマス?」

「そうやタマモちゃんが来てから初めてのクリスマスや、当然プレゼントやらパーティー
やら考えてるんやろうな?」

横島は忙しさにかまけて完全に忘れていた。そんな彼に更に追い討ちがかかる。

「ねえ、ヨコシマ?クリスマスって何?」

そう、銀一の勢いにのまれて会話にはいれなかったが、この場にはタマモもいたのだ。
そしてこのタマモの発言を聞いて銀一は百万の味方を得たような顔になる。

「あんな、タマモちゃんクリスマスっちゅうのは元々は大昔の偉い人の誕生日やってんけ
どな、今では仲のエエもん同士で楽しむ日になっとるんや。」
試写会はクリスマスイヴに行われる。

「ふ〜ん、例えばどんなふうに?」

「せやな〜例えば綺麗な服に着飾って美味しいもんのぎょうさん揃っとるパーティーに参
加して、その後めちゃくちゃ面白い映画を見るなんてのがエエんやないか?なぁ横っち」

こうなっては横島に選択の余地はなかった。ましてや、

「ふ〜ん、楽しそうね?」
こうタマモに言われてしまっては・・・

この日から横島に新たな悩みが加わった。すなわち、タマモの服をどうするか?である。
この男はオシャレに関しては悲しい程に素養が無い。誰かに助言を請うしかないのだが、
愛子は学校に根付いた妖怪なので芸能界のパーティーに着ていくような服に詳しいとは思
えない。おキヌも普通の高校生なので同様だ。自分の上司に至っては、確かに清楚な美人
ではあるし服も良さそうなものをいつも着ている。しかしどうにもそれが自分で選んでる
ようには思えないのだ。考えあぐねた結果ひとりの女性を頼る事にした。その相手に連絡
を取り、激務の合間をぬってタマモを同伴して待ち合わせの場所に出かけて行った。

「ふ〜ん、で?私にそのコがパーティーで着る服を選んで欲しいってワケ?」

「そうなんですよエミさん、折角だから飛びっきりオシャレな格好をさせたいんですけど
あいにく俺はそっち方面はからっきしで・・・」

横島は悩んだ結果オシャレな大人の女性という事でエミに頼ることにしていた。
エミはひと目見てタマモが人間ではない事に気付いたが気にしなかった。何せ相手は横島
なのだ。どんな存在が近くにいようが不思議ではない。

「まあ、今日は暇だったから良いケド?感謝の心は忘れちゃいけないってワケ。」

「もちろんです、ありったけの金を引き出してきましたんでエミさんのパーティー用の服
も一緒に買って下さい。」

そう言って現金の入った封筒をエミに渡す。実際動かせる金の殆どを用意したのだ。
最初に六道事務所から振り込まれた年棒2000万はそのままタマモ名義の定期預金にしたの
で映画関係の収入のほぼ全額だ。
エミも受け取った封筒の厚みで200万を優に超えている事に気付き内心驚いていた。エミの
記憶の中の横島は煩悩を常に滾らせ、好みの女性とみれば見境無く飛び掛っていく印象が
強かった。それだけにかつて極貧だったこの男が、”妹”の為に惜しげも無く有り金をぶ
ちまけようとしているのが妙におかしかった。

「OK!私に任せとくワケ。誰もが振り向くようなレディーに仕立ててあげるわ。素材が
良いからやりがいもあるってワケ。」

横島にしてみれば、タマモが誉められれば嬉しいばかりだし、タマモにとっては横島が頼
るような女性で、しかも自分に対して好意的な評価をしているのだ、嫌う理由も無い。

「よろしくお願いします。」

「ああ、タマモって言ったっけ?そんな固くなる必要は無いワケ。私に任せておけば完璧
にプロデュースして見せるってワケ。」

「それじゃタマモの事くれぐれもお願いします。あ・もしそのお金が余ったらタマモに何
か美味しい物でも食べさせてあげて下さい。全部使ってもらって構いませんので。」

「全部使って明日からどうするワケ?」

「ああ、俺貧乏には慣れてますから。じゃ、俺仕事に行きますんで。」

そういって横島はその場をあとにする。

「あの男もちょっとは良い男になったワケ、オタクの事が可愛くて仕方ないみたいね?」

「だったら、嬉しいんだけど・・・」
そして女二人は買い物へと突進していった。


夜になって横島が家に帰るとタマモが戦利品をひろげていた。
見ると普段着や小物の類ばかりで肝心の服がない。

「なあタマモ、パーティー用の服はどうしたんだ?」

「エミさんが持って帰った。当日私がエミさんの家に行って着替えてから会場に行く手筈
になってるの。会場でヨコシマをビックリさせてやれって。」

「ふ〜ん、エミさんらしいな〜、じゃあ当日を楽しみにするか! ところでその戦利品の
山はどうしたんだ?」

「なんか”オシャレをするのは良い女の義務よ!”って言って一杯買ってくれたの。それ
でパーティー用の服以外は全部あの人が奢ってくれたの、食事まで。」

「え?じゃあエミさんの服はどうしたんだ?」

「それはヨコシマの気持ちだから奢ってもらうって言ってたわ、カッコイイやつ。」

エミはすっかりタマモの事を気にいってしまい、今日一日タマモの事を連れ廻していた。
タマモもおキヌ以外の人間の女性に優しくされたのは初めてで、しかもその女性はおキヌ
よりも明らかな”強さ”を感じさせる存在だった。その庇護下に置かれているような感覚
は心地良いものだった。

そして翌日、学校からの帰り校門の所で横島は旧知の顔をみつける。

「よお、偶然だな横島。」

「・・・俺には待ち伏せしていたようにしか見えんが。」

そこにいたのは伊達雪之丞だった。映画のクランクアップ以来の再会である。
お互いの近況を語り合いながら肩を並べて歩いて行く。

「そういや雪之丞、例の映画のプレビューパーティーに呼ばれてんだよ。お前だけ連絡が
つかないって話だったけどどうする?行くか?」

「やっぱりそうか!」

急に雪之丞が我が意を得たりと破顔する。

「横島覚えてるか?香港で会った”白麗”役の女優。」

「ああ、お前が大ファンだって言ってた人だろ?確か李麗蘭だっけ?」

二人の言う女優とはかつて彼らが撮影に協力した香港映画”九龍幽撃道士”の主演女優の
李麗蘭その人である。今ではその映画の世界的ヒットを足がかりにしてハリウッド進出を
果たした現代のシンデレラでもある。

「その彼女に近々来日の予定があってな、どうも映画関連パーティーに出席するらしいん
だよ。それでアタリをつけてだな・・・」

「あ〜わかった。それで例の映画関連だと見当をつけて、俺んとこに来たって訳だな。
銀ちゃんに余分に招待状もらってるから取りに来るか?っても俺今から仕事だけどな。」

「う〜ん、どうせ暇だしお前の仕事を手伝ってやるよ。んでパーティーまでの間、泊めて
くれよ。」

「まあ良いけど、そういやお前にまだ妹を紹介してなかったな。ちょうど良い機会だしな
紹介するよ、タマモってんだ可愛いぜ?」

「妹?お前にそんなもんいたか?」

「まあ最近できたんだよ。」

そんな話をしながら、並んで事務所への歩みを進めて行った。冥子が雪之丞の助力を喜ん
だのは言うまでもない。お陰でその日の除霊は思いのほか早く終わった。

「ただいま〜タマモ、今帰ったぞ〜。」  「邪魔するぜ。」

そう口々に言いながらドアをくぐる。

「お帰りヨコシマ・・・・・その人は?」

「ああ、紹介するよ。伊達雪之丞だ。」

「おうヨロシク・・・ってお前?人間じゃないのか?」

そう言われて一瞬タマモが身を固くするが、

「まあ良いか、横島だしな。」

アッサリ流されてしまった。ヨコシマの友人はやはり何かが違うと思いながらも、

「ヨロシク、え〜っと?」

「伊達雪之丞だ。雪之丞でいい。」

それだけでアッサリ友好関係ができてしまった。雪之丞のようなバトルジャンキーにして
みれば敵じゃなければ、それだけでもうどうでも良い。それに横島の事はもう無条件で信
頼している。一方タマモにとっては今の所の判断基準が横島と親しいかそうでないかだけ
なので、横島が自分の友達だと紹介すればそれで大半は問題無く終わりだった。

「取り敢えずパーティーまで厄介になるんでな、まあヨロシク頼むわ。」

「ああ、使ってない部屋が二部屋あるから好きに使えよ。」

「使ってないって、ヨコシマ、一部屋は銀ちゃんが入り浸ってるわよ?」
そう、最近銀一は暇ができるとこの部屋に入り浸っていた。

「ああ、それでも一部屋は空いてるだろ?好きに使えよ。」

「悪いな、その代わりといっちゃなんだが、パーティー迄はお前の仕事を手伝うから。」

そうしてパーティー迄の間、雪之丞が手伝ってくれたお陰で仕事が楽になる・事も無く・
更なるハイペースで除霊の仕事をこなして行く事となった。
そしていよいよ、パーティーの当日がやってきた。




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(あとがき)
パーティーまで一気に書きたかったんですけど疲れちゃって今日はここまでです。
次回はパーティーとお正月までかな?もっと行けるか?

いい加減シロをだしたいんですけど、ここまで引っ張るとどう出せば良いのやら。

あ〜、あと冥子が良い人になりすぎたかな?とも思ったんですが、どう考えても
あの人善人にしか思えないんで・・・

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