ザ・グレート・展開予測ショー

横島忠夫奮闘記 18〜六道除霊事務所経営改革〜


投稿者名:ぽんた
投稿日時:(04/12/ 4)

ある日の昼下がり、横島忠夫はダラケきっていた。

「あ〜平穏って素晴らしい〜。」

「横島サン灰になっとるノ〜。」

「よ・横島さん?抜け殻ですね・・・」

彼のクラスメート達が一応心配そうに声を掛けてくる。

「ほっといてくれ。やっと地獄の日々が終わったんだ、今日からGS一本で行くぞ〜。」

そう、彼は一介の高校生でありながら昨日まで日本で最も興行成績が期待される映画のス
タッフの中心人物として活動していたのだ。

「ひとつの事に全力で打ち込んで完全燃焼する、それが青春よね!」

訳のわからない事を言って陶酔しているのは隣の席の机妖怪の愛子だ。

「でも横島さんがあそこまで映画に深く関わっていたなんて驚きましたよ。」

「そうジャノ〜、最後の方は何でも横島サンにお伺いをたてとったケンノ〜」

「あんなモン、余計な仕事を押し付けられただけだ。」

二人にしてみれば、日本映画で最も興行収入を期待されている映画を一人で取り仕切って
いた感のある横島にただひたすら感心していただけなのだが、横島にとっては余計な仕事
を押し付けられたようにしか思えない。親友の為でなければ関わる気もなかったのだ。

「そういえば冥子さんの事務所に所属するなんて、勇気ありますね〜。」
ピートが話題を変えるようなタイミングで気になっていた事をきいてくる。

「横島サンが一時期生傷だらけじゃったのは、そのセイだったんですノ〜。」
タイガーが微妙に勘違いした事を言ってくる。

「お前らに言っとくが、俺が入所してからの二ヶ月で所長は一回も暴走しとらんぞ。」

「「ええっ!!」」

自分の耳を疑うような話を聞いて二人の声が裏返っている。

「そんなに驚くような事か?お前らウチの所長の事を馬鹿にしすぎじゃないか?お前ら
だって唐巣神父やエミさんが軽く見られたりしたら腹立つだろう?」

これは横島の例えがおかしい。唐巣和宏や小笠原エミのような一流処と六道冥子を同列に
並べるなど天に唾するような罰当たりな行為だ。

「ちょっと待って下さいよ!確かに先生はお金に縁の無い方ですが実力は超一流です!」

「エミさんもジャ〜確かに呪術や黒魔術を使うケン色々と陰口を叩くヤツもおるケンども
あのお人は超一流のGSじゃケンノ〜」

二人共、心外な言われ様だったらしく尊敬する師の為にすぐさま反論する。横島にしても
今の六道冥子が二人に肩を並べるとは思っていないので言葉を添える。

「わかってるよ、確かにあの二人は一流の境地ってやつに達してるさ。けどな見てろよ?
あと2〜3ヶ月もしないウチに六道所長もそこまで行くからな。」

横島には勝算があった。側にいて実感したのだが元々の能力は決して低くない。それどこ
ろか冥子より基本能力の高い者などいないのではないかとも思っている。(この時点でこ
の男は自分の事をカウントしていない)GS協会発行のスイーパー名鑑にも”美神令子、
小笠原エミの両名と比較しても能力的に遜色ない。ただしその能力が実力にまったく反映
されていないのが惜しまれる人材”と書かれているのだ。この評を読んだ時に横島は喜ん
で良いのか悲しむべきか大いに悩んだという。

ピートとタイガーにしてみれば横島がここまで冥子の事を推すのに正直驚いていた。
先程から”所長”と言う呼び方をしており相手をたてようとしているのも伝わってくる。
二人共横島のGSとしての実力はよく知っていた。見せつけられたと言っても良い。
その横島が自信を持って断言しているのだからその通りになりそうな気がしてきているの
だが二人は以前の冥子の事もそれぞれの師匠から詳しく聞いて知っていた。
そのため半信半疑ながらも一応激励をしておいた。

「ま・まあ、色々と気をつけて頑張って下さいね。」

「命あっての物種ですケンノ〜」

三信七疑ぐらいかも知れない。


{六道除霊事務所}

放課後になって横島が事務所に出勤すると所長の他に先客がいた。

「横島君〜お疲れ様〜、冥子の業績の改善は〜順調みたいね〜。」

冥子の母、六道家当主、幽子女史である。

「お母様〜私たークンと二人で〜とっても頑張ったのよ〜」

「ま〜”たークン”だなんて呼んで〜すっかり仲良しさんね〜」

「でも〜たークンは私の事〜所長って呼ぶの〜冥子ちゃんって呼んで欲しいのに〜」

いきなり脳ミソにボウフラが湧きそうな会話だが別にふざけている訳ではない。
この喋り方は六道家の家風なのだ。・・・たぶん・・・

「と・ところで理事長今日はどうして急に?」

話が妙な方向に行きそうだったので横島が話題を変えようと話し掛ける。

「それなんだけど〜今日あたりから〜横島君が〜仕事を取りに外回りに行くんじゃないか
と思って〜名刺を作ってきてあげたの〜」

そういって渡された名刺を見てみると
六道除霊事務所 除霊スタッフ 横島忠夫 ランクS
と書かれてあった。

「ちょっ!わざわざランクまで入れるんですか?」

横島は自分で欲しがった訳でもないランクをひけらかすような遣り口は好きではなかった

「そうよ〜企業の人間は初対面の相手をある程度肩書きで測るのよ〜軽く見られない為に
も〜出せる物は出さないとね〜」

そう言われてしまうと相手は巨大コンツェルンのトップなだけに何も言えなくなる。
いかに横島が優秀なGSでも実業家としてのキャリアでは比較にもならない。

「それから〜何時もの格好だと〜会ってももらえない事もあるかもしれないから〜私の方
で〜スーツを用意したの〜着替えて見せてくれるかしら〜。」

そう言って渡されたスーツと革靴に着替えてみると何時どうやって調べたのかサイズはピ
タリと合っており、裾丈まで完璧だった。ジャン○ールゴ○ティエのスーツにジョ○ロブ
のシューズ、二品で軽く50万は超えるが横島には青○の2パンツ29000円との違いも解
らなかった。

「まあ〜よく似合ってるわ〜有能なビジネスマンに見えるわよ〜。」
「たークン本当に素敵だわ〜立派な紳士みたいよ〜。」

親娘の二重奏に迎えられた横島は照れながらも気になっていた事を確認した。

「あの・それは良いんですけど何で裾丈や靴のサイズまでわかったんですか?」

「それは〜おばさんの年の功かしら〜それは制服として支給された物だと思って〜営業に
行く時は着てちょうだいね〜。」

それ以上追求するのが何となく怖くなったので横島は沈黙してしまった。
まさか彼に関する総てのパーソナルデータが目の前の女性のもとに集まっているなどとは
神ならぬ身にわかるはずもなかった。

「と・とにかくこれからガンガン営業行って難しい仕事も獲ってきますんで、所長には名
実ともに一流の仲間入りしてもらって赤字も無くしましょう!目標は三ヶ月で黒字に転換
して依頼の達成率も90%以上にしましょうね!」

そう高らかに宣言したが横ヤリがはいってしまった。

「横島君〜黒字にするのは決算期の後にしてちょうだいね〜。」

親バカではあっても企業家としてはバカには程遠い六道母であった。
そんな諸々の事情を受けて横島は営業戦略を練り上げた。つまりむこう三ヶ月総ての除霊
を半額で請け負う事にした。これをそのまま実行すると、ダンピングとして周囲の反感を
買うので霊障に悩む人々への救済という形を取る事にした。要するに様々な被害にあって
いるのに、GSへの高額な報酬が払えない為に泣き寝入り状態になっている個人や企業を
対象にする訳だ。人によっては数万の報酬を支払う事すら死活問題になるという事を横島
は実感としてわかっていた。

顧客を横獲りするような真似をすれば反感を買い孤立してしまう。なかにはどれほど反感
を買おうが笑い飛ばせるような女性もいるが六道冥子にそれは無理だ。
しかし報酬を払えないような相手は顧客として認識されない、いわば始めから市場の外に
いるのだ。横島の知る限りで除霊のような危険な真似を場合によっては無償でおこなうの
は唐巣神父ぐらいしかいないが、ランクSの評判が先に立っている為その人柄はそれほど
広く知られている訳ではない。近在の人々が助けを求めるくらいである。

そんな現状では霊障に悩む”貧乏人”や”零細企業”を相手にするGSはいなかった。
・・・いままでは・・・
これを六道グループから社会への還元という位置付けにして、潜在的な市場を刈り取って
しまおうという戦略だ。個人については純粋な救済になるが企業に関しては将来の顧客に
なる可能性もある。霊障が解決して業績が伸びれば、もしその後で何らかの霊障が起きた
時は依頼する先に六道除霊事務所を選ぶ可能性は高いだろう。

達成率を上げつつ儲けを出さないという馬鹿馬鹿しい条件をクリアする為に横島が考えだ
した苦肉の策だったが、六道女史は期待以上の答えを聞いたかの如く満足そうな表情をし
ていた。とりあえずGS協会に持ち込まれた依頼で報酬の折り合いがつかず保留になって
いる件を女史が取り寄せ横島に手渡した。

「理事長、これらの依頼は総てウチで引き受けます。早速これから除霊に向かいますので
よろしいですね?所長?」

「え〜?今からいくの〜?今日くらいゆっくりしましょうよ〜。」
「冥子〜ワガママ言わないで横島君と出かけるのよ〜。」

冥子が駄々をこねると間髪を入れずに母親からのツッコミがはいる。

「んじゃまず、いきなり難易度Aの依頼からいってみましょうか?」

「え〜?いきなりAなんて怖いわ〜、もっと簡単なやつからいきましょうよ〜。」

「簡単なのはさんざんやったでしょう!大丈夫!自信もって下さい、貴女ならできます。
危なくなっても絶対に俺が守りますから心配しないで下さい。」

そういうと二人で連れ立って現場へと出かけて行く。二人が出かけた後の事務所で

「思ってたより冥子の成長が早いわね〜横島君には教師の才能もあるのかしら〜。それに
彼はやっぱり弱い者を放っておけないみたいね〜、このまま冥子がそばにいれば〜きっと
守り続けてくれるでしょうね〜。そうなれば〜邪険にする事もできなくなるわね〜。」

六道女史は現状にとても満足そうな笑みを浮かべていた。




二人はタクシーで除霊現場へと到着した。 この二人は免許を持っていない。横島は年齢
が足りず車の免許が取れず、冥子にとっては車とは他人が運転する物だった。それに冥子
の周囲の人達が冥子にだけは断じてハンドルを握って欲しくなかったという事情もある。

「それじゃ所長打ち合わせ通りに行きますよ。側にはメキラを待機させて万が一の時は、
テレポートできますから落ち着いて戦って下さい。そうすれば貴女は誰にも負けません」

横島は冥子に自信を持たせる為にひたすら苦心していた。何度も何度も冥子に対して自信
を持つよう言葉を重ねる。しかしそれが根拠の無い”おだて”では意味が無いのだ。
実績に基づいた自信。”小心”でも”過信”でもない実力に応じた”自信”だ。
その為には式神達の能力を把握して、状況に応じて使いこなせなければならないのだが、
彼女は能力特性を理解しても使いこなすという発想がない。何故なら彼女にとって式神達
とは”使役する鬼”ではなく”お友達”だったからだ。

「ハイラ!バサラ!」
「は〜い。」 針で弱らせて、吸い込む。 実体化した敵が出て来ると、

「アジラ!ビカラ!」 
「は〜い。」 影の中から入れ替わりで出てきて、石化させて、体当たりで砕く。

そう、使う式神を横島の指示で交代させながら戦い続けているのだ。一度に出現させる式
神の数を制限して安定して戦えるようにするためだ。傍らにメキラが控えている為、危険
が迫った場合はテレポートで逃げる事ができる。横島に守られるのではなく、自分の力で
危険を回避するのだ、この違いは大きい。はっきり言って横島が一人でやれば難易度がA
だろうがSだろうが簡単に終わるのだが、敢えて回り道を選んだのだ。
そのペースで戦い続ける事一時間弱、

「ふ〜、なんとか終わりましたね。」
「私〜くたびれちゃったわ〜。」

「でも今回、俺は自分に向かってきたヤツを片付けただけなんで、ほとんど所長が一人で
除霊したようなもんですよ。」
「え〜嬉しい〜、私でも〜やればできるのね〜。」

「もちろんですよ!この程度の相手なら本来俺がいなくても楽勝ですって。」

うまくできた場合はすかさずホメて伸ばす。この辺り横島には教師の素養もあるのだろう

「この勢いで残りの依頼もチャッチャとやっちまいましょう。」
「わかったわ〜、冥子がんばる〜〜。」

この日から六道除霊事務所の怒涛の快進撃が始まることになる。




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(あとがき)
初めて全体を通して第三者視点で書いてみましたがいかがでしたか?
読み難い点等ございましたら、ご指摘の方おまちしております。

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