ザ・グレート・展開予測ショー

胡蝶の夢 前編


投稿者名:青い猫又
投稿日時:(04/11/28)








私は夢を見る、それは遠い昔のかもしれない、逆につい最近のかもしれない。
何も知らなかったあの頃、他人が自分の為にしてくれる事に当たり前のように甘えていたあの頃、
それはただ幸せだったあの時間の中を、あの人と過ごした一時の輝き。
もちろんつらい事だってあったが、あの人が居れば私は本当に幸せだった。





モニターを流れる光の渦に、ふと自分の居場所に不安を感じてしまう。
なぜ自分は此処に居るのか、もしかしたら此処に至る前に下した選択肢を少し変えただけで、
自分はもっと違う場所に居たのではないか?
いつもと同じように、おキヌちゃんの作ったご飯を食べながらシロとタマモをからかったり、
美神さんのシャワーを命をかけて覗いたりしていたのではないか。そんな思いが消えなかった。
だがもう遅い、その考えは遅すぎる。すでにモニターを流れる星の輝きはいっそう光をまし、
前方から後方へと流れていく。
ふと気がつくと先ほどより光の速さが増している気がした。船はますます速度を上げ始めているようだ。

横島はモニターに映る、数々の数値の一つに目を留めた。
数値はすでに1000を切っている、目的地はもうすぐのはずだ。

ビィー、ビィー

突然の音に驚き、すぐにモニターに眼を向ける。

WARNING

敵にロックオンされたと船のAIが告げてくるが、レーダーには敵がまったく表示されていない。

「くそ」

ロックオンを外そうと、船を旋回させながらモニターを確認するが、
敵の姿も見えなければロックオンも外れない。

こんな時にマリアが居ればとふと考えるが、我ながら間抜けだなと苦笑する。
かなり前になるが月に美神さんと向かった時は、マリアがシャトルを動かしていた事を思い出される。
無いものねだりなんてしてもしょうがない。今は俺だけなんだしな。

なんで俺此処に居るんだろうな・・・

相変わらず警告音が鳴り響く中、先ほどと同じ思いがふと沸き起こる。
そんなくだらない思いを振り払うかのようにデコイをばら撒くが、思ったような成果は出ないようだ。
その証拠に警告音は、一瞬たりとも消えはしない。

モニターの端に一瞬光る物を見つけ船を向けるが、すでに遅かったようだ。
かなりの数のミサイルがこちらに向かって突き進んでくる。

もうフレアも回避も間に合わない。横島は覚悟を決める。
ミサイルが船を直撃するその瞬間、やはり横島は思うのだ、なんで俺此処に居るんだろうな〜と・・・



ドカーン

真空の宇宙の中、船は不思議と爆発炎上を繰り替えして粉々に砕け散っていった。
乗っていた者など万が一にも助かる見込みなどないだろう。

そして横島の目の前のモニターにはゲームオーバーの文字だけが残る。

・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・・


「な〜〜にやってるでちゅか!」

いきなり横から丸めた雑誌で殴られた横島は、そのままぽてりと横に倒れる。
顔だけを殴った張本人に向けると、仁王立ちしたパピリオがこちらを睨んでいた。

「さっきそこにはステルス装置のついた、ミサイルタイプA型の敵が居るって教えまちたよね!」

しかもかなり怒っているようだ。

「な〜パピリオ〜、なんで俺此処に居るんだっけか。」

謝ってパピリオの機嫌を直すか一瞬横島は考えたが、
どうにも気力が沸いて来なかったので倒れたままパピリオに向かって質問をする。
元気の無い横島にさすがのパピリオも心配したのか少しだけ声を落とすと、
上から横島の顔を覗き込んでくる。

「なんでってヨコシマが社員旅行に置いてかれたからでちゅよ。」

「そ〜なんだよ、あのくそあま〜〜〜〜。自分ばっか良い思いしやがって〜〜〜
なにが私たちはタヒチに泳ぎに行って来るから後はよろしくね〜だこんちくしょ〜〜〜〜」

妙神山の一角にあるパピリオの部屋の中で、横島は文句を言いながら転がる。

「しかも、しかもだよ!!、小竜姫さまの顔見に来たら天界に戻ってるってなんだ〜〜〜〜
詐欺だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

転がる転がる、なおも転がる。

ガンッ!

!!!!

声の出ない悲鳴を上げた横島は、先ほどとは別の理由で頭を抱えたまま部屋を転がる。
しばらく転がった後突然頭を襲った痛みの原因を確認するために、
横島は痛みを我慢しながら周りを確認してみる。

すると横では魔力の塊を手に出現させているパピリオが、かなり怒った顔をして横島を睨んでいた。
どうやら手にした魔力の塊で横島をぶん殴ったようだ。

「さっきから聞いてたら私じゃ不満だとでも言うでちゅか!
たしかにまだ背も高くないし、む、胸だって大きくは無いでちゅが、
ベスパちゃん見たくせくしぃ〜になるのは約束されているでちゅ。なんて言ったって姉妹なんでちゅから。」

怒りながら必死に言ってくるパピリオを見ながら、横島は気づかれないように軽く苦笑する。

「悪かった、お前が居たなパピリオ。
しかしベスパ見たくセクシーとは大見得切ったな、ルシオラだってお前の姉ちゃんだろ。」

横島の一言にパピリオは驚いた顔をする。

「ル、ルシオラちゃんは・・・・・じ、実はルシオラちゃんは・・・・も、貰われっ子だったでちゅよ!!」

「な、なんだって〜〜〜ってそんな事あるかばかたれ。」

ぺしっ

「みゅっ」

軽くパピリオの頭を叩きながら、横島は立ち上がり大きく背伸びをする。

「ん〜〜〜、まあ居ないもんを嘆いてもしょうがねえけどな。
でもな〜未来のパピリオより今の小竜姫さまが・・・」

「まだ言うでちゅか。」

「はいはい、悪かった悪かった。もう言わないよ。」

横島を見上げながら怒っているパピリオの頭を手で抑える様に撫でながら、
再びゲーム機の前に座りなおす。

「どうする、もう一度やり直すか?」

横島はコントローラーを片手に、後ろでまだ立っているパピリオに確認する。
するともうゲームには興味は無いらしく、パピリオは一瞬部屋の柱を見た後横島へと顔を向ける。

「それはもういいでちゅ、それよりお腹が空いたからなにか食べまちょ。」

パピリオはお腹に手を当てながら空腹を訴えてきた。
それを見ながら横島は先ほどパピリオが目を向けた先、部屋の柱に掛かっている時計を見る。

「12時40分か、まあ確かに良い時間だな。・・・・そう言えばジークはどうしたんだよ?」

ついた早々パピリオに拉致られた横島は、いまだにジークの顔を見ていないのに今更気がつく。
とことん男には興味の無い横島だった。

「たしか、この間壊れた修業場の一部を立て直すとか言って、
鬼門たちと一緒に建物の奥に引っ込んだでちゅ。」

「へ〜壊れたね・・・・・・壊したの間違えじゃねえのか?」

パピリオの暴れっぷりはジークを通して聞いているので、
パピリオが言った壊れたと言う言葉がなんとなく気になって聞いてみる。

「失礼でちゅね!、私だけじゃありまちぇん!!
それに、小竜姫さまが居ない今がチャンスって言ってまちた。」

「あ〜〜そう・・・」

さすがの横島もちょっと複雑な顔をする。
パピリオと一緒に小竜姫さまも暴れているってジークは泣いていたが、どうやら本当の事だったらしい。

「んじゃどうするか、俺たちが作るって事か?」

さすがにそれは嫌だな〜と思いつつ聞いてみる。
食事に関しては自分ひとりならカップラーメンで済ませたい所だった。
パピリオが居るからそうも行かないのだが。

「ちょっと聞いて来るでちゅ。」

そう言うとパピリオはあっという間に部屋を出て行った。

「おい、ちょっと。俺も行こうか?」

パピリオが去った後の扉に向かって一応言いたかった事を言ってみるものの、
それでなにがどうなるって分けでも無く、横島は一人ぽつんと取り残されてしまった。

「さてどうすっかな。」

改めて部屋の中を見渡してみると、先ほどまで気がつかなかったが大分散らかっているのが目立つ。
脱ぎかけの服、どうも趣味で作っている服の作りかけ、読み途中で放り投げてある雑誌の数々。
横島の部屋との違いは、食べ終わったカップラーメンのゴミが無いぐらいの差しか無さそうだった。

「あいつも自分はレディーとか言うならパンツぐらい隠して置けよ。」

パピリオのカボチャパンツがベッドの上に放り投げてあるのを見つけ、
横島は近くの服で隠してやる事にする。

「よっと、この辺の服で・・・はっ!!!」

横島が目を向けた先にパピリオの部屋には不釣合いな物を見つけてしまった。
それはパピリオが自分で着るには大きすぎると思われる、黒のガーターストッキングだった。
お揃いのパンツとブラジャーまである。パンツはかなりきわどいハイレグ、
しかもブラジャーに至っては、どう見ても面積的に胸の半分も隠れないだろうと言った一品だ。

「ななななな、なぜこの部屋にこんな物が!!
しかも俺の本能が告げる、これは使用済みだ!!!」

だれだ、だれのなんだ!!
パピリオ?いやありえないサイズがどう見ても違う。
美神さん!!いやいやいやそれは無い、落ち着け俺よく見てみろ!
胸のサイズが全然違う、美神さんには小さすぎるだろう。
これはもっと慎ましい胸の人用だ!!
そうすると、の、残りは・・・

ゴクリ

横島の喉が鳴る。
ゆっくりとベッドに近づくが、最後にはルパンジャンプで目標へと飛びついた。

「小竜姫さまのだ〜〜〜〜〜、ひゃっほ〜〜俺ってラッキー。」

ガチャ

パンツを天井に掲げながら部屋の中をスキップしていた横島は、
ドアが開く音でぴたりと動きを止めてしまった。

ドアへと目を向けると、パピリオが不思議そうに横島を見ている。

「なにやってるでちゅか、ヨコシマ??」

「え、えっと〜〜〜〜〜・・・・・・・・・
そ、そう!、小竜姫さまの下着がこんな所に置いてあるから無用心だなと思って片付けようと・・・・」

く、くるしいか俺!
相手はパピリオだ、なんとか言い含めてばらされないように・・・

パンツとブラジャーを言い逃れ出来ないくらいしっかりと握り締めてるくせに、
ばれないようにがんばる横島は、ちょっとだけ額に汗が流れる良い笑顔をしていた。

「あ〜それってこの間遊びに来たタマモに着せてやったやつでちゅ、
胸が隠れないとか言って泣いて喜んでたでちゅよ。
ちなみにそっちにはシロに着せてやった色違いの白があるでちゅって、
あれヨコシマなに泣いてるでちゅか?」

握り締めていたパンツを下におろした横島は、フローリングの床にのの字を書きながら泣いていた。

「いや、気にするな。いいんだ・・・・もうちょっとで人の道外しそうだったのが少しショックなだけだ。」

そういや〜ちょっと前にタマモとシロをパピリオに会わせたら、
パピリオの奴がえらく喜んで趣味の服をいろいろと無理やり着せてたな。
泣いて喜んでたんじゃなくて、泣いて嫌がってたように見えたが気のせいだっただろうか・・・・
しかしタマモ・・・・めちゃくちゃ喜んだ俺が馬鹿みたいだ・・・・いやしかし下着は下着だしな・・・
でもタマモのだしな・・・・・でも・・・・でも・・・

「ヨ・コ・シ・マ〜〜」

「はっはい〜〜」

突然耳元で叫ばれた横島は驚いて勢いよく立ち上がる。

「私の話を聞いてるでちゅか!」

我に返ってパピリオを見ると、怒り顔のパピリオが横島に向かって文句を言っている。
横島が心の葛藤をしている間、ずっとほっとかれたので大分腹を立てているようだ。

「悪い、そして助かった。いやほんとありがとう。
もう少しで戻って来れない道に行ってしまう所だった。」

「なんでちゅかそれは?」

パピリオはなんでお礼を言われているのか分からず、不思議そうにしている。

「いや良いんだパピリオは知らなくて。
それより、ジークはなんだって?」

話を終わらせたかった横島は、パピリオが元々部屋を出て行った理由である昼飯の件を聞いてみる。
そう言われてパピリオも思い出したのか、ぽんと手を打つと部屋の隅に向かって走っていく。

「お昼ご飯は用意するから先にお風呂に入って来いって言ってまちた。」

「おいおい、昼間っから風呂かよ。」

「ヨコシマがここまで来て疲れてるだろうから、お風呂でゆっくりしてくだちゃいとも言ってたでちゅね。」

そう言いながらパピリオはお風呂セットを部屋の隅から引っ張り出している。

ふんふ〜〜ん

やたら嬉しそうにアヒルのおもちゃを木の桶の中に入れている。

「なあパピリオ。」

「なんでちゅか?」

用意に忙しいのか、返事はするが横島の方を向かずに今度は水鉄砲を桶の中に収める。

「たしか今妙神山の風呂って、アシュタロスの時に壊されたついでに銭湯風に改築されてたよな。」

「そうですよ、前来た時にヨコシマも入ったじゃないでちゅか。
忘れたんでちゅか?」

不思議そうに聞いてくるがけして手は止めない。
もちろん横島だって覚えている。ちょっとした用事でシロとタマモを引き連れて妙神山に来た時、
小竜姫さまに自慢の風呂だと言って案内してもらった事があるのだ。
その時見た風呂は、銭湯と言うのは言葉だけで、ほとんど温泉地の露天風呂に近い作りをしていたはずだ。

「覚えているけど、たしか俺の記憶に間違えなければ混浴だったよな。」

「そうですよ、どうしたでちゅかヨコシマ?」

さすがに手を止めてパピリオが横島の方に顔を向ける。
横島が何を言いたいのか全然分からないって顔をしている。

「いや、パピリオも一緒に入るのかなとな。」

「もちろんでちゅ!、」

こうまで断言されるとさすがの横島も、一緒に入るのが当たり前のような気がするから不思議だ。

「ん〜〜〜、ま、いっか」

「やった〜、普段お風呂は嫌いだからあまり入らないけどヨコシマと一緒なら入るでちゅよ。」

桶を頭の上に乗せて横島の回りをパピリオはぐるぐる回る。

「って、お前普段風呂入らないのか!」

「えっ!、あっ・・いや3日・・・4日にいっぺんぐらいは入ってるでちゅよ・・・
も、元々汚れたりはしないからお風呂なんて入る必要はないでちゅよ〜」

余計な事を言ったと思ったのか、パピリオが微妙に横島とは目線を合わせないで言い訳をしてくる。

「先行ってまちゅ〜」

「あ、まてパピリオ。」

「またないでちゅ〜」

パピリオは横島から逃げるようにさっさと部屋を出て行ってしまう。

「子供って風呂が嫌いって聞くけど本当なんだな。まあ、俺も人のことは言えないけどな。」

横島の場合は金が無くて入れないだが、まああまり変わりは無いだろう。
俺の分の風呂セットってあるのかなと思いながら、横島もパピリオを追いかける事にした。






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