ザ・グレート・展開予測ショー

Peeping Tom (2)


投稿者名:ちゅうじ
投稿日時:(04/11/23)

どこから話すべきかと悩むが、やはり結論から。そのほうがいい。

傍観者として事の次第を見続けた私の望むとおりにドラマは進行した。
慣れ親しんだ日常から新たな関係が誕生した。二人に祝福があらんことを。
その点を考えるなら、まことに喜ばしい。

ただもう一つ付け加えるならば、結末は私の望むとおりにはならなかった。
今の事務所はドラマが演じられる舞台ではない。
文字通りの事務所。働きの場としてただ在る。
そうとしか言いようが無い。残念なことだ。

以前が騒がしすぎたのか、火が消えたようだと感じるのは私だけではあるまい。
居心地と空気の悪さは牢屋のよう。歩く火種ともいえた彼がいなくなっただけでこうだ。
記録するようなこともめっきりない。
あのときの判断は間違いだったのだろうか?


「はぁ…」

机に向かってため息をつくのはオーナーだ。
だめですよため息なんかついちゃ。幸せが逃げるというのは結構本当のことなんですから。


「…せんせー……」

照明は切れていないのに心なしどんよりとした部屋の隅でえぐえぐと鳴いている犬が…失礼、狼が一匹。
えぐえぐ、なんて表現が本当にあるなんて、人の世は広い。
いつか旅をしてみたいものだ。前提からして無理か…
あんまりカーペットを湿らせないでください。
秋が近づいてきた今日この頃、梅雨ほどじゃないですが黴が生えてくるんです。


もうすぐ彼女も帰ってきます。そうしたら休憩を入れましょう。
そして気持ちよくお仕事していきましょう!

こんなのは私のキャラじゃない。



浴室で何が起こったのか。説明するのは私の役目ではない。


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Interlude


扉を開ければそこは桃源郷だ! いざゆかん桃色の天国へ!


頭の中はピンク色なのに、扉を開けた先には白い世界。
襲い掛かってきたのは、むん、と押し寄せてくる湯気ゆげユゲ。
浴室はまるでサウナのように熱せられていた。
狭い室内に押し込まれていた蒸気は堰を切ったかのようにこちらに流れる。

―――ターゲットは何処だ? 何処にいる!

さっきまではシャワーを浴びていた。
いやいやいや、過去形にするにはまだ早い。シャワーの音は途切れていない。
そう思い至って目を向ければ、すらりとのびた足が湯気のカーテンの切れ間から覗いて…いや違うな、誘っている!
颯爽と登場した俺の姿に声も出せないのか誰何の声はない。
いつもなら一瞬の間も空けずに熱湯でも掛けてくるはずだ。ということは……っっ!!

―――やった! 俺はとうとうやった! 
 
「何も言わないってことは……俺の愛が通じたんですね!!」

「……っ! ……っっ!!」

息を呑む様子がカーテン越しに伝わってくる。

―――あぁ…とうとう念願がかなうのかと感無量。苦節何年になるんだろうか。
このために、このためだけに!
こんな機会がいつか訪れるであろうと!
そう信じた俺は間違っちゃいなかった!!

富士山、いやエベレストの山頂に立ったような達成感。
信じるものは救われる。そうですよね、神父。結婚式は神父の教会で行います。

「さァ、感動が薄レないうちにこのママ二人でべっどいンしましョう! て、イうかこノ場で愛ヲ確かメマしョウ!」

―――……お父さん、お母さん、あなた達の息子は今から一人前になります。

今は昼間。目線の先には白い壁。見えない空、多分ナルニアがあるであろう方角に向かって敬礼した。ビシッッッ!!
きらりと光る歯がポイントです。

「なっ! ななっっ!!」

ふふふふふふ。この狭い浴室で逃げられるわけも無い。
美神さん……いくら後ろに下がっても無理って物です。
悪の組織の怪人になった気分で笑う俺は傍から見て怪しさ抜群。
見かけからして怪しいのは分かっている。
マスクをするのは呼吸の音を抑えるためと、ちょっとした気分というやつだった。
これが燃える為、いや、萌えるためのアクセントってやつか!?

万が一のことを考えて出入り口を文殊で『塞』ぐ。これが最後の一個だが大丈夫、すぐにたくさん出来上がるだろう。

―――ハハハ! もう逃げられません! 仕事は完璧だ! さらばチェリーボーイ!!

浮かれた気持ちはそのままに、親父直伝の求愛表現、ルパンダイブを敢行する。
当然服は脱いだ状態で。
相変わらず湯気で見えないが目標位置は前方約五メートル。
ターゲットはいつの間にやら浴槽の中。
立ち幅跳びとしては――立ち幅跳びは競技にすらなっていません――世界新が狙える距離を一気に飛んだ。


「いっ!!! イヤーーーーーーーーッッッッ!!!!!」




―――interlude out

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(ヒロインパートが入るのですがそれは後ほど)



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「君は、自分が何をしたのか分かっているのか……?」

暗い暗い室内で男の声が低く響く。
部屋の間取りは一方が五メートルほどの正方形。
電灯は心なしか薄暗い。
出入り口は分厚い鉄扉。
部屋に入って左手には大きな姿見がついている。
中にいるのは二人。落ち着いた柄の背広を着た男と、ちんまりとした椅子にちんまりと座る男の二人。
話しかけるのは起立している男だ。
彼にも一応椅子はある。ただし座っていたのは最初だけで、先ほどからこつこつと部屋の中を歩いている。
彼は歩きながら問いかける。

座る男は無反応を示した。目をつぶって微動だにしない。
彼にしても返事は期待していないらしく、そのまま言葉を続ける。
こんな光景がすでに何時間も続いていた。
座っている男にしてみれば、時間感覚などとうに消えている。
詰問する側は入れ替わり立ち代り次々と交替した。
皆彼の知り合いだ。なぜ彼らがここにいて、自分のことを責めるのか彼には分からなかった。
目の前の男が現れるのも三度目だ。彼はむさい男の顔など見たくは無い、女の顔でも想像していたほうがましだと思った。

「……刑法第176条、13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をしたものは、6月以上7年以下の懲役に処する」

男がここまで言ったとき、びくり、と男の肩が震えた。
なぜなら男の脳裏に浮かんだのは彼女の顔だったから。
顔だけでなく身体のラインまで浮かんだ瞬間。タイミングはホームラン。
驚いた。こいつは読心術でも使えるのか?

立った男はその様子を見てにやりと微笑った。

「ただし、告訴が無ければ公訴を提起することはできない……彼女は…告訴しないとの事だ」

それを聞いて、男の纏った鎧が綻んだ。すかさず言葉を続ける。

「安心したかね? ただ他に余罪が無ければの話だ……ちらりと耳にしたんだが、ここ何年も女子高の更衣室に忍び込む覗きの常習犯がいるらしくてね。君と似ているという話なんだが?」

男は力の無い声で返す。身に覚えは十分あったが惚けることにした。

「そんなものは知らん。いい加減にしてくれ、西条」
「そういうわけにもいかないんだよ、横島君。君はちょっとやりすぎた」

男、横島はその言葉に、訝しげに眉をしかめてみせた。
ここは警察の取調室……ではない。西条と呼ばれた男も警察官ではない。
オカルトGメン日本支部地下にある霊的生物の留置場での出来事である。

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