ザ・グレート・展開予測ショー

朧さんのヒ・ミ・ツ・♪ 〜回生編〜


投稿者名:斑駒
投稿日時:(04/11/20)

 ……ごおんっっっっっ

 密閉された広い室内に、轟音が反響する。

「扉が閉まった!? 薫!」

「ダメだ、皆本! この扉、あたしのテレキネシスが効かない!?」
「ウチのテレポートも使えないみたいや!」
「ここの壁、念波を遮断する素材で出来てるみたい。全部……」

「どうやら、私たち、閉じ込められてしまったみたいですね……」



 内務省特務機関バベルに、緊急で特A級の要救助者アリとの通報が入ったのは、数時間前のことだっ

た。
 特A級要救助者とは、被災現場の状況が非常に特殊で、助けるには超能力者の力が必要となる者のこ

とを言う。
 それはバベルが擁する超度7のエスパー、「ザ・チルドレン」が普段から主にこなしている仕事でも

ある。

 通報を受けた皆本、チルドレンの三人、そして桐壺が不在だったため秘書の柏木が代理として現場へ

急行した。

 行ってみると被災現場とやらは港に面した倉庫だったのだが、特に火災や崩壊の様子は見られなかっ

た。
 状況をいぶかしみながらも全員が倉庫内に足を踏み込んだところで突然背後の扉が閉まり、今の状況

に至る。



「くそっ、どういうことだ。いったい……?」

「ようこそ、バベルの諸君。我々『普通の人々』が開発した対ESP神鉄メッキの効果はいかがかな?」

 狼狽の色を隠せない皆本たちの目の前に、倉庫の奥から人影が姿を現す。

「わざわざお越しいただいて恐縮だが、君らには死んでもらおうと思う」

 もったいぶった口調で話す人影は、体中を漆黒の金属で出来た全身鎧で覆っていた。
 その鎧はフルフェイスのメットのように顔まですっぽり覆っており、どこかにわずかに空いている空

気穴から「しゅこー、ぱー」という呼吸音がわずかに漏れている。

「おまえは……!?」

 皆本がゴクリと息を飲み、人影を指差す。
 と……

「おいっ、コイツ、ダース○ーダーだぜ、ダースベー○ー! テレビで見たことある!」
「こないなコスプレしてて、恥ずかしくないんかいな、コイツ」
「ってゆーか、これで『普通の人』を名乗るかしら。ふつー?」

 薫たちの口出しにより、張り詰めていた空気が一気にずっこける。

「バベルに入った救急通報は、私たちをここにおびき出すための罠だったということですか」

 しかしなんとか冷静に話を戻す柏木。
 こころなしか鎧の男もホッとしたような顔を……もとい、顔は見えないので吐息を漏らした。

「その通りだ。この神鉄の鎧にはエスパー諸君の攻撃は通用しない、そして神鉄に囲まれたこの倉庫内

から君らは脱出できない。まさに、絶対絶命というわけだ」

 そう言って、鎧男はおもむろにレーザーブレードを取り出した。
 高出力高温のレーザーで、冷凍食品もサックリきれいに切れるというスグレモノだ。

「おもしれー、スター○ォーズごっこか? じゃ、主役はあたしがいただきだなっ! サイコ・――」

 言うが早いか、薫は腰だめに構えた手のひらにサイキックパワーを溜めながら突進する。
 ワクワク感に輝く目からは、相手にESPが効かないことを明らかに忘れている色が見て取れた。

「やめえ! 薫!!」
「ダメよ! 薫!」
「薫ちゃん!!!」

「―――ライトセイバー!!!……あ、あれ?」

 案の定、鎧男につきつけられた薫の手からは何も出なかった。代わりにプスンッという擬音が出そう

なほどに。
 男は余裕の表情で薫を見下し、構えていたレーザーブレードを振り下ろした。

「個人的な恨みは特に無いが、普通の人々の未来のために。死ねっ! エスパー!!」

「やばっ!」

 避け切れない。
 念動力は使えないし、葵のテレポートも使えない。
 薫が次の瞬間を予感してぎゅっと目を瞑った、そのとき、誰かに突き飛ばされた。

「ぐあぁぁっっ!!」

 何がなんだか分からないまま、自分でない誰かの叫び声を聞く。
 肉の焦げるイヤな音と臭いがする。
 ふと目を開けると、自分の上に覆いかぶさっているものがあった。


「みな……もと………?」
「ぐっ…無事か!? 薫ッ……?」

 皆本が顔を軽くしかめながら、自分を見下ろしていた。

「あ………」

 薫が何か言う前に、皆本は薫の隣側にどさりと崩れ落ちた。
 見ると、背中がばっさりとやられている。傷はかなり深そうだ。

「皆本はん!」
「皆本さん!」

 叫ぶ葵と柏木。

「重要な器官は傷ついてないけど、このままだと出血多量で危ないわ。一刻も早くここを出て止血しな

いと……!」

 いち早く駆けつけて症状を視る紫穂。

「あ…………」

 固まったまま動けない薫。


「まあそう悲しむこともあるまい。いずれ君らも後を追うことになるのだからな」

 三人の頭上に、鎧男の無神経な言葉が降りかかった。
 その瞬間、薫の中で何かがキレた。

「テメー……!!」

 すっくと立ち上がった薫の周囲で、何かがすごい勢いで巻き上がっていた。
 髪の毛も逆立ち、半泣きだが鬼気迫る表情だった。

「あれは……?」
「触ってないから詳しくは分からないけど、空気中や床からチリやホコリを集めたものみたい。直接サ

イキックパワーが効かなくても、あれをぶつければもしかして……」

「なん…だって……?」
「皆本はん!」
「皆本さん!」

 葵の問いに対する紫穂の答えを聞いて、紫穂に膝枕されていた皆本がうっすらと目を開けた。


「ぶっ殺してやる―――!!」

 薫は巻き上げたものを身体の周囲に渦巻かせ、突進体勢をとる。

「面白い、そうでなくてはな。かかって来い、勝負だ!」

 鎧男も、呼応してレーザーブレードを構えなおす。


「やめろ――! 薫ッ! 殺す……なげぶっ」
「あかん!」
「無理しちゃだめ!」

 皆本の叫びは自らの吐血によって遮られた。
 それでも皆本は、血だらけのまま、つぶやく。

「殺しちゃ…ダメだ……おまえらの力は、そんなことのためのものじゃ…ない……!」

 しかしそんな皆本の想いは、頭に血が上った薫には到底届いていなかった。

 薫が、飛び出す。ドリルのようなチリの気流をまとって。
 同時に、鎧男も飛び出す。

「ダメだッ―――!!!」

 最後の力を振り絞って皆本が叫んだ瞬間、二つの影が交錯した。

「「薫ッ!!!!」」

 葵と紫穂が叫び、息を飲む。
 しかし二つの影はどちらも重なったまま、いくら待っても微動だにしなかった。
 いや、よく見ると真ん中にもう一つの人影が重なっている。
 それは……



「「朧さん!!?」」

「なにっ? 柏木さん!?」

 二人の間には、柏木が割って入って、双方の攻撃をその身で防いでいた。
 レーザーブレードの斬撃を肩口に受け、薫の突進を抱きとめるかのように胸で受け止めた柏木は、し

かし全く出血していなかった。
 そのかわり、切断されて腕がもげかけた肩口からはショートした導線が見え隠れし、突進を受けた胴

は不自然に凹んだままになっている。

「ま、まさか……」
「朧さん……」
「ウソだろ……?」

 葵も紫穂も皆本も、一様に呆然としていた。そうするしかなかった。
 柏木は、そんな彼らの方をくるりと向いてにっこりと笑った。
 たしかに笑ったのだが、その顔の半分は高温のレーザーによって皮膚が焼け落ち、むき出しになった

金属が黒光りし、目には瞳の代わりに赤い光が宿っていて、かなり迫力があった。

「ゴメンなさい。今まで黙ってたけど、私、軍で特殊開発されたアンドロイドだったんです」

 今の姿を見れば一目瞭然で言われるまでも無いのだが、やはり言われてみると改めて衝撃的だった。


「「「「「………………」」」」」

 その場に居る誰もが、鎧の男すら呆然として口も利けない状態だった。
 誰もが、目の前の事実を一生懸命否定しようとしていた。
 しかし柏木だけは、一人淡々と活動を続けた。

「とりあえず、この刀は危険ですのでおあずかりします」

 鎧男からレーザーブレードをもぎ取る。
 男も多少は抵抗したが、ギリギリとすごい力で柄をひねられて、たまらず手を離してしまった。

「失礼っ」

 刀を持った柏木は、その柄の部分を両手で持って膝に叩きつけ、造作なくポッキリとへし折る。あた

かも凍ったチューペットでも折るかのごとく。
 柄の機械部分が破壊されたレーザーは、その出力を失い、ただの折れた棒になった。

「なっ……!」

 鎧男は、折られたレーザーブレードを指差したまま二〜三歩あとずさりし、そのままペタンと尻餅を

ついてしまった。
 どうやら、よほど強度に自信のある品だったらしい。


「薫ちゃん、あなたも。他人を傷つけるために能力を使ってはいけないわ。皆本さんの気持ちを分かっ

てあげてね」

「あ…う……」

 両肩を掴んでやさしく諭す柏木に、しかし薫は即座に答えを返すことがでなかった。
 なんというか、その……間近で見る片側ロボットの顔は、少々迫力がありすぎるところがあった。



「さあ、皆本さんの治療を急がないと。脱出しましょう」

 柏木は、未だに身動き取れない一同の間をすり抜けて、閉じられた扉に向かう。
 そしておもむろにものすごいパワーで扉をこじ開けようとする。が、扉はビクともしなかった。

「そう簡単には開かないか……」

 つぶやいて、柏木は後方をチラリと振り向く。
 鎧の男は尻餅をついたままガタガタと震えている。目の焦点は完全にイってしまっていて、もしかす

ると失禁もしているかもしれない。それが漏れて来ないのだとしたら、鎧の機密性も大したものだ。中

は大変なことになっているのだろうが。


 続いて薫の、葵の、紫穂の、そして皆本の顔を見る。

 みな一様に、驚いた顔のままこちらを凝視していた。
 そのまなざしからは特に嫌悪や畏怖の念は感じられなかったが、目の前の現実に対してどう対処して

良いか分からないといった様子が見て取れた



「仕方ない…か………」

 柏木は寂しげに笑って、冷たい金属の壁にもたれかかるように、そっと寄り添った。
 そして、目を瞑る。

「皆本さん……」
「……は、はいッ!?」

 突然呼ばれて、皆本は反射的に返事をする。

「あの子達のこと、あとはよろしくお願いしますね。それと、背中の傷、お大事に……」
「え? それって……?」


「葵ちゃん、紫穂ちゃん……」
「はいなっ?」「な、なに?」

 葵と紫穂の反応も、皆本のそれと大差ない。

「好きなのは分かるけど、あんまり皆本さんのこと、困らせちゃダメよ」
「え? ええっ?」「そんな……」

 柏木は二人の反応に顔の半分でくすくすと笑ったが、すぐに真顔に戻る。


「薫ちゃん」
「……な、なんだよ」

 薫は少しどぎまぎしながらも、まっすぐに柏木の目を見つめた。
 片っぽが赤く光っているのが、やっぱり少しコワかった。

「私が死んでも、まだ『ぶっ殺してやる』なんて言ってたら、恨んじゃうからねっ」
「え!? ちょっ、朧さん、死ぬって!!??」



「さよなら、みんな。私が一緒に居られるのは、ここまでだったみたい」

 それが、柏木の、最後の言葉だった。


 次の瞬間、柏木が居た場所を中心に閃光がほとばしり、ものすごい爆音が倉庫中に響き渡る。

 それはアンドロイド柏木朧が、自らの命を燃やし尽くした瞬間だった。








「…うっ…なんてことだ。まさか柏木さんがあんな……それに自爆なんて………」

「皆本はん、黙っとき。今はしゃべらん方がええ」

「そういえば気にしたことなかったけど、私、今まで一度も朧さんの手を触ったことなかったっけ……



 あの後、爆発によって開いた扉から葵のテレポートで脱出し、今は倉庫前に続々とパトカーや救急車

が集まって来ているところだった。

「朧さん………」

 薫は、少し離れたところで倉庫の方を眺めていた。
 警官隊がせわしなく出入りをしており、鎧の男もタンカで運び出されている。

 そんな様子を見るともなしに見ながら、薫はぽつりと、しかし決然とつぶやいた。

「あたし、約束する。もう二度と『ぶっ殺す』なんて言わない!!」

 その瞳には、ゆるぎない決意の光が宿っていた。

「ウチもや。この能力は、人を殺すために使ったりはせえへん」

「皆本さんを困らせないためにもね」

 いつのまにか並んでいた葵と紫穂も同調する。


「おまえら……」

 少し離れたところで横になっていた皆本は、安心したように笑って目を閉じた。
 もしかして、これで薫が破壊の女王などと呼ばれるような未来は避けられたのかもしれない。

「柏木さん……ありがとう…………」

 今は、それしか、言葉が見つからなかった。





「君たち! 無事だったかネ!!?? 良かった!! 本当に良かったヨ!!!」

 局長の桐壺は、遅れて駆けつけてきて、パトカーから飛び出すや否やチルドレンの三人をいっぺんに

抱きこんみ、ひとしきり咽び泣いた。

「すまなかったネ。私がちょっと留守をしたばかりに危険な目に目に遭わせて!! こんなことなら予

算会議なんて放っておいて君たちについていてやればよかったヨ!!」

「局長……それは……マズいでしょう」

「おお、皆本クン。ひどい怪我だネ。でも、まあ生きていて良かったじゃないか」

 チルドレンに比べてあまりにひどい扱いの違いだが、それはいつものことだった。
 それより桐壺がここに駆けつけてきたということは、いずれ予算会議は放って来たのだろう。
 さすがにそれはマズい。ヘタしたら来年度のバベルの予算が無くなってしまうかもしれない。

「局ちょ……」
「局長! 嬉しいお気持ちは分かるのですが、みなさんの無事を確認なさったら、すみやかに会議の方

に戻りませんと。来年の予算に、ひいてはこの子たちの生活にも関わります」

 皆本が口を開きかけたとき、誰かが皆本の代わりに言いたいことを言ってくれた。
 いや、「誰か」というか……

「へ………?」

 皆本の目が点になる。

「あ…?」「え…?」「うそ……」

 事態に気づいたチルドレン三人の目も一様に点になった。



「どうしたんですか? みなさん。私の顔に何かついてますか?」

「「「朧さん!!!???」」」

「はい……?」

 柏木は驚きの声を上げる一同に対し、小首をかしげて、間の抜けた返事を返した。


「え? だって、朧さんは、ねえ。あれ……?」
「ま、まさか、薫がようええ子にしとらんから、恨んで出てきた幽霊?」
「ええと、さっき向こうで爆発したのが朧さんで。いま目の前に居るのが朧さんで……」

 薫も葵も紫穂も、かなり動揺して倉庫内と柏木の間で視線を行ったりきたりさせた。

「どういうことだ…? 柏木さんは確かに僕たちを助けるために自爆したはず……」

 瞠目する皆本。



「ああ……」

 柏木は、そこでやっと事態を把握したようだった。
 少し寂しそうな、困ったような笑いを見せる。

「それについては知らないんです。私、たぶん、三人目ですから」


「三」「人」「目」「!?」

 見事に合唱した四人は、そのまま開いた口がふさがらなかった。

「そうか、君たちには黙っていて悪かったがネ。柏木クンはアンドロイドで、日に数回のバックアップ

をとっているから、レストア用のボディさえあればいつでも最前の状態から復元できるのだヨ」

「すみません。本当にご心配をおかけしました」


「「「「……………………」」」」

 こともなげに説明する局長と、バツが悪そうに謝る柏木。
 そしてそのまま場が凍りつく。



「まあ………」

 たっぷりと空白の間をとった後、薫が口を開いた。

「…あれだな。『ぶっ殺す』とは言わないけど、ノーマルなんて代わりはいくらでも居るんだし、いつ

か間違って死んじゃうってこともあるかもな」
「『正当防衛』ゆうのもあるしな」
「いっそサイボーグにでもしちゃえば、たいていはなんでも蘇生できそうだし……」

 葵と紫穂も口をそろえて並んだ。


「お……ぉまえらなぁ………」

 皆本はもともと失血で失いかけていた意識が、急速に遠のくのを感じた。
 うすれゆく意識の中で、皆本は漠然と現実逃避ぎみの思考にとらわれていた。

(それにしても、柏木さんが二人目に入れ替わった時には、いったい何があったんだろう……)



 まだまだ、ぜんぜん分からないことだらけだった。

 未来が変わるかどうかも、

 柏木さんの過去についても………

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