ザ・グレート・展開予測ショー

プロメーテウスの子守唄(1)


投稿者名:Iholi
投稿日時:(00/ 5/ 1)

その日の美神の事務所はめずらしく朝っぱらから賑やかだった。
こんな日にはロクな事がない、そう、分かっていたはずだった。

「頼むから、もう帰って頂戴。私にはアンタと違って暇じゃないの。」
「だぁーー! 未だ何も言ってはおらんだろうが、美神令子! 顔を合わせるなり
その態度は何だ! 日頃から無礼な奴だとは思っておったが、ここまでとはな! 」
応接室兼執務室である事務所の書斎。デスクに覆い被さらん勢いの黒衣の老紳士は「ヨーロッパの魔王(自称)」ドクターカオス。その傍らに控えている黒地のチャイナドレス風レザースーツを纏った少女は「人造人間」マリア。
一方の美神令子はというと、クッションのきいたアームチェアに深々と腰を沈めてさも面倒臭そうに眉を寄せて腕を組んでいる。淡いレモン色のブラウスと水色のパンツをいつも以上にラフに着ている為か、一層気怠そうに見える。
一応ひととおりメイクも済ませてはいるが、とても客を迎える態度ではない。
「そういうアンタもずいぶんと失礼じゃない。今は営業時間なのよ。ここにいて良いのは関係者(スタッフ)と依頼者(クライアント)だけなの! 」
「全く! 近頃の若いモンは年長者に対する礼儀というモンも知らぬと見える。貴様を見ておると、この国の国民が如何に高齢者や外国人にたいして無関心でいられるのか分かる気がするわい。のう、マリア。」
「ドクター・カオス・そろそろ・話を・本題に」
「? ……おぉ、そうじゃった、そうじゃった。」
数瞬の間があったものの、ここに来た目的を思い出すことが出来たらしい。
軽く居ずまいを正しオッホンと軽く咳払いをすると、カオスは皺だらけの顔に一層の皺を刻みながら高笑いした。。
「……ハハハハハ……実はな美神令子、今日は良い儲け話を」
「お断りよ。」
机に付っ伏すカオス。
「がぁーー! 未だ何も言ってはおらんだろうが! もちったぁ儂の話を効けい! 」
「どうせ、またロクな話じゃ無いんでしょ?もうこりごりよ。」
実際、カオス絡みの「儲け話」にはロクなものが無い。そりゃあ多少なりともリスクを伴うのはいつもの仕事とそう大差無いが、実務、利益どれを取っても割に合った試しが無い。面倒臭くて見返りの期待できない事に、する価値は無い。
「まぁーだ昔の事を根に持っておるのか。大丈夫、今度の計画は完璧じゃよ。」
自信たっぷりのカオスの笑みが、美神の不安を倍増する。
「おはようございます、カオスさん、マリアさん。さあ、お茶をどうぞ」
「おぉ、おぉ、済まんの嬢ちゃん。マリアには電気を馳走してくれんかの」
ゆったりとした若草色のワンピースにフリルの前掛けを着けたキヌが、ポットとカップとサンドウィッチの載った盆を片手に入室した。お茶、といってもランチくらいのヴォリュームはある。日々の食事にも事欠くカオスに対する、彼女なりの心遣いだ。笑顔と共に盆の中身を応接机の上に並べるとカオスは引き寄せられる
様にソファに腰を据えると、特製ランチに手を伸ばす。キヌはその足で充電用の延長タップを取りに部屋を出た。
『してやられたわ。カオスがテンパっている内に呆れられるなり怒らせるなりして何とかお引き取り願おうかと思っていたのに、こう落ち着かれては一遍ぐらいは話を聴いてやらなくてはいけないじゃないの! まさかおキヌちゃんも私に悪気があってカオスをもてなしている訳ではないし……仕方無いわね、やれやれ全く、もう。』
そう独りごちつつも、美神は幸せそうに紅茶をすする老人をまんざらでもない様子で眺めた。

この老人の食事の直後、美神はこの時の決断を後悔することになる。

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