距離。
投稿者名:cymbal
投稿日時:(04/11/ 8)
空から落ちてくる、白い結晶。辺り一面の雪景色。
そして足元に絡みつく冷たい感触で、自分が都会にいない事を実感させる。
冷たくなった指先に白い息をかけた。消えかかる感覚を取り戻そうとして。
手袋はさっき溝にハマッた時に濡らしてしまった。ついてない。
久し振りに田舎の実家に帰ったは良いけれど、のんびりとしている訳にもいけないのだ。
家のお手伝いを進んでしなくてはいけない。出来る事はしなきゃ。
そして今は買い物の帰り。夏場なら何でも無い道の筈なのに、白い雪道が私の前方を遮る。
・・・忠夫さんは今、何してるかな。道に作られている雪だるまを見て思った。少しムカムカする。
なんでそんな事考えたんだろう?雪だるまなのに。この赤いバケツの帽子のせいかな。
今はもう、そういう印象はないけど。段々と雪だるまと夫の顔が重なる。
「ていっ。」
履いていた長靴で思いきり「夫」を蹴飛ばした。ゴロンっと雪だるまは横に転がる。
すぐに冷静になり、作った子に申し訳無いと思った。すぐに立て直す・・・が。
「何で三日も経つのに迎えに来ないの!この馬鹿!」
どさっ。
再び「彼」は雪の地面に転がった。私の吐く息はとてもとても白く見えた。
その500メートル後方。
私こと横島忠夫は雪道を歩いていた。何をしに来たのかといえば妻を連れ戻しに来たのだ。
何故かといえば最近喧嘩して、妻に実家に帰られてしまったから。仕事のせいで三日も遅れてしまった。
ますます怒ってるだろうなあ・・・。寒さと恐怖が身体を包み込む。
喧嘩の原因は・・・女癖の悪さ。やはり血は争えないと自分で思った。
最近、眼鏡をかけだしてますます父親に似てきたような気がする。正直、あまり良い気はしない。
でもコンタクトはどうもピンとこなかったので、仕方無しにと云う奴だ。
それゆえ眼鏡に雪がかかって周りが見にくくなる。さっきから何度も何度も拭き直していた。
「と、おっと。」
雪に隠れていた溝にはまりそうになった。この寒いのにこんな所から抜け出す努力はしたくない。
良く見ると少し先に誰がが落ちた後が残っていた。ドジやなあ・・・。
その450メートル前方。
改めて実家に向う。雪だるまを又直して。物に当たるのは良く無いなあ・・・と思った。
家でもたまに食器とか投げちゃうし。自分がこんなにヒステリックだとは昔は思いもしなかった。
うつむきながら、かじかんだ指先に再度息を吹きかける。足取りも少し重い。それにやっぱり寒い。
こんな時、誰かが隣でいてくれればいいのに・・・馬鹿。ちょっと涙が出た。
その300メートル後方。
非常に反省している。ついつい依頼人の女性に色目を使ってしまったのは事実だ。
自分が悪く無い・・・とは絶対に言えない。だけど、だけどさあ・・・男としてさあ・・・そーゆう時はあるんだ。
別に何をしたって訳じゃない。少し喫茶店で話をして、少し夕飯を食べて、家まで送って・・・。
いや、本当にそれだけなんだって。そりゃ寄って行きませんか?とか言われちゃったりしたけど。
そこはグッとこらえたし。嘘はついてないから!その後も何回か会ってしまったのは駄目だけど。
・・・止めた。自分で墓穴を掘っているような気がしてきた。俺ってこんなに悪い奴だったのかあ・・・。
ちょっと涙が出た。ごめんおキヌちゃん。でも何もしていないのはホントだ。それだけは言える。
その200メートル前方。
心の浮気は許したく無い。例え何もしていなくても、私以外の人に心が少し向いていたのは確かだし。
向こうに居た時は、何度彼が謝ろうともしばらくは許すつもりは無かった。嫉妬深いとか言われても構わない。
・・・私はこっちに来た事は彼はすぐに気付いただろう。早く来てよね。仕事があるのはわかってる。
でも、それをほっぽり出してでも来てくれるのが愛情じゃないの?私、間違ってるかな?
とにかく誠意を見せて欲しい。でも・・・本当は会いたいだけかも知れない。
その100メートル後方。
こんなにのんびりと歩いていてはいけない。一分一秒でも早く会わなければ。
何をのんびりとしてるんだ俺。早く会ってちゃんと謝りたい。
彼女は良くこんな事を聞いてきた。一番愛しているのは誰か?って。
そんなのほんとは言わなくてもわかってるけど。いつもは恥ずかしくて言えないけど。
今日だけは言葉にしてみよう。
そんな事を彼女に何度も言わせてしまう自分が、腹立たしくて情けない。
そして視界の先に、見覚えのあるコートの女性。
その50メートル前方。
言葉に出して言われないと不安になる。結婚してからいつもそうだった。
誰にでも優し過ぎる事が。そして調子が良過ぎる事が。私を落ちつかせてはくれ無かった。
もし、このまま今日までに彼が来なければ・・・・・・
「別れちゃおうかな。」
「っておい!?ごめんなさい!遅れてすいません!だから別れるとかそーいう事は言わないで!!」
「わあっ!?」
びっくりした。急に後ろから忠夫さんの声がしたから。たった三日会って無いだけなのに。
随分と懐かしく感じた。そして・・・嬉しかった。でもここで甘やかしてはいけない。
「何で謝るんです?それに何しに来たんです?」
冷たく冷たく言い放つ。彼に背を向けて。怒りのオーラを発しながら。
「えーっとですね。その・・・何でしょう。あの・・・。」
その後方1メートル。
いざ目の前にすると何も言えない。つーか恐い。ひええ、めちゃめちゃ怒ってるやんか。
何か別れるとか呟いてるし。どーしよ。よくよく考えたら謝るっても特に依頼人と何かした訳でもないし・・・。
少し心移りしてすいません・・・とか?何か馬鹿みたいな言い分だぞそれ。えーと、えーと。
ああ、もういいや!ヤケだ。何でも言ってやる!
「言いたい事は何ですか?寒いんで早く言って下さい。」
「その・・・・・・愛してるんで、帰って来て下さい!!それと、少し心移りしてすいませんでしたー!!!」
距離0メートル。
おしまい。
今までの
コメント:
- もう冬ですね。今年も雪が見たいなあ・・・。コメントお待ちしております。 (cymbal)
- すごくいいです。
読みやすいし、面白い。 (橋本心臓)
- 前と後ろ。
行ったり来たりな描写が、何とも言えず可笑しいです(笑
二人の気持ちも感情移入しやすいですし・・・w
ただ何よりも、「距離0」ってコトは二人が抱擁を交わしたと解釈しても(暴走
良いお話でしたっ☆ (龍鬼)
- 橋本心臓さんへ。
ありがとうございます。読みやすいと言って頂けると本当に嬉しいのです。
まだまだ到らぬ点もあると思いますが、頑張ってまた書いていきたいと思います。
コメント感謝致します。
龍鬼さんへ。
ええ、どう解釈して頂いても結構です(笑)行ったり来たりを繰り返すのは何となく、思い付いたものですが、普通に読んでもらえたようで安心しました。コメントありがとー。 (cymbal)
- ヤキモチ焼きなおキヌちゃんが可愛い…
狭まってくふたりの距離と、心理描写とが巧く絡まってて面白かったです。 (偽バルタン)
- 偽バルタンさんへ。
コメントありがとうございます。最近こんな話ばかり書いてまして・・・(笑)
えーと、何だか良いコメント返しの言葉が見つからなくてすいません(笑)でも本当に嬉しいです。また頑張って次の作品に感想などを生かしていきたいと思います。 (cymbal)
- 距離零メートルになってよかったですね。おキヌちゃんの隣には、こんな横島が、やっぱ一番よくにあう・・・(愛)おキヌちゃんにだけは、こんな横島であって欲しいです。んでもって、どんなおキヌちゃんだとしても、隣に在るのは横島でいて欲しい。ホントにありがとうございました。 (マグナムエース)
- マグナムエースさんへ。
ええ、そんな感謝されてしまいますと照れてしまいます(笑)でもこの二人はやっぱりオサマリが良いと云いますか、隣同士にいるのがほんとにお似合いですよね。いつまでも一緒に居られますように・・・。コメントに私からも感謝致します。ありがとうございました。 (cymbal)
- 山の雪道って結構進むのに労力と時間が要ります。だから縮まって来る距離にも何となく重みを感じる様な。
おキヌちゃんは雪だるまを蹴るのに結構力加減したのかな?…蹴ったら砕ける事が多いので。そんな所も彼女っぽいです。
最後が50センチとか1メートルかなと思ってたら、「0メートル」で終わったのが良かったです。 (フル・サークル)
- フル・サークルさんへ。
ううむ、そうですね。蹴ったら壊れちゃうか・・・そこが優しさですよ(笑)とまあ、似たような話ばかりなんですが(笑)コメントありがとうございます。 (cymbal)
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