ザ・グレート・展開予測ショー

サイレントムービーミュージック


投稿者名:トンプソン
投稿日時:(04/11/ 7)

このご時世だ。
数年前までは映画館であったこの建物。
シャッターが下りて中は荒れ放題。
ついでに霊も出たとか。
当然GSの出番である。
今回はその任にあたったのが、六道冥子である。
「ここの〜〜〜除霊なの〜〜〜ピートちゃ〜〜ん」
「たはは」
軽く苦笑を漏らしたはピエトロ・ド・ブラトー。
身体つきはともかく年齢にしたら30倍は優に超えているのだが。
仕事の前。
唐巣神父に手助けを願い出たが生憎外せない用事がある。
「なら、ピート君をお貸ししましょう、それでよろしいですか?」
という流れ。
事前に依頼主から借りてきた鍵がさび付いててもたついたのは。
いくら彼女がおっとりした性格だからではない。
「ピ、ピートちゃ〜〜ん、手伝って〜〜」
「はい、じゃあガレージ上げますよ」
ピートが手伝って漸く上がった、ガレージに溜まった錆が頭に降りかかっていく。
お次は溜まりに溜まった埃が、急に外に出された。
「ケホン、ケホケホ」
思わず咽た冥子である。
「う〜、酷いわね〜〜」
「そうですねぇ。冥子さんの髪が」
「髪が〜?」
近くのガラスを鏡代わりに使うと。成る程。
「あ〜、白髪みた〜い。いや〜〜」
あわてて頭を叩くが、どうやら水で落とさない限り落ちる気配もない。
「あうぅ〜」
仕事前にこのテンションである。
ところが。
「いや、その冥子さん白髪というよりも銀髪みたいですよ」
「・・・そう?」
「失礼かもしれませんけど、似合ってますよ」
ピート、これでもイタリア系だ。いざとなれば女性の扱いは慣れた物。
生態の一部とでも言おうか。
「もぉ〜〜口がうまいんだからぁ〜〜〜」
こちらは小娘が如く小躍り状態とでも言おうか。
「さぁ、シャッターも開きましたし、仕事を終えましょう」
いい仕事をしたとでも思うのか、やや胸をはって廃屋になった映画館に入るピート。
「そ、そうだったわね〜〜、あ〜〜待って〜〜〜〜」
どちらがメインか判ったものではなかった。
さて、お決まりで式神ファンテリュージョンアタック、という方程式がある。
言わずともがなではあるが。
ところがだ。
ピートのくどき文句が決まったのか、はたまた成長か。
おそらくは前者だろう。
それに大した敵がいなかったのも事実だ。
子供の御伽噺から出てきたような動物とも魔物ともつかない妖魔がたむろしていただけであった。
「かわいそ〜〜だけど〜〜、吸引するわ〜〜ごめんね〜〜〜」
こんな調子で十分であった。
キュウと目を回して破邪札に封印されたのが最後の妖魔。
ピートも最初は冥子に纏わり付いていたがこれは必要なしと見て別行動。
映画館の心臓部ともいえる映写室を見回りにきたはいいが。
「霊的反応無しっと、客席に戻るか」
戻ろうとしたその瞬間。足元に丸いものがあった。
「ん?これは・・」
今でも使われているのだろうか。リールテープがそのままである。
「もったいないなぁ、何々」
表面に張られたテープに書かれている文字に目を奪われた。
「こいつ・・動かないのかな?」
ピート知識があるのか、埃に被った映写機に数十年ぶりとなる電気を通した。

客席では突然のブザーにカタカタと機械音が鳴り響く。
冥子でなくたとしても驚くのは当然の帰結だ。
「な、なに〜〜!」
おろおろして、泣き出すかの直前に。
「あ、冥子さんゴメンナサイ、脅かしちゃって」
「なによ〜〜驚いてなんかないもん〜〜だ〜〜」
上から声がしたのでその方向を向いて反論している。
「でも何やってるの〜〜いたずらしちゃ駄目じゃな〜〜い」
当然である。こんなほこりっぽい所に何時までもいたいとは思わない。
だが。
「すいません。でもどーしてもこの映画が気になって」
「映画〜〜?今流してるやつ〜〜」
「はい、そうなんです」
すいませんが、幕を開けてもらえませんか?とお願いまでしている。
「もぉ〜〜しょうがないわねぇ〜〜」
原因がわかれば驚きはしない。本来なら駄目だと言うべきであろうが。
素直に従うのが冥子が冥子たる所以である。
もう目にしないであろう手動の垂れ幕をあけると。
白黒の古い映画予告が流れてくる。
フィルムも情緒にあわせてかご丁寧にサイレントの様式。
字幕も外国語。これはイタリア語である。
「うわー、この映画現存していたんだー」
古い映画館の事、映写室と客席の行き来はドア一枚の構造である。
喜びながら客席の最後尾に現れたピートだる。
「ん〜〜??ピートちゃん知ってるの〜〜」
こちらはとんと判らぬ冥子である。
どうやらかつて乳母をしていた人が出ているとかだ。
「歳の割りにはかなり綺麗な人だったんですよ。だからきっと美人だと・・」
「はいは〜い。じゃあ折角だし下で見たら〜〜」
少しだけ嫉妬に近い冥子であった。
それを知ってか知らずか、ピートは冥子が座ろうとした椅子に持参した自前のハンカチを敷く真似をした。
「あら〜ありがと〜〜」
冥子とて負けていない。なんともなれば社交界の常識は一通り齧る家系だ。
座る仕草がサマになっていた。
加え有る程度の語学力はあるようで。
自力でイタリア語を訳そうとしている。
それがピートにはありがたかったようだ。
サイレント映画。
少々の文字とパントマイムで進むスタイル。音楽だけはなんとか場面に合わせている程度。
画面が飛ぶのはご愛嬌。これが味とでも言おうか。
だが。
「あっ、あーー!」
突如ぷちんと映写室で音が響くと画面は真っ暗。
からからとなるリール。
抵抗しているは音楽のみである。
音の精霊がいたとすれば。
意地になってでも終らそうとしている。そんな感である。
あわてて映写室に戻り機械に触るが。
所詮は素人。がっくりと肩を落としたピートである。
「乳母の若い頃が、見れなかったな」
これではどうしようもない、音楽リールも切るか、と手を伸ばすと。
今までの軽妙な音楽からモダンダンスのシーンの曲へと変わりつつある。
「ねぇ。ピートちゃ〜ん、ちょっと待って〜〜」
声を掛けられて再度客席に戻るピート。
その前の目で冥子は。
すっと腰を下ろしてスカートを両手で摘んでからお辞儀を一回。
「この曲に合わせて〜〜踊らない〜〜?」
「えっ?」
きょとんとした目をしたピートである。
何分彼女の真意がわからない。
それを察したのか。
「だって〜〜〜音楽さんは頑張ってるじゃない〜〜だから〜〜私達が答えないと〜〜」
何を答えるのか。作者にはわからないが、ピートには判ったのか。
「・・・そうですね、じゃあ手を失礼しますよ」
画面リールの雑音を消してホールに当たる部分で手を取り合った冥子とピート。
二人とも育ちのせいか、はたまた息があったのか。
誇りもまだある映画館のなかで華麗に踊れていた。
「冥子さん、なかなか」
「あら〜〜ピートちゃんもやるわね〜〜」
激しい曲なら互いの技術を見せ合ったもしらぬが。
今の曲には不釣合いである。
互いが庇いあって踊っている。
何も知らない唐巣神父、用事を終らせて様子を見にきたはいいが。
「・・何事ですかなぁ」
一人考え込むが精々であった。
音楽リールにも機械油が足りないのか、
きしきしと金属音が鳴ったが。
誰の耳にも入らなかった。

FIN

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