ザ・グレート・展開予測ショー

GS 新時代 【鉄】 其の四 プロローグ


投稿者名:ヤタ烏
投稿日時:(04/11/ 4)


どこまでも深い闇の道を男が走っている。顔は恐怖に歪み、鼻水を垂らし、口を犬の様に荒く、息つきながら
一条の光も差さぬ深淵の闇の道を、文字どうり必死になって走り、何かから逃げている。
男はパニックになりながら、何が起こったのかを思い返していた。

いつも通りに仕事終えて、同僚と深酒をし、家に帰ろうとしたがタクシーが捕まら無いので、
しぶしぶ歩いて家まで帰ろうとした。
誰もいない夜の川原を一人で酔い覚ましついでに、歩いていていると突然、何か妙な雰囲気に囚われた。
道が暗いのだ、夜中なのだから暗いのなど当たり前なのだが、何かが変だった。暗いといっても、
辺りには民家が建っているし、街灯も決して多くは無いが、歩くの不自由する程の暗さではないはずだ。
だが暗いのだ。最初は酔って視界狭くなったのかと思ったのだがそれも違う・・・
除々に足元が覚束なくなり、次第に手元もよく見えなくなると、いつの間にか自分の回りが完全な闇が落されていた。

闇の中でアタフタしていると、突然背中が焼きごてを当てられたかの様な痛みが奔った。
もんどりうって地面に叩きつけられると、今度は腹部が貫かれそうになる衝撃を受け自分の体が宙を舞っていた。
訳もわからずに立ち上がり、痛む体に鞭打ち命を永らえるために体を引きずる様にして、方向もわからず走るが、
行けども行けども何も無い真っ暗な道が続くばかりだ。

「見つけたぞ」
永久に続くと思われる闇の中から恐ろしく低い唸り声の様な声が聞こえる。
「逃がさない」
その声は除々に除々に自分に近づいている。
「匂うぞお前の穢れた血の匂いが・・・・」
そして自分はその声の主に覚えがあった。
「感じるぞお前の穢れた魂を・・・・」
だがどういう事だ?アレは自分達の目の前で死んだはずだ。そこまで考えると途端に、体が芯から凍り着く様な圧倒的な恐怖感
が男を支配した。一も二も無くその場にへたり込み平伏した。
「許してくれ、お願いだどうか命ばかりは・・・」
男は手を突き頭を地面に擦りつけ助命を懇願した。
「そうだな、手を・・・手を出せ」
「へっ?」
「手を出せ・・・と言っている」
意味も解らずに、おずおずと手を差し出そうとして気が付いた・・・・・・・・・・自分の手が肘の辺りから綺麗に無くなっている事に。
「ぎゃああああああああ」
地面をのたうち回り激痛に悶え苦しむその様を見て、男はさも残念そうに呟いたが、その顔には壮絶な笑みが浮かんでいる。
「なんといことだ、手を出せば許してやろうと思ったがなぁ」
「たのむ!お願いだお願いだお願いだお願いだ・・・・たすけてくれえええええ」
ただ喚き涙を流して懇願するが、それを見て男は心底呆れた様に呟く
「おいおい、なんて詰らない事を言うんだ。私が聞きたいのは、そんな陳腐な台詞じゃぁ無いんだよ。
もっと嬲り・傷つけ・切り刻み・臓物を垂れ流して・魂まで腐らしそれでもなお、生かされて苦しみを味わい続け、
最期には生きる事より、死の安楽に逃避する最後の言葉・・・・・・・・・・(殺してくれだ)。」

一人の人間の断末魔が辺りに響くが全ての声は、回りの闇に解けて消えた。
その晩の月は何時もより随分と紅い色だった。




________________________________________________________________________________________________



『昨夜未明○○町△川周辺で男性の遺体が発見されました。遺体はかなり損傷が激しく、四肢を切断されていることなどから
警察は殺人事件の容疑での調査を開始、なお現場周辺では不審者が目撃された情報もあり・・・・
得意な殺害形態からオカルトGメンにとの合同調査になるもようで・・・』







「ぶっそうねぇ」
朝のニュースを見ながら令子は呟いた。朝のドタバタした朝食は既に終わっており、ひのめ、蛍花、汰壱の三人はすでに、
学校へと登校していた。
昔の自分ならばどんな事件が起ころうとも、所詮他人事であったが娘や妹、息子が出来てからはやはり物騒な事件は
気になった、それが自分の家の近所での殺人ともなれば余計にである。
さしもの守銭奴の彼女も、今では立派な人の親と言ったところか・・・・・

つい数日前も息子の汰壱が、ブラックリスト妖怪相手に大立ち回りを繰り広げ、とんでもない大怪我を負ったばかりだ。
特に酷かったのが火傷と霊破砲の傷であったとか・・・・・
汰壱はしきりに
「神様・仏様・悪魔様なんでもいいので、あの馬鹿のツートップに罰をあたえて・・・」
とうわ言の様に繰り返していた。
傷の方は、本人自身の身体の頑丈さと、脅威的回復力と主に文珠のおかげで、次の日にはケロッとしていたが・・・
「誰に似たんだか」
そのこと思い出して令子は苦笑した。
血の繋がらない息子であるが、大切な家族である、そのため今回の出来事は令子と横島にショックを与えた。
今の今まで汰壱に霊能力から遠ざけたのがこんな形で帰ってくるとは、思いもよらなかった。

六道学園に入学をさせたのも、汰壱に霊能のエキスパート達が集う場所に行かせれば、思い直すと思っていた節があったからだ。
というより、まず入学自体不可能であろうと踏んでいた、根本的な霊力不足これが最大級のネックになるからだ。
汰壱が我流とはいえ、かなり小さいころから特訓していたのは知っていたが、元の霊力が常人と同じ程度しかないので、
いくら鍛えたところで高が知れている。
実際に汰壱は霊力判定で不合格になっているので、令子はそこで終わったものだと思った。
しかし他のテストの記録を見て驚いた。筆記の点数はかなり良かったが、問題なのは身体能力テストの結果である。
さすがの彼女もまさか人狼の記録を破っているとまでは思わなかったのだ。

結局、補欠合格で入ったがそんな物で汰壱は満足する筈もなかった、最近では従来よりも更に苛烈な特訓を繰り返している。
そして、それらを黙認した結果が今回の大怪我である。まさか何も持たずに、たった一人で除霊現場へ行き除霊を行うなんて
汰壱ほどの実力では、はっきり言って自殺行為以外の何者でもない、だが汰壱は獅子猿を見事に倒している、まあ倒したといっても
最終的には精根尽き果て、残った悪霊にやられる寸前でひのめと蛍花に助けられたし、勝てたのも文珠のおかげである事が多い。
しかし、驚くべき事は汰壱の耐久力だ、本人から聞くとかなりの打撃戦になっていたそうだが
獅子猿の攻撃力は一撃で人を破壊する。それと乱打戦に持ち込んで戦っていたのだから、恐ろしい事この上ない、

現に奇襲を受けたオカルトGメンの隊員達は、ほぼ一撃で殺されている。無論の事、令子も汰壱が【真呼吸】を使えることは
知ってはいたが、それらの【身体能力強化】は別段、特筆すべきほどの力でもない・・・・【魔装術】クラスともなれば話は別だろうが、
【真呼吸】は術の中でも、かなり簡単な部類の術で、それこそある程度の訓練を積めば誰でも出来るものだ。
要するに汰壱自身が、とんでもない程の耐久力を身につけていることになる。

話がそれてしまったが、今回の出来事で令子と忠夫は一つの決断をした。汰壱に仕事を手伝わせることだ。
余計に危険が増えるかもしれないが、このまま我流で突っ走って死なれたりしたらそれこそ取り返しがつかなくなる。
現に今回は救援が遅ければ確実に死んでいたのだ。
要は、そうならない様に、自分達がしっかりと訓練して導いてやろうというわけである。
言ってしまえば、汰壱の執念に負けたというわけだ。

「さて、どうしたものかな」
ため息をつきながらも、彼女の顔は楽しそうであった。






_____________________________________________



「という訳で汰壱これからお前を俺の助手にする。」
「はぁ・・・」
昼下がりのレストランで、二人の男が向かい合って座りなにやら話し込んでいる。
一人はパリっとしたスーツ姿でなかなかの男前であり、休みの日はボサボサにしている髪の毛は、今日はきちんと整えられている。
もう一人は全身黒尽くめのスーツに、髪をワックスで強引にオールバックにした、厳つい十五歳 汰壱・・・
言うまでも無くもう一人の男は、横島 忠夫である。

なにゆえこの二人は、平日の昼下がりのレストランいるのか?
忠夫はまだ良い、一見すると何処にでもいそうな、リーマンであり別に昼飯でも食べに来た、といった感じだ。
対する汰壱は、元からの老け面・ガッシリとした肩幅・黒尽くめ・目つきの悪い厳つい顔・・・・・893だ
「前回はチンピラで今回はヤクザですか?」
ジト目で横島を睨んでいる。
「何の事か良くわからんが・・・似たようなもんだろ」
「周囲の視線が痛いんですけどね」
「小さい事を気にすると、立派な大人になれんぞ」
「そういう小さい事を、蔑ろにする人間の方がどうかと思いますぜ」
やれやれと言った感じで大げさな、リアクションをとる横島。
「まったく、そんなんだからその年になっても彼女の一人もできんのだ」
「三十超えて妻子もいるのに、美人とみれば速攻で口説く人に、言われたくありませんな、挙句に未だに
解消しきれてない、女性関係を多数お持ちのようで?」
「ふっそれは違うのだよ明智君・・・・」
「だれが明智君じゃ・・・・・彼女ならいますよ」
「えっマジか!?誰々誰誰ダレダレ????」
汰壱はここぞとばかりに、にやーっと邪悪な笑みを浮かべて
「誰ってそりゃ・・・・・・・・・・・・蛍花ちゃんですよ・・・・」
一瞬、横島は固まり
「ふははははははははは!!」
笑い出した。
「ふはははははははははははははははははははははははははは・・・・・死ねぇえぇぇぇ!!!」
とんでもない勢いで汰壱に向かって【栄光の手最大出力モード】を振り下ろす。






ズガガガァアアン





「何すんすか!?殺す気ですか」
ぎりぎり寸での所で回避に成功、直撃していれば、この話が今回で最終回になるところだった。

「ああ死ね!娘に手を出す奴は皆死ねぇ!」


「おいい!目がヤバイ人になってんぞ」


一般人であるはずのリーマンが、非一般人のヤクザに、何もないところから突如抜刀!切り殺さんばかりに振り回して襲い掛かっている。

「冗談ですよおおおお!!」

「この場での虚偽は、死に値するうううう」


店の人たちはあくまで、我関せずといった感じである。

「そろそろ止めなくていいのかニャー?」

「皆、常連さんばっかりだから大丈夫でしょ・・・・・慣れてるし」

店の客はとっくに汰壱達から、離れて食事を再開している。


(また横島さんのところだ)といった感じで・・・・


黒猫と魔女のレストランでは、今日も盛況である。
すぐ隣で決死の攻防が行われている最中、店に新たなる来客が訪れた。

「いらっしゃいニャー」
ウエイターの黒猫が対応するが、二人の客は事も無げにスタスタと戦場に近づいてゆく。

「サア、汰壱ぃぃ覚悟しろ・・・文珠!」

文珠生成・・・発動      【黒/酢】

「いやー黒酢はやめてー!!鼻に入れんといてー」

「ほーれほれ黒酢は体にいいぞぉ」













スッパコオオン!!












小気味の良い音を響かせ、二人共仲良く、地面に叩き伏せられた。



「人を呼びつけといて、何の用かと思ったら・・相変わらず馬鹿ばっかやってんのねヨコシマ」

「タマモ、先生に向かって馬鹿と何事でござるか!先生、大丈夫でござるか?」


しばらくプスプス煙を出していたが、何事無かったかのようにムクリと起き上がった。
世界最強の回復力は伊達ではない。

「ああ、すまんな取り乱してしまった。しかしお前・・俺はともかく汰壱が・・・」

汰壱は、四回目になる臨死体験に突入して、川の中腹に差し掛かっていたとか。

「シロあんた、霊破刀でどついたりしたら駄目じゃないの」

「タマモも狐火で先生を焼いたではないか」

このままではこっちで喧嘩に成りそうなので忠夫は早々に話を始めた。

「あー判った判った二人とも、汰壱っ今回はこの二人の仕事を手伝ってもらうって・・・・おい」

「・・・・・・・・」

返事がない・・・。

「えっ!?これは汰壱だったでござるか、拙者てっきりどこかの極道かと」

「おーい汰壱大丈夫ぅー?」

自分達の足元でピクピクしている、汰壱をとりあえずタマモはつついてみる。


「大丈夫も何も俺はもう死ぬかもしれません。タマモさん」

「大丈夫みたいね」

どこをどう見れば、そういう結論に達するんだ。

久しぶりにあった人狼と妖狐の美女二人に、なんとはなしに身内の二人と、だぶる様に思えたとか。

古牙 汰壱

基本的にかなりの高確率でトラブルに巻き込まれる。しかしその大半が自業自得だったりもする。
危うく最終回になるところであった。





今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa