ザ・グレート・展開予測ショー

雨外伝(下)


投稿者名:NATO
投稿日時:(04/10/31)

43

「……」
無言で、硬貨をカウンターに並べる。
バーテンが、微かに頭を下げた。
話は聞けたのだから、もう少し置いてきてもよかった。
ドアを出て、そう思う。
音の無い、酒場だった。
ヨーロッパの魔王。
大の大人にはあまりに恥ずかしいあだ名にも関わらず、簡単に割り出すことができた。
どうやら自分で吹聴しているらしい。
そして、もう一つ。
「ここの支部の人間は、その存在を黙認している」
おそらく、助けは得られないだろう。
それどころか下手に使おうとすれば、後ろから狙われかねない。
頭を、軽く振る。
無意識に煙草をくわえていた。
どうせやることは変わらない。
腹でも、頭でもいい。
一発で、人は死ぬ。
どこに当たっても命ごと吹き飛ばすような銃は、好きではなかった。
自分の「能力」と、同じだから。
「……」
煙に映るもの。
少年。
二人だった。
過去しか、映し出したりはしない。
標的が映れば。
何も考えずに一発打ち込むだけでいい。
苦笑。
映るのは、せいぜい恨めしげに自分を見つめる「過去の標的」ぐらいのものだ。
煙に映るもの。
最後は、いつも、あまりに静かな眼で笑う少女だった。

44

電話を置いた。
報告。
次の報告は、浄化の完了時。
他の管理官のことは知らないが、緩い方だと思う。
「ヘルシング」
有名なヴァンパイアハンターの一族だと、風の噂で聞いた。
孫のことになると、矢鱈優しそうな目になる、男。
戦闘時のゴテゴテの鎧は気に食わないが、現役を引退して鎧が埃をかぶっている今、まあ良い上司といえるだろう。
一度だけ、孫娘を見せられたことがある。
どうしていいか分からずとりあえず頭を撫でると、嬉しそうに笑った。
五月蝿いくらいに、純粋な笑顔。
メルシアの顔と、似て、明らかに違っていた。
アン=ヘルシング。
幸福な、少女だった。

45

獣道。
鬱蒼とした森の間にある「ただ木が生えていない」だけの道を、歩く。
奥に洋館があり、そこが標的の家だと教えられた。
時折、聞いたことも無い獣の鳴き声が木霊する。
霊気も感じることから、おそらくは研究の成果を放し飼いにでもしているのだろう。
襲ってくる気配は無い。
踏みしめる枯葉が、音を立てる。
仮にも「魔王」なら、当に進入に気付かれているはずだ。
だから、あえて気にすることも無い。
煙草に火をつける。
雑草。
霊気を浴びて、変異していた。
教会に持っていけば、これだけで「異端」の資格有り、だ。
魔界。行ったことは無いが、おそらくこんなものだろう。
見たことの無い、草。
見たことの無い、生き物。
ただ、それだけだ。
不意に、全てが馬鹿馬鹿しく思えた。
馬鹿馬鹿しく消えていった人間が、煙の奥でこっちを眺めていた。

46

洋館。
正直、驚いた。
館というより、城に近い。
古い、領主の城。
そんな感じだった。
扉。
赤茶けた金具が、寂びた音を立てる。
「忍んできた殺し屋なら、煙草の煙くらい消したらどうじゃ?」
声。
別に、驚きはしなかった。
一直線に続く、絨毯の、奥。
白髪の、老人。
「まあ、待て。焦らずとも命くらいくれてやるわい。その前に少し、話し相手になってくれんか?歴史の影で、蠢く教会の闇。同じ闇に身を置くものとしては、興味があってのう」
銃口を向けた手が、止まる。
「……なんで、俺が来ることを知った?」
いつもなら、そのまま引き金を引く指が、動かなかった。
報告に、付け加える価値はある。
言い訳さえしている自分が、不思議だった。
「「内通者」じゃよ。話は聞いておろう?とはいえ、審問会の情報を探ってくるなど、相当切羽詰っているようじゃのう。血相変えて、逃げろといってきたわ」
馬鹿な。
「なぜ、「内通者」がお前を守る?」
「……ほう、食いついてきたようじゃ。中で話をせんか?茶ぐらいでるぞ?」
舌打ち。標的に興味を持つことなど、初めてだった。
「……ああ」
こいつを殺した後の「教会」のやり口は、分かっている。
それもあったのだろう。誘いを断ろうとは思わなかった。
「そうと決まれば―マリア。もう良いぞ。茶を用意せい」
横にいた腕から銃口を生やした、女。
――気配は、無かった。

47

「改めて紹介しよう。マリアじゃ。わしが作った」
無表情の女が、頭を下げる。
メイド服の上に身に着けたエプロンが、妙に似合っていた。
紅茶を流し込む。
美味かった。人殺しの道具を、埋め込んだ腕とは思えない。
「ずいぶん、趣味のいいダッチワイフだな」
「ふん。何百年生きたと思っておる。性欲など、当に忘れたわ。じゃが……おぬし、聖職者とは思えんな」
「ただの、人殺しだ」
老人が、笑った。
「ほう。自覚しておるとはな。面白い。わしは、Dr.カオス。まあ、知っておるだろうが「ヨーロッパの魔王」といわれておる」
「魔王」のところで、老人の胸が少し反る。
無邪気な、餓鬼。研究者だからか。
「魔王の城にしては、紅茶が美味い」
そのまま、返す。
老人は、拍子抜けしたように一瞬肩を落とすと。
「わかるのか。ますます、面白い男だ。それの、オリジナルの特技でのう。その味を作るのが一番苦労したわ」
また反り返る、胸。
だが。
「ノー。ドクター・カオス。ホンモノト、2,62パーセント、誤差、アリマス」
抑揚の無い声に、悔しさが滲んでいたのは、気のせいだろうか。
「死んだ後設定したお主に、なぜわかる?」
カオス。明らかに悔しそうだった。
「ノンダアトノ、表情ト、カイソウ時ノ表情カラ、スイテイシマシタ」
「思い出には、多少の誇張が入るものじゃよ」
「イエス。換算、シマシタ」
「……」
本物と違う。
それが、それほど悔しいのだろうか。
「すまん。そなたと、話しておったのだったな」
カオスが、思い出したように視線を向けてくる。
「……」
カップを傾けることで返事を返す。
「さて、「なぜ内通者がわしを庇うのか」じゃったのう。実は、今研究しているものが、そやつの依頼なのじゃよ」
反応を楽しむように、カオスは言った。
沈黙。
紅茶を流し込む。
カップに無くなった紅茶。カオスの後ろに控えていたマリアが、注ぎに来る。
沈黙。
「……張り合いの無いやつじゃのう。もう少し反応があるほうが、舌が進むというに」
「話さなければ、殺すだけだ」
マリア。カオスの方へ戻る途中で、立ち止まる。
「よい、マリア」
「……イエス。ドクター・カオス」
また、歩き、カオスの後ろに立った。
「せっかちなやつじゃ。……まあ、良い。今、作ろうとしておるのは、「エリクサー」と呼ばれる霊薬じゃよ」
「……そんなもの、骨董屋でも漁れば見つかるだろう」
「話は最後まで聞け。作ろうとしておるのは、特別製でのう。ある呪いを、解呪せねばならんのじゃ」
呪い。
教会関係者には、珍しくも無かった。大抵は死ぬ。
「「内通者」の孫娘が、今、其の呪いで死に掛けておる」
「エクソシストは、動かないのか?」
「異教徒の呪術が相手じゃ。頭の固い無能どもに何が出来る」
カオスが、哂った。
「お主なら、話は別じゃろうがな」

48

霊力には、属性というものがある。
神や魔に始まり、仏やその他土着の小規模宗教などに依存する霊力。
混合などもあるため、その数は百や二百ではない。
そのなかで、普通には存在し得ない属性が、三つある。
無。邪。そして、聖。
名付けるなら、そう呼ぶしかない三つ。混沌を作り出す、三色の色。本来、存在が持つなら、最も自然なはずの属性。
だが、混沌より出でて遥かな時を超えてある物体に、根源的な存在を定義する属性はありえなかった。
しかもそれが、意思を持った生命に定着することなど。
だが。
「「内通者」が、調べおったわ。お主が、何者かをのう」
もし、それがあったとしたなら。特に「聖」は。
「そして、今、あやつとわしには、「その能力」が必要なのじゃ」
自分たちを「正義」と名乗る集団にとって、これほどのものがあるだろうか。
全ての行いが、「聖」によって正当化されるのだから。
「驚いたわ。「聖属性」の人間を、この目で見ることが出来ようとは。キリストの誕生から、まだ二千年もたっておらんのにのう」
唐巣が教会に呼ばれたのは、その能力が故だった。

49

「生まれた時代が、良かったのか悪かったのか。いかに「聖属性」といえど、人々は理解できん。物がわかった教会の自己弁護位にしか使われんですんだのはまあ、僥倖というべきじゃろうな」
そういった人間に「汚れ仕事」が回ってくるのは当然だった。
どれだけ汚い仕事であったところでその人間の存在自体が、「聖」として肯定してくれるのだ。これほど都合のいい話も無い。
「……俺が、必要?殺すための力をか?」
全ての存在の根源を定義する色だ。
キャンパスを、真黒の絵の具で塗り潰すようなもの。
名だけは大層でも、猛毒とたいした違いは無かった。
霊力の開放。
それだけで、全ての人間が死んでいく。
相手が「異端」だからではない。
「異端」なのは、自分だった。
「……うむ。どうやら、当に失われた宗教の呪らしくてのう。その霊力を集めて、血清のようなものを作ろうと思ったのだが、無理なのじゃ。お主なら、相手の属性がなんであろうと関係なかろう」
「……」
「あやつは、この事を知らん。おぬしの「属性」は知っておっても、それが役に立つとは考えておらんのだ」
だから逃げろなどと下らぬことを言う。カオスは哂った。
だが。
「……そういうことか」
「ん?」
「「内通者」は知らんでも、俺の「上司」は知っていたのさ。それで、俺を寄越した」
君にしか出来ない。
つまりは。
カオスの顔にも驚きが走る。
「「内通者」は「ヘルシング」と、知り合い。あるいは……「本人じゃよ」」

50

表立って唐巣を動かせば、万が一漏れた場合「異端」として他の審問官に狙われる。
そこで、別の貴族をでっち上げ、その処理として向かわせたのだ。
せめてもの償いとして、唐巣の望みをかなえることを条件に。
「……あの男、とんだ狸じゃな」
おそらく、「破門状」など作られてはいまい。
いや、そもそもこの件が「教会」本部に届いているかどうかも不明だ。
噂で動いて事後承諾。「審問会」では日常茶飯事のことだった。
「だとして、俺があんたを殺す理由が消えたわけじゃない」
混乱。
あの男が私事で組織を動かすことなど、考えたことも無かった。
「じゃが、わしを殺したところでおぬしに何が残る?」
カオスも、驚かないわけにいかなかった。逃げないことを承知で、自分さえ騙しにかかる。それが出来る、男。出来るほどの、意志。
「……人質。か」
「?」
少年を、断絶している分家に迎え入れ、「背徳者」に金銭の面倒を見させる。
取引は、成立していた。
「もしお主が、人質を取られていたとしても、それで操ろうと思うような男ではあるまい。おそらく、自分が殺されることも覚悟しておるじゃろうな」
「そんなことはわかっている」
少年の面倒も見るだろう。自分が死んでもどうにか成るように、手配さえしているはずだ。
「……ということは、「呪い」は、アンが――」
思い出す、笑顔。
「知り合いか」
カオスが、顔をしかめる。
利用されていた。しかも、知人が己の最愛のものを助けるためにその命まで掛けて。
怒りと共に切り捨てる気にも、全てを知って利用されてやる気にも、なれなかった。
思い出す。一欠けらの、パン。
さあ、どうする?
あの男は、いつもこんな問いばかりを突きつける。

51

「ふむ。しばらく考えるが良い。もう、わしを殺す理由は無かろう?」
城の、一室を借りた。
この城には、使用人はいないらしい。
マリアと、数体の管理道具。
部屋は綺麗だった。
自分の部屋の、床と硬さの変わらないベッド。
感触のしない背中に違和感を覚えながら、寝転がって煙草に火をつける。
煙に映る、顔。
二人の、少女。
メルシア。
唐巣の、たった一度の脱走は、教会に付く前だった。
車に乗ろうと肩を抱く手を振り解き、元いた場所に走った。
一欠けらの、半分のパンでも、食べられれば生きる。
そういう世界。
だから。
今日で死ぬ少女が、食べられるわけも無い。
とっくに取り合いは終わって、多くの子供たちの誰か一人が、幾日かの命を手に入れたに違いない。
それでも。
唐巣が少女を抱き起こすと、少女は微かに笑った。
そして、ほとんど聞き取れないほどの声で、少女は自分の名を告げた。
メルシア。
彼女の、最期の言葉。
フランス人形のように、美しい少女。
傍らに無くなったパンは、彼女が食べたわけは無いのに。
彼女に、初めて付いた名前。
メルシーが、「ありがとう」を意味することぐらい、当時の唐巣でも知っていた。

52

「少し、良いか?」
声。
知らずに流れた涙を拭う。
「……ああ」
起き上がり、扉を開ける。
「酒の用意が、出来ておる。ちょいと、付き合わんかね?」
カオスは、無邪気に笑った。

「男二人で、乾杯は無いじゃろう」
グラスに注がれた、血のようなワイン。
自分のグラスにも注ぐと、一息で空ける。
「なかなか、良いものでな。おぬしの「上司」からの、贈り物じゃよ」
口をつける。
毒。気にするほど、命が大事ではなかった。
「……この城は、もともと、パトロンのものでのう。もう2、3百年は前の話じゃ」
カオスは、ゆっくりと語り始めた。
少年のように輝く目は、時々無性に腹だたしくなる。
「――とまあ、それだけの話なのじゃがな、今でも時々考えるのじゃ」
「……」
「もし、あの時ヌルと手を組んでおったなら、どうなっていたか――」
蛸の化け物は、決して愚物ではなかった。
もし、手を組んでいたなら。
「――世界とて、取れていたのではないか。とな」
「後悔しているのか?」
「それが、不思議とな、しておらんのじゃ。世界の全てを知るのに、最も確実な手段だったのにのう」
それから、ずっとここに住み着いておる。
カオスは照れくさそうに笑った。
「愛着かの。姫の言葉に、わしは留められておるのじゃ」
ずっと、ここに。
永遠に生きるあなたのそばに、少しでも長い時間自分をとどめておきたい。
結局姫は一度も結婚せず、領主もそれを認めていた。
「わしが言いたいのはな、誰に言われたとて、どういう理由があったとて、自分が決めたものを選べば、後悔などせん。いや、例えしたとしても吐き気がするような嫌な後悔ではない。……そういうことじゃ」
現にわしは、こんな偏狭で研究を続けながら、歴史の変化を眺める生活も、それなりに気に入っておるよ。
カオスは、やはり照れくさそうに笑った。
「……そうだと、いいがな」
メルシア。
「うむ?」
「俺は、一度それをやって、今でもあのときの自分を殺したくなるよ」
死に掛けながら、気を使って笑顔を見せた少女。
「……」
グラスを、一気に煽った。
カオスが、ボトルを取り、注ぐ。
「では、それをしなかったらどうなっていたか、考えてみてはどうじゃね?」
あの時。
なぜ、彼女にパンを渡そうとしたのか、今でもわからない。
そんな自分に、しなかったらどうなったかなど、問いかけても無駄だった。
「……さあ、な」
「……まあ、訊くべきでない過去もあろう。じゃが、少女が死に掛けているのは、今じゃ。ということだけ覚えておいてくれんかの」
ぎくり。
心臓を貫かれた気がした。
アンのことを言っているのだと気が付くのに、数秒かかった。
「……」
無言で、グラスを干す。
「直情で物を決めるのが、一番の正解なんてことは滅多に無いんだ」
それでも、アンは死に掛けている。
――さあ、どうする?
唐巣は、人を救うことに、怯えていた。

53

一晩。
煙に心を、映し続けた。
現れては消えていく、死人。
生きている人間は、たったの二人。
少年と、少女。
どちらも一度に助けることが出来る。
どうすれば正しいのかなど、わかりきっていた。
だが。
一欠けらの、パン。
人を救うことを、怯えさせる。
だから、少年も自分が救おうとは思わなかった。
今、救うためには自分が動かなくてはならない。
最後の一押し。
ふと、思い出す。
カオスの話。美神と、横島。
カオスが笑いながら話していた、二人。
その、能天気と破天荒が羨ましかった。
気付いていなかったのだろうか。
あと数年でその二人が生まれるということを。
……決断。
唐巣は、部屋の電話を取った。

54

「――本当に、良かったのかね」
ヘルシング。老人が、溜め息と共に、言った。
あの後、自身を「裏切り者」として処分させ、自分の地位に唐巣を据えようとしたと聞かされ、驚いたものだ。
だが、結果は。
「……ええ」
異端審問官は、教会の「闇」だ。
普通なら、破門などは行わず「浄化」する。唐巣の「能力」なら、なおさらだ。
だが。
「……おそらく、君の能力相手では、抑えて置けるのは数年だろうな」
記憶操作。
これで「背徳者」唐巣の破門を認めさせたのは、ヘルシングだった。
「上司の娘を救うためとはいえ、魔の道に身を堕とした男への協力は看過できない罪である。よって異端審問官 唐巣 和弘 を破門とす」
たった、二行の紙。
自分にとっては、それだけだった。
「それにしても、日本とは、考えたものだな」
数多のGS協会の中でも、コントロールが取れていない支部。
破門された神父が行く場所には、おあつらえ向きだった。――狙われる身と成った、「背徳者」が行くにも。
そして。
「……よかったのかね。ベルクに、挨拶をしていかないで」
少年に、名前が付いた。
彼が知っているのは、彼の養父の代わりに、神父が破門されたという事実だけ。
ある程度暗いものがあると気付いても、「自分で選んで辞めていった」という彼の結論を、ゆるがせる根拠は無いはずだ。そしてそれは、ある意味で事実でもあった。
「……あいつのこと、よろしく頼みます」
「ああ。……なんでも、言ってきてくれたまえ。君には、命を一つ、貸しているからな」
「……記憶が戻ったら、よろしく願いますよ」
「例え戻らなくとも、出来るだけの事はさせてもらうがね。……戻るさ。望もうと、望むまいと」
「……望むような記憶は、無いですな」
「ふむ。それでもわしは、言うべきじゃろうな。「Amen」。で、よかったかのう?マリア」
「イエス。ドクター・カオス」
「?」
意味が、わからなかった。
「……やれやれ、君には、聖職者として教えていないことが多すぎたな」
老人が、首を振る。
「まあ、気にするでないわ。……それじゃ、やるとするかのう」
記憶操作。唐巣の能力に対して、仮とはいえそれができるのは、カオスくらいのものだ。
もちろん、教会には極秘。事実だけが、伝えられる。破門は、ヘルシングが数年で形骸化するだろう。殺し屋が一人、神父になるだけの話。
「おぬしは、面白い。また会えることを願うぞ。もう一度、言っておくかのう――」
「君には、言い切れないが。最後だ、言わせてもらうよ。すまない――孫を救ってくれて、ありがとう――」
「「――Amen」」
Amenが、「かくあれ」という意味だと知ったのは、美智絵と公彦を送り出し、焦燥から修行に来たバチカンでだった。


カオスの物忘れが、この頃から酷くなったのは、機械の誤作動だったのだろうか。記憶が戻った後も、唐巣=和弘は毛が抜けるような戦々恐々とした日々を送っている

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