ザ・グレート・展開予測ショー

〜 『キツネと羽根と混沌と』 インターミッション1 〜


投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(04/10/31)




「何度見ても・・凄まじい、の一言に尽きますね・・。」

霧の晴れた、曇り空の午後。

断崖に囲まれる門を見上げて、小竜姫がポツリとつぶやいた。
何百年も寝泊りし、我が家とさえ思っていた場所――――・・ここ妙神山の変わり果てた姿を目にしてしまうと、嫌でも彼女の気分は鬱になる。
とにかく、注意を引くのは氷だけ。
今いる通用口から、本殿・・さらにその奥に至るまでカチンコチン、徹頭徹尾、完膚なきまでに氷付けだ。

「うぅ・・もう、なんで何もしゃべってくれないんですかぁ・・あのいつもの役立たずっぷりはどこにいったんですかぁ・・」

・・なんて、涙目のわりに言いたいことを言いまくっている小竜姫を前にしても、(役立たずの)鬼門は身じろぎすらせず・・
何故かマッスリングポーズで凍りつく、彼らの胴体に腰掛けると、小竜姫は深々とため息をついた。


―――「うわ・・何それ・・・。入った時は、そんなのがあるなんて気付かなかったよ・・」


不意に頭上から響いたのは、呆れたような女の声で・・・
上を向く小竜姫に手を振った後、声の主は笑いながら地面に降り立った。鬼門の上に座るのがイヤなのか、彼女は近場の岩に寄りかかり・・

「お疲れ様です。中は・・どうでしたか?ベスパ」

おそるおそる、といった感じで聞いてくる小竜姫に、ベスパは難しい顔で肩をすくめる。
驚きを通り越し、感心に近い感情を込めて・・ちらりと建物の本殿を見やり・・・

「あたし一人でも、離れに辿り着くので精一杯だったよ。結界が強すぎて・・斉天大聖を助けるどころか、あんたを奥に連れて行くのもちょっと・・」

「・・そう・・ですか。」

がっくりと肩を落とす小竜姫に、ベスパは小さく苦笑して・・。
しかし、こうやって余裕を持って事を構えていられるだけ、自分たちはまだ運がいいと言えた。
斉天大聖にしろ、鬼門たちにしろ・・ただ力を封じられるだけに留まっており、命に関わる大事へまでは至っていない。
上位の魔神と交戦し、たったこれだけの被害で済むなど・・・ベスパに言わせれば、奇跡以外の何者でもなかった。

「うぅん・・まぁ、流石としか言いようがないね・・。死人が一人も出てないあたりがドゥルジ様らしいし・・」

「?彼女と・・会ったことがあるんですか?」

うなるようなベスパのぼやきに、小竜姫は思わず目を丸くした。・・何かの足がかりになるかもしれない。
自分は・・何故か、件の魔神の顔も、声さえもうまく思い出すことができないのだ。情報は可能な限り知っておくべきだろう。

「ん〜・・あたしとルシオラが、1度ね。言っちゃって・・いいのかな?これは・・」

半眼でそう言うベスパの顔。どういうわけか彼女は突然、口をへの字に曲げながら・・・

「まぁ・・あたしが話したいから話すけど・・。
 1年近く前・・あたしらが人界で派手に暴れ回る前なんだけどね、アシュ様には内緒でルシオラと魔界の舞踏会に忍び込んだことがあるんだよ。」

「・・・・私たちが月での一件で走り回ってた頃、そんなことしてたんですか・・?貴方たちは・・」

「い・・いいだろ、別に・・。生まれてまだ日が浅かったから、顔が割れてなかった・・って、それはまぁ、ともかく。
 でね、ドゥルジ様とはその時少し話しただけなんだけど・・・あれは、ちょっと忘れられない思い出かもね。」

痛いところを突かれ、たじろいだのも数秒、ベスパは再び前に身を乗り出して・・・

「だって、考えてもみなってば。魔界のお偉いさんが出席するパーティーなんだよ?会場は見渡すかぎり、ジジイ、ババア、ジジイ、ババア・・。
 終いにはゲートボールでもやりだすんじゃないかっていう顔ぶれの中に、一人だけポッと美少女が居たら、そりゃ目立つってもんでしょ?」

「・・なるほど。」

拳をグーにして熱く語るベスパに、小竜姫は、そんなものか・・・と相槌をうって・・・
一しきり、力説した後、そこで彼女は眉根を寄せた。

「・・でもなぁ・・。あのドゥルジ様とここの惨状だけは、どうしても結びつかないんだよねぇ・・。
 物腰はやわらかだし、あたしらに対して敬語は使うし・・。そうそう、あたし、途中で酒が入っちゃてさ・・・
 しらふのドゥルジ様相手に、とんでもなく失礼なことをしてたって・・後でルシオラが青い顔で話してたっけ・・」

「・・・・。」

なつかしそうに頬を緩めるベスパを見つめて、小竜姫は一瞬、悲しげに瞳を曇らせた。
わずかに訪れた、不意の沈黙。
言うべきか、それとも言わないべきなのか・・。少し迷うように視線を泳がせた後、やがて彼女は、ためらいがちに口を開き・・。

「ですが・・ドゥルジは大罪人です・・。人となりはともかく、この行いは・・その、今の大勢を揺るがしかねない行為、ですし・・」

「・・デタント、か・・。」

口にしながら、唇を噛む。
嘆息とともに吐き出された言葉が、灰色の空に消えていき・・。暗い表情で俯くベスパへ、小竜姫は思わず声をつまらせた。
アシュタロス然り、ベスパにしても今の状況には思うところはあるのだろう・・。
やはり、こんなこと口にすべきでは・・・・

・・・・。

「前々から聞こうと思ってたことがあるんだけど・・ちょっといいかい?」

「え・・?」

意表をつく問いかけに、小竜姫は小さく動揺した。謝罪の言葉が出かかっていただけに、その驚きようは半端ではなく・・
彼女の様子を一瞥して、ベスパはチラリと笑みを浮かべる。

「アシュ様と前に・・ちょうど今みたいな話題で話してた時、少しだけ冗談まじりに教えてもらったことがあるんだけどさ・・。」

「・・アシュタロスが・・・冗談?なんだかちょっと想像できな・・・コホン。きょ、興味ありますね・・どういったお話を?」


・・・・ベスパが静かに立ち上がる。
慌てた顔の小竜姫の反応を楽しむように、そのまま大きくのびをして・・・・

「ずっと昔・・魔界で一度流行ったことのあるっていう・・・小説の話。」

・・雲の隙間から、一筋、光が差し込んだ。


                             ◇


〜 appendix.14 『世界の在るべきカタチ』



「―――――・・小説・・ですか?えぇと・・それは、一体どんな・・」


闇の中・・。
思いがけず振られた不思議な話題に、ベスパは反射的に振り向いていた。
その時、自分は・・・もしかすると、ひどく間抜けな顔をしていたのかもしれない。
かすかに眉を上げた主君の表情は、どこか苦笑を浮かべるようにも見えて・・・・・

「・・話ついでだ、冗談だと思って聞けばいい。ジャンルは・・そうだな。正確ではないが、人間たちの書くSFに近い。」

顎を撫でつつ、口元を緩める。
この方が、こんなに楽しそうにものを話すのは、本当に珍しい。・・下手をすれば、初めてではないだろうか?
ぼんやりと、そんなことを考えていたベスパは、一瞬その小説の内容を思い浮かべて・・・

「SF・・?デタントが題材で・・?なんか全然面白くなさそう・・・!!あっ!し・・失礼しました!」

ついつい本音が出てしまった。ハッとした顔で口を押さえる彼女のしぐさに、魔神は今度こそ苦笑する。

「・・あ・・えぇと・・」
「っ・・ふふっ・・。すまん・・初めてこの本のことを知った時、私も全く同様の感想を抱いたので・・つい、な」

肩を揺らして笑う姿は、どう考えても演技には見えない。
本気で楽しんでる?いや、その前に、こんな会話を自分たちが2人きりでしていること自体、もうすでに尋常ではない。
絶対無理だとあきらめていたが、ひょっとすると・・ひょっとするとこれは・・まだ自分にも脈があるんじゃあ・・・
・・なんてことをベスパが思い始めたその矢先。

「ところが、この小説はなかなかどうして、良く出来ている。あらすじを追う前に、少し説明することがあるのだが・・構わないか?」
「え・・?ええっ!?あ、はい・・・どうぞ。」

こちらの感情の機微など微塵も意に介すことなく、主君は淡々と話を続けて・・。
やっぱりダメかも・・。ベスパは悲しく頭を抱えた。

―――――――・・。

「例えば、だ。神界に物好きな天使がいたとしよう。
 彼は、住み慣れた故郷での暮らしに嫌気が差し・・事もあろうに、新天地を求めて魔界へと移住してきた・・。
 そんな彼は・・・最後にどのような結末を辿るだろうか?」

「そ・・そんなの魔物に殺されるに決まってるんじゃあ・・。デタント以前に・・そいつ、ちょっと発想がおかしいですよ・・。」

「ふむ・・。では、その天使は実は腹が黒く、意外にも魔族たちとの生活に適応してしまったら?
 近所付き合いもよく、日々を穏やかに過ごせるとしたら・・?その後、どうなると思う?」

「・・あ・・アシュ様?」

急に何を言い出すんですか?と言わんばかりに唖然とするベスパへ・・・彼は相変わらず愉快げな顔。
小さくうなづく動きを見せると、魔神は虚空を仰ぎ見る。

「答えは・・同じだ。彼は魔族に・・ある意味殺される。神族が魔界で暮らすなど・・そもそもが不可能なことなのだから・・。」

太古から言い古されてきた言葉・・『神と魔は本質的に相容れぬもの』。
これは何も、精神論だけを謳ったものではない。

「霊波には、出力以前に性質というものがある。光と闇・・聖と邪。
 この対を為す2つの波動は・・放置しておけば、互いに打ち消し合い、弱め合い・・・そして、消滅する。」

「消滅・・ですか・・。じゃあ、さっきのおかしな天使は・・」

「・・彼が、悪魔を皆殺しにするつもりで魔界に来たのなら、また話は違ったのだろうがな・・。
 矛盾しているようにも見えるが、神と魔が消滅を免れるための唯一の手段が・・『殺し合う』という行為。闘争とは、拒絶の意思だ。
 一方が消えてしまえば、もう一方が生き残るのは当然だが・・・。決着がつかずとも、闘い続けることで互いの霊波の受け入れ合いを回避できる」

「は・・はぁ・・」

聞くこと全てが初耳、という凄まじいシチュエーションに、ベスパの頭から煙は出始める。
もともと複雑な思策は性分ではないのだが・・・それでもここは我慢どころだろう。

「神魔の完全融合の批判材料として・・主神どもはことさら、宇宙のエントロピーがどうの、などという理屈を持ち出したがるが・・・
 それ以前のレベルだ。そんなことを実行しようものなら、神魔全体が、1000年と待たずに共倒れる。」

肩を竦めて魔神がつぶやく。
もっとも、各界の上層部とて馬鹿ではない。
デタントが成立したところで、争いが絶えるわけではないのだから・・この考えは杞憂と言えるだろうが・・

「・・説明は以上。話を小説の方へ戻そう。舞台設定は・・ちょうど今から2世紀後。
 無策な主神たちが、神と魔の恒久平和を理想にかかげ、両陣営の完全武装停止を宣言する場面から、物語は始まる。」



聖と邪の完全なる共生を目的とし、『アルカディア(楽園への扉)』と名付けられたその世界・・。
しかし、新世界創造には・・大きな代価がつきまとった。


「まぁ、先に述べた通りのことが実践されたわけだ。
 双方の共生が行われる、何十年というプロセスの中で・・力の弱い下位の神魔はことごとく死に絶え、我々のような高位の存在も、
 大きくその力を失することになる。それでも計画は強硬な姿勢で推し進められ・・・・」


宣言から・・およそ、50年。
神と悪魔は、その全体数を大きく減らしはしたものの、ついに理想郷建造を実現させた。
頑なに共生を拒んでいた、魔族の武闘派勢力も沈黙を余儀なくされ・・神は悪魔の存在を、悪魔は神の存在を・・次第に受け入れ始めていた。


「・・しかし、ここで事件が起きる。有史以来、神々が一度も体験したことのない・・未曾有のカタストロフィーがな・・」

「かたすとろふぃ・・・・?何ですか?それは・・?」

退屈な前置きから一転。ようやく盛り上がってきた展開にベスパは思いっきり目を輝かせて・・・
・・それに、アシュタロスは呆れたように目を細めた。

「ある日、何の前触れもなく・・理想世界の空を、巨大な怪物の軍勢が覆い尽くした。
 彼らは光にも闇にも属さない、この宇宙の外からの来訪者。得体が知れず・・しかし強大な力を持つ生命体だ・・」

「・・神でも・・悪魔でもない・・?」

「あぁ。彼らは我々を『神魔風情』とののしり、弱体化した神と悪魔は、為す術も無く絶滅の一歩手前まで追い詰められてしまう・・これが大筋だな」

一気にしゃべり終え、一息吐くと・・・彼は脇から一冊の本を取り出した。
文庫サイズの読み易そうな青い表紙。ベスパにかざして見せながら、パラパラとページを流し読む。

「・・この小説は・・ベストセラーだったよ。何せ着眼が面白い。神でも悪魔でもない、謎の存在など・・・我ら旧き神々には思いも拠らないことだったからな・・」

携帯するほどお気に入りなのだろうか?
いつになく多弁な主君へと、ベスパは遠慮がちに口を開き・・・

「あ・・あの〜。少し思ったんですけど・・。いつか本当にそういう奴らが『こんにちは!』・・なんてことは・・・」

「ふっ・・。フィクションだと言っただろう?それは無い。現れたとしても、この世界の法則が存在することを許さない。
 第一、異世界の住人が主神の産物たる霊力を有しているなど・・・おかしな話ではないか。」

「・・ぁ・・なるほど。」


その辺りが、物語と現実の落差・・つっこまないことを前提にしたお約束というところか・・。
ホッと胸を撫で下ろすベスパを見つめ、アシュタロスは音もなく席を立った。
寝台へつながる長い回廊を・・・
彼女に背を向け、奥へと向かいながら、抑揚のない声で彼はつぶやく。

「妙な話に付き合わせてしまったな・・。私は、少し眠ることにするよ。プロセッサ起動前の、最後の休息だ。」

「・・・・・。」

・・そう言って、小さく笑った主君の顔を・・自分はきっと、一生忘れることはないだろう。
彼にとって・・誰と、どんな時間を過ごすことが有意義で、またその逆はどんなものだったのか・・。
それはもう、知る術など残されていないけれど・・・。

それでも・・・

―――――――・・。

「あの・・・」

「・・?なんだ?」

「結末・・・その小説の結末は、どうなったんでしょうか?まさか、世界が滅びてそれでお終いってことは・・・ない、ですよね?」

言い淀むようにベスパが尋ねる。
わざわざ、こんな質問のために引き留めるのも・・少し、気が引けた。逡巡する彼女は、身を縮こめ、思わず下を向いてしまい・・

・・・。

だが・・次に彼が口にした言葉は・・・。


「・・・秘密だ。」

「へ?」

不意を突かれ、顔を上げるベスパの手の内には・・・何故か、擦り切れた青い表紙。
タイムラグの後、本を手渡されたことは分かったが、どうしていいのかが分からない。
目をパチクリさせる彼女に対して、魔神は、もう一度だけ目を細めた。

「・・気になるのなら、お前も一度読んでみるといい。私に言えるのは・・そう、『興味深かった』・・それだけだな。」

・・そして・・・。

そのまま歩み去ってしまう彼の姿に・・。

ベスパは何も言えず、ただただ戸惑うばかりだった―――――――・・


――――――――・・。


「・・アシュ様はこうも言ってたよ。
 いくら闘争をシナリオに組み込んだところで、デタントがある程度成立すれば、あたしらの力が少なからず衰えることは間違いないって。」

「・・・一理、ありますね。老師さまも以前、私に似たようなことをおっしゃってましたし・・。」

腕を組み、唸るように小竜姫がしかめた。それにベスパは・・頬かきながら半眼になって・・。
生真面目なこの神様のことだ・・放っておけば、このまま延々とデタント談議に華を咲かすことになりかねない。
・・別に小難しい話をするために切り出したことではないのだが・・・

「でさ、あんた今の話聞いて、どう思った?」

「・・?どう、とは?」

どこかウキウキした様子のベスパに、小竜姫は一瞬キョトンとして・・・

「だ〜から、小説、小説!本当のところどうなんだろ?いたら面白いと思わない?謎の生命体とか・・」

「え・・え〜?や、やめてくださいよ・・私、その手の話は昔から苦手で・・。怖いじゃないですか、それに・・居るわけないですし・・。」

冷や汗を流し、ゴニョゴニョとそんなことを言う。・・意外と小心者だ。これはこれで、からかえば楽しめるかもしれない。

「あ・・あそのこの茂みの中に・・・」

「え?・・・・ひゃあぁ!!」

ピョコピョコ飛び跳ねるカエルを指差すと・・・小竜姫はそれこそ飛び上がらんばかりの勢いで驚いて・・
・・はっきり言うが、ここまで物凄い反応を返す相手はめったにいない。

「し・・信じられません!何ですか!人をオモチャみたいに・・。苦手だって言ってるじゃないですか!」
「ぷ・・くくっ・・。いや、ごめんごめん。だけど・・そうだよねぇ、ワルキューレもジークも言うことは似たようなもんだよ。」

嘆息して、ベスパは再び岩の上へ腰掛けた。

「いるわけないか・・・やっぱり・・。」

少しだけ残念そうに、そう声を漏らしながら・・・――――――――

―――――・・。

「もう行ってしまうんですか?パピリオのところにも顔を出せばいいのに・・。」

「今日中に軍の本隊に戻らないといけないからね。それに、あいつ、ようやく同年代で同姓の友達ができたんだろ?
 今はきっと私どころじゃないよ。」

ポチたちによろしくね・・。

それだけ言って、彼女は山道を後にしていく。・・自分も、早く事務所に戻らなければ・・。
勘が正しく働いているなら、2日後の犯行予告・・・あれには確実に裏がある。絶対にタダでは済まないはずだ。


「あ・・そうそう、もう1つ聞いとこうと思ったことがあるんだけど・・。
 デタントって、そもそも何がきっかけで始まった流れなんだい?これだけ大事になってるんだから、主神の一存ってことはないだろ?」

思い出したように手を叩き、ベスパは下から小竜姫を振り仰ぐ。
元・主君の影響なのか・・彼女は、デタント関係に対してのみ不可解なほど勤勉だ・・・
そう思いながら、小竜姫は口元に手をやり・・

「ん・・え〜とですね・・。ずいぶんと昔に、魔族の側から切り出された案を、両陣営が煮詰めた結果決まったことらしいですよ。
 提言されたのはサタン様の側近・・魔界でも最長老の、温厚な方です。」

ニコニコと話す小竜姫。
堅物も堅物・・・ガチガチ頭のこの少女が、嬉々として魔族のことを語るのだから・・きっと本当に温厚なのだろう。
納得して頷くベスパは、その後の小竜姫の言葉を聞き流した。

やはり、自分は少し考えすぎなのだ・・もしくは小説の読みすぎか・・。『デタント』という単語を警戒し、過敏になりすぎている。
そう自分に言い聞かせて・・・。

だから、聞き逃した。小竜姫の言葉を・・。




「たしかお名前は・・ゾロアスター教暗黒神 アンリ・マンユ。
 同勢力出身の光明神、アフラマズダ様も・・それに熱心に尽力されたとか・・」




・・何故だろう?
その時、ベスパの耳元に、カサカサと『蜘蛛』の足音が通り過ぎた・・・そんな気がした。


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