ザ・グレート・展開予測ショー

狙い撃ち。(後半)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(04/10/25)

時間は戻って横島のアパート。


天井をぼうっとみながら横島は、あのまま気を失ったのかとひとり納得する。
ちゃぶ台にある時計に視線を移すと、だいたい五時間ほど眠っていた計算になる。

穏やかな朝の日差しの中横島のため息がひとつ落ちる。


「なかったことにできんかあ」

そう呟く内容はもちろんシロの告白のことである。
口調こそかろやかなもののその顔を覆う腕は震えている。







自分だけが幸せになって自分のすきなひとは、すきだったひとはいない夢をみる。

しあわせになって、わすれないで。

そう暗い渕でわらうひとの夢をみる。




ふしあわせでいて。



そういってしまうひとの夢を。








同時刻事務所内にて

「ああそうでアンタはそのまま横島をアパートに連れて行って、事務所にかえってきてからずっとぐるぐるしてるわけね」

ソファーにこの上もなく偉そうにふんぞりかえりながらタマモのお言葉である。
なにやら自分はもしかしてものすごく惚気話をきいてるんじゃと思いながら、それでも好奇心がないわけじゃないので一応先を促す。

「いやもう、拙者の一生に一度の告白のシーンを思い出して照れておったらいつの間にか朝になっていたでござるよ」

てれてれと頭を掻きながらなんの邪気もなくシロは言う。
もう何度思い出してもてれるもんでござるなあっと、頬を紅く染め笑うシロはひどくあどけなく可愛い。
がそんな可愛らしさはタマモに心理状態になんの影響を及ぼすはずもなく、冷静に口を挟む。


「……一生に一度って」

他にもするでしょ?
なにいってるのと言うとシロは照れたまま頬を紅く染めながらなんでもないように言う。


「拙者は、一生先生だけでござるから他に告白なんてしないでござるよ」


と。

あ、でも先生にはまた『あいのこくはく』というものをするでござるから一生に一度ではないでござるなー♪とその状況でも妄想しているのだろうか?
てれてれっと顔を紅く染めシロは笑う。


「………で返事は」
うんざりと何を考えているのか想像できる自分の察しのよさにため息をつきながらタマモが突っ込みを入れる。
そんなのを想像するよりももっと先にするものがあるだろうと言う意味をこめて。


「へんじ、でござるか??」

きょとっと目を見張りシロ。


「そんなのは必要ないでござる」

心底不思議そうに、なんでそんなことを求めるのか?といいたげな表情でタマモを見る。


「……あんたはホントに馬鹿なの?」

普通は告白をしたら返事を求めるものだ。
駆け引きめいたものは、シロの頭にはない。
ならば、聞きたいと自分をどう思うのか聞きたいと思うのが当たり前であろう。



「だって関係ないでござろう?」

そのタマモの言葉ににっと唇を歪ませシロ。


「拙者は先生がすきでござる」


それだけでいいでござる。
告白するまではものすごく勇気はいったけども
ほかの誰かに心があったとしても。


「拙者は、オオカミでござるから狙った獲物はのがさないでござるしっ」



その目は恋に恋する乙女の目というよりも、獲物を狙うハンターの目であった。
きらきらとした光ではなく、もっと底の深い光がその目にはやどっている。



「恋と狩りは違うんだけど」


ああもうつっこみを入れるのはいやだといわんばかりの声音でタマモが言う。
それでもつっこみを入れる辺り、生粋のつっこみキャラかもしれない(シロ限定)。


「いっしょでござる」


むうっと頬をふくらませシロは言う。



「だって、生きるために必要でござろう、先生も─獲物も」

命を繋ぐために食べて生きること。
繋ぐ命をいとおしむこと。
何かを殺してまでいきたいと思う人思われる自分。
どちらも必要なものだ。
自分が生きるために。
そしてそんな人が自分をすきだったらいいと思う。
そうシロが言うとタマモはうーんっとコメカミに指を抑えて唸るように言った。


「……バカだけど犬だけどなんか抑える所おさえてんのよねえアンタは」

唸るような声音をどう解釈したか、シロはがあっと吼える。


「なにをーっ拙者はバカでござらんし、犬ではござらんっこんの狐めがっ!!!」



そうして始まるのは何時もの朝の恒例の喧嘩である。
このあと三十分美神が怒鳴り込んでくるまで、喧々囂々のちょっと見るのもあれな喧嘩を繰り返していた。





さらに数時間後。
シロは横島の部屋の前にいた。
るんるんと尻尾は左右に揺れており、横島に会えることが嬉しいのだと全身でいっている。
とんとんとんっ

と規則正しくノックをし待つ。
そして無言で開けられるドア。
複雑そうな横島の表情とは対照的に満面の笑みのシロである。

「せんせーよくねれたでござるかっ?」

心持ち笑みをひっこめ、シロ。


「……ああなんとかなあ」

困ったような表情で横島。
事実横島は困っていた。
はっきしいって、横島は女の子から告白なんぞ数えるほどしかうけた事がない。
しかもシロである。
なにをどう話せばいいのか、わかるわけもない。
しかしシロには、そんな横島の葛藤らしきものなど分かるわけも無く

「先生は、拙者の大好きなひとでござるから身体にはきをつけてほしいでござる♪」


という無邪気爆弾をひとつ投げつけた。


「……え」

できればなかったことにしたかった横島にこれはカウンターパンチ並の威力である。


「どうしたでござるか?」

はて?と首を傾げシロ。
これこそ、無邪気でそして生来のハンターゆえの全身凶器である。


ぽんっとシロは何か思い出したのか手のひらを叩き合点がいったかのように言う。

「ああもしかして先生、拙者の一生に一度の告白を聞きそびれたのでござろう?」

てれてれとほんの少し頬を紅く染め上げてシロ。
無意識に行われる上目使いやら、さらりとのびたつややかな白い髪などとんでもなく可愛らしい。


「仕方ないでござるなああっ拙者先生のためならば何度でも愛の告白をっ」

そしてその桜色の可愛らしい唇から繰り出される爆弾のような言葉を阻止すべく、横島の叫び声のようなものが部屋中にひびきわたった。


「ちょっとまて!!!」


その声音に悲痛な響きがあったとしても仕方ないだろう。


「なんでござる?」


なんでござると言われても……


「……えと、シロはほんとうに俺のことその…」


「すきでござるよ。一生先生だけでいいでござる」

シロ即答である。



「………だけど、俺はその………」



スキじゃない─それは言えない。
だってそれは、自分だってこころの奥でシロのことばを嬉しいとおもってるのだから。
だけど言えない。
あんなふうに夢をみる自分に。




だけどもそんな汚い心をまっすぐ見るようにシロは凛とした目でいう。


「拙者のことを嫌いでござるか?」


「…きらいだったら弟子にしてねえって……」


「拙者先生がすきでござる──誰をすきでも」

目は揺るがないままシロ。
だけどもその言葉に含まれた悲しみは──



「…しってるのか?」


そう問う声はかすれていた。


「しってるでござるよ」

明るい声なのに表情にはやりきれない切なさがあった。


「なんとなくでござるけど、哀しいでござるから人をなくすのは…」

そう笑うシロはどこか大人びててそして哀しそうで。


「だけども拙者は先生がすきでござる」


先生が誰をどう思ってても関係ないでござる。
くしゃりと、シロの言葉に横島の顔が歪む。



「夢をみるんだ。」


「忘れないでって、不幸でいてなんてそんなふうにアイツが言うわけないことくらい知ってるのに」


「…そんな夢でもみないと忘れてしまいそうな」


「そんな俺が嫌なんだよ」


「……忘れたくないだけなのに、悲しみが薄れるのが怖いだけなのに──」



そんな俺がすきなのか?と
横島は言う。


「好きでござる」

これまた即答である。
そして言葉を捜すように視線をうろつかせシロはひとつひとつ自分の心に合わせるように、言う。



「先生は、ただ優しいだけでござるよ」


と。


「……俺が?」

うろんげな目の横島にふっと目元を緩めてシロは尚も言葉を重ねる。


「…だって拙者はわすれているでござるから」


「……?」


「父上が死んだときの哀しさを」


「…っ」

「覚えているのは、楽しい事や嬉しかったことだけなんでござる。哀しいときや辛いときなんて思い出そうと思わないと思い出せないでござる」

「きっと先生は、全部のこらず覚えておきたいのござるな」

「嬉しい事も哀しい事もずっといっしょにかかえておきたいでござろうな」

シロは苦笑するようにとんっと自分の心臓の部分を指で指す。

「だけど、きっとその方のことは先生は心のおくの宝箱にいれておきたいっておもってるでござろう…」

「たからばこ?」

何のことだという。


「忘れるんじゃないでござるよ、思い出さないだけでござる」


にこっとシロは笑って言う。
それは違うのでござるよ。
そして拙者はそんな先生がすきでござるよっ




その笑顔に、その言葉に


かあっと横島の頭に血がのぼった。


「ずっと先生がすきでござるから、覚悟してくださいでござるっ」


シロはにこにこっと笑いながら抱きつく。
そして宣戦布告でござるっというとシロはちうっと横島の頬にキスをした。


そして至近距離にあるはシロの挑むような光。


「オオカミは狙った獲物は外さないでござるよ」


そんな物騒な台詞はとても甘い。
きっとこれからシロは無邪気という足で誠実さという牙で、そして情熱という爪で狙った相手を追い詰めるのだろう。






そして、狙われた哀れな獲物は、もうこの時点で半分つかまっているのであるのはここだけの話。




おわり。



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