ザ・グレート・展開予測ショー

狙い撃ち。(前半)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(04/10/25)


夢をみる。

ひとりのひとをおいてひとりだけ幸せになる夢をみる。

そんなことに罪悪感を抱く必要などないのに。

それでも夢をみる。

まるで忘れないでと。

覚えていてと。

そんなことをいっているかのように夢をみる。



ちゅんちゅんとすずめの囀りに意識が浮上するのを覚えながら横島はそっとうでで顔を覆った。
まるで泣いている自分を隠すように。
口元だけを歪め、震える腕で顔を隠した。















本当に隠したかったのは自分の心かもしれない。

















同日同時刻。

シロはうろうろと、事務所の中をうろついていた。
心なしか顔は赤い。
腰まで流れる艶やかな白髪を無造作に揺らしながらうろついていたと思うとぴたっと止まる
そして、すこし長めの紅い一房の髪を一指し指に絡めさらに顔を紅く染めて何事かつぶやいたと思うとまたうろつきはじめる。

ちなみにこの行動五時間ほど前からエンドレスである。




「…………うっとうしい」


ひややかに、そんな言葉を紡ぎながら壁にもたれているのは誰であろうタマモそのひとである。
金色の髪を高く結い上げ独特ともいえるその髪型に、小さい顔に少々釣り目気味の瞳。
そしてバランスよく整った顔のパーツ。
寝起きらしく服装こそ地味パジャマという出で立ちであるが、その姿の優美さは隠せない。
その表情は呆れをかくそうともせず、なにやってるのといわんばかりの顔である。

はっとそのタマモに気付いたのか、ぼぼっと全身に火でもついたような勢いで紅くなるシロ。



「い、い、い、いつからみたでござるかっ!!」

かあああっと顔を紅くしながらシロ。

「10分ほど前から」

そんなシロとは対照的にタマモ。
まあこれでタマモまで紅くなったりしたらそれはそれで怖い。

「つーかなにこんな朝っぱらから騒がしくしてんのよ」

ふうっとため息をひとつつきタマモ。
寝たのがいまから四時間ほど前だと言うのに、自分が寝る前からずうっと同じ行動をとっているこのばか犬に呆れかえり声をかけたわけなのだが、なにやら踵を返したくなる空気だ。
第一この情緒やら恥じらいやらという言葉が似合わないシロが、ぽっと顔を染めて伏目がちにこちらを見ているのだ。
もちろんシロはそれなりに整った容姿の持ち主ではある。
そっといつもはきらきらと輝く目を伏せた様も陰を落とすまつげも、なめらかな頬に走る朱の色も可愛らしい。
………なにも知らない一般市民がみれば(笑)であるが。
本性を知り尽くしているタマモにしてみれば薄気味悪いとしか感じるわけもなく───


「……ねる」

くるっと先ほど感じた考えのとうり踵をかえし、今のは見なかった事にしようと決めてあたたかい毛布へと意識を飛ばそうとした瞬間。


がしっ


無意識に前にむいていた足をとめるなにかがあった。

ん?

と振り返り寝おきの頭で何も考えず振り返るとパジャマの裾をにぎっているシロがいた。
しかもきらきらっとした目で

………なんかいや予感がする。


えてしてそんな予感ほどよく当たるもので。



「………タマモぉ」

「なによ」

「拙者拙者拙者………」

「だからなによ…」

何度も拙者と繰り返すシロに寝起きの不機嫌さも手伝って眉間に皺がよったその瞬間。

「拙者先生に告白してしまったでござるよーっ!!!」

という絶叫があたりにひびきわった。









さてここで時間を遡る事約六時間前───


時刻は草木も眠る丑三つ時である。
草木も眠っている時間──ようするに物の怪が最も活動的な時間であり、そしてそれらを退治するGSも最も活動させられる時間帯である。

そして都内になるある廃屋の一部屋でシロと横島は今日も今日とて仕事に励んでいた。

目の前には迫ってくるこの地の古い土地神であろう。
人間に地をあらされて怒り狂っている。
元は人間の霊であろうが、遠い昔この地に対する生贄になったのであろう。
そのことによって、この地を守るために未来永劫縛り付けられる存在。
──そしてその守るべき場所を自分たちの子孫に踏みにじられた怒り。
この場所のために生贄に守護する『守護霊』となったのにその場所を共にまもるべき人間に汚される絶望。
それらから変質した物の怪。

─いわゆる悪霊である。

ただちょっと悪霊というくくりに入れるのは哀しすぎてそして強すぎた。




「なんでこんなんあいてにシロと俺なんだよっ」

ほとんど半泣きになりつつ横島が言う。
まあ、この霊(?)に有効なのが直接力を叩き込む霊破刀などだからだろうが。
目の前では横島より身体能力に勝るシロが悪霊と戦っている。
目にもとまらぬとまではいわないが、流れるような動きで霊破刀を繰り出し攻撃を避けている。
動くたびに飛び散る汗や瞳の中にある獣じみた光極限まで動く事を強いられる手足。
こんな場合でなかったのならば美しいと見ほれる事ができる姿である。
─もっともこの姿はこんな時でないと見れないのだが。


そしてなぜこの方法が有効なのか?
それは霊には自我自体がないからである。
あまりの悲しみにどす黒くなったそれにはネクロマンサーのそれとはいえどききづらい。
かといって、メンバー全員であたらなければならない程の相手ではないというのが美神の弁である。

この手の相手に小細工は無用である。
ただひたすらにその苦しみから絶望から逃れようと力を外に出しているのだ。
まっとうにたたかって勝つ。
であるのだが──


(俺とシロじゃちょっと荷がおもいつーの!)

すこしくらいの余剰戦力をのこしてほしいと思い、何度目かになる退職の決意をこめ同時に文珠に念をこめつつ横島は動く。

─きぃんっ

そして込められた文字は『盾』


同時に現れるのは、横島の体躯全てを覆うほどの大きな、盾。


「シロっ!!!!」


そしてその名を呼ぶ
シロはその声に反応し、手にあった霊破刀を霊にむかって投げると同時に、しゃがみこみ手で地面をつく

たんっと

いう音とともに霊力を足に込め、手をばねに霊に蹴りをいれながらそれを反動にして横島のとこまで移動する。



「なんでござるか?」

すとんっと一連の動きを息ひとつ切らさずこなしシロが言う。
きらきらと目は不穏な色に輝いており全身を濡らす汗がひどく魅力的だ。
もちろん横島もずっと動きっぱなしなのである。
じっとりと汗を額にうかべ、そしてそれとは対照的に乾いた唇に笑みを浮かべて


「─今からいうことできるか?」

といった。
きっと今自分は、シロと同じ不穏な光を目に浮かべているのだろうということを確信しながら。


数秒後
こくりと嬉しそうに頷いたシロとともに横島はいっせいに出る。
既に盾は手のなかにはない。

がっと
圧倒的な力を含んだ瘴気にひるむことなく、シロは剣を振るう。
そしてその後ろにぴたりとつく横島。
シロの霊破刀をかわす

それと同時ににっと唇を歪める横島。


だんっ!!!!!

横島はシロの肩を踏み台にして、上から襲いかかる。
シロも踏み台になりながら第二段とばかりに、上段からの構えからつきへと変化して──






ゃああああああああああ!!!



みみをつんざく断末魔の声があたり中響いた。
































「……なんか、今回はすげぇ体力勝負だったなあ」

先ほどまでの瘴気はどこへやら?
ひどくさっぱりと清浄な空気溢れた場所でひとりへたり込み横島。


「今回はなにやら燃えたでござるなああっ!」
一方ひどく爽やかな笑みでシロ。

「……おまえなあ」
もう何もいう気力もないとばかりに苦笑する横島ににシロは満面の笑みでいう。

「だって先生とふたりっきりのお仕事でござるし燃えないほうがヘンでござるしなっ」
にこにこにこっと笑ったままでシロは言う。

「……あのなあ………」
ごろっと床に転がりながら、横島は苦い笑みをはりつけたまま言う。


「あー床がつめてー」
きついしこのまま寝てぇなあと呟きながら、横島はぼうっと天井を見上げる。
どうやら極度の疲労による睡魔が襲ってきているらしい。
ただ身体を動かすだけではなく、命のかかった場面で先のことを考えて動くのはひどく疲れるのだ。
しかも今日一日で仕事二件目である。
瞼が重くなるのも仕方がない。


「………せんせい、ここでねちゃダメでござるよお」

ゆさゆさと意識が闇に飲み込まれていくなかかすかに聞こえるシロの声。


「風邪をひいてしまうでござる」

「………うー……ねみぃ」


「…先生が最近よく眠れてないのは知ってるでござるからこのまま寝かしてあげたいでござるが……」

ゆさゆさと尚も横島の身体を動かしシロ。
何度も何度も揺さぶられながら(しまいにはぶんぶんと上半身を激しく左右に揺さぶられながら)起こされる。


「………久々寝れるとおもったのになあ」

うーっとせ伸びをし横島。
ひどい揺り起こしのせいか、先ほどまでの睡魔はどこかへいってしまったようだ。
身体は疲れがたまっているのに…よくない兆候だなあと独り他人事のように思う。

「……すまないでござる」
先生を背負って帰ってもよかったでござるが先生は嫌でござろう?
とシロは尻尾をしゅんと下げて言う。
(前に一度だけやって以来禁止令が出てるのだ。)


そんな姿に苦笑し、横島はぐしゃっとシロの髪の毛を混ぜる。

「いいさ、気にすんな……さあて、かえるかあ」

ここから事務所まで何キロだんだよと呟きながら横島は笑う。


─れ?


シロはその横島の笑顔になにやらひどく不思議なものを感じた。
まるで安心しているような笑顔。
まるでなにかに安心しているような笑顔のように
そう、眠らなかったことに安心しているかのような



「せんせいっ!」


立ち上がろうとした横島の服の袖をぐっと握り締めシロ。
かくんっと
横島の身体が下がる。


「っと!」

あんだよっと不穏な目を向け横島。
だけどもその横島の目に飛び込んできたのは、泣き出しそうなシロの顔。


「……なんだよお」

泣き出すな、なんかしたのか俺は?
と自問自答しながら、世にも情けない顔で横島はシロを見る。
がそんな横島の想いとは別に、シロがいった言葉は───


「先生、眠りたくないでござるか?」

という一言で。
その一言に横島の情けない顔が強張った。


「…なんでそんなことを言うんだ?」

呟くように言う言葉には、力がない。


「……だってでござる」

しょぼんと尻尾をうな垂れさせシロはゆっくりと横島を見る。
目には涙をためて、だけども流す事はせず横島を見ている。


「先生が………」

ぐっと唇をかみ締め、シロはそっと腕を横島の首に回す。

声が震えている。


そんな震える声音のシロに横島はふっと唇を歪める。
ぽんっとシロの頭をたたき、そしてそのまま引き寄せる。



「…別にたいしたことじゃねえからさ」

疲労のにじんだ顔で紡ぐ言葉は優しくそして力ない。



「………ほんとにたいしたことじゃねんだ」

横島はもう一度そう繰り返し、泣き出しそうなシロの額にでこぴんをひとつする。
じわあっとその言葉にシロは益々顔を歪める。



「だけど、元気がないでござる」

元気のない先生なんて嫌でござる。



「………いやおまえ今この場で元気いっぱいでいろといわれても、困るにきまってるだろ、」

げんなりと、それこそため息をつきそうな勢いで横島。
身体は擦り傷だらけ、眠気は頂点にきてるせいか頭もかすみかがっている。
おまけに全身だるくて仕方が無い。
こんなので元気一杯はしゃぎまわれという方が無理であろう。


「だけどもっせんせーはいつももっと元気でござるっ!そんな先生が拙者は………すきでござる」

どんなに疲れてても元気なんでござるよ。
しんとした夜の静寂のなか紡がれる言葉にはひどく真摯な響きがある。
震える声と泣き出しそうな顔とそして、凛とした目と。
これがどんな意味をもつか分からない男はいない。
切実な思いを、真正面からぶつけられたのだから。


横島は、ぼうっとする頭のなかでその言葉をきいていた。
それと同時にふうっと目の前が暗くなるのがかわる。
ああ自分は気を失うのだなと他人事のように思う。
そりゃそうだろう。
もう1週間近くロクにねてないで仕事をしたのだ。
倒れない方がおかしい。
急速に闇に飲まれていく意識そのなかで
たったひとつ自分のこころをしめていたものは










罪悪感であった。






後半へ続く


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