ザ・グレート・展開予測ショー

デッド・ゾーン!!【その4】から(上)


投稿者名:HF28号
投稿日時:(04/10/23)



 (そろそろ限界か・・・)

 黄昏時のオフィスで1人の男の溜息が洩れた。デスクにうず高く積まれた書類、その全てに記される1つの名。

 こいつを野に放したのは我々の落ち度だ。即刻、確保しなければならない。

 しかし、奴は強すぎる。ズル賢く、法の目を掻い潜る悪知恵の数々もさることながら、元々の能力値がけた違いだ。

 せっかくの合同捜査網にさえなかなか引っ掛からず、その所在すら掴めないなんて・・・

 時間が無い。もし奴が神魔人の3界をこれ以上騒がせるようなことになったら、極僅かな救いさえ与えることができなくなる。

 (完全な悪、じゃないんだがな・・・)

 ふーっ・・・また溜息をつく。

 そこへ

 ティルルルルルッ

 ティルルルルルッ

 電話が鳴った。もしや、もしかして!はやる気持ちを何とか押さえ、ことさら丁寧に受話器を取ると。


 『見つかりました!人間界の日本、現在の平安京に居ます!!』


 飛び込んできた朗報。引っ手繰るように制服を取り慌てて外に飛び出した。






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      デッド・ゾーン!!【その4】から



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 「な・・・」

 『に!?』

 見詰め合う美神とメフィスト。美神の平安装束が風に翻り2人の美女は信じられない邂逅にうろたえた。

 「メフィストがもう1人!?」

 風貌、霊気、何もかもが重なるありえない情景にさすがの高島も驚くと当たり前の疑問を口にしていた。

 「おいヒャクメ・・・まさかあれ!?」

 横島の質問に、ヒャクメは美神にとってのトドメを刺す。

 『ええ・・・!!まちがいありません!あの魔族、美神さんの前世です!」

 「そんな、私が魔族・・・!?」

 信じたくない事態に、美神の図太い神経が揺さぶられた。






 と、ここでヒャクメの瞳がキュピーンッ!と光った。そして発揮される潜在能力。


 『ストーップ!ストップストップストーップッ!!』


 大声を張り上げ、物語の進行に割ってはいる。勢いを削がれた美神とメフィストが地面につんのめった。


 なんと、ヒャクメはマンガの流れを止められる実に奇妙かつ信じられない才能を持っていたのだ!

 細かい突っ込みありえないコールはサラリと無視し、彼女は目的の人物を凝視する。


 視線の先に居るのは、横島の前世、高島陰陽師その人。


 どこかの猿が始末書の書式をピラピラ振っているような気がしたが沸き起こる好奇心の前にはたかが紙切れ1枚何も気にならない。それに、物語の流れは今しがた堰き止めたから、多少暴れまわってもオールオーケイ問題ナッシングっ!

 超加速で(出来たんかい!)いきなり彼の前に現れると、怪しげな笑みを浮かべじーっと脳と魂を覗き込む。

 「な、何かな!?」

 『うふ、うふふふふふふふふふ』

 (うふふふふふっ横島さんの『前世』は判ったけど、前世の『前世』が気になるのねー。高島家は彼が生まれるまで陰陽師が出た家柄じゃ無いから、これは何かあるのねー・・・)

 自身を好奇心の塊と称する彼女は、霊視の手ごたえを感じるとパソコンを取り出しデータを叩き込む。この間凡そ0.001秒。今度は目にも止まらぬ速さで美神の額に霊力のアクセスラインを繋ぐと、


 『あなたの時間移動能力、奪うわねっ!!』


 さわやかに言い切るヒャクメ。

 メフィストの念を移動エネルギー用にちゃっかり頂くさすがの手腕は誰も止められず、彼女の勢いに流されるままその場にいたほぼ全員が暗黒空間に吸い込まれて行った。



 残念ながら『ほぼ』に含まれなかった男、西郷は吹き抜ける風に髪を揺らし。


 「置いていかれた・・・?」


 満天の星空が何故か心に染みました。






 「ちょ、なんなのヒャクメ!」

 これから山場なのに、とせっかくの戦闘シーンを強制終了された主人公が未練たらたら文句を言う。というか、さっきまで超加速で全ての行動をしていた彼女に話し掛ける隙が無く今になってようやく言えたのだが。

 『だーいじょうぶ、まーかせてっ!』

 さっきの時間軸、空間座標は把握済みなのねー。

 ちょっと過去で遊んでからまた同じ時間、場所に戻りさえすればマンガの流れに一切の変化が起こらないのねー。

 「な、なんか、キワドイ発言に聞えたが」

 ちょっぴり地雷を踏みかけた高島をどこからか降ってきた複数の石仏が叩きのめした。

 『あら、良いもの発見♪』

 メフィストは取り出した四次元ポケットにすごすご収めると満足げに微笑む。これが後に土偶羅を叩き潰す凶器になったらしい。

 横島は地雷を踏まなかったくせに前世の因縁で石仏の被害に遭い意味も無くのされていたがいつものことなので誰も気にとめなかった。


 「で?どこへ向かっているの?」


 もうどーにでもなれいっな諦めの境地に達した美神が聞いた。このフィールドに入っちゃったら最後、危なくて迂闊に外へ出れない。もし、刻の狭間で迷子になったらほぼ確実に帰ってこれないと知っているからだ。

 美神の疑問に自信たっぷりヒャクメが答える。

 『高島さんの前世の居る時代よ』

 『え?高島殿のっ??』

 きゃっと嬉しそうに頬を赤らめたメフィストはバチコーンッと高島を引っ叩き、ぐぎゅぎゅーっとコブラツイストを極めた。『ほれる』が今一理解出来ず彼女なりに努力した結果らしい。

 『なんでか高島さんの記憶にもプロテクトが掛かっていたのねーこれは行かなきゃなのねー』

 「やっぱりあんたの前世はミドリムシかアメーバだったんじゃない」

 「んなわけあるかーっ!!」

 横島の一言を美神は根に持っていたようだ。






 そうこうしている間に暗がりを抜けきった。ぼふっと光と風の壁を越えどこかの屋根に投げ出される。

 「ここは・・・?」

 無理にでもセリフが欲しい美神が丁稚を踏み潰しながら代表して呟く。

 『ここは、高島さんの産まれる3年前の京都ねー。すっごく近い時間移動だからこれだけ大人数でもらっく楽なのねー』

 「さ、3年前っ?」

 あまりに近すぎる。自分の事とは言え高島はクラリと眩暈を起こしかけた。この場合ありうる可能性は・・・もはや。

 『そうなのよーだから気になって気になってんもー他の仕事が手に付かなくなちゃったの』

 はっとして口を噤むヒャクメ。

 「ひゃ〜く〜め〜・・・(怒)」

 『怒っちゃ嫌なのねー好奇心は無実なのねーっ(汗)」

 美神の怒気をマトモに受け、冷や汗ダラダラの神様。しかし、神は神を見棄てなかった。

 ぴくっと何かに気付いた彼女は芝居のごとき華麗さで空を指差し叫ぶ。


 『あ、アレは何!』








 「居たぞ追えっ!!」

 「奴を、(ピーッ)(ピーッ)(ピピーッ)を捕まえろ――――――っ!!」

 破廉恥極まりない名で検非違使に呼ばれた男が、寝殿造りの屋敷に大穴を開けて空へ飛び上がる。

 元慶(がんぎょう)8年、西暦884年の某日某夜を騒がすこの男、これこそが高島の前世にして魂最古の記憶の主であった。この年、藤原基経が関白となり、日本史に残る程有名な摂関政治が始まったが、この話にゃ関係無いことだ。


 男と似たような能力を持つのだろうか?屋敷を3方向から固めていた揃いの和装束を来た3人の男が、破廉恥な名を持つヤローへ一直線に向かって来た。


 『男は、イ・ヤ』(えへ)


 むかつく表情で言い切った破廉恥。彼はそのまま、一気に空へ加速し月を背負うと果てしなく強い霊波砲を3発かました。


 『『『いかん!』』』


 狙いは三方、その先にあるのは人の住む家。卑怯千判な攻撃を防ぐべく、3体の何者かがそれぞれ身を呈して防ぎに入る。


 『ぐうっ』

 『・・・っこれは!?』

 『手に、余る?なんということだ・・・っ』


 3人の人外は、どうにか攻撃を相殺すると傷つき疲れ果てた体を引き摺るようにそこから消え去った。








 気配を殺し双眼鏡で先の様子を見ていた者が居た。

 彼は先の3人と同じ服を着ているようだ。もしかしなくても仲間なのだろう。

 男は丸メガネとデコをキラリと光らせ、馴れた仕草で携帯電話を繋ぐ。


 『やはり情報に間違いないようだ。彼女を寄越して欲しい』


 オフィスで受けた情報はドンピシャだった。今度こそ、今度こそ確保してみせる!

 パタン、携帯を折り曲げポケットに仕舞うと今さっき呼んだ女性が後に立っていた。

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